チェスクリミナル   作:柏木太陽

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裏切り者

「なら、知り合ったのは最近なんだ」

「そうだな。ええと……」

「3日?」

「そう。3日くらいしか経ってない」

 俺は席に着き、ニーズにミラエラと出会った経緯などを話していた。

「随分とゆっくりしているな」

 代わりに席を立ったナインハーズが、俺たちを見ながらお茶を飲んでいる。

「少しぐらいいいだろ。今日は大変だったんだから」

「へえ。何かあったの?」

「ニーズはエッヂって奴を知ってるか?」

「エッヂ? エッヂなら知ってるわよ。確か幹部を勤めてた気がする」

 あいつって幹部だったのか。

 俺はキューズ相手だと、大体が幹部だな。

「俺らはそのエッヂと闘って、正直死にかけたんだよ。まあ、ケインが来て助かったけど」

「エッヂって、幹部のくせに弱いイメージだったけど、意外と強かったのね」

「エッヂって弱いのか?」

「弱いというか、幹部並みでは無いって感じだったなあ。前の時も……確か」

「カステル」

「そう。カステルだって、幹部だったけど、ロールさんに1発で殺られたし」

「カステルって誰だ?」

「あれだあれ。ほら、ロールに助けられたやつ」

 ああ。ポケマンの事か。

「逆に、手も足も出ない様な幹部もいるし、キューズの幹部レベルが分からないのよね」

「案外適当に決めてたりしてな」

「どうだろうな。キューズは本当に得体の知れない組織だ。一概にも否定できないのが厄介な所なんだよな」

「今のは適当に言ったんだけど……」

 真面目に捉えられると、なんだかこっちが緊張する。

「そういえば、ジャスターズの幹部は何人ぐらいいるんだ? キューズも」

「ジャスターズは今、俺を合わせて5人だな」

「意外と少ないな」

「キューズはその時によるなー。今のところ2人いなくなったから、私が知る限りでは3人かな」

「3人……。幹部の数はジャスターズの方が多いのか」

「一応な。だが、幹部の数が組織の強さって訳じゃない。少数精鋭って事もあり得る」

「ジャスターズはそうなのか?」

「まあな。少数精鋭だ」

 そう言うと、ナインハーズは胸を張る。

 反応するのめんどくせー。

「ニーズが言ってた、手も足も出ない奴って誰の事なんだ?」

「私も詳しくって言われれば知らないけど、大体20くらいの人だったかな。身長も高い訳じゃなくて細いし、筋肉もあんまりないんだけど、能力がもの凄く強くてね」

「そんなに?」

「そう。前チラッと聞いたんだけど、1人で兵士上レベルを何十人も殺したって。しかも5分くらいで」

「兵士上?」

「あら、ナインハーズ。教えてないの?」

「ん? 言ってなかったっけか」

 多分だけどその反応、俺は100パーセント言われてないな。

「簡単に言えば、ストリートより強い奴って事だ」

「俺より強い奴が何十人も……」

 チープとかスウィンが何十人もいて、5分でってのは、それだけで強さが伝わってくる。

「凄いわよね。まだまだ人生も浅いっていうのに、目が死んでたもの」

「その男の名前は、なんて言うんだ?」

 俺は恐る恐る尋ねる。

 その時俺は、熱が出たみたいに冷や汗をかき、全身が鳥肌立っていた。

「ラッツ・モーニングスターって名乗ってたわ。いつも小さい鉄球を持に歩いてて、不思議な子って印象ね」

「ラッツ・モーニングスターか。少しだけ聞いた事があるな」

 ナインハーズがお茶を啜りながら言う。

「今知ったのか?」

「ああ。モンドと会うのは久しぶりだからな」

 俺はてっきり、よく会って情報交換でもしているのかと思っていた。

 だがよく考えたら、キューズの人間がジャスターズに来る事がリスクを伴うのに、それを頻繁に行っていたら、ニーズの命が持たないよな。

「そうだったのか。なら、ニーズと出会ったのは、本当に偶然なんだな」

「そうだね。まさかミラエラの知り合いとは思わなかったし」

「これだこれ。ラッツ・モーニングスター。1998年に初犯で、殺人をしている。歳で言うと、9歳くらいだな」

 ナインハーズは何かの資料を見て話す。

 廊下であった時にも、あれ持ってたな。

「9歳で殺人ねえ。そりゃあ目が死ぬのも無理がないわね」

「あまり驚かないんだな」

「そうね。キューズ、ジャスターズのほとんどは、元犯罪者の集まりだからね」

「言い方が悪いぞ。更生した立派な大人と言え。ジャスターズだけ」

 あんまり変わんねえだろどっちも。

「そういうナインハーズは元犯罪者なのか?」

「俺は犯罪をした事はないぞ。生まれながらの善人だからな」

「へいへい凄いですね」

「聞いたのはそっちだろ……」

「そういえば、なんでチェイサーはジャスターズに?」

「俺? 俺は、どうなんだろうな」

 入隊したのは自分の意思だが、それまでに校長だったり、ナインハーズに薦められたりしていた。

 100パーセント自分が決定した運命だと言い切るには、少し自信がない。

 もちろん能力者差別を無くす為でもあるが、それをここで言うべきかどうか、俺には分からない。

「難しい質問だったかな」

 少し間が空いたからか、ニーズが笑いながら話を切る。

「いや、少し考えてただけだ」

 ニーズには悪い事をしてしまったな。

 俺は1つ、深呼吸をする。

 そして真面目な顔で、ニーズの目を見る。

「俺は、能力者と無能力者の壁を無くす為に、ジャスターズに入隊した。それと、ミラエラを守る為でもある」

 俺が答えると、数秒の静寂な時が流れた。

「……やっぱりチェイサーって、ミラエラの事好きなんだ」

「えっ、やっ、そう言う事になるのか?」

 思ってたのと違う方を取り上げられてしまい、俺は少し混乱する。

「今のは完全に、結婚の事前報告だな」

 ナインハーズ、余計な事を言うな。

「お姉さんに挨拶しにしてくれたのかな?」

「い、いや、そう言うのじゃなくて、いや、今のはそう捉えられてもおかしくないのか? 俺はただ、思ってる事を言っただけなんだけど」

「無自覚なら、この子将来有望ね」

「だな」

 さっきとは空気が一変し、俺の緊張も吹き飛ぶ。

 答え方に、間違いは無かったよな?

「とりあえず、チェイサーがロリコンなのは分かったから、そろそろミラエラに会いに行ったらどうだ?」

「だからロリコンじゃないって言ってるだろ」

「ロリコン! 私の妹がピンチ!」

「だから違うって! もう行くからやめてくれっ」

 俺は立ち上がり、急いで扉に手をかける。

「ミラエラはこの棟の地下2階にいるぞ」

「ご報告どうも!」

「私の事は内緒にしててねー」

「はいはい分かりました!」

 俺は扉を開けて、廊下に飛び出す。

「全く、俺にとってもあの2人は厄介だな」

 俺はぐちぐち言いながら、階段を降りていった。

 

「わざわざ追い出す必要も無かったんじゃないの?」

「ここからは機密情報だからな。いくらストリートでも聞かれたら困る。あいつは口が緩そうだしな」

「相変わらず偏見が過ぎるわね。まあ長居するのも危険だし、早速報告するわね」

「ああ、頼む」

「まず、キューズの動きから」

『最近は能力を使った化学兵器を、他国に売ってるわね。ほとんどが殺人目的で、能力者にも効果があるから人気みたいね」

『例えばどんなのだ?』

『今は毒の開発を結構進めてて、他にも爆発物だったり、他人を操作する装置だったり。とりあえず、非人道的なのがほとんどね」

『なるほどな。遂にそっち側に手を出したか』

『それと——』

「キューズ様。裏切り者が見つかりました」

「そうか。で、誰?」

「ニーズ・モンドです」

「ニーズ……。あいつかー。結構忠実なのが好印象だったんだけどなー。今どこにいるの?」

「今はジャスターズにいます」

「よし、帰ったら殺すか。後で呼んどいて」

「お任せください」


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