知識の世界に入り、早くも数十分。
廿楽はオーダーから聞いた言葉について、未だに考えを巡らせていた。
「考えはまとまったかな?」
オーダーが優しく問いかける。
なぜなら、廿楽がその書いて字の如く、頭を抱えて蹲っていたからである。
「……まとまりはしてないすけど、何個かおかしい部分は見つけました」
廿楽は立ち上がり、何かを探す素振りを見せる。
「紙、貸す?」
オーダーは紙を取り出し、廿楽に渡す。
「あ、ありがとっす。それと、何か書くものはありますか」
「その紙は、頭の中を写し出してくれるから、書こうという意思だけで書けるよ」
なんとも信じ難い話を、オーダーは淡々と口にする。
「な、なるほど。やってみやす」
廿楽は紙を見つめ、自分の頭の中を写し出そうと念じる。
すると、紙に1本の斜線が浮き出てきた。
「おお、マジだ」
廿楽は感心するが、すぐに切り替え、他の事を念じる。
「なかなか、むずいっすね」
廿楽は苦戦しながらも、その紙に頭の中を写し出す。
そして数分後。何かを書き終えたのか、廿楽はその紙をオーダーに渡した。
「えっと。1、ジャスターズと——」
「あ、それは俺が口頭で説明しますよ」
廿楽はごほんと咳をし、1、2歩下がる。
「まず1つめなんすが、ジャスターズが俺の存在をどうやって知ったかです」
廿楽は分かりやすい様にと、1本の指を立てる。
「俺はここに来るまで、ジャスターズなんてただの都市伝説だと思ってたんすよ。というか、まだあんま実感してないんですけど」
オーダーは廿楽の話を聞くために、受け取った紙をしまう。
「そんな俺を、ジャスターズが知る機会なんて、限られてると思うんすよ。第一、私立クライエン学園とジャスターズは、全く関連性が無いんす。俺が把握している限り、学園内に能力者はいないですし、どこにでもあるただの私立学園なんすよ」
「確かに……。そう言われてみると変だね。僕も初めて見た時、私立クライエン学園なんて場所、聞いた事なかったしね」
「だからその紙に、間接的に俺を示す文字が現れたのは、不自然な事なんす」
「けど、クライエン学園はサイコスにある訳だし、全く関係無いとは言い切れないんじゃないかな」
「一理ありますが、不自然なのは変わりないです。まずの話、能力者でも無い学生を、キーマンとして扱いますかね」
「……それは僕も予想外だったんだよね。まさか能力を持ってないなんて、この紙に写し出された時は思ってもみなかった」
ジャスターズは9割が能力者であり、無能力者として知られているのは、幹部のナインハーズ1人。
いくら人員が足りないと言え、無能力者を取り入れる程、ジャスターズは追い込まれてはいない。
無能力者である廿楽が、このジャスターズ内にいるだけで、十分レアケースなのだ。
「次に、これは俺もはっきりとは言えないんすが。オーダーは、これからのジャスターズに必要なものって、その紙に聞いたんすよね」
「そうだね」
「その、必要な『もの』を聞いて、人が出てくるのは、どうもしっくりこないんです」
「と……いうと?」
「オーダーがどの『もの』で聞いたのかは、俺には分からないんすが。俺が思うに、これから必要なそれが、人では無いことは分かります」
「人じゃ無い?」
「はい。例えば、今ジャスターズが抱えている問題は何ですか?」
「今は……。ジースクエアっていう、凶悪な人たちを始末しなくちゃいけないって、国から命令されてる事かな」
「じゃあ、そのジースクエアに関係する『もの』が写し出されないと、理にかなってないっすよね」
「まあ……そうだね」
「俺は明らか戦うには不向きですし、喧嘩だってした事がないんす。そんな俺をどうやって使えば、ジースクエアを倒せるんすか」
廿楽の見解こうだった。
ジースクエアを倒す為に必要なもの。それは才廿楽という人間ではない。
ジャスターズの人員や権力、統率力といった、もっと大雑把なものでなくてはおかしい。
だから、具体的な人間1人を示すのは「これからのジャスターズ」という、大きな括りを解決する事には、繋がっていないと。
「……才君の意見は分かったけど、僕は僕で思う事があるんだよね」
オーダーは再び紙を出し、才廿楽とそこに書く。
そしてそれを、廿楽に見せる。
「才君は、それを全て含めて、最も必要な人物だったんじゃないのかな。確かにジャスターズには足りない事だらけで、数えたら切りがないけど。それを解決出来るのは、才君1人だけとも、言い換える事が出来ると思うんだ」
オーダーは、自分の能力を過信しているという理由からではなく、ありのままの心情を口にした。
「……それは、俺も言いながら、頭の隅にはありました」
それを聞き、廿楽は視線を下に向ける。
「けど、最後にそれが問題なってくるんす」
そして流れるように、再びオーダーに視線を戻した。
「問題?」
「オーダーの能力は、誰かの知識を借りて、答えを出しているんすよね」
「うん」
「だからこそ、手がかりのない、マイクロデビルの事を知る為に、俺をここの世界に入れた。ですよね」
「そうだね。後々話そうと思ってたけど」
「つまり、知らない事は知らないで、答えは出ないんすよね」
「う、うん。その時は白紙のままだよ」
廿楽がここまでしつこく聞く理由。
それは、それ程最後の問題が重要であり、廿楽が思う、この件で1番の問題点であると、そう考えていたからである。
そして存分に前置きをし、ゆっくりと廿楽が口を開いていく。
「……俺がこれからのジャスターズに必要って、一体誰が知ってたんすか」
その言葉は、長い前置き故構えていたオーダーを、数十秒間硬直させるだけの、インパクトを有していた。
「誰か、未来知ってる奴、いません?」