「いや、俺の勝手な妄想かもしれません。……実際、その、何というか……現実味? に、欠けてますし。オカルトじみた話っすよね……」
廿楽の発言から数秒後。
沈黙の空間に耐えられず、廿楽自らが、自身の発言に訂正を入れる。
しかし、廿楽の推測は、あながち外れてはいなかった。
オーダーの能力は、知識を最大限に活かした、いわば模範回答の役割を担っている。
分かるものは確実に当たり、分からないものは確実に答えない。
つまり元々回答がないものは、当たり前だが表記される筈がないのだ。
それが機械や人間の仕業なら、誤作動と受け取る事も不可能ではない。
しかし、能力という未知な存在を、その土俵に持ち込み、あわよくば否定をしようものなら、それは正しい答えと言えるのだろうか。
否。能力とは絶対であり、偽ることの出来ない真実の上で行われている、本能の意思であるからだ。
廿楽が必要と知っている者がいる以上、その事実は変わらない。
それを加味したのか分からないが、廿楽はそれを、何の疑いもなく言葉として具現化した。
オーダーはそれを知り、廿楽をただの助っ人としか見れていなかった自分に、心底羞恥心を感じていた。
この男は、自分が選ばれた人間と受け入れるのではなく、ケインもパステルも、能力を1番理解していると思っていた、自分すらも気に留めていなかった、死角に目を向けた。
それは十分に理解しており、だからこそ今の廿楽の発言は間違っている。
そう頭では理解している筈なのに、思うように口が動かない。
「才君は正しいよ」その一言が、一向に喉を通らないでいた。
その言葉を口にしたら、廿楽以外の人間を、こんな事にも気が付かなかった、気が付こうとしなかったと、間接的に言ってしまう様に感じたのだ。
なぜならば、オーダーの能力は、皆の知識の集合体だからである。
「……才君は——」
「でも、もしかしたらの事もあるので、一応ケインさんにも報告しましょう」
「あ、う、うん。そうだね。マイクロデビルの件も後にしよっか」
オーダーが絞り出した言葉は、呆気なく空気と同化した。
「じ、じゃあここから出るから、僕に近づいて」
オーダーはなんとか平然を装い、いつものオーダーであろうとする。
「1つ、質問いいすか?」
オーダーが知識の世界から出る準備をする中、廿楽はある事を疑問に思っていた。
「いいよ。なんでも聞いてね」
それをオーダーは、笑顔で返す。
「なぜオーダーは、その質問をしたんすか?」
その質問とは「これからのジャスターズ必要なもの」の、事である。
「なぜ……?」
たった十数文字で終わりそうな回答を、オーダーは頭の中で模索する。
しかし、一向に見つかる気配はしなかった。
「……なんでだろう。質問した時の事、全然覚えてない……」
オーダーはその発言中も、全く思い出せないでいた。
「け、ケインさん!」
ノックという概念を忘れさせる程、勢いよくケインの自室の扉が開く。
「オーダー。寝てなくていいのか」
ケインは突然の来客に立ち上がる。
知識の世界を出た後、オーダーはケインの元へその足を運んでいた。
「とりあえず座れ。息が切れてるぞ」
「す、すみません。久しぶりに走ったもので」
オーダーは近くのソファに腰掛け、肩で息をする。
「大丈夫か」
ケインは机にお茶を出し、オーダーから見て右に座る。
「は、はい。なんとか」
オーダーがいつもは見せない表情に、ケインは動揺する。
がしかし、何となくの察しはついていた。
「あいつか」
「——! ……はい。ですが、それだけじゃありません」
「それ以外にも?」
「詳しくは、これで」
オーダーは紙を取り出し、ケインに手渡す。
これは情報伝達紙と言われ、オーダーや他人の経験したものをこの紙に保存し、それを相手が触れる事で、情報が共有できるという、ジャスターズでは上層部でしか取り扱われてない代物である。
「……これは、あいつが言ってたんだよな」
情報が共有され、ケインはソファの後ろ側に体重をかける。
「はい」
「ふうー、なるほどな」
ケインが天井を見つめ、何かを考える。
オーダーはそれが答えを成すまで、じっと待っていた。
「正直、嘗めていたな」
ぽつりと、ケインが言葉を漏らす。
「俺たちが劣るところなんて、学生時代の青春を知らない事以外、微塵も無いかと思っていた。だが、違ったな……」
ケインは姿勢を戻し、足を組む。
「あいつはもう、ガキじゃねえ。ここに来た時からずっと、立派なジャスターズの隊員だったんだ」
「……それは僕も、痛いほど実感しました」
オーダーはケインと視線を逸らし、下を向く。
「あいつは」
「僕の部屋で、寝かせています」
「そうか……。だったらもう、返してやった方がいいのかもな」
その言葉を聞き、オーダーが顔をあげる。
「……返すって、どこへですか?」
「ジャーキだ。あいつの故郷の」
「ジャーキ……。だから、才廿楽……」
「ああ。深堀はしてねえが、あいつも色々あったんだろうな。わざわざサイコスにくるより、リツィーの方が安全だろうに」
リツィーとは、完全に無能力者だけで構成されている国であり、能力者はiceバッチを持っていても、入国すら難しい仕組みとなっている。
「……返すのは、少し勝手な気もします」
「そりゃあな。仕方ねえ」
「でも才君は、ジャスターズに必要な人材だって、ケインさんも理解してますよね」
「十分に理解した。その上で言ってるんだ。これ以上関わらせたらあいつ、確実に死ぬぞ」
「……言い切れます、よね……」
「まだ先の長い奴が、先の短い奴らの駒になるのは、俺のポリシーに反する。もう失敗はしたくねえんだ」
「……多分才君は、レインさんって人を、サイコスに探しに来たんですよね。それならせめて、探す手伝いをしてあげましょう」
「俺も流石に、手ぶらで帰らせるつもりはない。だから調べてみたんだが、どうもレインという人物は、サイコスにはいない様なんだ。正しく言うなら、生きているレインという人物は、サイコスに1人としていなかった」
「死んでいる人なら、いたんですか?」
「1人な」
「たった1人ですか?」
「特別珍しい名前でもねえのに、不思議だよな。まるで探して下さいって言ってるみてえだ」
ケインはオーダーから貰った紙を、机の上にわざとらしく置く。
「しかも厄介な事に……」
オーダーはその紙を手に取り、ケインが吹き込んだであろう情報を取り込む。
「これって……」
オーダーはケインの方へ向き、目を大きく見開く。
「ああ、またあいつの家系だ」
ケインは再び、ソファの後ろ側に体重をかけ、天井を見つめる。
「ストリート……お前らはどこまで付き纏うつもりなんだ……」