「ぜんっぜん来ねーじゃん!」
キューズが集合をかけて、早2時間半。
一向に幹部たちは集まる気配がなかった。
「いますよ」
しかしただ1人、誰よりも早く到着していた男がいた。
「お前は早過ぎなんだよ。足の1本でも折っとけ」
その名も、ラッツ・モーニングスター。
キューズ最年少幹部である。
「キューズさんって、俺の事嫌いだよね」
内緒話の様に、ラッツはロンに耳打ちをする。
「私に聞かないでください。それと、様ですよ」
ロンはそれに対し、ハエを払う様な仕草をする。
「あっそ」
この男、キューズのみならず、殆どの幹部や組員から嫌われている。
その理由として、2つ、挙げられる。
1つは、誰に対しても無礼な事だ。
事実、幹部の中でキューズをさん呼びするのは、このラッツ1人だけである。
キューズを尊敬している人間からはもちろん嫌われ、隣が嫌えば自分もと、それが連鎖した結果、今の状況になっていると言っても過言ではない。
何度言われても直さず、若さ故では片付けられなくなり、最近では呆れられている節もある。
もう1つの理由としては、この男、生粋の気分屋なのだ。
機嫌のいい時は落ち着いており、会話に棘もなく、初めて会う人間は「いい人」と口を揃えて言う程だ。
しかし機嫌が悪いと来たら、話しかけるだけで暴言や暴行をし、それが原因でキューズを辞めた人間も少なくはない。
機嫌がいい時と悪い時の区別が難しく、怖くなった組員は、話しかけられるまで無視するという、暗黙の了解が出来ている。
しかしなぜこの様な人間が、キューズの最年少幹部という地位に就いているのか。
それは間違いなく、その2つを凌ぐ実力を持っているからであろう。
戦闘に関しては、キューズ内一二を争う程優れており、狙われた獲物は生きている試しが無い。
殺人において、ラッツの右に出る人間はいないだろう。
「ジースクエアって強いんすよね」
ラッツは手に小さな鉄球を2つ転がしながら、目線を合わせずキューズに聞く。
「当たり前だ。しかもコインっつったら、お前が100人いても勝てねえよ」
「俺は100人もいないっすよ。ってかそんな相手、何で殺そうとするんすか」
「殺さないと後々面倒になんだよ。ジャスターズと一緒に、キューズを落としに来る」
「奇妙な話っすね。敵と敵が協力するなんて。まあ俺は、闘えればなんでもいいけど」
ラッツが天井に向かって鉄球を放つ。
「来ましたね」
「チッ、馬鹿にしてんか」
その言葉のすぐ後、玉座の間にノック音が鳴り響き渡る。
「入れ」
キューズが返事をすると、重い音を軋ませながら扉が開く。
その先には、3人の影が並んでいた。
「すみません。遅れました」
真ん中の男が、頭を下げて謝罪する。
「全くだ。遅刻なんて珍しいな」
「キューズ様。少し宜しいでしょうか」
「ん? なんだ」
キューズはロンに耳を傾ける。
「言いそびれていたのですが、流石に1時間は不可能かと」
「えっ、そうなの? じゃあ、アイツが異常って事?」
キューズとロンは、ラッツに視線を向ける。
「はい。かなり」
「アイツ20分くらいで来たよな……。怖っ」
ラッツは2人の視線に気づき、眉をひそめる。
「んすか? 俺なんかやりました?」
少しキレ気味のラッツに、2人は扉の方に視線を戻す。
「ま、まあ、それは置いといて。早速計画を説明するぞ」
キューズがそう言うと3人は部屋に入り、静かに扉を閉める。
「ええと……あれ? 幹部ってこんないたっけ?」
キューズは入ってきた人数と元いた2人を数え、首を傾げる。
「いえ、1人は私が」
真ん中の男は、横にいた小柄な男を前に出す。
「初めまして。リュウ・カミソレです」
リュウは頭を下げる。
「リュウ……? ああ、準幹部のか。どもども初めまして」
キューズは会釈をする。
「それで、何でここに?」
「私情ではありますが、このリュウ・カミソレ。幹部並みの実力を持っていると感じ、私が勝手に連れてきました」
リュウの代わりに、真ん中にいる男、トール・ラージェスが答える。
「なるほどね。まあ、トールが言うなら信用するよ。けど、間違えないで欲しいのは、信用してるってだけで、信頼してる訳じゃないから。駒扱いさせてもらうよ」
キューズは、試す様にリュウを睨め付ける。
「煮るなり焼くなり好きにして下さい。喜んで出汁になりますよ」
「気に入った」
キューズは笑顔でそう言い、3人を用意していた丸机の前に誘導する。
「今からコイン密殺計画を話す訳だけど、何か質問ある人」
「はい」
その質問に対し、カイビス・ハングが手を挙げる。
「じゃあ、ハング」
「エッヂがまだ来てません。アイツは戦力外なんでしょうか?」
「ああ、エッヂなら死んだぞ」
キューズは当たり前の様に答える。
「分かりました。ありがとうございます」
ハングもそれを、サラッと受け止める。
「他に何かあるか?」
「1ついいですか」
リュウが手を挙げる。
「どぞ」
「コイン・チルズを殺す、その理由を聞かせて欲しいです」
「面倒くさいから詳しくは言わないけど。コインはジャスターズに向かってて、無事着いちゃったら、かなりまずい事になる。ただそれだけだ。他には?」
キューズは数秒待ち、誰も質問がない事を確認する。
「よし、なら進めるぞ」
キューズが丸机に触れると、そこには地図の様なものが写し出される。
「これはラスキーの、ハグっていう場所の地図だ。今は大体気温が37度だから、もうちょっと薄いの着た方がいいぞ」
「ラスキーですか。あの戦争大国の」
トールが顎に手を当て、何かを考える。
ラスキーとは第17王国の事であり、非常に治安の悪い国である。
常に内戦が続いており、その規模は甚大で、およそ980万平方キロメートルにもわたる。
世界で2位の国土面積を誇り、一部では化学兵器の実験を行われている。と、噂されている。
キューズがここを戦場に選んだのも、戦い易いという理由一択であろう。
「そうだ。ここなら派手にやってもバレないだろ。と言っても、ここを過ぎればジャスターズまであと少しだ。だから、確実にここで仕留める必要がある」
キューズは地図を拡大させ、ある場所に円を描く。
「ここでコインを殺る。周りは廃墟ばっかだから、邪魔が入る事はないし、存分に力を発揮できる」
そう言うと、キューズは地図を消し、視線を前に戻す。
「コインは常に2、3人の部下を連れている。今回もそうだろうな。ジースクエアの金魚の糞になるくらいだ。つまり、めっちゃ強え。だから役割を決める」
そう言い、キューズは真っ先にリュウを指差す。
「お前は金魚の糞清掃係だ。あと1人……そうだな。ハング、やってくれるか」
「もちろんです」
「おっけー。忠告しとくが、1人1匹だ。多分2人になった瞬間、瞬殺される。もし3人以上いた場合、トール、ラッツ、ロンの順番だ。それ以上いたら一旦引く。多分死ぬからな」
そう言うと、キューズはリュウに何かの鍵を投げて渡す。
「これは?」
リュウはそれを受け取り、何かとキューズに質問する。
「車の鍵だ。移動にはバスを使う」
「バスですか?」
カイビスが疑う様に聞き返す。
「そうだ。バスだ。現代人は外に出る事が少ないからな。車、しかも大型車しか手に入らなかった」
「ジェット機とかは無かったんですか?」
「無い訳じゃなかったけど、高いんだよ。金が。しかも、都合よく止めれる場所ねえだろ? 降りる時に、上空13000メートルから飛び降りろってのかよ。因みにパラシュートなんてねえからな。そんな高さから落ちたら、流石に痛えだろ」
「確かに……おっしゃる通りです」
カイビスが折れ、この話は決着がつく。
「あの、俺運転できません」
リュウが目線を貰った鍵からキューズに向け、悪びれる様子もなく口にする。
「マジ?」
キューズは心の中で「こいつ使えねーなー」と思っていた。
「まあとりあえず、右がアクセルで、左がブレーキって覚えとけばいいよ。流石に旧式でも、AIサポート付いてるだろうし。後はAIに任せな」
「わ、分かりました」
リュウに不確定な情報を教え、キューズは立ち上がる。
「すぐに出発だ。ってか正直な所、間に合わないかもしれない。だからマジで急ぐぞ。ロンは常にコインの位置を教えろ」
「かしこまりました」
「カイビスは後で部下の資料渡すから、相手の弱点を探せ」
「はい」
「トールはいざという時の為の、作戦を考えておいてくれ。俺は殺す作戦を考える」
「承知しました」
「ラッツは……」
キューズは口にしてから、数秒考える。
「俺は?」
「……何もするな」
「それだけすか?」
「じゃあ喋るな」
「そう言う事じゃなくて」
キューズはラッツを指差し、それを上下に振る。
「とりあえず、……余計な事はするな」
「俺だけ忠告じゃん……」
「こうしている時間はありません。皆さん、急ぎましょう」
ロンが手を叩き、席を立つ。
それに合わせ、皆も続いた。
「それじゃあいくぞ、コイン密殺計画。これに関しちゃ、やってみないと結果が分からない。弾いた時のコインみてえにな」
上手いだろ。と、キューズはにやける。
そして、どこからか硬貨を取り出し、天井に向かって投げた。
「どっちに賭ける」
キューズは皆を見渡し聞く。
「俺は表だな」
1番に、ラッツが言う。
「私も表で行きます」
続いてトール。
「俺は裏で」
次にリュウ。
「私も裏にします」
カイビスが答え、
「なら私は、なしで」
最後にロンが答えた。
「決まりだな」
キューズは落ちて来た硬貨を手で覆い隠す。
「先に行ってろ。結果は見ない方が面白い」
それを聞き、キューズ以外は玉座の間を出る。
「じゃあ俺は、表にすっかなー」
1人残ったキューズは、手の中にある硬貨の表裏を予想する。
「どれどれ、どうなってるかなっと」
部下には見せないで、自分だけ楽しもうと、キューズは周りを確認してからゆっくりと手を退ける。
「うわっ、マジかよ……」
その硬貨は、誰もが予想だにしなかった、表も裏も示さない、立っている状態であった。
いや、誰かは予想していたのかもしれない。
こうなる事も、事前に知っていたかの様に。
「こりゃあ、本格的に分からねえな」
キューズは何か嫌な予感がすると、そう思ったが、それは心の中にしまう事にした。