チェスクリミナル   作:ハザマダアガサ

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開始

「コイン様。もすぐでサイコスに入ります」

「おっ、もうか。意外と早く着きそうだな」

 杖をついて歩くコインは、部下の声で立ち止まる。

「どうする? 一休みするか?」

 そして見えない景色を見渡し、部下にそう尋ねた。

「私さんは、コイン様が止まると言うなら止まります。歩くと言うなら歩きます。ですが、一休み頂けるなら、それは是非と言葉を返します」

「そうか。なら適当に休もう。そんなに急いでもいい事ないしな」

 コインは散らばっている瓦礫を退かし、杖を持ったまま地べたに腰掛ける。

「コイン様、私が椅子なります」

「やめろってそういうの。俺は部下を手荒く扱いたくないんだよ。ランボードの事もあるしな」

「分かりました。そうですね」

 その部下、シュモン・クセルクは、コインと同様に瓦礫を手で退かし、コインの左側に正座する。

「シュモン。コイン様が休むって言うんだから、お前もちゃんと休め。失礼だろ」

 そう言う部下、ニッチル・シロモントは、シュモン近くの瓦礫の山に正座する。

「それ言うニチルも、ざ、ざぜん……、がぜん……あぜん……?」

「正座。あとニッチルね」

「それです。してるじゃないですかよ」

 舌足らずのシュモンに付け足し、フォイル・タスクがコインの右側にあぐらをかいて座る。

「冗談冗談。流石に正座は疲れるわ」

 ガラガラガラと、ニッチルが足を伸ばす際に瓦礫が音を立てて落ちる。

「シュモンも正座なんかしてねえで、あぐらにしろよ」

「私さんはこっちの方が似合うです」

 シュモンはつぎはぎな言葉を並べて返答する。

「なあ、たまにこいつの言ってる事が分かんねんだけど、お前解読出来る?」

 ニッチルがフォイルに耳打ちをし、シュモンに聞こえない様に小声で話す。

「通訳のランボードが居なくなっちゃったからね」

 ランボードとシュモンは同郷であり、コインの住んでいたカンブゥとは、遠く離れた民族国である。

 それ故に言語が多少違い、あまり長くないシュモンは、未だに慣れていないという。

 通訳役として位置していたランボードは、キリングに殺されてしまい、今となっては彼の意図を理解出来る人間はいないのだ。

「そうだ、代わりにキリングを部下にするってのはどうだ?」

「キリングは拷問しても従わないでしょう。それと、キリングと一緒になんて働いたら、生きた心地がしないよ」

「それはあるな」

「おいおいお前ら、俺がキリングに勝てると思ってるのかよ」

 コインの質問に、2人は一瞬硬直する。

「私さんは勝てると確定してまいす。コイン様は負けなしです」

 2人よりも先に、シュモンが自信満々で答える。

「俺は……、正直なところ分からないっすね。コイン様は強いですけど、キリングも相当ですし」

 コインの前では嘘は許されないので、ニッチルは素直な感想を述べる。

「僕も同じですが、コイン様の部下としては、やはり勝つと信じたいですね」

「ゔっ」

 その手があったかと、ニッチルが声を漏らす。

「俺としても、もちろん勝ちたいとこだが、まあほぼ確実に負けるだろうな。あいつの能力はどこかイカれてる」

 コインはどこか面白そうに話す。

「確かに、あれはイカれてますね」

「ランボードが手も足も出ないって聞いた時は、正直ブルっちまいましたし」

「キリング嫌い」

 コインたちは呑気に雑談をしていて気にしていないが、ここはラスキー、ハグ。

 しかも運がいいのか悪いのか、キューズがコインと部下を切り離すと計画していた、地下教会の真上である。

「これって教会か?」

 ニッチルが目の前の廃教会を指差す。

「でよね」

 シュモンはそれを見て、質問に答える。

「そういえば、ここはハグか。道理で人がいないと思ったら、今日は土曜日なんだね」

「働いちゃダメとかは分かるが、外に出るなは理解出来ねえな」

 ハグは大戦後、独自の宗教を創り上げる事で、早い段階で国として存在していた。

 元々は第6王国と、安定した地位を獲得しており、経済的にも何の問題もなかった。

 しかしある日、別の宗教とのぶつかり合いで、戦争が勃発。

 国が大きい事もあり、戦争の火種は急速に各地にばら撒かれた。

 連鎖された戦争は収まる事を知らず、いつの間にか降級して第17王国。

 今でもほぼ毎日どこかで爆弾が鳴り響いている。

 しかしその宗教の中で、唯一の共通点であった。

 それとは、土曜日は仕事をしてはいけない、というものである。

 宗教は違えど、そのルールはしっかりと守られ、それが歪み受け継がれていった結果、今の、土曜日は外に出てはいけない、となったのだ。

 ラスキーは戦闘大国でありなが、随一の宗教大国でもある。

「まあ、ラスキーだからそこは気にすんな。あんまり言うと、後ろから刺されるぞ」

 コインはニッチルを注意し、空を見上げる。

「今日は快晴か」

 コインは嬉しそうに、見えない空の色を当てる。

「ですね。けどなんとなく、曇る気がします」

 フォイルの意見に、誰も肯定を示さなかったが、逆に誰も否定を示さなかった。

 

「キューズ様」

「ああ、あいつら中々やれるぞ。普通に座ってる様に見えて、1人大体120度ずつ見張ってやがる」

「あれじゃあどう動いたとしても、一瞬でバレてしまいますね」

 キューズたちは、コインよりも少し早く着いたことで、各方向に分散する事が出来た。

 それもコインの向いてる方向からして、正面の廃教会にキューズとロン、右側のゴミ山にカイビス、左側の壊れた民家にリュウとラッツ、左後ろ側の瓦礫の山にトールが待機と、コインたちを取り囲む様になっている。

 本来なら不意をつけるこの陣形であるが、コインの部下たちにより、逆に連携が取りづらくなるという、マイナスの方向に動いてしまった。

「流石はコインの部下ってとこか。まあ、そんな事も言ってらんねえな」

 キューズは落ちている小石を拾い上げる。

「……いくぞ」

 そしてそれを、コインの右に座っているシュモンに投げつけた。

「ロウグ!」

「出た! 母国語!」

 しかしそれは、驚異的な反応速度を見せた、シュモンによって弾かれる。

「今だ!」

 キューズの合図で、カイビス、ラッツ、リュウが一斉に飛び出す。

「待ち伏せか!」

 ニッチルがそう叫び、一瞬でゴミ山を出現させる。

「ゴミ⁉︎ リュウ、斬れるか」

 ラッツはそう言いながら、ポケットに手を入れる。

「十八番です」

 リュウは目に見えない程の速さで抜刀し、ゴミ山を切り拓く。

「うおっ」

 相手の判断の速さに、ニッチルは驚きを見せる。

「ナイス!」

 ゴミ山が開けたところに、ラッツが鉄球を散弾銃の様に投げる。

「ゔがあっ」

 それはニッチルに直撃し、後方に吹き飛ぶ。

 これでコインの近くにいる部下はあと2人。

「不意打ち卑怯だ君くんら!」

 ニッチルの横にいたシュモンが、リュウに向かってドロップキックを放つ。

「ふゔっ」

 それを刀で防ぐリュウだが、予想以上の力に弾かれる。

「エンドね!」

「言葉どうなってんだお前」

 シュモンが止めを刺す前に、ラッツが軽い蹴りでそれを阻止する。

「リュウ、そいつ頼んだぞ」

 ラッツはもう1人の部下の方へと向かう。

「はい!」

 リュウは体制を整え着地し、蹴られた部位を痛がっているシュモンと向き合う。

「やるね。君くんら」

「君くんらって……、もうめちゃくちゃだな」

「——カイビス!」

 ラッツは、フォイルに苦戦しているカイビスに向かって、鉄球を投げつける。

 そしてそれはカイビスの身体を貫通し、フォイルのみぞおちに直撃した。

「があっ」

「私、一応先輩ですからね!」

 それにより、フォイルはコインから遠ざかる。

「礼は要らねえ! トール、やれ!」

「私も先輩なんだけどなあ……」

 ぶつぶつ言いながら、トールは地面に両手をつける。

 するとコイン周辺が、一気に水のように変化した。

「うお!」

 今まで動きを見せなかったコインが、吸い込まれる様に地面の中へ落ちていく。

「ラッツ!」

「分あってる!」

 そこにラッツも飛び込み、確認したトールは、吹き飛ばされたニッチルを追うため走り出す。

 

「上手くいったな」

「ですね」

 遠くから見ていたキューズとロンは、地下に降りようと立ち上がる。

「ここからだな」

「はい。気は抜けませんね」

 コインと部下を切り離すまでは、かなり順調に進んでいる。

 しかし本題はここからで、3勝したとしても、その3勝にコインが入っていなければ、全くの意味がない。

 たとえ1勝3敗になったとしても、コインの首を勝ち取らなくてはいけないのだ。

「ああ。だが、最初から弱気ってのもつまんねえからな。勝つぞ」

 そう言うと、キューズは拳をロンに突き出す。

「……ですね」

 キューズの意外な行動に、ロンは少し笑みを浮かべる。

「久々の、本気だなー」

 キューズは首を鳴らしながら、階段へと向かう。

 その後ろ姿を見ながら、やっぱりいつも通りのキューズに、ロンは再び笑みを浮かべた。

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