チェスクリミナル   作:柏木太陽

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教師の力

 チープを後ろに、俺はトレントと共にスウィンから逃げていた。

 チープは大丈夫だろうか。

 いくら超再生だとしても、痛みまでは無くせないだろう。

 いくら殴られても死なないというのは、逆に辛い事だと思う。

 考えただけでも震えてくる。

 それに、相手はあのスウィンだ。

 思考が戦闘に極振りされてるあいつだから、簡単には倒せないし、殺ってくれないだろう。

 チープの強さが分からない以上、想像の域を超えない訳だが……。

「君たち、ここで何してんの?」

「え? ナインハーズ?」

 俺の目の前にはナインハーズが立っていた。

「うわっぷ」

 走っていたので急にブレーキがかけられず、ナインハーズの胸に飛び込んでしまう。

「さんつけろ、さん。敬語にしろって言っただろ」

 ナインハーズは俺を突き放す。

「ナインハーズさん。なぜここに」

 トレントが驚いている。

 無理もないな。先程の戦いと打って変わって、教師という非暴力的な存在が目の前にいるのだから。

「なぜってなー。君たち少し自由すぎだ。もう少し自粛したらどうだ? 今やってるゲームとか」

「すみません。今後気をつけます。ですが、今はチープとスウィンが真剣に勝負をしているので、今回は見逃してくれませんか」

 トレントが謝りながら、頭を下げるまではいかないが、ナインハーズにお願いをする。

「真剣に勝負。それは本気でか? だとしたら止めるが、どうなんだ?」

「…………」

 トレントは黙り込む。

「だんまりか。仕方ない」

 ナインハーズは、ポケットから紙を取り出す。

「なるほどね。あっちの方向か」

 その紙を見るや否や、ナインハーズはチープ達がいる方へ歩き出す。

「ちょっ、ナインハーズさん」

 俺は、ナインハーズを追おうとするトレントを引き止める。

「おい、チェス。なんで止めるんだよ」

「やめとけ、腐っても教師だ。ナインハーズには勝てねえよ」

 実際、あいつに押さえられた時に、1歩も動けなかった。

「腐ってもってなんだ。腐ってもって。あんまり教師を嘗めるなよ?」

 そう言うと、ナインハーズは走り出す。

「あっ。チェス、追うぞ」

「お、おい。トレント」

 俺の腕を解き、トレントはナインハーズを追う。

 まあ、俺もどうなるか気になるから、別にいいけどね。

 

 ふぅ。なんとか追いついた。

 こいつら足速すぎだろ。

 俺が追いつくと、ナインハーズとトレントは立ち止まっていた。

 どうしたのかと思い、俺も並んで立つ。

 すると、目の前で凄まじい闘いが繰り広げられていた。

 スウィンが放つ拳は電気を纏っており、チープに当たる度に、周りに放電するかのように飛び散る。

 チープはそれを全て受け止め、すかさず拳で反撃をしようとしている。

 しかし、チープの拳はスウィンに1発も当たっていない様子だ。

 木々が倒れているのを見ると、それが分かる。

 だが、この威力。ただのカウンターではないようだ。

 切り株の数と、倒れている木の数が合わない。

 どういうわけか、その威力ゆえ、殴った木が粉々になったか、その勢いでどっかに吹っ飛んでいるのだろう。

 その光景を見ていると、ナインハーズが思い出したように口を開いた。

「おい、そこまでだ。喧嘩はやめやめ。すぐに部屋に戻れ。今何時だと思ってる。もう夜の11時だぞ」

 ナインハーズは2人に向かって歩く。

 おいおい。流石のナインハーズでも、2人の闘いを止めるのは無理だろ。

 ってかいつの間にそんな時間経ってたんだ?

 ナインハーズがストップをすると、2人がこちらを向く。

「あ? 邪魔すんなよ。今殺り合ってる途中なんだよ」

「少し引っ込んでてくれますか。遊びじゃないんですよ」

 2人は口を揃えて、ナインハーズの干渉を拒む。

 ほらやっぱりこうなる。

 ナインハーズも、ここは引っ込んどいた方が身のためだぜ。

「むか」

 むか? こいつ、今むかって言ったか?

「おい。こっちが下手に出てやってるってのに、なんだその態度」

 あ、キレた。

 ってか、ナインハーズキレるの分かりやすすぎだろ。怒る時むかって言うやつ初めて見たわ。

 あと、下手に出てたか?

「テメェらのくだらねえこだわりなんて、知ったこっちゃねえんだよ。ただ怪我をされちゃあ、こっちの責任になるからな。迷惑かけんなって言ってんだよ」

 それを聞き、2人もキレたのが雰囲気で察せた。

「くだらねえだと?」

「くだらないですって?」

 あちゃー。こりゃナインハーズ死んだぜ。

「「ふざけるな」」

 2人の牙が、ナインハーズに向けられる。

 一斉に飛びかかってきて、流石に終わりだと思った。その時。

「はぁー。めんどくせー」

 そう言うと、ナインハーズは歩き出す。

 すると、2人は飛びかかって来た勢いのまま、ナインハーズの横を通り過ぎ、そのまま倒れた。

「疲れるんだよね。気絶程度に加減するの」

 あまりにも一瞬の事すぎて、何が何だかさっぱり分からなかった。

「さて、君たちも寮に戻りな。こいつらは、俺が帰しとくから。ほら、行った行った」

 俺たちは促されるがままに、その場を去った。

 既にハンズも戻っているのか、姿は見当たらず、1人で部屋に戻る事にした。

 ただ、今日学んだのは、ナインハーズには絶対に反抗しない方がいいという事と、帰り道を覚えとかないと帰れないって事だ。

 やべえ、迷った。

 

 

 

 

 

 

 


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