結局あの後、迷いに迷った挙句、朝の2時に就寝した。
そして現在。
「おい。起きろ、ストリート。初日から点呼に遅れるきか?」
「ん? んぅん。なんだ? 誰だお前。とにかくもう少し寝かせてくれ。まだ寝足りないんだよ」
「むか」
「むか?」
なんか聞いたことあるような。
「はやく起きろーー!!」
「え、8時までには起きろ? だって、ナインハーズは起床時間はないって」
「あった。起床時間あった。8時だった。ということで、集会場こい。じゃ」
「おい、待てよ」
こいつ、今誤魔化したな。
「俺は伝えられてなかったんだぜ? それなのに、そっちの都合で勝手に起こされちゃ困るねー」
「う。ま、まあ? 伝えなかったのは悪かったけど? 8時くらいに起きるのは常識と思うんだけどな?」
こいつ、マジで腐ってるな。
「ったく。自分の間違えを謝れないのは、大人としてどうかと思うけどね」
俺は煽るようにして言う。
今回に関しては確実にあっちが悪いから、堂々と言う。
「ま、まあ。今回は俺が悪かったな。認めるよ」
ナインハーズが、謝罪の言葉を口にしようとした、丁度その時。
クリミナルスクール全体に響き渡るように、警報が鳴った。
「なんだこの音。なんかの警報?」
ナインハーズの方を見ると、不思議そうに首を傾げていた。
「妙だな」
そう一言呟く。
「妙って、どこがだ? 警報ってこういうものじゃないのか?」
「まあ、それはそうなんだけど。……普通、警報が鳴る時はアナウンス付きなんだよ」
「アナウンス?」
「別にここが特別って訳じゃないぞ。警報とか、それに似たものは、状況が判断できる材料がないと混乱に陥る。津波が来てるのに、警報だけ鳴らしたら、何が起きてるのか検討もつかないだろ。そこには、ただただ危険が迫っているという事実だけが漂っているだけで」
確かに一理あるかもな。
誤報? にしたら今も鳴り続けているのはおかしい。
「これを踏まえると、今回の警報は何か普通じゃない。よほど緊急を要するのかもしれない」
「じゃあどうするんだ?」
「とりあえず、俺は職員室に向かう。ストリートは、集会場……。いや、ここで待機してろ。心配はしなくていい。部屋1つ1つが、俺でも壊せないくらい頑丈にできてる。じゃ。絶対出んなよ」
そう言うと、俺が何も言う前に、ナインハーズは部屋を出て行った。
「行っちまった。……しかし、なんだこの警報は。妙に耳に残ると言うか。言われてみれば、少し違和感だな」
とりあえず、何もすることが無かったので、俺はベットに腰をかける。
待機と言われても、状況が把握できない今、下手に行動はできない。
部屋から出てはいけないと言われると、出たくなるのが人の心情。
しかし、ナインハーズに逆らうと、ろくなことになりかねないからな。
『チェス』
頭の中で誰かに呼ばれた気がする。
『おい。チェス、どこにいる』
今度はハッキリと聞こえた。
「? 誰だ。俺の名前呼んでるやつは」
チェス? この名前を使ってるのはチープとトレントくらいだが、どちらの声にも似ていない。
『俺はお前に手を真っ二つにされた、スウィンだよ。今、脳内に直接送ってる』
うお! スウィンかよ。
あいつ俺のこと根に持ってそうで怖いんだよな。
ってか絶対根に持ってる。
『根に持ってるのは間違えじゃねえが、今はそれは置いておけ。お前にはこの警報聞こえるか?』
心の声聞こえるのかよ。
俺のプライベートが約束されないな、こりゃ。
それより、警報なら聞こえてるぞ。
このウーウー鳴ってるやつだろ。
『ウーウー? 俺の方はピーピー鳴ってるけどな』
知らんがな。感性の問題だろ。
『まあ、それもそうか。だが、この警報、何かおかしくないか?』
なんか、ナインハーズも同じようなこと言ってたな。
『ナインハーズもか……。お前、今どこにいる』
俺? 俺は今部屋にいるけど。
『部屋? 部屋って、寮のか?』
そりゃ、寮のだろ。
俺が寮以外の部屋で、シェアハウスしてたって噂でもあんのか?
それこそ恐怖だわ。
『いや、確認しただけだ。やっぱりチープの言った通りかもな』
チープ? そういえば、スウィン。なんで俺に話しかけてんだ?
『あ? お前に話しかけちゃ駄目とかあんのかよ』
いやいや、喧嘩売ってる訳じゃなくて。
俺以外に、チープとかトレントとかがいるだろ。
なんでそっちに連絡しないんだ?
『……。それが、どっちとも連絡が取れねえんだよ』
どういうことだ?
『俺の能力で、ある程度の位置は掴んでるんだが、どうにも辿り着けなくてな』
辿り着けないって、お前こそどこにいるんだよ。
『俺か? ……俺は今、地獄にいる』
は!? 何言ってんだお前。
あたおかデビューでもしたのか?
『いや、本当なんだよ。俺も状況が掴めなくて、気づいたらここに。ってかあたおかってなんだ?』
気づいたらここにって。ほんとお前どうしたんだよ。
ドッキリでもしてんのか? それにしたら、随分と手の込んだドッキリだな。
『ちげえよ。俺はマジだ。地獄って言ったが、そう見えただけで実際違うかもしれねえし』
ちょっと待てよ。さっきからお前の言ってることが、右往左往しすぎててよく分からないんだが。
『俺もよく分かんねえよ。だが、1つだけ分かることがある』
なんだよ。それって。
『俺は今、敵の攻撃を受けてる』
敵? 侵入者のことか?
ナインハーズは、クリミナルスクールに入ってくる馬鹿はいないって言ってたぞ。
『相手は馬鹿じゃないって事だ。相当な能力の使い手なんだろ。それも、複数人の』
なんでそんな事分かんだよ。
『……もしかして、お前。ナインハーズから聞いてねえのか?』
何が。大方のルールは聞いたぞ。
今日の出来事で信用無くなったけど。
『そうか。聞いてねえか。ジャスターズの事は知ってるだろ』
まあ、その話は聞いた。
『そのジャスターズが、出来るきっかけとなった組織があるんだよ』
きっかけとなった組織?
『ああ。キューズという組織だ』
キューズ!?
『なんだ? 知ってるのか?』
いや、小耳に挟んだ程度だ。
悪事を働いてた頃にな。色々情報が入ってきたんだよ。
『そうか。まあ、聞いたことがあっても不自然じゃないよな。なにせ、55年前からあるらしいからな』
55年前からも……。ジャスターズは、その組織を未だに捕らえられていないのか。
『ジャスターズだって、生半可な組織じゃない。そのキューズっていう組織は、それ程って事だな』
けど、そのキューズって組織とクリミナルスクールは、どんな関係なんだよ。
『クリミナルスクールは、ジャスターズの候補生みたいなもんだからな。根本から潰すのが早い話だろ』
だからっていきなりすぎないか? それにしては、スウィンも何か慣れてるように感じるし。
もしかして、これが初めてじゃないのか?
『いや、俺も初めてだ。スクール側の対応を見るに、そっちも初めてだろう』
じゃあ、なんでキューズって分かるんだよ。
『クリミナルスクールに侵入する馬鹿はいないって、さっきお前が言ってただろ。それと同じ理由だ。入学した時に、軽くキューズの存在を教えられてたからな。なんとなくピンときただけだ』
……まあ、敵がキューズってのは分かったけど、どうすればいいんだよ。
結局、お前は地獄とかいうよく分かんない場所にいる訳だけど。
『そこが問題なんだよ。現段階での、キューズの目的が全くわからない。生徒を片っ端から殺してくとかしてくれたら、ああ、こいつらクリミナルスクールを潰しに来たんだな。って、分かるんだが』
怖いこと言うなよ。
『実際、突然侵入して来た理由が分からな
い』
まあ、そうだな。
スウィンも攻撃と言っても、幻覚を見せられてるだけだからな。
『幻覚と決まった訳じゃないだろ』
いや、状況だけ聞くと幻覚としか思えないぞ。
『そうとも限らない。幻覚以外にも、相手をテレポートさせる能力や、他の世界に引きずり込む能力の可能性もあるだろ』
それじゃ、お前が俺の脳内に直接話しかけてるのはどうやってるんだ?
『侵入者は複数人だ。能力の組み合わせだって考えられる。俺とお前だけどこかにテレポートされて、能力で地獄と寮の部屋にいるっていう幻覚を見せられているのかもしてない』
そうとも考えられるのか。
『ああ。組み合わせ次第では、雑魚能力も最強になる事がある。相手の能力を素早く判断しようとするのはいいが、それだけに縛られて行動するのは、得策とは言えない』
……確かにそうだな。
だが、2人だけテレポートされる理由が見つからない。
ランダムだとしても、俺の数少ない知人と飛ばされるのは出来すぎてる。
『そうだな。とすると、やはり幻覚の線が濃くなるな』
能力が分かったとしてどうするんだ?
俺は待機してろって言われたし、お前は話を聞く限り、自由に動けそうにもないだろ。
『……ところで、気になってたんだが』
どうした急に。何か案が浮かんだか。
『いや、そうじゃない。さっきも話したと思うが、俺はある程度の位置は把握してんだよ。電波を飛ばして、自分以外の電波に当たると反応するようになってる』
ああ。解説ありがとう。
だからってなんだ? お前は自分の能力の説明をしたい訳じゃないだろ。
『まあ、そうだが。お前、俺と話す時どうしてる』
どうしてるって?
『頭の中で話してるか、口で話してるか』
頭の中だけど……。
ほんとにどうした。地獄の熱に浮かされたか?
『頭の中か。ならいい。いいか、よく聞け。今から言うことに驚くなよ』
おお、なんだよ急に。俺はそんなに驚かない方だぞ?
『……お前今、ハンズと一緒にいるか?』
は? いる訳……。
『気配に気付いたか。やはりハンズとは一緒じゃ無いよな』
ちょっ、軽くホラーなんだけど。
言われるまで全然気が付かなかったぞ。
『だろうな。俺でさえ、最初からは気付けなかった』
そいつって、今どこにいる?
『玄関だ』
玄関って。俺は今ベッドにいるから、左あたりにいることになるのか。
『そうだな。左約4メートルにいる』
どうすればいい。
『知らん。俺には関係ない』
じゃあなんで教えたんだよ。
怖がらせる為だったら成功だぞ。
『俺だって、安全な場所にいる訳じゃ無いんだ。なんせ地獄だからな。いつどこから鬼が襲ってくるかも分からない』
なんだよそれ。投げやりな野郎だな。
とりあえず、こいつは倒しても良さそうか?
『お前に倒せんならな。そっちでアクションが起きたんなら、こっちもそろそろって考えても不思議じゃないな』
お前こそ、鬼に喰われて終いとか無いだろうな。
そのときは、坊さんのお経に合わせて踊ってやるよ。
『願ってるみたいな言い草だな。まあ、そんなんで死ぬ玉じゃないけどな。こっちはお前のせいでむしゃくしゃしてきてんだ。あーあ、早く鬼ぶん殴りてー』
相変わらずの戦闘厨だな。
『お前も大概だろ』
そんな事は無いさ。俺は至って平和主義だ。
『嘘つくな。平和主義者が、そんな殺気を纏った電波を発さねえよ』
殺気なんてとんでもない。けど、少し楽しみだな。
そのキューズっていう組織の力量を知りたかったしな。
『まあ、死ぬ程度に死んどけ。火葬する前にAED試してみるわ』
それ完全手遅れだろ。
『俺も敵を探してくる。とりあえず、そいつ倒したら連絡くれ』
スウィンがそう言うと、頭の中でプツンと何かが切れた音がした。
さて、正体不明のこいつを殺りますか。
初めての殺り合いだというのに、俺は不思議と高揚していた。
俺はいつから殺人衝動に目覚めたんだか。
やはり犯罪者の素質があるという事かな。
まあ、それは置いといて。
俺はベッドから立ち上がる。
「ん、んん」
背伸びをし、近くに置いてあったボールペンを手に取る。
準備万端。しかしこれ、どうやってスウィンに連絡するんだ?