五条悟が封印された。
虎杖がそう叫んだまさにその時。
3人のフード姿の男が頭を寄せ合っていた。
「なんかすげー大変そうなんだけど、どうする?」
「うーん。伊地知はどうしたいのかな?」
「さの1さんとすの1さんが許してくださるなら、助けていきたいです」
「持ち主が言うなら仕方ないな! 怒られるのは持ち主だし!」
「持ち主が言うなら従うしかないね! 責任は持ち主だしね!」
「わわわ。は、はい。と言うことで、声の方に向かいましょうか。急ぐのでおぶっていただけますか?」
「いいよ」
ということで、走る。
「すみません! 助けが必要ですか?」
「ウォッ 五条先生!? と誰!?」
「俺は五条悟の式神。さの1って呼んで」
「私は夏油傑の式神。すの1だよ。よろしく」
『はあ!?』
「すみません、私は並行世界で呪術師をしている伊地知と言います。こちらの世界に迷い込んで助けを待っていた所、このような事件に遭遇しまして、助けるついでにこちらの世界の夏油先輩の助けか滞在費を得られたらと思った次第です」
『並行世界!?』
「並行世界……んー。伊地知さんじゃないって事? 式神って玉犬みたいな?」
「そうです。旧式ですのであまり強い術は使えませんし、強いショックを与えると土塊に戻ってしまいますので、あまり力にはなれないかもしれませんが、ひとまず状況を伺えたらと」
「旧式って言った! 酷い! やっぱり伊地知も最新型の方がいいんだ!」
「なんて酷いんだ、悟泣かないで」
「お二人とも、遊んでいる場合ではないようなので」
『量産できるのか? どれくらい戦える?』
「この世界に落ちてきたのは私とお二方だけです。17の時に作った式神なので、17で術式、特に呪霊操術が使えないお二人と考えていただければ」
「無理すれば出来「無理はさせないので。無理しなくて済む範囲でのみ手伝わせていただきます」」
『そんな状況でもないんだがな。あと、どれくらい強いのかさっぱりわからん。学生時代でも強そうだけど』
「私が分かりますよ」
「ナナミン!」
「信じられないほどそっくりですが、本当に式神なんですか?」
「俺の手でも折れば証明になるんだけど。そうすると俺、土に戻るからなぁ」
「信じれらないと言うのならそこまでです。この世界の夏油さんの助けを得られずとも、助けを待てばいいのですから。式神はあくまでレンタル。無事に返すのも私の仕事のうちです」
「いえ。信じます。力を貸してほしいです。虎杖くん、状況の説明を」
状況の説明が終わり、伊地知は考え込む。
『マルチタスクで頼む』
「どーすんの伊地知?」
「七海さん。この事態を収拾する為なら、なんでもする覚悟はありますか? 例えば、命をかけたり」
「いいのかい? 伊地知」
「出し惜しみしてる場合ではないようなので。守ってください。で、どうですか、七海さん」
「仕方ないですからね」
返答を聞き、伊地知は腰につけたポーチからメジャーを取り出した。
「とりあえず、増やします。サイズを計らせてください。あと、念の為術式などの確認を」
5分後。3人に増えた七海がいた。
「オリジナルは貴方です、七海さん。なの1さん。なの2さん。こんな時なのでマルチタスクでお願いします。衝撃を与えると崩れてしまうので、七海さんはそのつもりで仕事を振ってください。1は骨折程度、2はその半分位の衝撃で土に戻ります」
「……そんな術式ですっけ?」
「これは貸与された能力ですので」
宇宙を背負った七海だが、時間がないのでとりあえず三チームに分けた。
こちらの世界の伊地知との調整がなの2。虎杖達との連携がなの1。本体が悟達との行動である。
当然だが、敵味方に大混乱が発生した。
敵の最終兵器と味方の最終兵器が一緒に動いていればそれはそうなる。
そして、七海が複数箇所で確認される事により、人を複製できる能力者がいるという情報が回る。
そして、この状況である。
七海、伊地知とさの1、すの1で偽夏油傑と呪霊達と対峙していた。
「獄門疆に閉じ込められた情けない俺!! あんど乗っ取られたよわっちい傑! 初めまして!」
「本当の事を言ってはかわいそうだよ、悟」
「帰るのには協力するからさ、こっちにつかない?」
「どーする伊地知?」
「私に命じられるのはAFOだけですので。何もせずともAFOが迎えに来てくれますし」
2人の式神は口笛を吹く。
「あっはっは! そうだよ! そうだよな、伊地知!」
「そうだね。私達に命じられるのもAFOだけだよ。ところで、呪力が同じ場合、呪霊の支配、奪えるんだよね。奪い合いは得意でね。もらっていくよ」
「俺も一回赫ぶっ放すぐらいなら大丈夫!」
「お二方とも無理のない範囲でお願いします」
「チート共が!」
式神2人が暴れる。2人はテープとブラックホールという異能も持っており、呪霊の大群の解放という大技も、なんとか被害を渋谷のみに抑えて乗り切った。
こうして、本体は逃したものの、獄門疆は奪還出来たのだった。
で。問題はこれからである。
「私の預かる式神2人に手出しはさせません。よって2人が偽物という証明もしないです。獄門疆を取り戻したのですから、それで十分でしょう。それよりも、手助けした報酬があってもいいと思うのですがね。別に、貰えずとも二度と手助けしないだけですが」
「伊地知めっちゃキレてるww ウケるww」
「私もちょっとキレてる。悟に負担かけすぎでしょ。でも、負担掛けているのが私というジレンマ……」
「獄門疆に五条悟が封じられているという保証がない!」
「ええ……? そこ疑いますか? まあ、私達も封印されてる所を見たわけではないですが」
「封印解除までして叩きつけてやろうぜ、伊地知!」
「迎えを待てばそれでいいんじゃないかな」
「では、迎えを待って、封印を迎えに解除してもらいましょう。獄門疆は報酬がわりに預かっておきます。解放された五条さんに報酬は貰えばいいし」
「俺はそれで良いぜ。あと、五条家に置いてもらえるか頼んでみる」
「助かります、さの1さん」
「待て! 獄門疆は預かる!」
「五条悟が封じられてないというのがあなた方の主張ですよね? なら別に構わないでしょう」
「その2人が偽物とは信じられないし、偽物ならお前が借りたという術式は特級クラスとなる」
「それが何か?」
「没収する」
「どうやって」
「受け渡しの方法があるはずだ!」
「はぁ。はっきり言います。私は別に、あなた方と交渉する必要はないのです。しばらく潜伏していれば、迎えが必ず来てくれるので、それを待っているだけなんです。生活費はあった方がいいですが、例え呪術師の仕事が出来ずとも、その数日から数ヶ月間の生活費ぐらいならなんとでもなります。秘匿死刑? この2人がいて数ヶ月逃げきれないとでも? ただ、貴方達がすごく困っているように見えたので、生活費を報酬にもらうという建前で、手助けしましょうか? と申し出をしただけです。手が足りているのなら、私達は失礼します」
「まあ、AFOが上層部との交渉は意味がないって言ってたしね」
「俺、コンビニバイトやってみたい!」
「何事も経験ですしね。そうしましょうか」
伊地知は席を立つ。
「待て! さの1を偽物と証明できない以上、偽物と認めるわけにはいかん」
「それで?」
「だから、その悟は本物だ。その前提で、悟に頼みたい事がある。拒否したいなら、獄門疆を開けて証明をすればいい。悟がいないとなれば大変な事になる。……どうか助けてくれないか」
頭を下げる夜蛾学長。
「……どうせ数ヶ月ですし、話くらいは聞きますが。獄門疆については心配しないでください。迎えさえくればどうにかなるので」
「やれやれ。優しいね、伊地知は」
「確かに。俺らの事、さっさと処分した方がもっと強い式神作れるのに、庇ってくれるしなー」
「分身だって自我があるんですよ。簡単に殺すなんて言えるわけがないし、そんな人に分身が力を貸してくれるわけがありません。お二人は既に十分強いですし、何も問題はありません」
「そりゃそうだけどさ。やっぱり最新の五条悟コピーした方が強いじゃん」
「でもそんな伊地知だから、AFOもその力と私達を伊地知に託したんだし。それ以上言ったらAFOへの批判になるよ」
「俺は何も言ってない」
「そのAFOというのは、一体」
「あー。上層部の上司」
「上層部、ちょっと前からAFOって人に支配されてんの」
「それはそれで問題ではないか!?」
「やー。俺は命令系統に従って上司に従うだけだし。今は伊地知ね」
「悟、意外にそういう所あるよね。AFOに善良な社畜って言われてたし」
「あっ 一つ条件があります」
「なんだ?」
「なの1さんとなの2さんの人権を確保していただきたく。受ける依頼の級数を一つか二つ落としてあげてください。一撃受けたら死んじゃいますから」
「申請してみよう」
「何この仕事量!? 酷くない!? しかも俺1人だけってどういうこと!?」
「悟は健在だと知らしめるための依頼量だ。主に呪詛師相手となる。傑はこの世界では呪詛師だからな。監視される事となる。あとすまん、人質だ。伊地知も」
文句を言うさの1に、夜蛾は謝罪する。
「ううん、でも助かったかも、ほら、私ってコピーだからすぐ死んじゃうじゃん?」
「は? 死なせねーし」
「そうじゃなくてさ。私が死んだら、私の偽物からぶんどった万超えの呪霊、どうなるのかなって」
「げ」
「だから、あんまり動きたくないんだよね。代わりに伊地知の護衛は任せてよ」
「うー。傑と離れるの、嫌なんだけど」
「ごめんね、悟……」
「報告書書くのは手伝いますから」
「は? それ伊地知の仕事じゃん。俺は倒すだけ」
「今のさの1さんは五条悟で、単独行動なので上層部とAFO二箇所に報告書が必要かと」
「ええええええええ!? じゃー伊地知はどうすんだよ!」
「んー。呪霊を減らす意味でも、生徒達の戦闘訓練をすの1さんにしてもらって、それを見守ろうかと」
「えええええ!! ずりー!」
「後は、迎えが来た時にAFOに勝手な行動を叱られたりですね」
「ずるくないや。叱られ役よろしくな、伊地知。俺、指示で動いてるだけで悪くねーし」
「そうだね、生徒さんに協力してもらうのはアリかな」
そんなわけで、新たな日常が始まった。
当然ながら、呪術師達は皆、興味津々である。
でも、中々話せない。
さの1はフレンドリーなのだが、フレンドリーすぎて誰にでもベタベタするのが問題である。
親友の夏油傑に対してなんかは接着剤のようになっているが、伊地知にもベタベタする。
最も気にしているのは、当然伊地知だ。並行世界伊地知が1人になった時、伊地知はすぐさま話しかけた。
「あのっ よく、五条さん達に指示出しできますね……?」
「式神ですし、指示ではなくお願いです。そこを間違えてはいけません。あと、五条さん達は私ではなく、私を雇うAFOに従っているので」
「そのAFOってどんな人なんでしょうか。やっぱり怖い人ですか?」
「いやまあ、五条悟含む上層部とガチンコして上に立つんだから、そういった面はないと言ったら嘘になりますが」
「五条さん以上ってことですか!?」
「うーん。条件さえ整えば、ですかね。でも、AFOの支配する呪術界は平和なので、逆らおうとする人は少ないですね」
「五条さんは?」
「あの人は平和ならなんでもいい人ですし、AFOも扱いは心得てるので、普通に従ってますよ」
「あの五条さんがですか!?」
「五条さんをなんだと思ってるんですか……。五条さんは普通に仕事熱心な良い方ですよ。あと、AFOが来てから発覚したことですが、割と全力で事なかれ主義です。さらに言うなら、AFOは五条さんの性質をしっかり理解しているので、問題はおこりようがないですね」
「いや、でも、そちらの世界ではそうかもしれませんが、こちらの世界では中々お願いを聞いていただけなくて」
「んー。そんな時は、五条さんから普段いただいたものに何を返せているか、何を返せるか考えてみるといいですよ。っていうか、五条さんてかなり細やかな事でも申し訳ないくらいに喜んでくれますよね? 五条さんにスケジュール調整して同級生組3人の三日間の旅行に行っていただいた時は、前後に30連勤つけてても大変に喜ばれて、かなり長い期間上機嫌で依頼を片付けてくれましたし」
「特級術師2人と硝子さんの休暇が三日間ですか!?」
「はい。修学旅行行けてないと聞いたAFOの命令で。命令は一週間だったんですけど、私の力不足でそこまでスケジュール調整できなくて。でも、三日だけでもとても感激してくださいました。あまりの喜びように哀れに思ったAFOさんが、そのあと……あっでもその前に」
「その前に?」
「五条さんがお願いを聞いてくれるようになると、有象無象から五条さんへの「お願い」をお願いされるので、圧力対策が必須です。跳ね除けられるようにならないと、五条さんに迷惑も掛かります。話はそこからですね。まあ、そこ大丈夫な人にならないうちは、五条さんも軽率に気を許したところが見せられません」
「……そこはどうやってるんですか?」
「AFOさんが環境整備してくれました。なので五条さんの人当たりはだいぶ良くなりました。よくなってる途中です」
「なら、私には無理そうです……」
「諦めるか、環境変えるか、できる範囲で頑張るかですね。AFOさんがいても過労働の環境変えるのはかなり時間が掛かりましたから。でも環境さえ整えてしまえば、もう五条さんの牙は抜いたも同然ですよ! あの人、人死さえ出ない状況ならかなりの穏健派に変わりますから」
「そう、なんですか?」
「私の知る五条さんは、そうですよ。なんせAFOに善良な社畜って言われてるぐらいですし。五条さんの良心に反することさえしなければ、逆らわせるのも難しいとさえ言ってますから」
「そう、ですか。なんだか分かる気がします。AFOは五条さんの良心に沿う方だと?」
「もちろんです。理不尽じゃなければ、五条さんはお願い聞いてくれます。問題は夏油さんですね」
「なるほど」
「AFOも夏油さんには慎重に対応しています。私もこう見えて気を使ってます。穏やかに見えて激情家で野心家で理想主義で選民主義で反骨心旺盛で爆発するまで我慢してしまうし、思い立ったら一直線なので、こう、申し訳ないですが、いざという時は五条さんを助けてあげないと五条さんが困っちゃいますよー、みたいな感じで誘導して……内緒ですよ? 私を認めてくれてないのは夏油さんの方ですね。あの人、実はAFOも認めてないです」
「その、夏油さんを排除しようとは思わなかったのですか? 上層部に勝ったんですよね?」
「そういう思考だから、上層部は五条さん(善良な社畜)の忠誠を得られなかったんだと思いますよ。AFOだったら、うまく使ってくれますからね」
「それは、そうですね。そうです……。AFOさんは優しいんですね」
「殺しをしないわけではないし、怖いところもある方ですけどね。締める所は締めて、基本は優しい。いい上司ですよ。……思う所がないわけでもないですが」
「そう、ですか。最後に、五条さんのあのスキンシップなんですか?」
「あれは副作用なので。これ以上は私からは言えません」
「副作用!?」
そんなわけで、一ヶ月後。
半径0センチの五条悟のパーソナルスペース(夏油傑を中心に誰かにひっついてないといられない五条悟)にも呪術師達が慣れて、呪詛師が沈静化した頃に、迎えが訪れた。
虚空に現れたドアが伊地知を目の前にして開き、黒髪の男が出てくる。
近くにいた七海は、思わず声を上げた。
「灰原……っ」
「あ、こっちの世界の七海? こんにちは! 伊地知預かってくれてありがとうね」
「助かりました、灰原さん。さの1さんは今、外出中です。あと、これを開けてきて欲しいのですが、お願いできますか」
「いいよー」
それからしばらく。
「あっ 七海。心配かけてごめん」
「さっさと帰ってきてください。こっちは貴方の不在で大変なんです」
「えー!! まあ、仕方ないか。二、三日でいいから、滞在したかったなー」
「五条さん、すみません。もう一ヶ月、さの1さんが働き詰めなんです。お願いします!」
頭を下げる伊地知。仕方ないな、とため息をついて、悟は戻ってきた。
伊地知は灰原に報告書を渡す。
さの1が戻り次第帰還ということで、さの1の帰還を待つのだった。
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