敵の敵は味方になるらしい   作:マカベ

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あけましておめでとうございます。

生きてます。




『普段通り』の日々へ その3

 ボーダー本部、フリースペースにて。

 なんだか落ち着かない様子で、修は右手で襟を直した。首元へ視線をやっても、後ろの方に手をやっても、別段乱れている感じはしない。けれどもさっきよりは良くなっただろうと一人納得すると、今度は腰のあたりを手ではたく。そもそも換装体に汚れは付くのかは疑問だが、埃か何かが付着することはあり得るだろう。一通り終えると、修はため息をついた。

 

(…………)

 

 さっきから誰かに視線を向けられている…ような気がする。誰かというのは不特定多数の人であり、後をつけられているとかそんなわけではない。身だしなみに何か変なところでもあったのかと思っていろいろ調べてみたが、そうでもなさそうだ。周りにはC級が多いから、右肩にある玉狛のシンボルが珍しいのだろうか。宇佐美の熱量に負けて、隊服も少し派手に拵えてしまったかもしれない。

 普段から割と周囲の目には疎い修がそう感じたのだから、それは相当なものなのだろう。しかし、修自身にはこれという明確な心当たりはなかった。

 

(だ、誰か……)

 

 注目されることは慣れていないし、好きでもない。心当たりがないから深刻な問題だとも思わないが、居心地が悪いのは紛れもない事実だ。

 こんな時、知り合いが話しかけてきてくれれば気も紛れるのだが…。

 

「久しぶりやなあ、メガネくん」

 

 そうして椅子に座って一人背筋を正していると、男性から声がかかった。

 間の抜けたイントネーション、特徴的な口調。数回しか会ったことはないが、修の記憶にそれは強烈に残っていた。

 

「あ、琴吹先輩。お疲れ様です」

 

 その声の主は琴吹伊織。警戒区域内でも玉狛支部でも、一悶着あった先輩だ。

 さっきから肌をざらりと撫でる周囲の視線の中から、うわあ、と声が聞こえたような気がした。

 

「メガネくんは半熟と中身火ぃ通ってんのどっちがええ?」

 

 伊織は修から許可も得ずに勝手に正面に座ると、皿の上に乗った目玉焼き二つを指差して、笑みを浮かべている。

 やっぱり変な先輩だ、と修は思った。

 とはいえ、修の思う『変』は迅とか小南とかが属するくくりであり、世間一般が抱く琴吹伊織への印象とはまた違うものなのだが。

 

「じ、じゃあ半熟で…」

 

 恐る恐る、修は左の方を指さした。

 それを見て伊織は薄っぺらく笑うと、修の言った方へフォークを突き刺す。じんわりと、穴の空いたところから黄身が漏れ出した。

 

「ま、聞いただけやけど」

 

 醤油を少し垂らして、伊織はそのまま自らの口へ運んでしまった。

 

「な…」

 

 これには修も困惑する。

 一体何がしたいのかわからない。そもそも気軽に話しかけられるほど深い関係ではないし、笑ったまま目玉焼きを咀嚼する様子からは特に用事もなさそうだ。

 

「………」

 

 しばし、沈黙が訪れる。目の前の伊織は顔に笑みを貼り付かせたまま、一向に口を開かない。周囲の目は気にならなくなったが、今度は先輩と二人きりだというのに何も話さない状況が居づらくなってきた。

 

「こ、琴吹先輩は!」

 

 とうとう居た堪れなくなったのか、声が上擦りながらも修は思い切って伊織に切り出した。

 不思議そうな視線は見ないようにして、修は続ける。

 

「琴吹先輩は何の用でぼくに…?」

 

「キミみたいな可愛い後輩が出来て、ボク嬉しいんね」

 

 やけに演技くさい口調で伊織は答えた。これでは遊真でなくとも嘘だとわかる。

 質問の答えとも思えないような言葉に、修は返事に窮した。

 

「…あれ、桐絵ちゃん辺りからボクのこと何も聞いてへんの?」

 

 しかし、予想外なのは向こうも同じだったらしい。何かのスイッチが入ったような様子だった伊織が、一旦フラットな面持ちに変わった。

 

「い、いえ。特に何も…」

 

 修も、恐らく遊真や千佳も、伊織云々の話は誰からも聞いていない。というのも、玉狛支部の一件で小南と伊織の仲が悪そうだというのは察していたから、彼について何か聞くのは御法度だろうと思っていたからだ。そしてそれは多分、ほかの先輩たちにとってもそうなのではないだろうか、と修は思っている。

 

「……へえ」

 

 伊織は修から視線を外した。

 ここではないどこかへ焦点を合わせているかのように、彼の瞳は虚ろにぼやけている…ように感じる。

 少しして伊織の視線が修を捉え直すと、ぱん、と手を叩いた。

 

「ま、ともかく仲良くしよや! 右も左も分からへんキミに、ボクが手取り足取り教えたるわ!」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「あの…一体これは…?」

 

 仮想空間内、市街地ステージ。

 しばらくその場で空を眺めていると、困惑して冷や汗をかいた修がやってきた。

 

「ん? 個人ランク戦やで?」

 

 仲良くしよう、なんて触れ込みで後輩を連れ込んだ先はランク戦ブースだ。しかし、彼らが今立つ場所は転送先の仮想空間。そこへはブースに入って対戦相手を選ぶ必要がある。修にだって、ここがどこかなんてわかりきっているだろう。後輩からの問いかけはそんな答えを求めたものではないことは知っている。

 

「ど、どうしてぼくが…」

 

「さっき言うたやないか。右も左も分からへんキミに、ボクが教えたるって」

 

 基地内と同じようにわざとらしく、伊織は両手を広げた。

 ここへ来る前に大袈裟に手を鳴らしてきたから、一度離散した修への好奇の視線はある程度戻っただろう。伊織が何をしたいのか、言わずとも普通は態度でわかるはず…なのだが。

 

「は、はあ」

 

 修の生返事に、今度も基地内と同じように伊織は首を傾げた。

 揚げ足をとるかのようなやり取りに始まり、裏の見えすいた親切を見せたつもりだったが、当の本人とはずっと噛み合っていない。一体どんな意図で伊織は修に声をかけて、どうするつもりでランク戦へ連れ込んだのか、まったくわかっていないようだ。

 

「はあ。メガネくんはもう少し聡い子や思うてたんやけどなあ」

 

 ため息を一つ、伊織はついた。

 

「攻撃手ランク二位の風間さんと引き分けたB級隊員。それが白昼堂々A級隊員とランク戦なんて、いい見せ物以外の何物でもあらへんやろ」

 

「…そういうものなんですか? そもそも、あれだって…」

 

 あれだって。修の言いたいことはわかる。風間に引き分けたことだけがクローズアップされて、それまでに24回も負けたなんて話は全く出回っていない。

 だが、単純な数で言えばC級やマスタークラス以下のB級が圧倒的に多い中、24敗だろうが彼と同じことをやってのける隊員は一体どれくらいの割合だろうか。

 

「みーんな、キミに興味深々やで?」

 

 ボクのおかげで、今ごろモニター前に大集合やろなあ。そう伊織が言うと、修は目を見開いた。何だか肩透かしを食らったような気分だ。

 両手にトリオンキューブを展開すると、慣れない手つきで修は戦闘態勢に入った。

 愚直に展開された盾はしかし、変化弾が嘲笑った。

 

「それがこうして手も出ず」

 

 手首を貫いて、両の手が零れ落ちる。

 

「足も出ず」

 

 足首も貫いて、バランスを崩す。

 

「ただやられるとこ見て、がっかりやろなあ」

 

 修は驚愕の表情を浮かべて、こちらをただ見つめていた。

 恐らくその驚愕は伊織の変化弾の軌道に対してのものであり、大衆の前で痛めつけられるという屈辱に対しての憤りではないだろう。ここまでのやり取りを経て、伊織はそう思った。

 

「あはは! ほんまに()()()()()()できるとは思わへんかったわ!」

 

 伊織は笑う。

 しかし、それでも修の顔は驚いたままで、敵意というものはあまり感じない。

 

「……はあ。噂の玉狛の新人、おもろそうやと思ったんやけどなあ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 呟いて、アステロイドを展開した。勝敗はとうに決している。だが、そのまま終わらせるつもりはない。彼が次に放つであろう言葉を、伊織は待っていた。

 

「…もう一戦、お願いします」

 

 目には何かの決意。伊織が普段向けられるようなものとはまた少し違う、ドライな敵意。しかし、さっきまでとは明らかに彼が変わった。

 

 人が怒りを示すときに、堪忍袋の緒が切れた、と言う。

 だが、堪忍袋の緒は人によって様々だ。

 マスクのギザギザ歯の先輩みたいにほんの少し引っ張っただけで切れるような人間も居れば、どれだけ引っ張ってもびくともしないどこかの支部の菩薩みたいな人間も居る。

 けれども、伊織が思うに、ボーダーの人間にはほとんどに共通した緒の切り方があって、それは自分の思い通りにいかないとすぐ癇癪を起こすプライドの高い彼女にも、自分のことにはてんで疎いメガネの彼にも当てはまることだ。

 

 彼らの仲間や友達を傷つけること。

 

 それだけでいい。フォークで目玉焼きの黄身を潰すより簡単だ。

 そして。だからこそ、伊織が普段通りの伊織(嫌われ者)でなくてはならない、とも思う。

 

「へえ。…前言撤回や」

 

 伊織はいつものように、笑った。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ランク戦ブース、モニター前。

 近くの自販機で『重くなる弾の人』と一悶着あったあと、そのチームメイトの米屋とかいう先輩に誘われて遊真はここまでやってきた。風間には訓練生だからという理由で断られてしまったが、手合わせ自体はどの隊員でもできるらしく、「おもしろければ何でもいい」と米屋には歓迎された。

 以前に来たときと同じく、ブースは賑わいを見せている。特にモニター前には人が集まっているようで、その中に見知った顔を見つけたらしい米屋が声をかけた。

 

「よー、緑川。ブッキーの試合見るなんて珍しいな」

 

 緑川と呼ばれた少年が振り返る。背丈で言えば遊真と同じくらいだ。訳あって遊真の体の成長は止まっているから、背丈が同じということは遊真よりも歳下なのかもしれない。

 小さな背丈と大きな瞳からは快活そうな印象を受けるが、振り返った彼の顔はしかし、どこか複雑そうな表情をしていた。

 

「まあ、ちょっと。相手が気になってたから」

 

 そう言われて、遊真もモニターへ目をやる。

 九勝零敗とモニターの隅には勝敗がカウントされていた。けれど、圧倒的だと片方の実力に舌を巻くというより、モニターの惨劇に意識が向いてしまう。

 モニターには、もう片方の四肢が捥がれ、地面に這いつくばる姿が大きく映し出されていた。片方がそれを見下ろして、何か身振り手振りを交えて話しかけている。四肢の切断面には、止血でもするかのように四つ、シールドがトリオン漏れを防いでいた。

 あまりに惨い。恐らく、トリオン切れで緊急脱出することを許さない片方が、敵だというのにわざわざシールドを展開したのだろう。誰がどう見てもどちらが勝ちか明らかな状況で、負けている側が延命のためだけにそんなことをするとは考えにくい。一対一だから助けを待っているはずもない。

 しゃがんで顔を覗き込んだり、顔を足で踏みつけたり、もはやそれは模擬戦ではなかった。一方的な蹂躙。遊真が向こうの世界で見てきた、強者が弱者を痛ぶることを愉しむかのような光景だった。

 

「……」

 

 多くの怒りと、少しの困惑が遊真の頭の中を占拠する。

 それは、地面に這いつくばるのが彼の隊長だから。

 そしてそれは、痛めつけているのが変な口調の見知った青年だから。

 

「つまんないことするね、あの人」

 

 氷柱のように冷たく鋭く、遊真は言った。

 それは彼への憤りなのか、同情なのか、あるいはそのどちらもなのか。

 

 遊真はそのまま、彼の居るブースの出口に向かった。

 少しすると、十本勝負を終えた彼が姿を見せる。

 

「ことぶき先輩」

 

 遊真のそれに、血は通っていなかった。

 それを見た伊織は、一度目を閉じる。

 

「あれ、遊真くんやないの。久しぶりやなあ」

 

 もう一度開くと、普段通り間の抜けたイントネーションで軽薄そうに答えた。

 

「おれとも勝負しようよ」

 

 伊織は笑う。

 どないしよかなあ、なんて大袈裟に考えるふりをしているが、遊真の目にそれはあまり映らなかった。

 

「負けたらおれのポイント全部やる。…けど、勝ったらオサムに謝れ」

 

 未だ遊真は訓練生の身で、対する相手はA級。階級だけで言うなら、遊真が十本勝負でどうあがいても勝ち越せない小南と同じ。黒トリガーならまだしも、慣れないボーダーのトリガーでは難しい勝負だろう。

 しかし、そんなこと遊真には関係なかった。

 生きる目的のなかった遊真に久しぶりに楽しいという感情を感じさせてくれて、その上当面の目指すところも与えてくれた修を、大衆の前であんな目に遭わせたことを看過できるほど穏やかではないし、そうなりたくもない。

 

「あはは! 今日はポイント大稼ぎや!」

 

「…………」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ロビーへ戻ると、米屋に呼び止められた。名前を聞くのも会話をするのも初めてのことだったが、修はどこか上の空だった。

 強い。底が見えないどころか、氷山の一角ですら捉えきれていないようだった。結局のところ、十戦全てで四肢を刈り取られ、同じように撃破されて終わってしまった。

 頭には、伊織との戦いが大きく居座っている。風間との戦いで天狗になったつもりはないが、やりよう次第でワンチャンスは作れると手応えを感じた矢先にこれは、頭を殴られたような衝撃だ。

 

「メガネ先輩」

 

 馴染みのない声が聞こえてきた。『メガネ先輩』が自分のことだろうというのは今までの経験で十分に理解している。

 

「えっと…」

 

 まだ伊織の衝撃に意識が戻ってきていないからか、返事も宙に浮いてるかのようだ。

 

「緑川駿」

 

 それを自己紹介の催促ととったのか、背の小さな少年は名乗った。そこまでされてようやく我にかえると、修も自分の名を告げる。

 

「オレ、三雲先輩に嫉妬してた。ごめんなさい」

 

 彼──緑川は、もう『メガネ先輩』とは呼ばなかった。同情にも似たような、どこか影を落とした目でこちらを見ながら、突然頭を下げる。

 

「…え?」

 

 突拍子がなさすぎて、思わず声が出てしまった。上の空で考え事をしていた時に何かあったのかと思ったが、横の米屋も驚いた表情をしているからそうではないらしい。

 嫉妬も何も、こうして話すのはこれが初めてなのだが…。

 

「多分、琴吹先輩が行ってなかったらオレが三雲先輩と戦ってたと思うから」

 

「おー、素直だな」

 

 隣の米屋が感心したように呟く。

 曰く、迅の熱狂的なファンだとかいう緑川は、「玉狛のメガネくんは迅さんが直々にスカウトして転属したらしいで」とかいう独特のイントネーションで語られた噂を聞き、羨ましいと嫉妬したらしい。

 

「そりゃ最初はいい気味だ、とか思ってたよ」

 

 緑川は視線を足下へ落とした。

 

「…けど、あそこまで……」

 

 それ以上は緑川は言わなかったが、同情や哀れみといった表情が何よりも物語っている。米屋も「あー…」と珍しく返事に淀んでいた。

 けれど、当の本人である修には何のことかあまり理解していなかった。ランク戦という制度に則って二人は戦い、伊織が勝った。そこに不正はないし、修が負けたのは単純な実力不足。()()()()()()思っていることはただそれだけである。

 

「あの白い子もそうならないといいけど」

 

 ぽつりと呟いて、緑川はモニターへ目をやった。

 それを何となしに見ていた修だったが、彼の言葉に頷いた米屋を見て不意を食らった。

 

「そ、そんなに琴吹先輩は強いんですか…?」

 

 緑川から見れば、遊真はA級に無謀にも挑む訓練生と映る。だからあの言葉も理解できる。けれど、遊真がどんな境遇で、どれほどの実力を持っているか知っているはずの米屋が同意したのは意外だった。遊真が黒トリガーではなく慣れないボーダーのトリガーを使うということを考慮しても、修の時ほど一方的な展開は少なくとも起こりえないはずだし、あるいは遊真なら…とすら思っていたから、余計にだ。

 

「あれ、玉狛なのに知らねーの?」

 

 まるで鏡写しにでもしたかのように、米屋も意外そうな顔だ。

 修が玉狛支部所属だということと伊織に一体何の関係があるのだろう。

 

「ボーダー最強ペアの一角だって、ちょっと前まで有名だったぜ?」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ことぶき先輩。あんた、つまんない嘘つくね」

 

 ランク戦ブース、個室内。遊真は入るなり、伊織の居る部屋へ通信を送った。

 少し前とは違い、声には落ち着きが見られる。こうして改めて彼と対峙すると、やはりあの時のことが頭をよぎった。

 

『ええと、何の話?』

 

「おれのポイント、貰う気ないでしょ?」

 

 負けたら遊真の持つ個人ポイントを全て渡す。この戦いでの取引であり、伊織もそれを了承した。

 だが、遊真の目にはそう映ってはいなかった。口では了承していても、本心ではそんなつもりはない。サイドエフェクトがそう告げていた。

 そして、それはわざわざモニター前に人を集めて修を痛ぶったような人間とはあまりに印象がかけ離れている心理だ。

 

『あはは、遊真くんはおもろいこと言うなあ。そんなんわかるわけあらへんやろ?』

 

「わかるよ。あの時、ことぶき先輩が嘘をついてたってのも」

 

 遊真の頭には、玉狛支部での出来事が今でも残っている。

 伊織が嘘をつく理由は他人の困った顔を見るためと言っていたが、それもまた嘘。

 邪推するのであれば、彼はおそらく────

 

「だから、()()()()オサムにあんなつまんないことしたのかがわからない」

 

 遊真がその感情を抱いたのは、こちらの世界へやってきてから二度目のことだった。

 一度目は修で、二度目は伊織。

 修に恥をかかせたことへの怒りはもちろんある。けれど、一度頭を冷やしてこうして伊織と二人で話していると、それを知りたいという気持ちがあるのもまた嘘ではない。

 

『はあ…。どうでもええやろ、そんなこと』

 

 だが、伊織は切り捨てた。

 突き放すように彼は続ける。

 

『ボクはキミんとこの隊長虐めて、それで遊真くんは怒ってる。わかるのはそれだけでええ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 程なくして開戦した様子をモニターから眺めて、修は驚愕した。

 修との戦いほどではないにせよ、米屋や緑川の言うとおりの展開だったからだ。遊真が相手とあって、伊織もトリガーは一つしか使っていない。けれど、だからこそ余計に彼のシュータートリガーの練度の高さが窺える。

 

「よっ、メガネくん。派手にやられたなー」

 

 唖然としていたところ、後ろから右肩に手をやられ、思わずびくりと肩が動いた。

 

「まったく歯が立ちませんでした…」

 

「はは、そりゃそうだ。変化弾をあそこまで使いこなせるやつはそう居ないからな」

 

 彼の言葉はどこか得意げだ。

 緑川たちと違って、迅が修を見る目はいつもと変わらない。けれどそれは修を蔑ろにしているというよりも、信頼しているといった方がしっくりくる目だった。

 

「伊織と戦って…いや。話してみて、どうだった?」

 

「琴吹先輩はいつも嘘をついている、と空閑が言っていました。ぼくに対してもそうだったなら、やっぱり変な人です」

 

 迅は頷く。

 伊織への第一印象が『嫌なやつ』以外なのは珍しいな、と笑いながら。

 

「どうして嘘をついているのか、ぼくにはわかりません」

 

 どうして。その言葉に、迅は微笑んだ。

 修が伊織との戦いで抱いた印象はやはり、自分の実力不足を痛感したということしかない。

 だが。彼と話してみてどうだったか、と聞かれれば、修には確固とした答えがあった。

 

「理由がどうであれ、それが空閑や千佳を傷つけるものなら。ぼくは、琴吹先輩を許しません」

 

 これじゃあ残りの二人も拍子抜けやろか。

 その言葉への回答は、これからも変わらないだろう。

 

「そうか。…メガネくんらしい答えだ」

 

 

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