敵の敵は味方になるらしい   作:マカベ

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一部、トリガーの独自解釈を含みます。




曇り空のフラクタル その2

 人の性格がいきなりがらりと変わるということはほとんどない。

 色々な出来事を目にして、感じて、積み重ねて、少しずつ人間は形成されていく。その過程で記憶から薄れていくこともあるだろう。よほど心に突き刺さる出来事でなければ、急に関西弁を話しだしたり、他人に積極的に嫌われようとするようになるなんてことはありえないはずだ。

 とどのつまり、あの日を境に彼女──香取葉子も、劇的に性格が変わったわけではない。変化は些細なものに過ぎない。今まで適当にやってきた個人ランク戦に、本腰を入れて取り組むようになっただけのこと。

 今まで通り、面倒なことはやりたくないし、家に帰ればゲームもする。そして何よりも、チームの欠点として散々指摘されてきたチームワークを改善しようと彼女から歩み寄ったことはなかった。

 

 

 

『全隊員に通達!新型はこちらを捕らえようとする動きを見せている。少数では分が悪い。B級隊員は東と南の二方角に集結せよ!』

 

 警戒区域内、南東地区。

 他の多くのボーダー隊員と同じように、香取隊の三人もトリオン兵の討伐に当たっていた。

 そんな折、入ってきたのは忍田本部長からの通信である。

 

「葉子!東と南のどっちに向かうんだ!?」

 

 隣の麓郎がひっ迫した声で問いかけてくる。

 葉子たちが位置する場所は南東。忍田の指示した場所のちょうど中間だ。厳密に言えば南の方が近いが、東へ向かうにしても特に問題はない距離感。決断は隊長である葉子に委ねるということだろう。

 しかし。麓郎の声が一刻を争うかのように切羽詰まったものなのには理由があった。

 

「はあ?何バカなこと言ってんのよ。()()()()()()()に決まってるでしょ」

 

 その理由は明確。忍田の言う新型が、香取隊の目の前に居るからだ。

 

「お前だってあの映像見ただろ!?俺たちじゃ勝てっこない!!」

 

 忍田はまた、少数では分が悪いとも言った。同時に共有された新型と隊員が戦う映像を見ても、三人では到底敵わないと麓郎は感じていた。

 

「…見たわよ。だから余計に倒さなきゃいけないんじゃない」

 

 葉子の考えは麓郎とは真逆だ。

 いや、心の奥底では麓郎と同じ意見なのかもしれない。確かに、あの固さと攻撃の威力、そして反応の良さは今までのトリオン兵とは訳が違う。難しい相手なのは葉子にも感じられていた。

 だが。それでも。葉子にとって、ラービットを前に尻尾を巻いて逃げるという選択はありえない。

 なぜならそれは、共有された映像でラービットと戦っていたのは、他でもない伊織であったから。

 伊織が渡り合える相手なら、葉子だって戦えなくてはならない。そうでなければ、彼を叩き潰すなんて夢のまた夢だから。

 

「あんたたちは南にでも行けば?こんなやつ、アタシ一人で十分よ」

 

 そして。映像では、最終的に助けにやってきた嵐山隊がラービットを撃破した。葉子が一人でラービットを倒せたのなら、それは間接的に伊織の上を行ったことを意味する。だから、今の葉子にとってチームメイトは二の次だった。

 

 麓郎や雄太の返事は聞かず、葉子はラービットへ迫る。

 

「クソっ…!どうすれば…!」

 

 その光景を前に、麓郎はただ立ちすくんで眺めることしか出来なかった。

 従うべき隊長からは南に向かえと言われた。しかし、どう考えてもラービットは葉子一人では荷が重い。だが、麓郎が助けに向かったとして、一体何が出来るのだろうか。

 裏と表が何度もひっくり返って、決断が下せない。

 こんな時頼りになるのは…。

 

「は、華さん!」

 

 こんな時頼りになるのは、オペレーターの華以外に考えられない。

 きっと彼女なら、麓郎が取るべき行動を示してくれるはず。そう、思った。

 しかし。

 

『葉……なら…へ……』

 

 いつも淡々と麓郎たちに道を示してくれる声は途切れ途切れで聞き取れない。

 思わず麓郎は本部の方へ振り返る。ここからでは距離が遠すぎて、何があったのか詳しくはわからない。だが、基地へ何か大きなトリオン兵が向かっていく姿と、すでに衝突した後らしき爆風は確認できる。

 横に居る雄太の顔がどんどん青ざめていくのが感じられた。

 

(本部で何かあったのか!?いや、それよりも俺たちはどうしたら…!)

 

 状況は振り出しだ。

 行くべきか、退くべきか。迷いは晴れない。

 先に決断したのは、麓郎ではなく隣の雄太だった。

 

「葉子ちゃんを助けないと…!」

 

 青ざめた顔のまま、冷や汗をかいて雄太は呟く。

 それが冷静な判断とはとても思えないが、隊長には部下が眼中に居らず、オペレーターとは連絡がつかないというチームの状況を考えれば、彼には酷だったのかもしれない。

 

「クソ…!やってやる…!」

 

 そして。麓郎もまた、冷静な判断が出来ていなかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 警戒区域内、東地区。

 本部で起きたトリオン兵特攻の影響はここにも及んでいた。

 

「あら?杏と通信が繋がらないわ」

 

「真衣さんとは繋がるみたいですね」

 

 南東や伊織の居た地区とは違い、加古隊の周囲にラービットは居ない。バムスターたちを倒す片手間で話し合うくらいには、少し余裕のある状況だ。

 

『本部にイルガーが突っ込んだ』

 

 望や双葉とは別行動の真衣から連絡が入る。

 彼女が言うには、爆撃型のトリオン兵が一体、基地目掛けて自爆していったらしい。

 

「だから本部にいる杏とは通信できないのね」

 

 衝突の影響で一時的に本部と通信が取れないのだろう。

 だが、香取隊とは違って彼女たちは落ち着きを払っていた。

 ランク戦とは違い、実際の戦場では不測の事態は付き物。そして、自らが所属する組織の力量も十分に把握している。

 望と双葉は二人して基地の方を眺めていると、新たにイルガーが二体姿を現した。

 

「本部に居るのは…当真くんと太刀川くんだったかしら?」

 

「そうですね」

 

 なら心配いらないわね、と望。

 そもそも、ここで望たちが焦ろうが間に合うはずもなく、まして控えるのが攻撃手と狙撃手の頂点に立つ二人ならあれこれ案じるだけ無駄だ。

 それから間もなく。爆撃型の片方は基地の迎撃武装が粉々に、もう片方は何者かが真っ二つに切り裂いた。

 

『バカは派手なものが好きやから』

 

 二枚におろされたイルガーが落下していく光景は見るも鮮やかだ。

 ふと、望の頭には以前解説をした時の伊織の言葉が浮かぶ。

 

「太刀川くんも派手なものが好きみたいね」

 

「そうですね」

 

 ランク戦での伊織の言葉を借りたそれは、暗に太刀川が馬鹿だと言っているようなものだが、それを否定する者はいなかった。理由は単純。太刀川慶は、間違いなく馬鹿だから。

 

『すみません!通信が乱れてしまいました!』

 

「本部がやられたんだもの、仕方がないわ。それで、私たちは遊撃担当だったわよね」

 

『はい。東地区の指揮は風間隊が担当するようです。伊織くんは南西の警戒区域外に居ますが…』

 

 加古隊の役割は遊撃。東と南に固めたB級部隊ではカバーしきれない範囲を担当するもよし、そこへ合流してもよし。A級に振られたタスクなだけあって、自由度は高い。

 しかし。いくら行動する範囲に融通が効くとはいっても、警戒区域の外へ出ることは許されていなかった。ということは、C級の援護に向かった伊織とは合流できないということを意味する。

 

「そうね…。(ここ)はほかのA級に任せて、南へ行きましょう」

 

 隊長の決断は早い。まるで、伊織と合流するつもりは最初からなかったかのようだ。

 

『南東を通るルートですね』

 

 東から南へ。そこがひと段落ついたら、西へ。時計回りに警戒区域内を巡回する予定らしい。

 これといった異論はなく、望のプランが決まった頃合い、そういえばと杏が口をつく。

 

『伊織くんが誰かを守るなんて、明日は雪でも降るかもしれませんね』

 

 防衛戦という特性上そうなってしまうのは致し方がないことではあるが。伊織の行動を普段から近くで見ている杏にとって、『らしくない』彼の振る舞いを見るのは少しだけ微笑ましい出来事だ。

 

「違うよ、杏さん。伊織先輩はいつもみんなを守ってくれてるよ」

 

『ふふ、そうだったね』

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「ほう、曲がる弾か」

 

 黒の外套に身を包んだ偉丈夫が呟く。外套と対照的に彼の頭部には二つ、白の角が存在感を放っていた。

 近界の惑星国家、アフトクラトル。通称『神の国』。所持する黒トリガーは二桁を超え、トリガー能力を向上させるために『角』を開発した、正真正銘の軍事国家。

 遠征艇と思しき空間の中央には黒のテーブル、そしてそこには玄界の兵士がラービットと対峙する様子が映し出されていた。

 

「俺の雷の羽(ケリードーン)といえど、あそこまでの弾道制御は難しい。ヴィザ翁の言葉も頷けるな」

 

 偉丈夫が視線をやった先、老いた紳士が笑みを溢した。

 紳士曰く、玄界の進歩は目覚ましい。トリオンの扱いは近界と比べ遅れていたのは過去の話、現在は決して侮れる相手ではない、とのことだ。

 それを今まさに目の当たりにして、偉丈夫は思わず顔を綻ばせる。

 

「所詮猿のままごとだろうが」

 

 オレなら一瞬で捻り潰せる、ともう一人の男は吐き捨てる。偉丈夫と違い、角は黒色。片方の瞳までもが黒く染まっている。

 早くオレに蹂躙させてくれ、と隊長らしき男へ言ったところ。

 

「我々の目的を忘れたか、エネドラ」

 

 青年が一言、男を諌めた。

 男は途端に不機嫌そうになって、青年を睨みつける。

 

「あ?坊っちゃんが一丁前に指図してんじゃねえ。殺されてえか?」

 

 青年もこれに目元をぴくりとさせる。

 一触即発の不穏な雰囲気が遠征艇内に漂ったが。

 

「お二人ともお若くて羨ましい。ですが、その若さをぶつける相手を間違えてはいけませんな」

 

 笑顔は崩さず、老人が一言。

 二人の動きがぴしゃりと止まった。

 ひと段落ついたことを確認すると、隊長らしき男が口を開く。

 

「雛鳥の確保が最優先事項だ。群れを確認するまでお前たちに出番はない」

 

 

 

 

 

 

 

先生(センセ)、敵さんの目的なんや思います?」

 

 C級の居る地点へ向かう傍ら、伊織は横のレプリカに声をかけた。

 敵の目的はおそらく二択。こちらの人間を攫ってトリオンを確保すること、あるいは本拠地を落として属国とすること。

 

『ラービットの投入を見るに、トリガー使いの確保と考えるのが自然だが…』

 

「そやけど、こっち緊急脱出あるからなあ。捕まりそうやったら逃げればええだけの話なんやけど」

 

 あ、諏訪さんくらい鈍臭いとできへんかもなあ。

 すでに確保されてしまった味方への不謹慎な発言に、修は苦笑いをした。

 

『緊急脱出はボーダー独自の機能だ。アフトクラトルが把握していなかったという可能性も十分ありうる』

 

「うーん、どうやろなあ。何も調査せえへんでこっち乗り込んできたとは考えにくいけど」

 

 伊織は敵と対峙するとき、真っ先に相手が何を嫌がるかを考える。

 だが、逆に今はどうだ。

 確かにラービットは強敵だ。数も多い。しかし、B級は固まって対処するという忍田の策で対応しつつある。伊織たちが嫌だと感じるような手は今のところ打たれていない。黒トリガーがどうとかトリガー角がどうとかいう触れ込みだった軍事国家がその程度の攻勢しか見せていない状況が、伊織にとっては不気味で気持ち悪く感じた。

 

『いずれにせよ、ここまで戦力を注ぎ込んできた割に、あまりにも動きに変化がなさすぎる。何か裏に別の目的があるかもしれないが………』

 

 レプリカも伊織の抱いた感覚に近いものを持っているらしい。

 どこかで何かが引っかかるような違和感。

 迅の言葉で揺れる感情の行く先はそこにあるような、そんな気がする。

 

「し、新型だ!新型が出たぞ!!」

 

「はあ。相変わらず空気読めへんなあ」

 

 とうとう、警戒区域外にまでラービットが現れた。

 ふう、と一息。

 防衛ラインを東と南に絞ったためいくらか漏れはあると思ったが、思いの外早い。

 

「正隊員が助けに来たぞ!」

 

「お、おい…でもあれって……」

 

 あれって琴吹だよな?

 大丈夫なのか?

 いや、流石に俺たちを守ってくれるよな…?

 

 ざわざわと話すC級を見て、伊織は目を伏せた。

 揺れるな。揺れるな。

 正義の味方でなくとも、守ることはできる。

 伊織は両手にトリオンキューブを展開する。片方はそのままラービットへ。そして、もう片方は見当違いの方向へ進んでいった。

 

「こ、琴吹先輩…?」

 

 修がありえないものを見たような顔で、伊織に目を向ける。

 明後日の方へ進んだ射撃は、ざわつくC級の髪を掠めて、地面へ着弾した。

 

「ひっ!?」

 

「あー、ミスってしもたなあ。危ない危ない」

 

 C級たちの悲鳴が聞こえる。

 もしかしたら、のほんの僅かな彼らの期待を裏切る行為をして、伊織はいつも通り張り付いた笑みを浮かべた。

 

「危うく目障りな障害物(C級)壊してしまうとこやったわ」

 

「に、逃げろ!!」

 

 まるで牧羊犬に追われる羊のように、C級たちは一目散に基地へ向かって走り出す。

 付近の市民の誘導は終わっていることは確認済み。

 あとは、自分がラービットを倒せばいいだけ。

 

『杏。今度はいらんことせんといてな』

 

『ふふ。警戒区域外じゃそんなこと出来ないの、わかってて言ってるでしょ?』

 

 脳内に届く音声は、思ったよりも弾んでいる。

 伊織のC級への振る舞いを咎めようなんて雰囲気は全くない。

 

『…オペレーターは気楽そうでええなあ。こっちも元気になるわあ』

 

 言うまでもなく皮肉だ。

 

『気楽だよ。伊織くんなら大丈夫ってわかってるから』

 

 皮肉に気分を悪くした様子もない。

 だが、伊織はそれに対して特に何も思わなかった。彼女──いや、加古隊の面々がそうなのはいつも通りだから。

 

 二度目、ラービットを見据える。

 伊織はもう一度両手にトリオンキューブを展開する。そしてそのまま、二つのキューブを一つに合成した。

 嵐山隊のような援軍は見込めない。なら、中途半端に射撃を撃つよりも最初から決めにかかった方が、結果的にトリオンの消費は抑えられる。新型がそう何度も防衛ラインを掻い潜ってここまで来ることもないはずだ。

 伊織の手から離れた合成弾は真っ直ぐ軌跡を描く。前回と同じ、アステロイド二つの威力強化。片腕なら持っていけるのは実証済み。

 

「へえ。今度はお利口さんな子やなあ」

 

 ラービットはそれを見て、両手で防御した。

 右腕に合成弾が衝突する。両手で防いだ分、当たった衝撃は前回よりも少ない。だが、両手を防御に回しては攻撃には移れない。

 間髪入れずに伊織はキューブを展開する。

 

「バイパー」

 

 右手から変化弾が、ラービットの隙間を縫って弱点へと向かう。

 腕は塞いだ。装甲の硬そうな部分は、ラービットの前側にはそれほどない。

 しかし、バイパーが当たる前にラービットは口を閉じて弱点を塞いだ。

 

「そういうんもあるんやなあ」

 

 呑気な口調とは裏腹に、伊織の攻勢は止まない。

 あのレベルの相手が、弱点を剥き出しにしたまま戦うとは思っていなかったからだ。

 

「メテオラ」

 

 左手のキューブから、射撃が複数ラービットへ向かう。

 メテオラは着弾すると、爆発して周囲にダメージを与える。爆風で弱点を覆った口の装甲を剥がすため…ではない。向かう先はその下。如何にも柔らかそうな腹だ。

 合成弾は威力を抑えた代わりに弾数を増やした。まだラービットは身動きが取れない。

 そのまま、メテオラはラービットに直撃する。何度も何度も、執拗に。伊織の手からキューブが消える頃には、爆風がラービットの脇腹を食い破った。

 

「うーん、案外新型も歯応えないなあ」

 

 止めに再びアステロイド。弾数を抑え、威力とスピードを最大限に。

 合成弾の猛攻が終わりフリーになった両手を使い、ラービットはこれを防御しようとするが、伊織の弾は嘲笑う。

 腹のど真ん中に風穴を開け、新型は沈黙した。

 

『目標沈黙。ひとまずお疲れさま、伊織くん』

 

『はいはい、どうも。それより、ボクのトリオンあとどれくらい残っとる?』

 

『え?うーん、まだ九割はあると思うけど…』

 

 でも、何でそんなことを?と杏から通信が来るが、伊織は適当にはぐらかした。

 残り九割。これなら、奥の手もまだ使える。

 敵が消え、穏やかになった戦場で伊織は一息ついた。

 

(ここからどうするか…。修をC級のところに向かわせて、その一歩前で俺が防衛ラインを敷くのが一番安定択ではありそうだけど)

 

 そう何体もラービットがここまでやってくるということはないはず。

 迅の言っていた場面はまだ先だろう、と一度兜の緒を緩めた時だ。

 伊織の目の前に、突如として門が開く。

 

「し、新型が三体も…!?」

 

 門から現れるラービットを見て、伊織は初めて敵に対して顔を歪めた。

 このタイミングで、このカード。

 今、伊織がされて一番嫌なことだ。

 

「……言うてたそばから目的わかってしもたなあ」

 

「敵の狙いはC級…!」

 

 ラービットによるB級への攻撃。そしてこれ見よがしなイルガーの本部への特攻。それらは全て、C級を狙うための布石だったのだろう。

 事実、ラービットを恐れてB級は二箇所に固まり、自由に動けるのはA級数部隊のみ。今彼らを守れるのは、伊織しか居ない。何よりも、C級に緊急脱出の機能はない。捕まりそうになったら逃げる、が出来ないのだ。やはり、伊織の思っていた通り、アフトクラトルは入念にこちらのトリガーを調べてきている。

 そして、だ。

 迅の言っていた、修の命が危ういという言葉。

 ここまで来れば、何故危うくなるのか予想がつく。

 

「メガネくんはC級のとこ早よ行き」

 

 一先ず、目の前のラービットたちは伊織で見るしかない。

 C級が狙いだとわかった以上、A級たちにも警戒区域外へ出る許可はいずれ下りるだろう。それまでの時間稼ぎは最低限しなくてはならない。

 

「チカちゃんにトリガー使わせたらあかんよ」

 

 伊織の言葉に修は頷いた。

 彼のチームメイトの千佳は桁違いのトリオンを持っている。トリオンだけ抜き取るにしても、持ち帰って兵士として利用するにも、喉から手が出るほど欲しくなる存在だ。しかも、訓練用のトリガーで緊急脱出できないなんていう、ボーナスステージも甚だしい始末。

 敵にそれを悟られるわけにはいかない。千佳が狙われれば、修は命をかけて守ろうとするだろう。

 伊織の言葉は気休めに過ぎないかもしれない。だが、今できる手は尽くした。

 だというのに。伊織の中にある、何かが引っかかるような違和感は晴れない。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「おっっっそい!!!」

 

 三門市内の高校近く。市内では名門とされる、いわばお嬢様校の制服を見に纏った小南は、迎えが来るや否や制服に見合わず声を張り上げた。

 

「これでも全速力だ」

 

 ため息混じりにレイジは答える。

 警戒区域から離れたここまでわざわざ迎えに来てやったというのに、やけに小南は偉そうだ。

 

「で、状況は?」

 

 警戒区域から離れているとはいえ、今三門市で何が起きているのかは小南も把握している。小南の学校の生徒たちは皆避難を済ませ、同級生の玲も少し前に戦場へと向かった。

 

「どうやら、敵の狙いはC級らしい。修から連絡があった」

 

 そう、と小南。

 真っ先に小南の頭に浮かんだのは千佳。トリオン量のこともそうだが、自己犠牲を積極的にするきらいのある彼女は危なっかしい、と小南は思っている。

 

「遊真は?」

 

「嵐山隊と一緒に新型狩りだ」

 

「なっ…!修一人で新型相手に出来るわけないじゃない!」

 

 客観的に見て、修はかなり弱い。それも、B級の中でも下から数えた方が遥かに早いくらいには。

 新型がどれほど手強いのかはわからないが、モールモッドにすら手こずる修に、C級を守るなんて到底できるとは考えられなかった。

 だが、一人で焦る小南をよそに、レイジや烏丸は落ち着いている。

 

「大丈夫でしょ。俺たちが着くまで()()()が持たせてくれますよ」

 

「あの人?」

 

 烏丸へ向かって、レイジが目配せをした。

 それ以上は喋るな、とでも言いたげだ。

 

「時間が惜しい。さっさと向かうぞ」

 

「待ってなさいよ新型!あたしがズタボロにしてやる!」

 

 

 

 




各隊員の状況

伊織、修:南西警戒区域外にてC級の護衛
迅:西部の守備
遊真、嵐山隊:警戒区域内でラービット討伐
香取隊:南東でラービットと交戦中
加古隊:東から南東を通って南へ移動
木崎隊:警戒区域外で小南を回収。C級の護衛へ
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