《前回の誤字報告者兄貴姉貴》(敬称略)
N2、でぃせんと、水上 風月、太陽のガリ茶、⭐︎ぎん⭐︎、るるF、団栗504号
ありがとナス!
*内容の一部修正を行いました
「えっ、あの殺し屋さん公安に引き渡しですか⁉︎」
警視庁女子寮襲撃から一夜明けたその日、数時間の仮眠から戻ってきためぐねえは三好警部補からそう告げられた。
「らしいよー」
「じゃあ取り調べとかは……」
「最初っから公安だけでやるってさ。というか、そもそも
「えー……先輩方絶対納得してないんじゃ?」
「実際してなかったみたいだね。一課長に文句言いに行った間暮さんとか投げられてたよ。喧嘩キック炸裂してたけど」
「なんか一課長の部屋が騒がしいなとは思ってましたけどそういう事だったんですか……引き渡しって今日中ですか?」
「うん。えーと、あと2時間ぐらいしたら引き渡し。そこから公安の施設に護送するみたいだね。場所は知らないけど」
「でしょうね。公安の所有する施設とか絶対秘密施設ですもん。法的にまずい器具とか置いてありそう」*1
「すごい偏見だ」
「それにしても、護送ですか……」
「……何か思うところでも?」
「うーん、考えすぎだったらいいんですけど。ちょっと聞いてみますか」
───お疲れ様です
:ん?
:ちっすちっす
:なんやなんや
:みんな集まれー
:わぁい^^
:子供かな?
:ワイらは常に子供の心を忘れないように生きてるからな
───突然ですが質問です。
:?
:マジで唐突やんな
:今誰かソムリエおるか?
:サラシ姉貴はさっき抜けたはずやぞ
:EDF兄貴とⅡ号兄貴もー……おらんな
:(I)<私はいますよ
:ボ卿かぁ……
:こいついつもいるな
:(I)<おやおやおやおや
───いや、別にソムリエ案件ではないので。ちょっと展開を予想するだけですよ
:ほう?
:ソムリエ達の知識を要するような状況ではないと
:なんや、ならワイはいらんか
:ん、温泉ソムリエやんけ
:まあせっかくだからゆっくりしてけよ
:お茶もあるぞ 三旦
:自分で淹れるわい
───いいですかね?
:あっはい
───前に殺し屋さんしばき倒したじゃないですか。警部補が
:ああ……
:あれは悲しい事件でしたね……
───いや死なせてないからね⁉︎
:⁉︎
:アネゴ乱入してきて草
───で、なんか公安警察と取り決めがあったみたいで、今から数時間後に公安に引き渡されて護送されるんですよ。どう思いますか?
:どうって
:まあ、万和日本という事を考慮すれば……
:襲われるわな。うん、こんな簡単な事温泉ソムリエでも分かるぞ
:待って、俺の事なんだと思ってるの???
:リア充
:良き夫
:奥さんと末永くイチャイチャしてろ
:お、おう……ありがとう?
───お幸せに。うん、ちょっと対応考えてきます
───
──────
「───というわけで、相談に来た次第なんですが」
一課長のオフィス。
めぐねえと三好は殺し屋の護送についての意見を一課長に直訴しにきた。もちろんスレ民の事は省いて説明したが。
「そう言われてもな……」
先ほどまで間暮警部と組んず解れつしていたであろう源田一課長は肩で息をしながら、曖昧な返事を返した。
「考えてもみてくださいよ源田さん。今まで一切尻尾を出さなかった真っ黒い犯罪組織の殺し屋の護送ですよ? 狙われないわけがないじゃないですか」
「むむむ……いや、一応向こうの責任者と打ち合わせした時に提案はしたんだ。車両の護衛ぐらいはできるぞ、とな。そしたら───」
『これは非常に、扱いに慎重さを求められる案件です。火力バカ───失礼、捜査一課の方々に任せるわけにはいかんのですよ』
「だとよ。あの秘密主義クソメガネナルシスト、前から気に食わんとは思っていたが、面と向かって『火力バカ』と言われたのは初めてだ。俺がこの役職に付いてなかったら顔面に一発くれてやるところだぞ……」
どうも源田一課長も相当頭に来ていたようだ。机の上の灰皿をよく見てみると、葉巻の消費量が普段の数倍はある。
「一課長、公安部に配備されてる武装ってどんな物があるんですか?」
めぐねえが葉巻にビビっているうちに、三好がそんな事を聞いた。
「ん? あー……自動小銃は配備されてないんじゃないか? 拳銃、あと短機関銃かPDWが少数ってとこだろう。俺らが火力バカ扱いされたぐらいだからな。相当射撃の腕に自信がお有りなんだろうよ」
やはり『火力バカ』と言われたのを相当根に持っているようだ。
「一課長、ちょっと」
「ん?」
───なんか内緒話始まったんですけど?
:万和コソコソ噂話かな?
:豆知識でも言うんか?(困惑)
:万和コソコソ噂話! 万和日本では銃撃戦が3日に1件! これでも減った方らしいよ!
:多すぎィ!
:紛争地域か何か?
:ロアナプラとヨハネスブルグと米花町を一緒くたに数時間煮詰めて、盛り付けた後隠し味にアフガニスタンとソマリアを加えた一品、万和日本
:この世の終わりみたいな詰め合わせやめろ
:ていうか2人ともすげえ悪い顔してら
:あー、あれは悪巧みの顔ですね間違いない
:信じられるか? あんな顔してて刑事と捜査一課長なんだぜ?
:絶対犯罪者側の顔だろアレ
:話し合いは終わったっぽいな
:満面の笑みで握手交わしてるの怖いんだけど……
:一課長さっきとは打って変わってニッコリで草
:笑顔とは本来攻撃的な物であり(ry
:(I)<ミヨシは逞しいですね
:これにはボ卿も困惑
「よし、オフィサー。ちょっと付き合ってよ」
「な、何にですか? あとどうして一課長は片っ端からどっかに電話をかけまくってるんです?」
「んー、まあ後になれば分かるよ」
「は、はあ」
「ねえオフィサー」
「……なんですか?」
見せたくない? 火力バカの真髄って奴をさ。
:うわ、めぐねえも悪い顔になった
:もう終わりだよこの警視庁
───
──────
殺し屋は思う。
これで良かったのだと。
あの女刑事に敗北して逮捕された殺し屋は、たった数時間の勾留を経て公安に引き渡された。
今は頭に袋を被らされた状態で車に乗せられている。
両手は手錠で拘束され、両脇にはスーツ姿の男が座っている。抵抗するのは難しいだろう。
尤も、殺し屋にもう抵抗する気は一切ない。
もう疲れたのだ。
武器を取ることに。他人の血を見る事に。
子供の頃に組織に引き取られて二十余年、ありとあらゆる人を殺してきた。時にはナイフで、銃弾で、爆弾で、車で、素手で。
この手は人の命を奪う事にすっかり慣れてしまった。しかし、精神はすっかり疲れ果ててしまっている。
きっとこのあと、組織についての情報を尋問されるのだろう。それが合法的な物か非合法な物かは知らないが、それが終わったらきっと用済みだ。
もう、疲れなくて済む。
殺し屋は、どこか安堵を感じていた。
『RPG!!!!!!!』
急激なブレーキ。
「何があった⁉︎」
「攻撃です攻撃! い、1号車がやられました!」
「5班に分けたのに一発でバレるか⁉︎ 全車に通達! 今すぐに引き返せ! 急げ!」
RPG*2をモロに喰らった先頭のセダン以外の車両がドリフト気味に転進を計る。
しかし、初弾を喰らった時点で護衛側の不利は確定しているのだ。
道の右側、工事中の雑居ビルの下側───基礎部分が爆ぜた。ぐらり、と、鉄筋コンクリートの塊が道路側に傾く。
「───嘘だろ」
周囲一帯を轟音と土煙が包んだ。
この時、この車列にいた公安警察官は全部で12名。3台の防弾仕様セダンに4名ずつが分乗していた。
まず最初のRPG-29(TBG-29V サーモバリック弾)をモロにくらった1号車の捜査員4名が一瞬で殉職。残り8名。
中央の2号車に乗っていた指揮官はこの時点で転進を決意。すぐにUターンした。
しかし、直後の雑居ビルアタックによって3号車が車ごと殉職。
公安残存戦力、4名。
「反転! 反転だ! そこの脇道に入れ!」
指揮官の怒号に合わせて、運転手が車体を再び反転、裏道を目指してアクセルを踏み込む。
「待ってください! 脇道の方から何か出て来て───」
衝撃。
防弾仕様のセダンは、目指していた脇道から飛び出してきた8輪の装輪装甲車───BTR-80に思い切り弾き飛ばされた。
セダンは制御不能に陥ったまま、反対車線のガードレールに突っ込み停止した。
もちろん車内が無事なわけがない。
時計の針を思い浮かべて欲しい。
BTR-80が9時方向、公安警察のセダンが4時方向から斜めに衝突したわけである。
従って、この時点で助手席に座っていた指揮官は13.6tの車体に物理的に潰され死亡。
結果、襲われた公安警察の中で無事だったのは、殺し屋の脇に座っていた捜査員と運転手の合わせて3名のみ。
さらに言えば、運転手はエアバッグに顔を突っ込んだまま失神しているので実質2名のみ。
この2名はひたすらに運が良かった。
この班に割り振られた捜査員の中で近接格闘に長けているとして、2号車、しかも殺し屋の脇に配置され、結果、RPG-29も、雑居ビルアタックも、BTR-80の突進攻撃の直撃も受けずに済んだ。
5体満足で奇襲攻撃を凌いだ。
そして、もう一つ。
「あ゛ぁ……首いってえ……」
「お、降りろ……ああクソ! 撃たれてるぞ! 斎川、お前の側のドアから出ろ! 急げ!」
「これ絶対鞭打ちだぁ畜生!」
「……よし、生きてるな? 俺らから離れるなよ」
「なんだこの弾幕ゥ⁉︎」
「あの装甲車の機関銃だ! 下手に顔出すなよぉ! 14.5mmに顔ごと吹っ飛ばされるぞ! 車体の下から降りたやつの足狙え足!」
「アクション映画で見たこの姿勢が役に立つとは思いませんでしたよ役に立ってほしくなかった!!!!」
《警視庁より“ゆりかもめ”。杉並区───2丁目、都道318号線にて事件対応中の公安警察の車両に対し
《復唱する。標的高度───》
自動拳銃のみで応戦を続ける公安警察官2人と、その陰に隠れる殺し屋の耳に、何か航空機の物と思われるエンジン音がしてきた。
しかも、それはどんどん大きくなってくる。
「先輩、こ、これって……」
「……嘘だろ、待て待て待て待て!! 伏せろぉ!!!」
公安警察官2名が何かに気づいたように慌てて伏せた。殺し屋も、何かまずいものが近づいてきているのは分かったので同じように伏せる。
《作戦区域の南より侵入する。攻撃準備よし》
《ゆりかもめ、攻撃を許可》
《了解。FOX3》
『復讐者』の名を冠するアメリカ製30mmガトリング砲から毎分3,900発のレートで放たれた、対装甲用焼夷徹甲弾と焼夷榴弾は、BTR-80を容易に穴あきチーズに変えた。ついでに周囲に展開していた戦闘員も粉々にした。
爆発四散するBTR-80の上空を悠々と飛び去っていくのは、水色と青に塗装されたA-10C。
立川国際空港から飛び立った警視庁航空隊所属機(押収品)である。
「み、耳いてぇ……」
「やりやがったなあの火力バカ共ぉ! 人口密集地って知らねえのかバーカ!!!」
公安警察官と共に呆気に取られる戦闘員。
奇襲攻撃が完璧に決まり、勝ち戦も同然だと思っていたところに唐突なアヴェンジャーである。無理もない。
だが、それが命取り。
公安警察官が気づいた時には、BTR-80の爆発と30mm弾の猛襲に巻き込まれて逝った戦闘員の他に、いくつか死体が増えていた。というかたった今また1人倒れた。
「な、なんだ?」
公安警察官も困惑しているが、それ以上に困惑しているのは戦闘員である。どこから撃たれているのか探ろうとする内に、1人、また1人と倒れていく。
「先輩、あそこ! ヘリがいます!」
「……ああ、また空かぁ」
現場から数百mほどの距離、ビルより少し高いぐらいの高度にホバリングしているのは、正真正銘警視庁航空隊のヘリコプター、おおぞら1号である。
そのキャビンからM14EBR(押収品)を撃つのは、我らがめぐねえ。その脇で64式小銃狙撃型(備品)を撃つのは三好警部補である。
その脇には、完全武装で待機するSATの皆さん。
前回の銃撃戦に乗じためぐねえ襲撃を阻止した功労者であるSATのスナイパー*3もいる。
「……よし、今ので最後かな?」
「えーと……そうですね。SATの皆さん! 降下準備お願いします!」
「「「応!!」」」
ヘリが降下し、SAT隊員がキャビン横に立つ。
「降下降下降下!」
めぐねえの合図を皮切りに、SAT隊員が次々とラペリング降下を行っていく。
めぐねえと三好はヘリに残り周囲を警戒する。
「…………」
ヘリに残るめぐねえを、殺し屋はじっと見つめていた。
その後、地上を突っ走ってきた捜査一課の車両によって、公安警察の生存者と殺し屋は無事回収され、警視庁へと戻る事となった。