組織が計画した“暗殺任務”の概要はこうだ。
まずは下準備として、組織末端の構成員に警視庁管内各地で何かしらの事件を起こさせ、警視庁の戦力を分散させる。特に、ドンパチの温床となっている捜査一課は念入りにだ。
そして作戦開始、第一段階。
組織が所有するMi-24Pハインドで捜査一課のオフィス及び通信塔を破壊する。それはもう粉々に。
第二段階。
長年にわたって公安警察内部に潜ませていた複数のスパイを活用しての警視庁内部での破壊工作、内部文書の奪取、そして、本目的である『佐倉恵』及び元組織構成員であるコードネーム『ユリア』の殺害を行う。
もし、出動していた警察官などが警視庁に戻ってきた際はハインドによる阻止を行う。
下準備、第一段階、第二段階の途中まで何も問題なく進んでいたこの作戦であるが、組織にとって都合が悪かった点が2つあった。
1つは、ユリアの取り調べに捜査一課の刑事が同席しており、奇襲での殺害に失敗した事。
そしてもう一つ。
『北辰スカイタワー立て篭もり事件』*1
『立川国際空港同時多発テロ』*2
十数年前に発生した2つの大事件を、知恵とベレッタとクソ度胸だけで解決に導いたベテラン刑事、間暮 丈警部補が(クソくだらない理由で)警視庁内に残留していた事である。
「ああクソ、死ぬんじゃねえぞ佐倉……!」
水浸しの廊下を、めぐねえを引きずりながら進む間暮警部補。そのめぐねえの体は3発の7.62×25mmトカレフ弾を受け、血で真っ赤に染まっていた。
カヒュー……カヒュー……と弱々しい呼吸がされる度に、胸が上下する。
「両手を上げろ!」
突然、背後から怒声が飛んだ。
「あぁ⁉︎」
空いた右手でベレッタを抜き振り向けば、先程までタバコ休憩をしていた捜査一課の刑事数人がいた。全員が既にショットガンやアサルトライフル、『警視庁』と表示のされたプレートキャリアや防弾ヘルメットを着用して武装している。なぜか機動隊のポリカーボネート製ヘルメットを被っている刑事もいる。防弾ヘルメットの在庫がなかったらしい。
刑事の内の1人、間暮の同僚が緊迫していた表情を緩ませた。
「って、ああ、なんだ間暮かよ。驚かせやがって……」
「こっちのセリフだぞ、ちょうどいいところに来たなお前ら!ちょっと手ぇ貸せ!」
「あぁ? ……さ、佐倉⁉︎ 何があった⁉︎」
「公安のクソ野郎に撃たれたんだよ!」
「はあ⁉︎ どういう事だ⁉︎」
「俺が知るかボケェ!早くそっち持て!仮眠室に応急キットがあった筈だ!そこまで運ぶ!」
「あ、ああ、分かった!おい!藤倉は先頭に付け!原田は後方警戒だ!」
───
──────
「……だめです、無線もPフォンも通じません」
「多分だが、さっきの音は通信塔が落とされた音だ。無線はそりゃつながらんさ」
「個人のスマホは?」
「圏外だ。奴さん相当仕込んでやがったみてえだぞ」
仮眠室に避難した一行は、佐倉の応急手当の間に現状の把握に務めようとした。しかし、外部と連絡がつかない。本部庁舎内ですらも付かない。
分かっているのは、外に未だハインドがうろついている事。加えて、公安警察官が複数人……正確な人数も分からないが、公安警察で採用されていない筈のトカレフやAKS-74Uを装備して警視庁職員を狙っている事だけだ。
え? 何? 普通に押収品が盗まれたんじゃないのかって?
ここからが本題ですが、警視庁は、このタイプのハンドガンとアサルトライフルを押収していない()
「藤倉、佐倉の様子はどうだ」
数日前に救急講習を受けたばかりの若い刑事が、血に染まった手と青くなった顔で振り向いた。めぐねえが寝かされた仮眠室のパイプベッドは、既に白かった面影を残さないほどに血に濡れている。
「ど、どうにか止血はできました……できましたけど、血が出過ぎてます。すぐにでも病院に連れて行かないと」
「んな事ぁ分かってる。でもなぁ……」
「あの戦闘ヘリだ、あいつをどうにかしない事にはどうしようもないぞ」
「なあ間暮、お前北辰タワー事件も立川空港のテロも解決したろ。なんか思いつかねえか」
同僚の刑事が間暮にそう問うと、先ほどから目を瞑っていた間暮がゆっくり口を開いた。
「……ここは一つ博打と行こうじゃねえか」
「博打だぁ?」
「おい、藤倉」
「な、なんですか」
「おめえよ、ガキの頃、ラジコン飛行機飛ばした事あっか?」