オラっクリスマスプレゼントだ受け取れっ!
《前回の誤字報告者兄貴姉貴》(敬称略)
水上 風月、でぃせんと、オジイチ、某氏、りゅうだろう
ありがとナス!
神奈川県横須賀市
自衛艦隊司令部 講堂外
未だ冷え込む初春の夜。
早歩きで基地内を歩くユリアの横に、後ろから小走りでやって来た三好が追いついた。
「ん、やる気になった?」
少し揶揄うような口調のユリアが、三好の方に振り返ってそう言った。
「おかげさまで。で、何か手はあるの? 私もなるべく最善は尽くすつもりだけど、方法とかは何も思いつかないよ」
「いくつかプランを考えてはいるけど、ナガトの詳しい動向が分からない事には最終判断ができない。まずはそこから手をつける」
「となると…東京マーチスか。横浜の三管本部だとここから……緊走したら30分ぐらいかな」
「勝手にサイレン鳴らして大丈夫?」
「…………………………たぶん」
「(マジかコイツという目)」
スマホでマップを見ながら駐車場に向けて基地内を歩く。
ふと、街灯の下に誰かが座り込んでいるのが見えた。
最初は海自の人がタバコでも吸っているのかと思ったが、どうやらそうでもない。
「……女の子?」
ユリアが怪訝そうな声をあげる。その声は夜中という事もあり存外によく響いた。女の子が顔を上げてこちらを見る。
なんともちぐはぐな格好だ。
明らかにオーバーサイズのTシャツ、裾を捲り上げた海自の迷彩服の下衣、そして同じく明らかにサイズのでかいベンチコートを上から羽織っている。
「……こんばんわ。警察の方ですか?」
女の子がベンチに座ったまま声をかけて来た。スッと警戒モードに入ったユリアを手で制し、三好が一歩前に出る。
「ええ、警視庁捜査一課から応援で。……もし間違っていたら申し訳ないのですが、『ながと』乗員の方ですか?」
「えっ」
「おや、お気づきでしたか」
「まあ、話にはお聞きしていましたので。実際目にしても信じられませんが」
「私もですよ、未だに自分がこうなってしまったことが信じられません。悪い夢を見ているようだ、はは……」
諦めたようにがっくりと項垂れる少女。
「他の乗員は、精神的ショックや検査による疲れもあってみんな寝てしまってるんですがね、自分はどうも、寝てはいけないような気がして」
「それは、その、お、オキノドク…?」
「こら。すいませんね、そうあまり気を病まないで下さい」
「お気遣いありがとうございます……」
そこまで言った少女は、何か思いついたように考え始めた。
「……捜査一課、と仰いましたよね、お二方。もしかして……強行犯捜査四係?」
「そうですが……あれ、どこかでお会いしたことありましたっけ?」
「ああいえ、初対面です。噂に聞いていただけで。あの『桜田門のターミネーター』」
「あー、オフィサーか」
「メグミ有名人だね。今多分ナガトにいるけど」
「……『ながと』に? なぜです?」
「まあ諸事情というか色々あってですね。で、合同捜査本部の動きが遅いもんですから、こっちでなんとかできないかと飛び出して来た次第で。これから東京マーチスに」
「ああ、そういう……お邪魔してすいませんでした」
「大丈夫、体気をつけてね」
「ユリア、敬語」
「…気をつけてください」
少女がお辞儀をして、2人はその場を後にする。
「……あの!」
少女が、2人の背中に言葉を投げかけた。
立ち止まり振り返る。
何やら、逡巡している様子だった少女は、意を決したように再び口を開いた。
「……私も、連れて行ってはいただけないでしょうか。『ながと』の事なら、私が一番詳しい自負があります」
「……もしかして、幹部の方…?」
「はい───」
「護衛艦ながと艦長、楠木
──────
───
警視庁内で『ゆりかもめ』と呼ばれている機体がある。
機体名称はA-10C サンダーボルトⅡ。アメリカのフェアチャイルド・リパブリック社で開発された対地攻撃機である。
この機体の由来は数年前。
茨城県警と共同で違法武器販売グループの拠点にガサ入れを行った際、廃滑走路の格納庫におさまっていたのを押収したものだ。捜査の結果、元々はメリーランド州空軍第104戦闘飛行隊の所属機である事が判明。
盗難されたのか横流しされたのか、はたまた中東で任務についていた機体が鹵獲されたのか───細かいことはさておき、押収後そう時間を置かずに警視庁とアメリカ軍の二者で機体の返還交渉が始まった。
だが、交渉開始時点で既にアメリカ軍全体で『A-10の配備規模縮小』が進んでいた為返還交渉は凍結。
米国内や日本国内の博物館への引き渡しも色々ありうまくいかず、だがこのまま解体というのも勿体無いので、せっかくだからと警視庁航空隊での運用を始めたのである。
しかし、当たり前の話だが警視庁内にA-10の操縦経験のあるパイロットがいるはずもない。
「じゃあA-10の元パイロットを嘱託職員として採用しようぜ」
そんなアホみたいな誘いに乗るバカがいるわけないだろう、と周囲は当初そう思っていたのだが───結果は、読者諸氏もご存知の通り。
いたのである。バカが。
東京都立川市
立川国際空港内 警視庁立川飛行センター
ブリーフィングルーム
蛍光灯で照らされたブリーフィングルーム内で、飛行服姿の白人男性が座っていた。
彼の名はマーク・L・エスター。
元米空軍大佐、生粋のA-10乗りで大の親日家。
退役後日本に移住して帰化、飲食店を開いていたが、警視庁からの熱い勧誘を受けて店を知り合いに託し、再び飛行服に袖を通した人物である。
ちなみにその飲食店、新橋にある立ち飲み屋『バル・ベルデ』というらしい。
まあ余談はさておき。
「おはようマーク。すまないね、夜遅くに」
バインダーを脇に挟んだ日本人男性がブリーフィングルームに入ってきた。立川飛行センターの管理官、要は責任者である。
「前置きはいい。いつもはコックピットでブリーフィングをしてるはずだが、どうして今日に限ってここを使うんだ?」
「ちょっと特殊な事案でね、僕としては出撃命令を蹴っ飛ばしたいぐらいなんだ。自衛隊の『ながと』って船分かるかい?」
「ナガトって言やあ、アレだろ? レールガン積んでるデカいイージス艦」
「そうだ。アレが何者かに強奪された」
「……はぁ?」
思わず素っ頓狂な声が漏れる。
「しかも随伴していた護衛艦むらさめを攻撃、さらに視察中だった防衛大臣と警視庁のSPが艦内に取り残されてる可能性もある」
「そりゃあ…おおごとだな」
「で、そんな艦が捜索部隊を振り切って東京湾内に向かってきてる」
「なんでェ???」
「詳しい経緯までは分からない。で、ここからが本題なんだけどね、ついさっき本庁から『ゆりかもめ』での『ながと』に対する偵察飛行が命じられた」
「……サンダーボルトで、暴走中のイージス艦に近づけと?」
「って事だね」
「おいおいおいおい、勘弁してくれボス。俺の記憶が間違ってなけりゃ警視庁はロス市警とかと同じく『警察』だったと思うんだが? 何をどうしたら単独でイージス艦を止めるって話になるんだよ。軍は何してるんだ」
「場所が場所だから自衛隊の動きが鈍いんだ。あとあくまで『偵察』だから」
「対空野郎のイージス艦に近づくってんなら攻撃も偵察も変わんねえよ……んで? 具体的に何を見てこいって?」
「『ながと』の状態、外見上の異変等々、まあ要は情報ならなんでもいいって事だ」
「なりふり構ってられないってか……でもどうするんだ? 超音速機ならまだしも、サンダーボルトじゃマッハの半分も出ねえぞ。近づくまでに5回は死ねるぜ」
「……やるのかい?」
「俺らしかいねえってんならやらないわけにもいかねえだろ。あと、確か『ながと』は『現代に蘇ったビッグ7』とか言われてたよな?」
「あ、ああ。就役したあたりは確かにそう言われてたね」
「ビッグ7、要は戦艦だろ? ……『戦艦』なんて獲物、逃したらA-10乗りの名折れだよなぁ?」
「ははは、それでこそマークだよ。さて、実は策は一応考えてある。ただ、これが通用するのはおそらく『接近するまで』だ。そのあとは君の判断に委ねる。これでもやるかい?」
「もちろん!」
「OK、それじゃあ───仕事を始めよう」
時は22:37。
立川に、Low-Flying Warthogの唸り声が響き始めた。
──────
───
横浜市内
Prrr,Prrr
「ごめんユリア、電話出て」
「わかった。……やっぱりやだ」
運転中の三好から渡されたスマホの画面を見たユリアが、逡巡もなく突き返した。
「いやなんでさ。誰から?」
「ゲンダ」
「あー……」
諦めてスピーカーモードで電話に出る。
「はい、お疲れ様です、三好です」
《おう三好、お前今どこにいる? 合同捜査本部の方から「連絡役の刑事が急に叫んで出て行った」って電話が来たんだが》
「えーーーーーっとですねぇ……」
《……俺の耳がおかしくなけりゃ、エンジン音が聞こえてくるんだが? なあおい、連絡役はどうしたお前コラ》
「あうあう」
《あうあうじゃねえよバカ。……まあいい、とにかく連絡だけしとくぞ。上の命令で、立川のゆりかもめが『ながと』に対して偵察飛行を行うらしい》
「え、ゆりかもめが!?」
「ユリアさん、『ゆりかもめ』って? 流れから察するに航空機なのはわかるんですけど」
「A-10C」
「A-10……A-10? A-10ってあの、アメリカの対地攻撃機の?」
「うん」
「えぇ!? い、言っちゃ悪いですけど自殺行為ですよ!? 絶対やめた方がいいですって!」
「私に言われても困る」
《……三好、なーんかユリアの他に聞き覚えのない声が混じって聞こえるんだが……お前マジで今どこにいるんだ?》
「どこにいる、というか、ちょうど今着いたというか…あっ一旦切りますね!」
《は? おい待てコラてめ━━》
横浜市中区
横浜第二合同庁舎
東京湾海上交通センター『東京マーチス』
受付の職員に事情を説明し、エレベーターを使って東京マーチスに乗り込む。既に受付から連絡が行っていたのか、責任者らしき職員が3人を出迎えた。
「ここの責任者の大井です。えーと、警察、それも警視庁の方がウチに何のご用ですか? 今ちょっと立て込んでるので、お話なら私がうかがいますが」
「あー、多分その『立て込んでる用事』についてです。自衛隊の護衛艦『ながと』についての詳しい情報が欲しいんですよ」
「あっ、ああ、そういう事でしたか。どうぞこちらへ。伊藤!さっきの映像出せるか?」
「できます、30秒ください」
職員がパソコンを操作し、航路を監視するカメラの物だという映像を映す。そこには、クラシカルな船艇を引っ張りながら闇夜を進む巨大艦の姿があった。
「間違いありません、ながとです」
楠木がその艦のいくつかの点を指さしながらそう発言した。何か見分ける特徴のようなものがあるのだろう。
「じゃあ、この後ろのが千葉県警の?」
「ですね。AISの反応からも、後ろの引っ張られてる艦が千葉県警水上警察隊の『なのはな』で間違いありません」
「……AIS?」
「Automatic Identification System. 『船舶自動識別装置』っていう装置ですよ。詳しい仕組みとか話すと長くなるんで端折りますけど、まあ名前のまんまで、その船舶の動静を識別してレーダーとか電子海図上に表示してくれるんです」
「へー、そんな装置があるんですか」
「……あの、すいません」
三好が知らない世界に感心していると、モニターをのぞき込んでいた楠木が大井の方向に振り返った。
「『ながと』は浦賀水道航路を北上してきたんですよね。第二海堡にもカメラはありませんか? 右舷側を映した映像を確認したいんですが」
「右舷側の。少し時間をいただければ可能ですが……伊藤」
「少しお待ちを」
楠木は何やら気になることがあるのか、縮んだ背をうんと伸ばしてモニターに食い入るように視線を注いでいる。
……大井がこっそり三好達に耳打ちしてきた。
「あの……聞いたらダメなのかなって聞いてなかったんですけど、あのお嬢さん絶対に警察関係者じゃないですよね。どういうわけで連れてらっしゃるんです? 普通の女の子にしては知識がおかしいですし」
大井の疑問はもっともなので、三好もユリアも苦笑でごまかすしかなかった。ここで馬鹿正直に『あの子『ながと』の艦長がTSした姿なんスよ』なんて言ったら絶対に説明が面倒になるからである。
「やっぱり……やっぱりだ!」
楠木が突然大きな声を出した。伊藤職員がぎょっとして体をのけぞらせている。
「なに、どうしたのクスノキ」
「ここ見てください。艦橋の真上」
楠木が、机の上に置いてあったボールペンを手に取ってモニターのある場所を指した。伊藤職員が気を利かせて画面を拡大させる。
「……どれが何って?」
「左舷側の映像だと陰になってわかりませんでしたが、艦橋右舷側からその上のレーダーマストにかけて激しい損傷が見られます。見るに、後ろやや下方から攻撃を受けたんでしょう」
「あー……言われてみれば確かにボロボロだ」
「……『
「……ああっ!『なのはな』か!」
大井が何かに気づいたようである。
「今この状況で、『ながと』に肉薄しているのは『なのはな』しかいません」
「あと『なのはな』って主砲を換装してるんですよ。海保の巡視艇とかでも採用されてる20㎜バルカンに。ほら」
大井の気づきに、伊藤職員もスマホで検索画面を表示させて続く。画像検索が表示されているその画面には、複数本の銃身が束ねられたような、特徴的な外見の機関砲が確かに映っていた。それを見た楠木が静かにうなずく。
「20㎜バルカンなら威力も十分でしょう。……もし、全てがうまく行ってたら、”アレ”も故障してるかも」
「アレ?」
「ええ……SPY-1レーダー、ながとの『目』が、少し潰れているかもしれません」
この時時刻は23時。
眠ることのない街に、巨人が迫りつつあった。
この作品のリメイク作りたい…作りたくない?(計画進行中)