お楽しみください!
無印の始まる前。
わたし、『高町 なのは』はひとりぼっちでした。
お父さんがお仕事で大けがして、お母さんはお仕事でいそがしくなって、お兄ちゃんは道場にいつもいて、お姉ちゃんはいつもお兄ちゃんといっしょで。
早くお父さんに良くなってほしくて、お母さんと『なのはが良い子にしていたら、お父さんは早く良くなってくれる』て言ってたから、わたしはさみしくても『良い子』じゃなきゃいけないの。
みんなにめいわくをかけないように、がまんしなくちゃいけないの。
だから、いつもの公園のベンチで、今日もお母さんのお仕事が終わるのをまっている。
「ZZZZZZZ」
はずだったのに、なんかぜんしん黒ずくめの人がベンチに転がって寝ているの。
え?
あれ?
だれ?
この全身黒ずくめの人。
とりあえず、『良い子』でいるためにベンチの横に立つ。
十分後、立つのにつかれたからしゃがむ。
他の子たちの、楽しそうな声が聞こえる。
十五分後、しゃがむのにつかれたから立つ。
黒い人が寝返りをうつ。
二十分g「お前いい加減にしろよ?!」ふえ?!
黒い人がいきおいいよくおき上がり、すごいいきおいでどなってきた。
「さっきからずっと人の頭のすぐ近くで立ったりしゃがんだり!気になって寝れねえよ!何!?お前どうしたいの!?友達待ってんのか!?おい!?」
「………ふ、ふえ」
「ああ?笛?リコーダーの練習でm「ふええええぇぇぇぇぇぇええぇぇぇえぇぇぇぇっっっ!!!!!!」うおぉっ!?な、泣くなって!おい!俺が泣かした感じだから!あれ?俺が泣かしたのか?」
どなられて、こわくて、わたしは泣いてしまったの。
二十五分後。
「なるほどねえ。親父さんが仕事で大怪我して、なんだかんだで家に居場所はないし、『良い子』じゃなくちゃいけないから何時もここにいたと」
「………うん」
泣き止んだわたしから、黒い人はゆっくりなんでベンチのとこにいたのかを聞いてくれた。
そして、
「まあ、そんなことは、どうでもいい」
「え?」
立ち上がった黒い人は、わたしの首をムンズッとつかむと、
「おーい、そこのガキ共。こいつも入れてやれ」
ポイッ
「ふえ?!」
ズベシャァッ
「「「「えぇぇっ?!」」」」
わたしを砂場で遊んでいた子たちのとこに放りなげたの。
「………いや、まあ、ぼくたちはだいじょうぶ、だけど」
「………その、その子がだいじょうぶ?」
「大丈夫だ。人間、案外頑丈にできているから」
「そういう問題じゃないの!」
痛いの!
すごく痛いの!
はなをすりむいたの!
ひざもなの!
「じゃ、仲良くやれよー。俺は寝直すから」
わたしのうったえをむしして、またベンチに寝ころがる黒い人。
そのすがたにちょっとムカッと来たけれど、どうせ言ってもしょうがないだろうし、また投げられるかもしれないから、その後はみんなで遊んでいたの。
そして、お母さんのお仕事もひとだんらくする時間になり、帰ろうとした直前、一つ気になった。
ベンチにかけより、黒い人をゆさぶっておこし、しつもんする。
「わたしの名前は『高町 なのは』です。あなたのお名前は、何ですか?」
すると、その人は少し考えこんで、
「そうだなあ、じゃあ、『プーさん』で」
「『プーさん』?」
あだ名なのかな?
なんか、ちょっとかわいいかも。
「そう。
ちがった。
かわいらしさなんて、かいむだったの。
でも、その日は、いつもより楽しい一日だった。
~Side黒い人~
夜になり、外の街灯の明かりが差し込む病院の一室。
そこで寝ているのは、三児の父とは思えない若さの男。
「まったく、お前がこんなところにいるせいで、俺の安眠が妨害されたじゃないか」
この世界に神の手で転生させられ、真昼間の公園だったのには驚いた。
一瞬で全身が焼かれて、一回死んだからな。
『十二の試練』で生き返ったからいいが、そうじゃなかったら転生して30秒でまた神の前行きだったぞ。
その後は、とりあえずやることもないし活動拠点もないから、公園のベンチで寝ていたんだが、あの子供のせいでそれも妨害された。
「今後もそうならんとは言い切れんからな」
手は打たせてもらう。
「分体一体解放」
蛇の分体を出し、なのはの父親に近づける。
そして、その分体から『俺』という指向性を外し、方向性のない命の塊へと変える。
ふむ。
ぶっつけ本番だが、うまくいったようだ。
「あとはこれをこいつに捻り込んで、と」
本来は俺の死後に残った残滓とかが一番なんだろうが、まあ、それはいいだろう。
さて、作業は済んだ。
ねぐら(公園)に帰るとしよう。
あ、そうだ。
適当に、何か新しい因子と命を手に入れなくては。
ついでに町のほうに行って、何人か喰っておこう。
分体を一体消費したせいで、血が足りなくなりそうだからな。
まったく、燃費の悪い身体だ。
翌日、
「プーさん!」
………また来たよ。
「どうした?」
駆け寄ってきたその顔は、喜色満面といった感じ。
「お父さんがね!元気になったの!」
「お、そりゃあ良かったな」
主に俺が失敗していなくて。
「それでね、お父さんまだたいいんできなくて、お母さんお店がいそがしいから、すみこみではたらけるアルバイトさんがほしいんだって」
「ほう。何の店だ?」
正直に言って、受ける気はない。
後数日はこの公園を拠点として血液の摂取に従事した後、この街から出るつもりだからだ。
原作が始まれば、面倒臭いゴタゴタに巻き込まれる。
だから、適当な理由をつけて断るつもりだ。
「ケーキのおいしい、きっさ店さんなの!」
「案内しろ。面接に行く」
「うん!」
しょうがないじゃないか。
スイーツ好きなんだから。
そして、なのはの家がやっている店に向かう途中。
「ねえ、プーさんの本当の名前ってなんなの?」
「んー?プーさんはプーさんだよ」
「むー!」
むくれた顔をするなのは。
ククッ。
可愛いねえ。
「分かった分かった。じゃあ、面接に合格して、住所不定無職(プータロー)じゃなくなったら、教えてやるよ」
「本当!?やくそくなの!」
「はいはい」
なのはが転ばないように、その手を握りながら歩く。
さて、名前なんてどうしたものやら。
前世の名前は『柳田 正晴』だが、今世で使う気にはなれないし。
………ああ、そうだ。
666の混沌という意味で、『水無月 六禄』ってのはどうだろうか。
章が終わるごとに、こういった番外編を差し込んでいきます。