無印が始まった。
「こちら、ご注文のチーズケーキとコーヒーです」
「え?コーヒーしか頼んでませんけど?」
「君は特別。ケーキは俺からだから、他の人には秘密にしててくれる?」
「は、はい!」
人差し指を口に当て、秘密の約束をする。
顔を赤らめる女の子が、とても可愛らしい。
たぶん、高校生かな
眼鏡にお下げの、真面目そうな娘だ。
「六禄君、ちょっと」
「はーい!店長!じゃ、呼ばれちゃったから行くね?」
「あ、はい。…えっと、お仕事頑張ってくださいね」
「ありがとっ」
女の子に手を振り、店長の下に行く。
「なんすか?」
「あのね」
すごく真面目な顔をした店長。
俺、何かミスしたのか?
「ここはホストクラブじゃないから。喫茶店だから。さっきと同じこと、ここに勤めて何人の女の子にやってきた?」
「勤めて四年で、年間50人には言ってるから、少なからず120人程度には」
「後で道場に来なさい」
「なんですと?!」
なのはの家がやっている喫茶店、『翠屋』で働いて四年目。
常連を増やすため、日々頑張っています。
で、道場。
「恭也、思いっきりやりなさい」
「ああ、分かった」
「ナンパじゃないんですよ。常連客を作ろうとしただけなんです」
「何時まで言っているんだ」
なのはの兄貴と、一騎打ちで試合させられるみたいなんだが。
こいつバカ強いのに。
俺はただの喧嘩が強い吸血鬼だぞ?
ルールができたら一気に弱体化するんだぞ。
まあ、やるしかないならやるが。
「ああ、それとだ恭也」
「何だ?父さん」
「この間だが、六禄君が忍さんをナンパしていたぞ」
「店長ぉぉぉぉっっっ?!」
「■■■■■■■■ォォォォッッッ!!!!」
恭也がバーサーカーになった?!
婚約者の忍ちゃんをナンパされたからって、『狂化』するこたあねえだろうっ?!
「始め!」
そして行われる無情な宣告。
号令とともに突っ込んでくる恭也。
それを見た俺は、
「かかったぁっ!!」
ズボンッ
「うおぉぉっっ?!」
事前に俺がの仕掛けた罠(道場の床の釘を一部抜いて、その板の端を踏んだら床板が外れて脚がはまる)に嵌ってくれた恭也を嘲笑った。
リア充ざまぁっ!
あんな美人の超優良婚約者なんぞ持ちやがって!
こちとら身体のせいで恋愛厳禁状態なんだぞ!
「というわけで、はい、終了」
「ちょっと待て!?木刀を大上段に振りかぶるな!それをしたら!!」
ゴドンッ!
「安心しろ。峰打ちだ」
「いや、木刀だから峰とか関係ないからね?」
気にしない気にしない。
気絶した恭也をその場に捨てて、道場を立ち去る店長と俺。
さて、おやつだおやつ。
女将さんの作るスイーツはそれは美味い。
その夜。
「(聞こえますか!?僕の声が聞こえているなら、どうか力を貸してください!この世界に危険が迫っているんです!)」
「美由希~、チュウしようぜ、チュウ」
「何言ってんの!?」
深夜と言える時間。
俺と美由希はリビングで駄弁っていた。
「したくないの?」
「うん」
「恭也とは?」
「何でここで恭ちゃんの話になるの?!」
「黙らっしゃい。いつまでも未練タラタラですって顔してるくせに」
「嘘?!」
「本当」
お前分かりやすいもん。
分かってないのは、当人の恭也だけだからな?
「と、ん?」
「どうしたの?」
「なのはがコッソリ家を抜け出したらしい」
「えぇっ?!」
常に外に配置している分体からの情報だが、なのはもなかなかロックなことをするな。
「ちょっ?!早く追いかけないと!」
「いいって。ガキの内に深夜に家を出るくらいのことは経験しておいた方が、後々いい思い出になるんだから」
「そういう問題じゃないでしょ?!」
むう、意見が合わないな。
まあ、これは暮らしてきた環境のせいだし、仕方がないな。
「(お願いします!お礼なら何でもしますから!力を貸してください!!)」
………なんだと?
「じゃあ、とりあえずお前は店長たちを起こせ。俺がなのはを追いかける」
「え?」
「あいつには、ここに連れて来てもらった恩もあるしな」
「………むぅくん」
感極まった表情の美由希。
………正直罪悪感が半端じゃない。
まあ、そんなことは、どうでもいい。
さっさとなのはを追い越そう。
俺が動物病院に着くと、既になのはがドンパチをしていた。
クソッ。
これで
いや、待てよ。
確か『宝石の種』とやらを封印するには、なのはの力が必要なんだったけか?
ふむ。
「とりあえず、援護だけはしてやるか」
ここに来る途中で拾った鉄パイプに分体を纏わせてっと。
「なーのはっ」
「っ?!六禄おにいちゃん?!」
後ろからなのはに声をかけ、驚かせて見る。
いい反応が返ってきたから、結構満足。
「俺がアレをボコすから、デカイのぶちかます用意でもしてろ」
「ちょっと?!生身の人間がそんなもので!」
フェレットが何か言っているが、気にしない。
真っ黒で毛むくじゃらの丸い怪物に狙いを定め、一気に駆け寄って叩きのめす。
もはや完全に抵抗できなくなるところまで追い詰め、
「分体100体解放。『創生の土・弱』」
本来なら500体の獣の因子で行う『創生の土』だが、アレは対真祖用。
こんな小物にその必要はない。
「生きたまま、溶かすように咀嚼されろ」
「ガアアアアアァァァァァァッッッッッ!!!!」
断末魔の雄叫びを上げながら、みるみる咀嚼されていく怪物。
そして、
「ご馳走様でした」
手を合わせ、礼をする。
その跡には、血痕一つ残っていなかった。
「ほれ、なのは。帰るぞ」
「あ、うん!」
色々訊きたそうだったが、先に声をかけて黙らせておく。
暗いくらい夜の中。
帰り道を手を繋いで歩く。
「帰ったら、店長と女将さんに叱ってもらうからな」
「うっ。………それは止めてほしいの」
「ダメ。勝手に抜け出したお前が悪い」
「うぅぅ………」
困ったように俯いて歩くなのは。
まったく、お前が悪いというのに。
だが、
「まあ、俺も一緒に頭下げるくらいはしてやるよ」
「本当なの?」
「本当」
「…ありがとうなのっ」
「っ。どういたしまして」
俺に寄りかかりだしたなのはに少し驚くが、まあ、いいだろう。
なのはもすぐに大きくなって、大人になる。
それまでは、こんな日常を楽しもうじゃないか。
「「おーてーてー♪つーないでー♪のーんびーりとゆーけーばー♪」」
二人で歩く帰り道。
夜だから、小さな声でコッソリと歌いながら。
ああ、願わくば、こんな毎日が続けばいいのに。
「『ジュエルシード』は?!」
「「あ」」
商売方法がほぼホストの主人公。
翌日の下水管には、やたらキラキラした物が流れたそうです。