そこは天女の住まう楽園でもあり、悪魔の住まう地獄でもあるところ。
って、友達が言ってました。
なのはに連れられて着いた先は、結構洒落た喫茶店だった。
「お母さ~ん、ただいまーっ」
「おかえり、なのは」
帰ってきたなのはを、出迎える母親。
……………母親?
若っ?!
むしろ姉妹!
あ、あれが親父さんと姉貴?
親父も若っ!!
何なんだこの家族は?!
「あ、この子達は、私の生徒なの」
「そう。お茶でも飲んで、ゆっくりしていってね?」
「……えと、あっ、『スバル・ナカジマ』です!」
「『ティアナ・ランスター』です」
「『水無月 六禄』。ところで今晩、どちらか暇?」
「私は『高町 士郎』というんだが、早速だが道場に来てもらおうか」
おっとぉ。
旦那が動いてしまったか。
これはヤバイな。
「ヤバイのは夫の前で人妻をナンパしたあんたでしょ?」
「は?美人がいたら声をかけるのが礼儀だろうが?」
「はぁ?」
「あ?」
「ちょっ!?ティアも六禄さんも待った待った!ほら!皆でケーキ食べよ!ね!」
険悪になった俺とティアナの間にスバルが割ってはいる。
ふむ。
確かにティアナよりはケーキを優先せねばな。
「すいませーん。俺はショートケーキとコーヒーで」
「その前に君は私と道場だ」
俺の至福の時は、まだ遠いらしい。
「フッ!」
「チィッ!」
ガキンッ!
と、木刀と鉄パイプがぶつかり合う。
不良の喧嘩ならまだ分かる光景だが、これは立派な道場で行われる試合。
いや、実際のところ、これは試合ではなく、
「よくも桃子と美由希に手を出したね!」
「美人だったからつい、ねぇ!!」
「そうかい!」
ゴキィッ!
「グホッ?!」
制裁だ。
~Sideスバル~
「ティ、ティア!私、六禄さんがあんなに押されているとこなんて、初めて見たよ!?」
「フフッ。落ち着きなさい、スバル。私も初めてだから」
訓練や試合の際、絡め手を使う時も、正々堂々戦う時も、何時だって余裕そうな態度を崩さないで戦っていた六禄さんが押されている。
今だって、なのはさんのお父さんに弾き飛ばされて壁に激突していた。
そしてティアがそれを見て六禄さん曰わく、『麻婆神父みたいな笑い方』をしてるのが怖い。
本当に六禄さんのこと嫌いなんだね。
「でも、もしかしたらなのはさんのお父さんって、なのはさんより強いのかな?」
「そんなわけないでしょう。『エース・オブ・エース』と一般人よ?」
「………ティアナ。私、この間帰省した時に、お父さんと力試しして負けてるんだよ……………」
「「………………………」」
………私、冗談のつもりだったんだけどな。
~Side主人公~
吹き飛ばれて、壁に叩きつけられる。
立ち上がって、首を鳴らす。
ふむ。
特にどこにもダメージはないな。
強いて言うなら、首がムチウチになりかけたくらいか。
「………そこまでやられて、ダメージなしとはね」
「いやいや。心にはダメージをおっているさ。ここまで苦戦させられたのは、兄貴以来だ」
実際、兄貴以外にここまで押されるとは思わなかった。
『十二の試練』と『獣王の巣』がなかったら、今頃伸びてるだろうしな。
だが、まあ、
「そんなことは、どうでもいい」
ちょっと覚悟決めますか。
~Side士郎~
「そんなことは、どうでもいい」
その一言の後、彼の纏う雰囲気が変わった。
さっきまでが遊びだったのに、今では意識が切り替わっている。
以前なのはから聞いたところ、彼はまだ19歳らしい。
それなのに、どうしたらあんなに見事に意識を切り替えられるのか。
「これでも兄貴以外に喧嘩で負けたことがないのが自慢でね。いい加減、勝ちにいかせてもらうよ」
その言葉の後、低い姿勢で一気に間合いを詰められる。
急制動から一回転して落とされる踵を、バックステップで避ける。
が、
「むっ?!」
ミシィッ
と、音がして、私の膝に彼の踵が叩きつけられている。
完全に避けていたはずなのに。
………ああ、そうか。
持っていた鉄パイプで身体を押し出し、距離を水増ししたのか。
なるほど。
「オラァッ!」
コンパクトに振りかぶった鉄パイプを、私の顔面に叩きつけようとする。
確かに、今の私は膝が使えないから機動力は失われている。
でもね、
「まだ私には適わない」
ゴッ
と、彼の顔面に、私の木刀が突き刺さる。
まだ使えるもう片方の足だけで、無理やり『神速』を行い足りない間合いを詰めたため、膝にだいぶ無理がかかったな。
「だが、これで私n「残念。俺の勝ちだ」?!」
パンッ
という音の後、私の意識は暗闇に包まれ消えた。
~Side主人公~
「もきゅもきゅもきゅもきゅ」
「ねえ、ティア。一心不乱にケーキを食べる六禄さんが、小動物みたいで可愛いんだけど」
「は?」
「………本気で嫌いなんだね」
ケーキうまぁ。
「でも凄いよね。あのお父さんの一撃を、おでこで受けるなんてことをした上に、フランシスで顎を撃ち抜いたんだから」
「あの時格好良かったなー」
「は?」
「………ああ、うん」
ケーキうまぁ。
「もくもくもくもく。あ、おかわりください」
「はい、どうぞ~」
「ありがとうございます。もきゅもきゅもきゅもきゅ」
「………六禄君がお母さんに敬語を使ってる」
「なのはさん!なのはさんのお母さんのケーキ、すっごく美味しいです!!だからです!!」
「うん。何時の間に食べてたのか知らないけど、ありがとうスバル」
「ちょっと待てお前ら。俺だって目上の人間には敬語くらい使うぞ」
「「「え?」」」
………………ちょっとケーキがしょっぱくなった。
~Side恭也~
忍の家から帰り、いつものように道場に行く。
店のほうが騒がしいが、なのはが帰ってきたのだろうか。
だったらすぐにも行きたいが、少し汗をかいてからでもいいだろう。
「ん?」
なんだ?
道場の床にへこみが?
今朝俺が使ったときにはなかったものだが。
しかしなんだ、このへこみは。
まるで、『強い力で吹き飛ばされるのを、足指の力だけで耐え切ったかのよう』な………。
いや、考えすぎだな。
さあ、一汗かいて、なのはに会いに行こう。
実は自力の力が強い主人公。
足の指の力で、成人男性一人が吹き飛ぶ一撃を堪えるくらいには。