「はい、まずは風呂に入る前に身体を洗うぞー」
「「はーい」」
湯船に浸かる前に身体を洗うのは、銭湯での鉄則だ。
「ほれエリオ。頭洗ってやるから来いや」
「あ、お願いします」
「それが終わったらキャロだから、先に身体洗っとけよー」
「分かりましたー」
ガシガシとエリオの頭を洗い、ついでに指圧マッサージもしておく。
床屋でやるみたいなあれだ。
「はい、ザバーッと」
「うー」
「はい、次ー」
「はーい」
キャロの頭をワシャワシャと洗う。
女の子の髪は、優しく洗うのが鉄則。
「気持ちいいですー」
「そっかー」
あ、そうだ。
「エリオー、ついでに俺の背中流してくんないか?」
「は、はい!頑張ります!」
気負いすぎだ。
「力加減どうですか?」
「ちょうどいいぞー。よし、お湯かけるぞー」
「はーい」
ザバーッ
「ほい、じゃあ今度はキャロがエリオの背中流してやりな」
「はい!」
~Sideはやて~
男湯の方は他に人がいないからか、向こうの声が良く聞こえてくる。
しかし、
「………お父さんと子供たちってのが、しっくりきすぎるなぁ」
彼は何なんやろか?
お父さん?
お父さんなんか?
子供育てて5,6年経ってても違和感ないで?
「エリオォォォ………。キャロォォォ………」
フェイトちゃんはあんなんやし、実際どっちが親か分からんで。
~Side主人公~
「うえ~い」
エリオとキャロを子供用の風呂にぶち込み、一人湯船にゆっくりと浸かる。
あれだ。
広い湯船に一人って、解放感が違う。
ガラッ
お、誰か入ってきたな。
「よっしゃ、ルーテシア。父ちゃんが頭洗ってやる」
「わーい!」
入ってきたのは、金髪の男と紫の髪の少女。
父ちゃんと言ったってことは、親子連れか?
………しかし、どこかで聞いた声の気が。
「よーし、OKだ。ルーテシア、あっちに子供用の風呂があるみたいだから、ちょっと行って来い」
「えー!お父さんと一緒がいいー!」
「ククッ、いいからいいから。他にも子供いるみたいだから、一緒に入って遊んで来い」
「うぅー。…はーい」
仲良し親子か。
娘の方、父親が大好きでしょうがんないのか。
「あ、ちょっとここ失礼するよ」
「あ、どうぞどうぞ」
と、親父の方が、俺の隣に浸かってきた。
その横顔に見える、見覚えのある刺青。
………………え?
「あれ?お前こんなとこで何やってんだ?正晴」
「いや、兄貴こそなんでいんだよ。ここって刺青可なのか?」
「え?そこ?俺が何でいるのかよりも、何で入れたのかの話?」
いや、当たり前だろうが。
注意書きにだって、
※刺青、シール、ペイントの方お断りします。
って書いてあったぞ。
ん?
こいつがスカリエッティ陣営なら、ルーテシアってのはあのルーテシアだよな?
それに『お父さん』って呼ばれるってことは………。
「お前!人妻に手ぇ出したのか?!」
「未亡人だよ!それよか、その手のことでお前に言われたくはねぇぇぇっっ!!!」
それに関しては、前科があるから何も言えない。
どっちにしろ、原作はぶっ壊れてたようだ。
「てか、そもそもあれの母親って死んでたんじゃねえのか?」
盛大な疑問なんだが。
「いやさ、ルーテシアがメガーヌの入ったポットの前に座り込んでんの見つけてな。それでメガーヌの眼を覚ますには、『レリック』のⅩⅠ番が必要って聞いたわけよ」
「ほう」
「それでドクターのとこに直行してな」
「真偽を問いただしたわけか」
まさか、こいつにそんな一面があったなんて。
かれこれ17年兄弟をやっていたが、初めて知った。
「いや、リンゴを片手でじわじわと握り潰しつつドクターの頭を掴み、全能力を持って即座にメガーヌの蘇生をするか、哀れなリンゴのごとく潰れるか選ばせただけだ」
前言撤回しよう。
こいつは俺の知っているまんまだ。
なんでも力技。
それがまかり通るからこいつは怖い。
「で、それが功を奏してメガーヌが復活。しばらく車椅子生活だったのを、親父の関係者てのもあって、最後まで面倒を見るつもりで介助してたら、なあ」
「………何時しかお互いに意識してて、そのままご結婚てか?」
「…おう」
て、照れてる…。
あの何時でも傲岸不遜、天上天下唯我独尊のこいつが…。
ん?
ちょっと待てよ?
「お前、何時こっちに来た?」
「あぁん?ざっと半年前だが?」
………俺より早え。
俺より後に死んだというのに、だ。
まあ、そこら辺は神の采配といったところだろう。
「親父ってのは?」
「ん?ああ、俺とカインは『ゼスト・グランガイツ』の精子と『プレシア・テスタロッサ』の卵子から生まれたからな。メガーヌは親父の部下だし」
まさかの爆弾投下。
「それって、つまり………」
「フェイトは俺の姉貴。ひいてはお前の姉貴でもある」
いや、俺たちの繋がりから考えると、確かにそうなるのではあろうけども。
その理論は飛躍しすぎでは?
「いいんだよ。矛盾はないんだから」
「………いや、まあ、そうなんだが」
「そうそう」
しばらくの間、お互いに沈黙が続く。
子供たちの方から聞こえる楽しげな声と、女湯から聞こえる声だけが響く。
と、エリオがキャロを担いできたな。
「キャロがのぼせちゃったので、先に上がります!」
うわぉ。
「りょーかい。はやてには、俺は兄貴と遭遇したから話してるから、まだしばらく浸かってるって言っておいて」
「分かりました!」
そう言って、脱衣所に駆けて行くエリオ。
こらこら。
風呂場で走ると、
ツルンッ
ゴドッ!
「ヘブッ?!」
こけて顔面から激突するぞ。
「………あの少年、大丈夫か?」
「あれでも未来のエースだよ」
痛みを我慢してキャロを連れて行ったエリオを見送りながら、そんなことを言う。
「…エース、ねえ」
「どうした?」
「いや、あんなガキが戦ってるってのがな」
「その戦ってる相手のお前がよく言ったな」
感傷に浸る気持ちは分かる。
だが、状況的に考えてみれば、お前にそれを言う権利は一切ないからな?
「おとーさーん!」
「ルーテシア」
遊び相手がいなくなったから、娘がこっちに来ちゃったよ。
「とー!」
ジャボンッ!
「わっぷ!」
「ククッ。ダメだろ、ルーテシア。風呂場で飛び込んだりなんかしたら」
「えへへー」
「まったく。ほら、おいで」
ギュッ
「おとーさん、おとーさん」
「ルーテシアー」
………何なんだこの親子は。
とりあえず、飛び込んだときに水しぶきが俺にかかったことを、謝罪させるべきではないのだろうか。
お前それを笑った娘が可愛いからって、自分の中で勝手に消化しやがったな?
「ああ、そうだルーテシア。ちょっと目を閉じて、耳を塞いでろ」
「えー」
「いいから」
「………はーい」
言われたとおりに、しっかりと目と耳を閉ざす姪っ子。
「さすがに、娘に聞かせていい声と、見せていい表情がこれからできなさそうなんでな」
「ああ?」
いったい、何なんだ?
「こっから先、どう考えても俺たちはかち合うわけだが」
「ああ、なるほど」
そういうことか。
「「兄弟だからって、手加減されると思うなよ?」」
湯船に映る俺たちの顔は、明確にお互いの関係を表していた。
「さて、いい加減はやてたちも待っている頃だ。先に上がらせてもらうよ」
「そうかい。じゃあな、正晴」
「あばよ、兄貴」
「ほら、ルーテシアも叔父ちゃんにバイバイって」
「うんっ。バイバイ、おじちゃん」
「じゃあね」
湯船から上がり脱衣所へ向かう。
………叔父ちゃん。
いや、間違ってはいないが。
なんか、こう………。
「遅かったなあ」
「エリオにそう、伝言させたはずだが?」
脱衣所を出ると、開口一番にはやてがそういった。
て、あれ?
「他の連中は?」
「ロストロギアが発見されて、皆行ってもうた。私は六禄君を待っとったの」
「それは悪いことをしたな」
「そんなんさらいち思っておらんくせに」
よく分かったな。
「じゃ、とっとと俺たちも行くか」
「んーん。今回のは危険性も低いし、皆に任せれば大丈夫や。…だから、ちょっとゆっくり行こう」
上目使いで俺を見上げるはやて。
ふむ。
「じゃあ、そうするか」
「やった!六禄君なら、そう言うと思っとたわ!」
どういう意味だ。
「ほな、行こか」
「はいはい」
銭湯を出て、二人でゆっくりと歩く。
「………お兄さんとは、どうだったんや?」
心配そうな声色で、そんなことを訊いてくるはやて。
「お互いに宣戦布告してきたよ。まあ、ぶっちゃけたことを言うと、昔からそんなんだったからな」
「喧嘩ばっかだったん?」
「そう。全部、どうしようもなくて、くだらない理由でな」
そう、だから。
「そんな顔をするな。今回のも、そんなくだらない兄弟喧嘩だ」
「………そっか」
俯いて、あまり見ていたくない表情をするはやて。
そんな表情が見たくなくて、手を握ってみると、一瞬ビクッとなったがすぐに握り返してくる。
その俯いた顔を覗くと、頬を紅くした、とても可愛い笑顔で。
「ククッ」
気がつけば、俺まで一緒に笑っていた。
「あー、なんで笑うんや?」
「ククッ、さてな」
「教えるんやー」
「秘密」
「ぶーぶー」
ああ、お前は本当に、可愛いなぁ。
さらっと主人公の過去の女性遍歴の一端が見えてしまいました。
不倫は文化らしいです。
そして兄が色々やってくれてました。
実は番外編で一番書きたいものは、アベルが『柳田 真澄』だった頃の話だったり。
プロット自体はできているんですけどねぇ。
時間が…。