「ほら、できたでー」
「んー」
はやてが器をテーブルに置いたのを見て、スマ○ラの電源を落としてソファから立ち上がる。
今や俺の定位置と化した席に座ると、粒の立った白米とワカメと豆腐の味噌汁。
そしてテーブルの中央に置かれた、リクエストどおりの肉じゃが。
まずは味噌汁を一口。
そして肉じゃがに箸を伸ばし、ご飯と一緒に口に入れる。
その間、はやては料理に手をつけずに、俺を見ている。
ふむ。
「美味い」
その一言で、一気に顔を綻ばせ、自分も食事を始めるはやて。
俺は飯なんて食えればいい人間だから、あまり感想とかを言うことはない。
でも、言うとはやてが喜ぶから、最近は言うようにしている。
「そういえば、リインはどうした?」
守護騎士たちのことは聞いたが、あの妖精のことを忘れていた。
「隊社に残って、明日の準備をしとるで。シグナムとヴィータと一緒に帰るそうや」
「そっか」
なら大丈夫だろう。
アレが良いという人種もいるから、少し心配していた。
「そういえば六禄君」
「なんだ?はやて」
「アグスタで綺麗な女の人に、たくさん声をかけてたみたいやなぁ?」
「ブフォッ?!」
唐突にふられた話題。
しかも完全に俺から追求しきってやるという眼で。
遊んでいた時の経験から分かる。
これはヤバイ。
「あ、あれはだな、はやて。怪しい奴に声をかけたのであって、美人を狙って声をかけたわけじゃない」
「へー」
「いや、本当だから。実際、あの手の連中は交渉をしやすくするために、そういうのを用意して派遣しているってのもあるしな」
見目が良い方が、交渉は円滑に、そして有利になるのはどこでも同じ。
だから、俺が声をかけたのはだいたいそういう女たちだっただけの話。
て、
「ふっふー」
ニヤニヤと、してやったり顔でこっちを見ているはやて。
………コイツ。
「………俺をからかいやがったな?」
「だって、いつも六禄君は余裕そうやから、偶にはその余裕を崩してみたくなって」
ふむ。
そっちがそうなら、こっちにだって手はあるぞ?
「まあ、俺が知っている中で一番綺麗なのは、お前だけどな?」
「ブフォッ?!」
一気に顔を真っ赤にさせて、取り乱すはやて。
ククッ。
形勢逆転。
「ど、どどどど、どうせ冗談なんやろっ?!」
「本心」
頬杖をつき、ニヤリと笑って、言う。
それにより、余計にはやてが更に慌てる。
でも、これは真面目に本心。
だから、冗談とか言って撤回したりはしない。
「………ずるいわぁ」
「ククッ。何を今更」
俺がずるいのなんて、とうに分かっていたろうに。
夕飯が終わり、順番に風呂に入り、一緒にテレビを見る。
安っぽい恋愛ドラマだが、それがいい。
次第に、普段の激務の疲れがでたのか、俺の肩にもたれて、ウトウトし始めるはやて。
まったく。
「よっと」
所謂お姫様抱っこで担ぎ上げ、ベッドに運ぶ。
「………軽いな」
持ち上げた時、あまりの軽さに声を漏らす。
コイツは、こんな体で頑張っていたのか。
ベッドに着き、はやてを寝かして布団を掛ける。
ついでに、いっそのことその唇にキスぐらいしようかと思ったが、踏みとどまる。
代わりに、その髪と額に唇を落として部屋を出る。
さて、まだ帰って来ない奴らを待ってるか。
~Sideはやて~
実はずっと、狸寝入りをしていた。
布団は私が寝苦しくならないよう、絶妙な加減でかけられているし、体制も整えられている。
彼のこういう気遣いが、とても嬉しい。
体を起こし、今起きたことを反芻する。
「…キ、キスされた」
思い出すと、体と顔が火照ってくる。
それにしても、
「髪とおでこ……、か」
前に本で読んだことがある。
おでこへのキスは祝福を。
そして、髪へのキスは、
「………思慕を」
期待しても、ええのですか?
あなたを好きなままで、ええのですか?
「………六禄君」
その日の夜は、寝付けなかった。
お互いに本人の前では直接言えない、二人のこの微妙な距離感。