彼にキスされてから、全然寝付けない。
私が彼を好きになったのに、特別な理由はない。
彼はいつも、優しかった。
そんな彼に、私は惹かれたんや。
頭の中を駆けめぐるのは、彼と出会ってからこれまでの思い出。
その中でも一番鮮明なのは、彼が好きだと自覚したあの日のこと。
これは、私が彼をはっきりと意識した日の話。
「うー」
「はやてちゃん!ファイトです」
「そんなん言うてもなぁ………」
私の目の前のモニターに映る、膨大な書類データ。
その量に思わずダレてしまう。
私は部隊長やから、必然的に書類量も増える。
六課は『ロストロギア』をメインに扱うから、なおのことや。
「うー………」
「はやてちゃぁんっ!頑張るですぅっ!」
「そうは言ったてなぁ………」
さすがに連日の膨大な量の書類に、私も限界が訪れたらしい。
徐々に意識が薄れ、眠りについてしまう。
「はやてー、処理の終わった書類持ってきた………ん?」
丁度隊長室に入ってきた、彼のそんな声を背景にして。
~Side主人公~
寝ているはやての無防備な姿を見て、思わず嘆息する。
ん?
まだ仕事も途中なのか。
しょうがない。
俺がやってやるか。
ふと、はやての寝顔を見る。
ゴクッ………
思わず、咽喉が鳴る。
その首筋に噛み付き、その中に流れるものを全て啜り尽くしたくなる。
そして、徐々に顔をはやての首筋に近づけ、
ガブッ
「六禄さん?!」
「痛っ」
すんでの所で自分の手首を噛み、吸血衝動をごまかす。
噛んだところからは、血が流れてきている。
………危ないところだった。
「今、治癒魔法を使いますから!」
「大丈夫だ。それより」
人差し指を唇に当て、駆け寄るリインの言葉を止める。
「はやてが起きちまうから、静かにしていような。それと、このことは皆には秘密にしておいてくれ。心配させたくない」
「…六禄さぁん………」
…吸血衝動、か。
愛しく想えば想うほど、それはより強くなる。
「………いったい、いつまで我慢できるか」
思わず漏らしたつぶやきは、運良くリインにはあ聞こえなかったようだ。
~Sideはやて~
「…んっ………うんっ…」
薄暗い部屋の中、ベッドの上で目を覚ます。
て、
「はっ!?」
何で私、ベッドに寝とるん?!
いやいや!
そんなことより、早く仕事終わらせんと!
帰って皆のご飯つくらな!!
「………あれ?」
ちょお待って?
ここ、私の部屋?
時計を見ると、既に夜の10時。
隊長室にいたときは、まだ4時前やったのに。
ん?
部屋の外から、なんかええ匂いがする。
扉を開けて匂いの元をたどると、そこはリビング。
テーブルの上には炒飯が湯気を出していて、いつもの席に六禄君が座って寝とった。
「ZZZzzzz」
腕を組みながら座っている六禄君の膝の上には、リインまで寝てる。
二人を起こさないように自分の席に座ると、目の前にはメモ書きが一枚。
そこにはただ、『食って風呂入って歯ぁ磨いて寝ろ』とだけ書いてあった。
………これを書いたのも、炒飯を作ったのも六禄君やな。
「う…、うん?…あ、はやてちゃん、起きたんですね?」
六禄君の膝から身体を起こし、こっちを見るリイン。
「そういうリインもな」
起きたばかりで眠いのか、目をこするリインにそう言う。
「あ、六禄さんがご飯作ってくれたんですよ!食べてみてください!」
「うん。いただきます」
レンゲを手に、炒飯を掬う。
それを口に入れて、一言。
「………美味しい」
どこか懐かしさを感じさせる、味と風味。
中華料理なのに、日本人の味覚にこれでもかと合わせてきたこの味は、私でもなかなか出せない味やった。
「六禄君、料理できたんやな」
「幼馴染さんが壊滅的にできなかったから、覚えたそうですよ?」
………なんで幼馴染が料理できないと、自分が作ることになったんやろうか?
凄く気になる。
て、あ。
「そういえば、私仕事残してんy「六禄さんがやっちゃいましたよ?」………は?」
………リインが、おかしなことを言った気がするんやけど?
「あのなあ、リイン。あれは全部隊長権限がないとやっちゃいけない書類でなぁ」
「六禄さん、ちょっとはやてちゃんが開いていた画面をいじって、一時的に自分を隊長権限預かりにしてやってましたよ?」
あれぇ?
その操作って、私の指紋と掌紋、虹彩に静脈の認証が必要なはずやったんやけど?
「こう、寝ているはやてちゃんの瞼をベロンと」
言って欲しくはなかった!
生々しすぎて止めてほしかった!!
「リインがやったです!」
「リイン。ちょお一緒にお風呂入ろうや」
「きゃー」
悲鳴を上げながらも、楽しそうなリイン。
それにつられて、私も笑う。
しかし、なんやろうなあ。
「六禄君は、もう晩御飯食べちゃったんか?」
ご飯を作ってくれていたのは嬉しいけども、少し寂しい。
「いえ?まだですよ?」
「え?」
じゃあ、なんで寝てるん?
「それh「慣れないことをして疲れた」……ぶー」
「起きたんや?」
「ああ」
寝起きは機嫌が悪いのか、寝起きの六禄君はいつも眉間に皺がよっている。
今もそうや。
夜型の六禄君が、この時間に寝るなんて、本に疲れてたんやな。
でも、私のためにそこまでやってくれて、嬉しいと思う私もおる。
「それに、材料が俺の分まではなかったからな」
「え?」
どういうことなんや?
「ザフィーラはドッグフードでいいとしても、他の奴らまではそうはいかなかったからな。残ってた米が三合ってのはきつかった。飯を作ったときには、もうどこの店もやってなかったし。コンビニ飯は割高で買う気がしなかったしな」
「主婦か」
でも、全部私のためやってんな。
いっつもそうや。
私がデスクで寝ているときには、何も言わないでタオルケットをかけてくれて。
忙しい時には家事を変わってくれて。
小さいことでありがとうって言ってくれて。
誰かが傍にいて欲しい時には、黙って近くにいてくれた。
「美味いか?」
不意に聞こえた、六禄君の声。
さっきも言ったけど、答える。
「美味しい」
「なら、いい」
そう言って、また目を瞑る六禄君。
六禄君は、うちの女性陣が全員入り終わらない限り、絶対にお風呂に入ろうとしない。
だから、今も私が入るまで待っているんやろう。
あなたは、本当に優しい人や。
そんなあなたに、今はこう言う。
「美味しいから」
「ん?」
「あーん」
「………あーん」
一緒に食べよう。
六禄君が来てから、私の色々な初めてがあった。
この気持ちもそう。
この日気づいた、あなたと出会って初めて知ったこの気持ちを、あなたに伝えたい。
でも、待っている。
あなたも私と同じ気持ちなのは知っているから。
いつか、吸血鬼がどうとかを越えて、あなたがその思いを伝えてくれる日を、待っています。
甘い話が三連発。
さすがに三回連続で来ると思った人はいないはず。