アグスタでの一件から一週間経った、ある日の模擬戦。
ティアナとスバルのコンビ対なのはというわけだが。
「『アクセルシューター』!」
なのはから魔力弾が放たれるが、普段に比べてキレがない。
あのバカ。
「無理してやがんな?」
「最近あいつのスケジュール厳しいからな。休めっつっても休もうとしねーし」
「それに仕事外でも訓練メニュー考えたり、ビデオで皆の陣形をチェックしたりしてるから十分に休めてないんだよ」
思わず出た俺の呟きに、ヴィータとフェイトが言葉を返す。
しかし、二人の言葉が本当なら、あいつは真性のバカだな。
「なのはさん、訓練中もいつも僕達のこと見ててくれるんですよね」
「本当に、ずっと………」
子供二人は感動しちゃってるし。
全員あいつを美化しすぎだ。
それとも、俺がスレているだけか?
まあ、そんなことは、どうでもいい。
とりあえず、このことをはやてに報告して、強制的になのはを休ませるしかないか。
現実的には、それが一番だろう。
と、ティアナが仕掛けるか。
「『クロスファイアーシュート』!!!」
幻術や障害物を使用しない、バレバレの一撃。
あれでは先程から行っているスバルの撹乱も、意味がない。
「何かおかしくない?」
「いつもよりキレがねーな」
「コントロールは良いみたいだけど…」
口々にティアナの砲撃に感想を言い合う面々。
だが、俺ならわかる。
原作知識はうろ覚えだが、分かる。
「つまりは、まだあるってことか」
「「「「え?」」」」
「いいから見ていろ」
そう。
俺の基本的な戦闘スタイルはティアナ寄りだ。
使えるものは全て使い、確実に勝利までの一手を積み上げる。
だから分かる。
と、スバルも仕掛けだしたな。
スバルの一撃を、バリアで受けるなのは。
無理で身体にガタが来つつあるといっても、そこは『エースオブエース』。
特に問題なくスバルの攻撃を受けているな。
まあ、そんなもの、『超一流』の前では誤魔化せなくなるだろうが。
そんな益体もないことを考えていると、だいぶ佳境に入ったらしい。
ビルの上にいたティアナの姿が消え、スバルの『ウイングロード』を駆け上がるティアナ。
そして、
「一撃必殺!!でえええぇえぇぇええぇい!!!」
魔力でできた刃をなのはに向け、落下してくる。
なるほど。
あの声とあと数瞬なのはが気付くのが遅ければ、決まり手となっただろう。
だが、
「おかしいな…。2人共…、どうしちゃったのかな…」
それでも、『エースオブエース』には届かない。
粉塵が晴れたそこには、手から血を流しながらも刃を掴みティアナに浮遊魔法をかけ、スバルの攻撃を素手で防いだなのはの姿。
そのなのはからは今、喜怒哀楽、ありとあらゆる感情を読み取ることができなくなっている。
それが現場の二人にも伝わっているのだろう。
心底ブルっているのが手に取るように分かる。
とりあえず、手に持っていた缶コーヒーを傾けて一言。
「苦い」
「今それ言う必要あったか?!というか、こんな時に一服してんなぁっ!!」
「そげぶっ!」
ヴィータの腰の入った右ストレートが、緩みきっていた俺の腹に突き刺さる。
「お前、後で隊社裏に来い」
「………それは、体育館裏に来い的な?」
「文句あんのか?」
「………ないです」
幼女(見た目)に負ける俺。
正直、胸が痛い。
「頑張っているのは分かるけど、模擬戦はケンカじゃないんだよ?練習の時だけ言う事聞いてるフリで、本番でこんな危険な無茶するんなら…、練習の意味、ないじゃない…」
あ、なのはがなんか話してる。
そしてスバティアコンビの身体の震えが、より酷いことに。
「ちゃんとさ、練習通りにやろうよ。ねぇ…?」
「あ、あの…」
なのはの口から淡々と紡がれる、無機質な声がハンパなく怖い。
「なあ、ヴィータ」
「言うな。私もだ」
「そうか」
二人揃って、足がガクブルという事実。
足の震えがとまらねぇ………。
「私の言ってる事、私の訓練…、そんなに間違ってる?」
「………くっ!私は!もう、誰も傷付けたくないから!無くしたくないから!!」
………俺は知らない。
ティアナが、ここまで必死になる理由を。
いや、知ってはいるが、知ってちゃあいけない。
俺がそれを知ったのは、画面の向こうから。
今ここにいる俺は、本人からそれを聞いてなくてはいけない。
だから、その事情には踏み込めない。
「うっ…ひっく……。強く…、なりたいんです!!」
「………少し、頭冷やそうか?」
なのはは右手の人差し指を泣きじゃくるティアナに向け、魔法陣を足元に展開させる。
来る。
気合を入れろ。
震える足を押さえ込め。
一発は見逃せ。
二発目は絶対に食い止めろ。
「『クロスファイア…」
「うあああぁあぁぁああぁぁぁああ!!!『ファントムブレイ「シュート』」
なのはの手首辺りに展開された、合計六個の魔力弾がティアナに全てぶち当たる。
言っちゃあなんだが、この時点で既にオーバーキルだと思う。
「ティア!?ッ、バインド!?」
スバルがティアナに駆け寄ろうとするも、バインドに捕らわれ身動き一つできなくなる。
「じっとして、よく見てなさい」
スバルにそう言うと、なのはの手にまた魔力が収束される。
つまり、
「二発目はさすがにさせんさ」
「【いくよぉっ!『サンセットシュート』!!!】」
ドンッ!
パリィィィィィン……………
モニタールームの窓をぶち破り、なのはに向かう一発の魔力弾。
飛び散る硝子がヴィータたちに降りかからないよう、分体で膜を形成する。
「っ!?」
自分に迫る魔力弾に気付いたなのはが、魔力を収束していた右手をそれに向け、迎撃する。
ドオォォォォォォッッッ!!!
と、黒と桜色の魔力弾が当たり、凄まじいまでの噴煙が舞う。
それに乗じ、ジャンヌにスバルの位置を捕捉させて、バインドを撃ち砕く。
「今だ!スバル!!」
「っ!?…はい!」
俺の声に反応し、スバルがティアナを回収する。
「ヴィータ。二人への指示は任せた」
「お、おい!」
割れた窓から訓練場に降り立ち、なのはを見上げる。
そんな俺を見下ろしながら、
「………なんで、邪魔したの?」
「あのツインテは頑固もんだからなぁ。一発は痛い目を見ないといけなかった。だが」
見下ろすなのはを睨み付けながら、言う。
「二発目はやりすぎだ。さすがに俺でも看過できんよ」
視界の端に、ヴィータの指示を受けたスバルが、ティアナを担いで離脱するのが見える。
とりあえず、これで一安心だな。
「私の教導の、邪魔をしないで」
「今のが教導?笑わせんな。自分の教えたとおりに動かなかったからってなぁ、頭ごなしにぶっ叩くのは教師のやることじゃねえ!!ふざけんな!!」
俺が一番恩義を感じている、死んだ時の担任は俺たちみたいなクズでも見放さなかった。
俺たちがバカをしたら、思いっきり殴って思いっきり泣く。
副校長が俺たちを退学にしようとした時には、副校長を殴ってでも止めさせた。
喧嘩して拘置所に入れられた時、親よりも先に駆けつけて、まず最初に俺たちの身体を心配するような先生だった。
だから、俺たちはあの人のことを『先生』と呼んでいたんだ。
まあ、ギャンブルにハマリ過ぎてて、授業中に競馬をしているような先生だったが。
いや、そんなことは、どうでもいい。
「俺はむしろ、あいつらを評価するぜ?」
「なっ?!」
俺の言葉に、なのはが驚き、嫌悪を露(あらわ)にする。
しかし、そうだろう。
「あいつらはお前に勝つために、お前の思考の裏をかいて攻撃しにいった。そのためにの努力もした。それにな」
一息吸い、少しためる。
「そもそも、教えられたことしかできねえのは、ただの発展性のないバカじゃねえのか?」
「っ?!」
教えられたことを教えている相手にやっても、あまり効果はない。
それならば、教えられていないことを自分たちで編み出し、本番でいきなりぶつけて意表をつく。
教師、師匠はそれを受け止め、自分たちで考えたことを褒め、改善点を示す。
それが正しいあり方というものではないだろうか。
「う、うるさい!何も知らないくせに!私の邪魔をしないで!」
「知らねえからあそこで突っ立てるバカどもと違って、邪魔できんだろうが!!」
そう言って、モニタールームを親指で指差す。
するとそっぽをむき出す面々。
お前らどうしようもないな。
「………邪魔をするんなら」
ガチャンッ
キュインッ
と、音を立て、『レイジングハート』が変形をする。
「頭、冷やそうか」
最初の模擬戦のときとは違う、なのはの殺意すら見えるような感覚。
なるほど。
これが魔王の圧力か。
だが、まあ、
「頭冷やすのはお前だ」
負ける気はしないがな。
フランシスを構え、魔力を収束する。
それに対して、なのはもレイジングハートに魔力を収束する。
それも、俺の魔力量とは比較できない膨大な量の魔力を。
ヤバイ。
足がまたブルってきた。
知っているからこそ伝えられる。
知らないからこそ伝えられる。
信念があるから譲れない。
想念があるから譲れない。