「うっ、うん………」
目を覚ますとそこは、
「………知らない天井ね」
「いや、なんでだよ」
ぺしんっ
と、私の頭がはたかれる。
はたいた男は、
「まあ、ネタに走れるようなら、とりあえずは大丈夫そうだな」
呆れたような顔をしている、私の大嫌いな男だった。
周囲の確認をすると、医務室らしい。
窓の外は、既に暗い。
「………何の用よ?」
「見舞い」
だったらスバルが置いていったと思われる、その大量のフルーツを勝手に食べるのは止めてほしいんだけど。
あ、ちょっと。
ケーキにまで手を出すな。
「どうせ多すぎて腐るだけだろうがよ。問題あるか?」
「そうね。私の許可を取っていないことが問題ね」
「………一緒に食うか?」
「食べるわよ」
差し出されたそれは、器用にカットされたウサギリンゴ。
「………器用ね」
「こういうのもできるぞ?」
サクサクと包丁が動き、あっという間にメロンでバラができた。
しかも普通に上手い。
「………どこでそんなの覚えたの?」
「何が女受けするかは分からんから、独学で覚えた」
そんな理由で無駄な技能を手に入れたのか、コイツは。
「そうそう。お前が起きたら、これを一緒にやろうと思ったんだ」
「何よ?」
そう言って、差し出されたグラス。
その中になみなみと注がれる、透明な液体。
そこから発せられる強烈な、
「酒臭っ?!なにこれっ?!お酒じゃない!!」
「寝起きの頭に一発キツイのをぶち込もうかと」
「あんた本当にどうしようもないわね!?」
そう言う私の言葉を聞き流し、自分の分を注いで一気に呷るバカ。
心底美味しそうに飲むそれを見て、私もついついグラスに手を伸ばしてしまう。
すると、自分のグラスにもう一杯注いだそいつが、腕を伸ばしてきた。
「ククッ。乾杯、だ」
「………フンッ」
チンッ
と、硬質な音が、病室に響く。
正直、この男と乾杯だなんて嫌だったが、礼を失するのもなんだったからした。
なみなみとグラスに注がれたそれを、一口含む。
「~~~~~~ッ?!」
「アッハハハハハハハッッ!やっぱりか!」
口に含んだそれは、一瞬で私の口内と咽喉を焼き、そして胃に達した。
「なっ!なによ!?これ!?」
「これは俺が隊長室にこっそり置いておいたウォッカでな、『ポーリッシュ・ピュア・スピリッツ』っていうんだが、度数は何と96%という代物だ」
「なんてもの飲ませるのよ?!」
と言うか、何でそんなものを持ってるのよ?!
そして何で隊長室に置いているのよ?!
この男に、常識ってものはないの?!
「で、コテンパンにされた気分はどうよ?」
「ッ!………そうね、最悪だわ」
「そうか」
不意の問い。
それに対し、苦々しく思いながらも答える。
なのはさんとの模擬戦で、あれだけのことをしたのに、その背中にすら届かなかった。
凡人の私でも、天才たちの中で戦えることを、ランスターの弾丸は、何にも負けないことを証明しないといけないのにっ!
………私は、無ry「もし、お前が自分のことを凡人だ、無力だと思っているのならば、それは勘違いだ」
「……………え?」
空のグラスに適当なフルーツを絞ってグラスを揺らし、お酒と混ぜながら私の思考に割り込んで言葉を発したバカ。
「ほれ、ちょっとしたカクテルだが、オレンジと混ぜて作ってみた。飲みやすくなっているはずだぞ?」
胡散臭いとは思ったが、その言葉を信じ一口含む。
「………美味しい」
「『スクリュー・ドライバー』もどきだな。本来ならオレンジジュースで割るところだが、まあ、果汁100%には変わらないし、いいだろう」
バカはそのままストレートで飲み続け、私はまたオレンジ色のそれに口をつける。
「………ねえ、さっきのは、どういう意味?」
「どういう意味ってのは?」
「ただの…、気休めなんでしょう?」
「阿呆。何でそりの合わない奴に気休めを言わないといけないんだ」
……こいつは…………っ、本人の前でそりが合わないとか言うっ!?
いや、私もそう思ってるけどもっ!!
「お前は幻術も使える、精密な射撃もできる。堅物なのは玉に瑕だが、見目もいい」
ほれ、どこが凡人だ?
まるでそう言うかのように、淡々と言葉がつむがれる。
「なのはの教導は、やっている当人たちは自分たちの成長に気付きにくいが、確実に身になる種類のものだ。現に、俺がここに着たばかりの頃に比べて、お前たちは随分と強くなっている。何気になのはやヴィータも、強くなったって褒めてたしな」
………なんで、こいつは私の悩みを、言ってほしいことを的確に当ててくるのよ……………?
「最後の攻防だが、お前のやり方は俺は評価するぞ?格上に勝つためには、リスクが伴う。それを考慮したうえでも、充分な策だった」
私の両目から、涙が零れそうになる。
それを感づかれたくなくて、グラスに残ったお酒を一気に呷る。
「お前が何をきっかけに、何でそこまで焦っているのかは、俺は知らない。だが、焦る必要はない。俺みたいに一度死んだわけでもなく、まだまだ先があるんだ。才能も、俺が羨ましいと思うほど満ちている。必ず大成するのは、分かりきっているさ。だから、無理をするな。その才を潰すな。生き方をそれだけに決めるな」
枕に顔を埋め、顔を見られないようにする。
今にももう、泣きそうだから。
「さて、怪我人のとこに長居しちまったな。そろそろ帰らせてもらうわ」
そう言うと、彼が酒瓶を持って立ち上がり、扉へ向かう気配がする。
それでも、顔を上げずにいると扉が開く音が途中で止まった。
「ああ、そうそう。俺ね、お前とはそりが合わないけど、別に嫌いなわけじゃねえんだわ。うん。むしろ好ましいと思ってるぜ?」
「ッ?!」
思わず顔をバッと上げるが、既に扉は閉まり、彼はいなかった。
そして、扉の向こうから声だけが聞こえてくる。
「やっほ-、六禄君」
「は、はやて?!なんでここに?!」
「部下のお見舞い来たらいけないん?」
「い、いや、いけないことはないけど………」
「じゃ、一緒に帰ろっか」
「え?お前、ティアナは?」
「帰ろっか」
「………ククッ。そうだな、帰ろう」
………扉の向こうのことだから声しか聞こえなかったけど、あの二人って本当にデキてたのね。
たぶん、本人たちは否定するだろうけど。
………そういえば、私のこれまでの人生、ずっとランスターの弾丸を証明することに費やしてきて、男っ気なんて欠片もなかったな。
この事件が終わったら、スバルと一緒に彼氏を作る努力をしてみようかな?
将来は結婚もしたいし、そっち方面も頑張らないといけない。
でなかったら、兄さんを安心させられないだろうし。
そうね。
できれば兄さんみたいな男の人がいいわね。
誠実で優しくて、仕事のできる、あいつとは間逆の男性が。
いつか、そんな人と結婚できるように、今を頑張ろう。
あいつに言われたのが癪だけど、私はもう、凡人なんかじゃないんだから。
当たり前のように酒を飲み、当たり前のように人生相談をしていますが、こいつはまだ17歳です。
決して、成人には達していません。