無印で終幕。
「もう時間がないわ。たった八個のロストロギアでは『アルハザード』に辿りつけるかわからないけど。でももういいわ。終わりにする。この子を亡くしてからの暗鬱な時間を、この子の身代りの人形を娘扱いするのも」
画面に映る女の言葉に、フェイトちゃんの身体が震える。
「聞いていて?あなたの事よ、フェイトせっかくアリシアの記憶をあげたのにそっくりなのは見た目だけの私のお人形」
その言葉に、エイミィが補足を入れる。
「最初の事故の時にねプレシアは実の娘、『アリシア・テスタロッサ』を亡くしているの。彼女が最後に行っていた研究は使い魔とは異なる使い魔を超える人造生命の精製。そして、死者蘇生の秘術。『フェイト』って名前は当時彼女の研究につけられた開発コードなの」
「よく調べたわね。でも駄目ね。所詮造り物は造り物。喪ったものの代わりにはならないわ」
なるほどねぇ。
プレシアがジュエルシードという、欲望を歪んだ形で叶える汚染された『聖杯』をもってして行いたいこととは、
「娘を、『アリシア・テスタロッサ』を蘇らせる気か」
「そうよ。ジュエルシードの力をもってして、次元の狭間にある、今は失われたあらゆる秘術の眠る地、『アルハザード』。その秘術を使って私は取り戻す。アリシアを!過去も、未来も!!」
一人の親としては正しく、そして生命としては酷く歪んだ願望。
それの成就に執念をたぎらせる女の顔は、酷く歪(いびつ)に歪んでいた。
まあ、『ジュエルシード』が汚染された『聖杯』ならば、『アルハザード』は純粋な『聖杯』といったところか。
いや、この場合は『ジュエルシード』を『英霊の魂』として、『聖杯』を満たすといった表現の方が正しいだろうか。
まあ、そんなことは、どうでもいい。
「おい、フェイトちゃんはどうなるんだ?」
「そんな人形に、もう用なんてないわ。好きにしなさい」
その言葉に、またしても震える幼い身体。
それを視界の隅に入れながら、もう一つ、プレシアに問いかける。
「じゃあ、問い2だ」
「なにかしら?」
自分の願望の成就を控えた今、その余裕は確固たるものとなっているのだろう。
俺の問いかけに、いちいち答えようとするのだから。
だが、その余裕もここで終わらせる。
「今更間に合うとでも思っているのか?」
「……………何を言ってるの?当たりm「一人の愚かな男の話をしよう」…なんなのよ?」
そう、これは一人の愚かで、無様で、惨めな男の話。
「その男がまだ10歳の時、その男の祖父が死んだ。男は…、いや、少年はそのときに問うた。『人は死ねばどうなるのか』。少年はひたすらに問い続け、その過程において絶望をしたりもした。そんなある日、一つの解を見出したんだ。『所詮死後のことなど、生きている間には分からない。死んだ後のことは、死んでから考えるべきだ』、と。すると少年に、もう一つの問いが生まれてしまった。『何故、自分は生まれ、生きているのだろうか』、と」
「だから、何の話なn「それから少年は、がむしゃらにその解を見出そうと努力した。三大欲求こそがその解ではないかと女を抱き、惰眠をむさぼり、幼馴染が料理ができなかったせいで料理も覚えた。しかし、所詮満たされたのは腹に、睡眠に、性欲だけ。少年が求める答えは、そこにはなかった。少年はなおも求めた。喧嘩をしているとイキイキしている兄を見て、闘争こそに意味があるのかと思い喧嘩に明け暮れた。アニメや漫画、ゲームといったサブカルチャーにも手を出した。勉強も、根本的に才能と言われるものがなかったようだが、ほどほどにはできていたな」
全員が、俺の話に聞き入る。
「そして少年が青年になった頃、その心は磨耗し、虚ろになっていた。ただ、それまでの人生をなぞるかのように、そこに答えがないと知っていても繰り返す日々。平和な日常の中で、繰り返される変化のない日々に、何時しかその歩みを止め」
一息吸い、溜める。
「そして死んだんだ」
そしてまた、感情を挟まずに、淡々と続ける。
「そんな男に、奇跡が起きた。死後、速やかに絶対の死へ向かうはずだったその魂は、その生存欲求の高さゆえに死に切ることはなかった。そんな男を見て、神は引導を渡しに来た。しかし、その神ですら、男の生きる意志を止めることはできず、男は再び、新たな異能を持ち、異種の肉体で現世に現れた」
そう。
そして愚かな男は今だに、
「そして、あいも変わらずに問い続けているんだ。『自分の生きる意味は、理由とは何か』、と」
「じゃ、じゃあ、貴方は………」
動揺するプレシアに、笑顔だけを返す。
「教えなさい!貴方はどうやって!生き返ったの!?」
「おいおい。目を逸らすなよ、『プレシア・テスタロッサ』。お前ももう、大事なのはそんなことじゃないって分かっているんだろう?」
「ッ?!いえ!でも、そんなはずは!!」
「俺は死んでも生きたいという、人並み外れた欲求を持っていたため、死に切らなかった。じゃあ、アリシアはどうだろうか」
「認めない!貴方がそうだったのなら、アリシアだって!」
「それはありえないというのは、お前が一番理解しているんじゃないのか?その死に顔を見た、お前ならば」
「…あ、あぁぁ………」
ポットに浮かぶアリシアの顔は、現世(こっち)に執着などないと言うかのように穏やかなもので。
「アアアアアアァァァァァアアァァアァアァァァアアアアァァァアァアァァァァァァアアアアアアアァァァアァッッッッッッ!!!!!!」
その母の顔は今まさに、絶望を見せていた。
それを見るフェイトちゃんの顔は、どこまでも悲しそうで、正しく娘の顔だった。
「………アキラメナイ」
「「「「「「「「ッ?!」」」」」」」」
慟哭が終わり、すすり泣く越えも終わったと思った瞬間に、飛び込んできた言葉。
呟くような、か細い声のそれは、それでも俺たち全員の意識を向けさせるには充分だった。
「『アルハザード』に行けば、それでも蘇生させる方法が見つかるかもしれない!私は今更、諦められないのよ!!」
画面の向こうでは、『ジュエルシード』がその輝きを最大にまで光らせ、それに呼応するかのように『時の庭園』は崩壊を始めていた。
「いけない!あれでは『虚数空間』に落ちてしまうぞ!」
クロノの声に、画面に映る穴に意識を向ける。
『虚数』ってのには、あまり良いイメージが湧かないな。
「『虚数空間』ってなんなの?!」
「『虚数空間』っていうのは、そこでは魔法を一切使えず、どこに繋がっているのかも分からない、未知の空間なんだ」
そうか、それだけ分かれば十二分。
「フェイトちゃん」
「………は、はい?」
母親に拒絶されたことが堪えているのだろう。
俺が声をかけてから、数秒経ってから声が返ってきた。
「お母さん、あのままじゃどこかに行っちゃうぞ?」
「………でも、私は、あの人の」
よほど堪えたのだろう。
俯いて、今にも本当に泣き出してしまいそうな顔をしている。
そんな顔が見たくなくて、その頭に手を置き、言う。
「たとえプレシアが母親と思っていなくても、フェイトちゃんとプレシアは血の繋がった親子で、フェイトちゃんはあの人のことを母親だと思っている。大好きでいる」
「っ!」
俯いていた顔を上げ、俺を見るフェイトちゃん。
「お母ちゃんのこと、大好きなんだろ?大丈夫だ。俺も一緒に行ってやる」
「私は………、お母さんを助けたいです!!」
その顔にはもう、悲しみや葛藤はなく、一つの決意が表れていた。
「よく言った。じゃあ、行こうか」
「私も行くの!」
「僕も行きます!」
「…しょうがない。僕も行こう」
まったく、ガキ共が。
いいねぇ。
俺と違って、『生きている』じゃないか。
~10年後・ミッドチルダ某所~
「ねえ、アリシア?」
「なあに?母さん」
「お父さん、今日も遅いのよ?また残業ですって」
「ハハッ。お父さん、母さんのために頑張ってるんだよ」
「そうね。………ねえ、アリシア」
「なあに?母さん」
「顔を良く見せて頂戴。今日は、なんだか目が見えにくくて」
「うん。分かった」
「………嗚呼、綺麗だわ。とっても綺麗」
「フフッ。ありがとうっ」
「ああ、なんだかお母さん、疲れちゃったみたい。もう休むわ」
「…そう。じゃあ、ベッドに行こうか?」
「いいわ。今はこのまま、座りながら寝たい気分なの」
「分かった。………じゃあ、お休みなさい」
「ええ、お休みなさい。……………………ありがとうね、フェイト」
「ッ!………ううん、どういたしまして」
『プレシア・テスタロッサ』
享年72歳。
PS事件終結の際、それまでの心的ショックが祟ったためか、それ以後精神疾患に罹る。
それにより既に死去している娘アリシアとそのクローン、フェイトを間違え続けた。
JS事件終結後まもなく、死亡する。
死因は老衰であり、その最後の顔は、どこまでも穏やかだったという。
『高町 なのは』
PS事件解決後、管理局の嘱託魔導師として活躍。
闇の書事件、JS事件を経てその地位を不動のものとする。
自身が魔法を使うきっかけとなった少年、『ユーノ・スクライア』と20歳の時に結婚。
以後、養子の『ヴィヴィオ・スクライア』を含めた四人の子宝に恵まれ、幸せな家庭を築き引退をする。
『フェイト・テスタロッサ』
PS事件解決後、管理局の嘱託魔同士として活躍。
闇の書事件、JS事件を経てその地位を不動のものとする。
母である『プレシア・テスタロッサ』の介護を献身的に続けた。
16歳の時、初恋の人である『水無月 六禄』に告白をするも、『好きな人がいるから』とフラれる。
その後一般の男性と付き合い、22歳で結婚。
三人の子宝にも恵まれ、幸せな家庭を築き引退をした。
『水無月 六禄』
公式な記録に残っているものは少なく、また、それも誰かが意図的に処分したと思われる。
PS事件では『虚数空間』に落ちる『プレシア・テスタロッサ』を救い出し、勝手に『アリシア・テスタロッサ』の遺体を教会に墓を作って埋葬した。
それ以後の記録はあまり残っていないが、多くの者から絶大な支持を集めた『英雄』として名を馳せる。
『機動六課』の解散後の足跡は知られていないが、三度だけ、『ミッドチルダ』に訪れているのが確認されている。
いずれも、三人の英雄の結婚式の日だったのは、偶然ではないだろう。
~JS事件から六年後・地球・海鳴市~
「美由希ー、ちょっとこれ味見してもらえるか?」
「いいわよー。…んっ、美味し!」
「よし」
PS事件から、気がつけば十年以上。
その間に美由希と結婚して、子供も六人できた。
今もお腹の中に二人いる。
結婚する時に二人で相談したが、最終的に子供は産めるだけ産んでしまおうという結論になったため、今に至る。
なんでそうなった。
お義父さんからは店を受け継ぎ、お義母さんからは味を受け継いだ。
やはり俺には、英雄と呼ばれるよりもこういう生活の方が心地いい。
カランカランッ
おっと、客が来たか。
クリームを泡立てる手を止め、接客にむかう。
「あ、私が行くから、あなたは厨房にいて?」
「ん。任せたし任された」
「はいはい。…いらっしゃいませ!『翠屋』へようこそ!」
フロアに行く美由希の背を見送り、また泡立て器を動かす。
単調で繊細な作業の中、思い浮かぶのはかつての望み。
いつの間にやら、それを求めることを止めた自分がいるのを、最近知った。
それが、既に答えを得たということなのかは、自分でも分からない。
ただ、一つだけ、はっきりと言えることがある。
「………ククッ。…なんともまあ、幸せだねぇ」
この話を書いていて、一番楽しかったのが10年後以降を書いていた時という事実。
そして主人公と美由希、特に美由希。
頑張りすぎだ。
胎児も含めて10人の大家族。
あと一人いれば、家族でサッカーチームが組めてしまいます。
もう一度言おう。
頑張りすぎだ。