僕の視界を、凄まじい速さで流れる景色。
身体を包む浮遊感は、これまでの人生で一番気持ちが良い。
この時間が後数瞬で終わるのかと思うと、残念で仕方がない。
ああ、願わくば。
「奴らに『 』したかった」
そして、これまでの人生で感じた最大の衝撃の刹那、僕の意識は消えた。
「ギャハハハハハハハッ!!なんだお前?あの無様ヒャハッ!な生き方は?ヒャヒャヒャッ!」
………なんだろう、こいつは。
死んだと思ったら、目の前で爆笑している若い男。
正直、イラッとくる。
周りを見渡してみると、火に焼かれた人間や、轢き潰され、串刺され、それでもなお生きている人間たちが見える。
それを見て吐き気をもよおすが、堪えて男に問いかける。
「………いったい、なんなんですか?」
「ヒャハハッ!…ん?ああ、そうだったそうだった。お前、転生してみる気はないか?」
いきなりなんなんだ。
「ヒャハッ!いやいや、実は俺様ってば悪魔でさ」
そんなことは、この空間と、そこで一人平然としているのを見れば分かる。
「で、悪魔さんも何気にシビアでさぁ、定期的に一定の数の死後の魂を売り渡すことを対価とした契約を取らないと、魔王様に怒られちゃうのさ」
ノルマに追われた会社員か、お前たちは。
「で、丁度お前が俺のノルマの最後の奴だから、ちょっとイベント的なことにしようと思ったわけさ」
九割がた思い付きじゃないか。
「つーわけで、だ。好きな特典を、三つまでならつけてやるよ。何が良い?」
………僕が転生以外のことで契約をするということは考えていないのだろうか。
というか、この調子だとそれ以外でコイツが了承するとは思えない。
まあ、既に死んだ身としては、他に魅力的な案があるとも思えないししょうがない。
「だったら、一つ目は『無限の剣製』で」
「………ベタ過ぎないか?」
「気にしないでくれ」
転生先がどのような世界かは知らないが、虐められて自殺した僕としては、力が欲しいんだ。
「二つ目は、転生する世界でも最高峰の肉体だ」
「うっわ。こいつガチだよ。ガチで虐められないようにしているよ」
当たり前だろう。
同じ轍を、誰が踏むか。
「そして三つ目は------」
「これでいい!さあ、目覚めたm『パリンッ!「あー、狭かった」』あれぇっ?!」
何かが聞こえる。
正直言って、うるさい。
そのうるささに目を開けると、どうやら液体に満たされたカプセルの中のようだった。
「ま、まあ、気分はどうだい?アベル」
「とりあえず、『ゴロワーズ』と『バカルディ』、それと腕の良い彫師を頼む」
「ウーノ、君の弟は不良だったぞ」
「いや、不良以前に私たちは犯罪者ですから、何も問題はないかと」
「む?言われてみればそうだね」
「だーれが不良だ、この【検閲規制】共。ケツの穴【検閲規制】されてえのか」
「「口が悪すぎる?!」」
……………何なんだ、このカオスは。
あの悪人面と女性は見た覚えがあるな。
確か、『ジェイル・スカリエッティ』と『ウーノ』だ。
つまりここは、『魔法少女リリカルなのは』の世界か。
しかし、ならばあのカプセルを内側から割って出てきた男は何だ?
………ああ、僕と同じ、転生者か。
でなければ、誕生と同時にあそこまで我が張っているものか。
「………さて、そろそろ君にも出て来t『パリンッ!』アベルゥゥゥッッ?!何で勝手にカプセルを割ったんだい?!」
「まどろっこしいから」
………なぜか、僕のカプセルまで割られたんだが。
うん、もう、しょうがない。
「ドクター」
「…なんだい?カイン」
そうか、カインというのが、今世での僕の名前か。
「まずは服をくれないか?」
マッパは寒すぎる。
その後服を貰い、僕たちがあの『プレシア・テスタロッサ』と『ゼスト・グランガイツ』の遺伝子から生まれた双子であることを聞き、そしてアベルが口を滑らせたことにより、僕たちが転生者だということがバレた。
そのせいでドクターに解剖されかけたが、『マグダラの聖骸布』を投影することで難を逃れた。
そして、この世界に転生してニヵ月後、事件が起きた。
その日はアベルが家族で湯治に行くといって不在で、ナンバーズも諸事情によりトーレだけがアジトの警護に残っていた日だった。
その日の正午過ぎ、奴が現れた。
ドゴオォォォォォオオオォォォオォォォンンンッッッッ!!!!
派手に天井をぶち破って。
「我が名は『ギルガメッシュ・ストラトス』!我(おれ)の嫁になれ!ナンバーズたちよ!!」
「……………は?」
アジトの天井をぶち抜いて現れたのは、かの慢心王。
まあ、おそらくは十中八九転生者だろうが。
て、いや、ちょっと待て。
「む?お前は何だ?雑種」
「…『カイン・スカリエッティ』という者だが、何故英雄王とあろうものがここに来た?」
「今言ったであろう?王の言葉が聞こえなかったのか?」
その背後から黄金の波紋が現れ、そこから出現した宝具の切っさk………ん?
「ほう、ぐ?」
「気にするなああぁぁぁぁっっ!!」
黄金の波紋から見えているもの、それは、
「金ぴかのデコトラだと!?」
「気にするなと言ったであろう!?」
ここで一つ整理しよう。
奴がかの慢心王の姿をしていると言うことは、奴の転生特典には『
その効果は、『持ち主の蔵から物品を取り出す』こと。
そしてやつの『王の財宝』から出てきたものは、金ぴかのデコトラ。
つまり、
「中身は空のまま転生したということか」
「言うなぁっ!そして哀れんだ目を向けるなぁっ!!そして予想はしていたがお前も転生者かぁっ!!」
「まあ、そうなるな」
いや、本当に哀れだろう。
ようするに今のあいつの『王の財宝』は、ただの便利な倉庫程度だろうから。
「なんだ?!何が起きたんだ?!」
ここで現れたか、トーレ。
いや、基本的には正しい判断だが、現状では間違い以外の何ものでもない。
「おお!我が妻よ!!」
「は?」
まあ、今日いたのがトーレでよかったかもしれん。
なにせ彼女は、
「何をふざけたこと言ってんだ?ヤリ過ぎで上の口まで緩くなっちまったのか?」
「……………………は?」
一番アベルの影響を受けてしまったナンバーズだからだ。
まあ、彼が呆けているうちに、ケリをつけてしまおう。
「『投影・開始』」
私が投影したもの、それは、
「『偽・螺旋剣』!!」
「て、ぬぉっ?!」
弓につがわれたそれから、手を離す。
私の手を離れ、飛んでゆく剣。
そしてそれは、
「『覇王断空拳』!!」
奴の拳によって防がれた。
て、
「「ちょっと待てえぇぇぇぇぇっっっ!!!」」
ありえん!
ありえんだろう!
なんだそれは!
我が父は犬でも孕ませたかt「戻って来い!」はっ!
「すまない、トーレ」
「まったくだ」
トーレの声で我に返ったが、今のはあまりのことだった。
というか、だめだろう。
英雄王が『覇王断空拳』なんて。
確かに『ストラトス』と名乗ってはいたけども。
「この英雄王たる我が婚儀の邪魔立てとは、大きく出たな、雑種」
あれを婚儀と言うか。
「その散り様で我を興じさせよ、雑種!!!!」
一気に大量に展開される黄金の波紋。
そしてそこから出てくる、
「全部黄金の鉄パイプだと?!」
「………仕舞っていたら、何故かこうなったんだ」
本人も予想外だったらしい。
しかし、だからといってこの状況が好転したというわけではない。
どうにかしなければっ!
そう思った瞬間、
にーに!にーに!にーに!にーに!
という、可愛らしい女の子の声が、奴の辺りから聞こえてきた。
「む!?ちょっと待ってろ」
『王の財宝』からゴールドカラーの携帯が出てきて、奴は電話に出た。
この隙に、投影を済ませておく。
「どうしたー?アインハルト?ふんふん。今日はハンバーグだから、早く帰ってきてだと?しょうがない奴だ。この天上天下、唯一にして至高の王の中の王、ギルガメッシュがお前の願いを聞き届けてやろう。うん。うん。じゃあ、分かった。今すぐ帰るから、良い子で待っているんだぞ?」
おい、ちょいちょい素が出てたろ?
英雄王の威厳はどこに行った。
「というわけだ。我は最愛の妹のため今すぐ帰らねばならない。これにて去らばだ!」
そう言うと、飛行魔法を使用して天井の穴から飛び立とうとする英雄(ひでお)。
間違えた。
英雄王。
まあ、逃がす気など最初からなかったが。
「そうあせるな。ゆっくりして行け」
「…我の決定に異存があるのか?」
「いや、そうじゃない。『
一言、言葉を発すると、前世でテレビ越しに良く見た光景が出来上がった。
いやはや、奴が電話をしている間に投影しておいてよかった。
「き、貴様!雑種の分際で王たる我に歯向かうというのか?!」
「いや、一つ用事があるだけで、それさえ果たしてもらえれば解放しよう」
そう。
私の要求それは、
「修理費をよこせ」
崩壊したアジトの天井の修理費用だ。
「何故逃がした?」
奴から修繕費を巻き上げ、デコトラで去るのを確認した後、トーレに問いかけられた。
そんなもの、決まっているだろう。
「捕らえる意味も、殺す意味もなかったからだ」
私は意味のない行動を嫌う。
それは、前世で虐められていた時に、『何故、こんな意味のないことをこいつらはするのか』と考えていたことに起因する。
「逃がす意味もなかっただろう?」
「あったさ。奴の妹が嬉しがる」
自己満足でしがないが、これは偽らざる本心だ。
「………私にはお前が分からないな。【検閲規制】野郎」
「私には何でお前がそうなってしまったのか分からないよ!?」
アベルから悪い影響を受けすぎだろう!!
しかもこれ、アベルがメガーヌと付き合いだした頃に加速していったし。
「あの頃のあいつが好きだったんだっ!!」
「男の趣味最悪だな!?」
もう、他にかける言葉がないぞ。
まったくもって嘆かわしいな。
いや、今のアベルはまだマシだが。
聞いた話だとアベルの奴、前世ではシンガポールで合法非合法に関わらず物資を運ぶ運送会社をしていたらしいし。
「ふんっ!私は訓練室にいるから、お前は空いた天井からの侵入者の警戒でもしていろ!」
「そうさせてもらおう」
そう言い残して、立ち去るトーレ。
しかし、本当に人生とはままならないものだ。
「………お前がアベルを好きなのと同じように、僕もお前が好きなんだぞ?」
なあ、トーレ。
『ゴロワーズ』
フランスでポピュラーな黒タバコと呼ばれる種類で、強く、特徴的な匂い。
『バカルディ』
『バカルディ社』製造の、世界的にポピュラーなラム酒。
というわけで、カインの短編でした。
まあ、カインメインの話のはずなのに、周りのキャラが濃すぎて存在感が若干薄れたという事実が転がっていますが。