『人造人間』が
『人造人間ヴァイオレット』は、愛に
「と、評するべきなんだろうなぁ?」
「んー?」
どうやら、別に俺の心を読んでくるとかはないらしい。
少し安心。
しかし、流石にこいつを相手に素面では戦えないし、戦いたくはない。
それにこの狭く一本道の下水管という環境では、ガキどもを庇いながら戦うのも難しい。
菫がその気になればさっきのように、鮮血の濁流でガキどもごと攻撃されかねないし。
こっちの目的はエリオとキャロが見つけた少女の保護と、そこのケースの確保。
現状、どちらも満たしてはいる。
しかし、後方にはいまだ『混濁の壁』によって蓋をされている、大量の鮮血。
通信のことを考えると、おそらくもうじきティアナとスバルも来るんだろうが、いかんせん既に手遅れと言ってもいいほどの状況だ。
俺からしたらだが。
となると、だ。
「なあ、菫」
「なあに?まーくん」
コテン、と首を傾げる菫。
うん、可愛いな。
「今度デートしてやるから、ここは別れようぜ?」
逃げるしかない。
「結婚してくんなきゃやだ。それか手足を私に繋がれて。首輪も着けて。そうすればまーくんも、私から離れられないよね?」
…これだからヤンデレってのは………。
ていうか今俺、監禁したいって言われてたよな?
嫌だよ。
普通に嫌だよ。
「嫌だよ」
「ぶーぶー」
頬を膨らまし、唇を尖らせて抗議してくるが、やっぱり可愛い。
外見だけは。
中身はドロドロの狂気なんだろう。
「ぶーぶーじゃない。この阿呆が」
「やん!まーくんに罵倒されちゃった!」
罵倒されたというのに、喜色満面と身体をよじる菫。
内容がどうあれ、俺に声をかけられたという事実が嬉しいのだろう。
その姿を見る俺は、嬉しくなんて欠片もないが。
女を罵倒して悦ぶのなんて、ベッドの中だけで十分だ。
「六禄さん…」
「ん?ああ、安心しろ」
今まで感じたことがない、人が発する生粋の狂気に触れ怖気ながらも、俺の服の裾に触れながら気遣わしげに声をかけてくれたキャロに笑いながら応える。
その頭を後ろ手にグシャグシャと少し乱暴に撫でると、顔を俯かせてキュッと裾を掴んでくる。
だから、言う。
「安心しろ」
バシャアッ!!
「お前らには、傷一つ付けさせやしないさ」
撫でている手とは逆の手で、『茨の十字』を掻き消しながら。
「なーんでなのかなぁ?まーくんは私のものなのに、何でその子はまーくんに触ってるのかなぁ?なーんで頭を撫でられてるのかなぁ?アハハ。うん、死んじゃえ」
眼に光の灯っていない、俺だけを見ているようでその実何も見ていない眼の菫。
とりあえず、最後の答えに辿り着くまでの過程が知りたい。
「ま、そんなことは、どうでもいい」
「あ、なんかすっごく久しぶりに聞いた気がするな。それ」
昔から、ずっと使ってきた口癖とも言える言葉。
それに菫が反応するが、それこそ、そんなことは、どうでもいい。
「やれえ!スバルゥゥッッ!!」
「『ディバイン・バスター』!!」
「え?キャアアァァァッッッ!!!??」
突如来た後ろからの衝撃により、菫がこっちに吹き飛ばされてくるのを、
「よくやったスバル!『ウェッジバインド』ォッ!!」
「わわっ?!」
魔力でできた多数の楔で、ピンポイントに関節を下水管に打ち付ける。
これなら力技で破壊されにくいし、拘束ということを考えても申し分はない。
スバルたちの到着を待ち、後ろから奇襲がかけられるように常に俺に意識が向ききるようにしてはいたが、上手いこと策に嵌ってくれたな。
「なにしてんの!早くその子とケースを連れて、地上に行くのよ!あんたが女の子を抱っこして、スバルがケース!!」
「みんな!早く!」
「「はい!」」
「はいな司令塔!ところでケースは『連れる』とは言わないぞ!」
「うっさい!!」
スバルに続いて到着したティアナの指示に従い、全員で下水管からの脱出を始める。
少女を肩に担いで走り出し、菫を横切る一瞬。
「…あきらめないから」
ポツリと、後数瞬遅れれば、聞こえなかったであろう言葉。
その言葉に立ち止まり、
「…俺はお前を、
「…うん、知ってる。だから、あきらめない」
…
「なら、好きにしろよ」
「アハハ。私、まーくんのそういうとこ、好きだな」
「そうか。…またな」
「…うん」
それだけの言葉を交わし、また走り出す。
薄暗く寒い、
マンホールを抜けると、空には一条の閃光がヘリに向かって奔っていた。
おそらくは、敵の砲撃だろう。
とりあえず、なのはが向かっているのが見えたし大丈夫だろう。
ジャンヌの保存領域から酒ビンを一本取り出し、一口呷る。
「六禄さん…」
「ん?」
声のした方に首を向けると、キャロが立っていた。
「…思いつめた表情をしてますけど、大丈夫なんですか?」
「…お前が心配することじゃないさ。これは、俺とあいつの問題だ」
「そう…、ですか」
「そうだ。さ、隊社に戻ろう」
心配してくれたキャロの頭を撫でて、背中を軽く押して促す。
見上げてくるキャロの眼を直視できず、ただ前を見て歩きながら。
烏の鳴く夕暮れの空。
全ての報告を終えた俺は、隊社に戻る途中に見つけたタバコ屋で買っておいた、中学時代に吸っていた『CASTER』の箱を持ちながら、ぼんやりと空を眺めていた。
今日の空は、雲ひとつもない快晴。
夕暮れの橙色が、ビルに映って映えている。
「もう随分と、止めてたんだがなぁ」
箱から一本取り出し咥え、ライターで火を点ける。
一息吸って煙を吐き、片手に持っていた酒ビンを呷ると思わず、あの頃のことを思い出す。
「…なんで、俺は死んじまったんだろうなぁ」
思い出の余韻に浸りながら、そんなことを呟いた。
『CASTER』
バニラの香りのする、甘めのタバコ。
次回は…、キャラクタープロフィールを。
現時点で出せる情報だけですけども。