…いや、本当に。
見舞い。
「あの子供が眼を覚ました?」
「そうや。てか、何を仕事場、しかも上司の部屋で酒飲んでんのや」
あの地下水道の一件から数日後。
隊社の部長室でニッカを飲んでいると、はやてがあの時に保護した金髪の少女が眼を覚ましたと言ってきた。
酒については好きだからしょうがない。
ゆっくり、チビリチビリと味わうように口に含み、鼻腔を抜けるその香りを愉しみながら飲んでいく。
………ああ。
「昼酒マジ美味い」
「いっぺんキレたろか?」
「キレる若者はんたーい」
ケラケラ笑いながら答えると、いい加減本当に怒りそうな表情をしてきたので、スッと立ち上がってその横を通り抜ける。
「どこに行くんや?」
背中越しに、はやての問いかけが聞こえてくる。
それに振り返らないまま、一言だけ伝える。
「見舞い」
病院に着き、受付で病室を訊いた後可愛い看護師がいないか確認しながら廊下を進んでいく。
途中の売店でアゲラタムの花とウサギのぬいぐるみを買い、病室に入ると、
「「あの子がいない?!」」
「………おい、どうした?」
なのはとフェイトが激しく動揺していた。
いや、本当に何があったんだ。
ベッドを覗けば、そこは空っぽ。
…ふむ。
「花でも摘みに行ったのか?」
「「………え?」」
そんなことは思いつかなかったと、そして突然の俺の来室にポカンとした表情を浮かべる二人。
何故その可能性を思いつかなかったし。
心配なのは分かったから、まずは落ち着け。
「こんにちは六禄君!でもでも!一時間もいないんだよ!?」
「大じゃないか?」
「こんにちは六禄!それでも長すぎだよ!?」
「漫画とか、雑誌とか、新聞とか持ち込んだんじゃ?」
「「それはおじさんだから!いいから探しに行って!!」」
二人に部屋から追い出され、白い廊下をまた歩き続ける。
俺が何をしたというのだ。
とりあえず、またキャンキャンと噛み付かれたくはないので、視線をあちこちに巡らしながら歩く。
ふと窓から中庭に目を向けると、そこには俯いてベンチに座る金髪の少女と、爺さんの車椅子を押す金髪の看護師。
…あの看護師、美人で胸が大きいな。
「よし」
そうだ。
中庭に行こう。
「ごめんなさい。私、今日は夜勤なの」
「あ、そうですか」
看護師を夕飯に誘ったところ、職務上の理由であえなく玉砕した。
女性を誘って断られるのは、正直割とマジで久しぶりだった気がするする。
しかし、そうなると時間が空くな…。
いや、そもそも俺は誰かを探していたはず………。
「【………マスター、ヴィヴィオさんを探しに行くのでは?】」
「【むしろ、あそこのベンチに座っているのがそうじゃないかい?】」
……………………あ。
「…ジャンヌ、ストレージからぬいぐるみと花出して」
「【………はい】」
なんとも居た堪れない空気の中、ヴィヴィオと思われる少女のもとへと歩く。
「やあ、どうしたんだい?」
「………へ?…わあ!ウサちゃん!」
気付かれないように後ろへ回り込み、俯いたその視界いっぱいに映るようウサギを顔面に近づけ裏声を使って話しかけると、俯いていた顔を挙げて歓声を出すヴィヴィオ。
カラオケで裏声を鍛えてて、良かったと思う瞬間だ。
「僕はクリス!君の名前は、なんていうんだい?」
「わたしはヴィヴィオだよ!クリスくん」
子供と初対面で話す時は、名前を知ってても言わないこと。
ちゃんと本人に聞いてからじゃないと、子供は何で自分の名前を知っているのかと恐怖心を感じるからな。
ああ、例外としてすぐ傍に親がいて、親から名前を教えてもらっているのを子供が見ている場合は大丈夫だ。
子供が親に対して持つ信頼感を嘗めない方がいい。
「ヴィヴィオちゃんは、ここで何をしているの?」
「…ママを、さがしてるの」
ニコニコとぬいぐるみに向かって話しかけていたのに、また俯く。
…こういう表情は、見たくないなぁ。
「父ちゃんはどうした」
「?!」
驚きのあまり、ヴィヴィオの顔が跳ね上がって俺の顔を見つめる。
…一瞬素が出ちまった。
まあ、いいか。
「クリスと、俺と一緒に探そうか?」
上から覗き込む形で、可愛らしいその顔を眺める。
「…おにいちゃんは、だれ?」
「水無月 六禄っていうんだ。よろしくね」
あ、これプレゼントねー。と微笑みながら花とクリスを渡し、そう答える。
するとヴィヴィオが、しばらくの間思案している表情になり、突然花が開いたような笑顔になった。
「むろくパパ!」
どうやら俺は、17歳にして一児の父になったらしい。
『アゲラタム』
花言葉:信頼 安泰 信頼・安楽・独立・楽しい日々・幸せを得る
主人公、父親になりました。
…しかし、次の更新いつになるかな………。