おっぱい。
それは究極の母性。
おっぱい。
それは魅惑の果実。
おっぱい。
それは全男子の大好物。
OPPAI。
最早その音の響きすら愛おしい、女性の乳房を指す言葉。
幼稚園児から老人まで皆が大好きなボインでタユンなおっぱいは、とても偉大な存在だ。
大きさ、形、色。
上級者になると味や香りすらも評価の対象になるらしいが、一概に言える事は男はみんな女性の双丘に興味津々という事だろう。
もちろん俺だって大好きだ。男はみんなおっぱいが好きだが、赤ん坊と高校生と四十代に差しかかったオッサン共は特におっぱいが大好きなのだ(偏見)。
前世でお世話になったお気に入りの風俗嬢の大半は巨乳だった。
出張先で利用した格安デリヘルで某ウルトラシリーズに出てくる三面怪人そっくりの大外れを引いた時も、顔の残念さを打ち消す程の爆乳だったので苦渋の決断の末にノーチェンジでお楽しみをした事だってある。
前世の同僚にも、酔っ払った勢いとは言え普段なら絶対に手を出さないような個性的な顔面のお嬢さんの巨乳に釣られて、ホテルでしけ込んだ事もあったそうだ。
どこかのふざけた深夜番組で調べた統計では美人な貧乳よりも、地味顔の巨乳の方が男性にモテるとまで報道していた。
果たしてどこまで本当かは知らないが豊満なバストは男の目を惹きつけて止まないセックスアピールである事は間違い無いだろう。
だが待って欲しい。
確かにおっぱいは大事だ。巨乳は正義だ。
それは揺るぎない事実であるし、全男性(貧乳好き。若しくはロリコン含む特殊性壁持ちを除く)が頷く鉄壁の法則であると自負している。
だが女体に実った魅惑の果実はおっぱい。つまり乳房だけでは無い。
男子諸君、一度考えてみて欲しい。
おっぱいに勝るとも劣らない。否。人によっては乳房以上に女性の性的魅力を存分に引き立てると断言するであろう、甘い媚肉の果実の名を。
そう。それこそが『尻』だ。
何を隠そうオッサンは圧倒的『尻派』だ。
女性のお尻が大好きなのだ。ボディラインを強調する細めのスカートやデニムズボンを鉢切らんばかりに、こんもりと盛り上がる豊満なヒップラインを拝見してしまった日には堪らない。
オッサンのオッサンが年甲斐もなくオッサンらしからぬ暴発を起こそうとするのを抑えるのは大変だ。
人生舐め腐ってるようなチャラチャラしたコギャルが素肌に張り付くような小さめのホットパンツを装備してる様を見れば、その時の興奮はヤバイなんてもんじゃない。
危うく普通のオッサンから俗に言う『わからせオジサン』にジョブチェンジしてしまうところだ。
これらは決して大袈裟な表現では無い。
嗚呼、諸君。如何に俺が女性の尻を愛しているかが、ほんの少しでも伝わっただろうか。
……何? 先程まで散々おっぱいおっぱい騒いでいたのに秒で矛盾しているじゃないかって?
そういう訳ではない。もちろん俺はおっぱいも好きだ。おっぱいが大好きだ。
特にDカップ以上の巨乳に目がない。バストサイズとカップ数はデカければデカい程イイ(但しデブは除く)と考える巨乳爆乳大好き男だ。
つまり、単純な話なのだ。俺はとてつもなくおっぱい。女性の乳房が大好きだ。
だが‼︎ それ以上に‼︎
夢見るほどに愛して止まないおっぱい以上にヒップ‼︎
つまり女性のお尻がおっぱい以上に大好きと言うだけなのだ‼︎‼︎
俺だって若い頃。具体的には二十代半ばまではひたすらにおっぱいに魅了されていた。
認めよう。確かに若かりし頃の俺はおっぱいにしか興味がなかったし、「女は尻だ‼︎」と語る男共を冷めた目で見ていた。
だがしかし、時間は人を変えていく。
燃え上がるような恋心が、次第に冷めていくように。
血が噴き出るような傷が、やがて塞がり傷痕となるように。
たまにコーラやシャンメリーを飲むだけで幸せだったのに、いつの間にか酒を飲まないと幸福を感じなくなったように。
若い頃は焼き鳥も皮が好きだったけど、ネギまとかささみの方が美味しく感じて来たように。
徹夜で遊び呆けてても楽勝だったのに、いつの間にか身体が持たなくなってしまったように。
優しくも残酷である時間。
それらがもたらすゆったりとしていて確実に起こりうる変化。
そう。成長して大人になるにつれ、胸派だった俺もいつのまにか尻派に変わったのだ。
……なんか前半の例えと後半の例えのニュアンスがズレている気がするがスルーして欲しい。
さて、話を戻す。
勘違いしないで欲しいのは先も言った通り、尻派の俺でも胸は好きだ。特に巨乳が好きだという事。
この情熱と肉欲に嘘は無い。前世のパソコンの秘蔵フォルダの中に眠る数多の巨乳モノの裏ビデオファイルの中身全てを賭けても良い。
おっぱいもお尻も大好きだ。
と言うか単純に顔が綺麗な女性にはもちろん惹かれてしまう。
そして大前提として、どんなに巨乳で巨尻で。そしてパーフェクトなプロポーションを持ち、絶世の美貌を誇る女性だったとしてもだ。その肌に俺自身が触れる事が叶わないならば、というかその身体を味わえなければ意味が無い。
結論を述べよう。
もしも俺が好きな女性のタイプを尋ねられたらこう答える。それは………
胸も尻も大きくて、顔も性格もよくて、なおかつヤりたい時にヤらせてくれる女である‼︎
なお、ついでに大金持ち、もしくはバリバリ金を稼いで来てくれて俺がヒモになっても文句を言わない都合の良い女だと尚のこと良い。
「やっぱり一緒に居て落ち着ける人。ですかね? フィーリングが合う女性とでも言えば良いのでしょうか?」
佐城 ハリソン16歳。ボクは産まれてから一度もえっちな事なんて考えたことも御座いません。
「成る程ー、落ち着ける人か。佐城くんらしい言葉だねっ。確かに恋人になるなら内面での相性って大事だもんね」
そんな事を自分に言い聞かせるようにして俺は無垢な笑顔を作り、向かいに座る櫛田に。
「す、凄く大人っぽい、答えだと思います……!」
「やっぱり経験者が言うからか、説得力がありますよね」
それから一緒にテーブルを囲んでいる『井の頭 心』と『王 美雨』にニコリと笑いかけた。
ここは校舎に併設された喫茶店。高度育成高等学校、全在校生の行きつけと言っても過言では無いその場所の名は『パレット』。
店内は学生達で賑わっているが、偶然にも奥まった所にあるテーブル席は空いており、そこで一息つきながら女子高生達に混ざってマッタリと恋バナに興じていた。
ちなみにメンバーは櫛田、井の頭、王。そこに異物混入したオッサンの計四名。
面子だけ見れば女子会に空気読まない馬鹿な男が入り込んだ。もしくはいけ好かない男のハーレムパーティーに見えるかもしれないが、側から見たらハリソン少年の顔はどっからどう見ても美少女にしか見えないのでセーフであろう。全く嬉しくない。
男子生徒の制服をしっかり着てるにも関わらず、見知らぬ男からナンパされる事にもすっかり慣れてしまった。
先週末に櫛田の誘いをきっかけにカラオケで遊んだ結果、俺の友人が増えた。
つまり挨拶程度の関係にしかなれていなかった王、井の頭、両名と無事に友好を結ぶ事が出来たのだ。
今では王と英語で互いの実家について(王は中国。ハリソン少年は母方の実家がイギリス)語り合ったり、井の頭に英語を中心に軽く勉強を教える程度の仲にまで進展している。
もちろん互いの連絡先も交換済だ。挨拶程度しか関わりの無かった頃とは雲泥の差だと思う。
(これについては素直に櫛田に感謝だな。またその内どこかで奢ってあげよう。前は甘味処だったし……次はもうちょいグレード上げて高級志向のイタリアンレストラン辺りなら、背伸びした高校生でもおかしくないか?)
ちなみに今回こうして放課後にわざわざ喫茶店に集まった理由。
それはDクラスの誇るイケメンリーダーこと『平田 洋介』がついに恋人を作った事がきっかけだ。
ちなみにお相手はDクラスの女王蜂。イケイケギャルの『軽井沢 恵』。
ある日の登校時に二人仲良く手を繋いで歩いていた姿を多数のクラスメートが目撃し、何人かの男子生徒が平田に詰問。
ケロリとした顔で平田があっさりと交際を認めた為、男子はリア充への道を先んじて進んだイケメンに嫉妬して阿鼻叫喚。
女子は狙っていたイケメンが彼女持ちになった事を嘆きつつも、クラス初のカップルの誕生という桃色の恋バナにどこか浮き足立った。
常日頃から馬鹿みたいに五月蝿いDクラスがまるで爆発するように騒ぎ出したのが今朝の話。
ホームルームで連絡事項を話す茶柱の声がまともに聞こえなかったと言えば、その熱狂っぷりが分かるだろうか。
「うぅ……平田くん……」
そして目の前にいる小動物。マリンブルーのショートヘアーをちょこんとツインテールにまとめたロリっ娘にして俺の新たな友人の一人。
『王 美雨』がこうして見るも無惨にガッツリ失恋してしまい、失意のドン底で潰れているのが現在進行形の話。
もともと櫛田から誘われていた四人でのケヤキモールのウインドショッピング巡りの予定は急遽、失恋した『みーちゃん』こと王を慰める会となったのだ。
「げ、元気出してみーちゃん。その、辛いかもしれないけど私達、まだ入学したばかりだし……ね?」
「そうだけど……でも、でも初恋だったんですぅ」
辿々しくも王を慰めるもう一人の少女、井の頭の顔をぼんやり眺めながら俺はアイスティーで唇を湿らせた。
不可思議なグラデーションのセミロングを緩く巻いた井の頭 心という少女は『よう実』世界の女性キャラの法則から外れる事なく、これまた文句なしの美少女だった。
原作では名前のあるモブでしかない雑な扱いを受けていた彼女だが、その透き通った白い肌と細い手足。
スッキリとした形のいい眉に、菫色が映える大きな垂れ目。
あがり症で内気なところが玉に瑕とは言え、視点を変えれば庇護欲の沸いて来る小動物的な雰囲気と言える訳で。
(これでクラスカーストは低い方なんだっていうから分からねーよなあ。前世ではこんなレベルの美少女、テレビ越しでしか見たこと無いっつうのに)
最近ようやくまともに会話が出来るようになった井の頭だが、残念ながら彼女はDクラスの女子カーストでは下位の扱いをされている。
櫛田と仲が良いから存在は認めておいてやろう。そんな言葉で聞いた訳では無いが、軽井沢や篠原なんかを観察していると、そう言った雰囲気が漂っており、あからさまに軽井沢グループを中心とした声の大きい女子達からは見下されている。
堀北、佐倉、長谷部等のボッチ達よりは多少は上。と言ったところだろうか。
尤もそのボッチ組の中でも堀北の嫌われ具合は半端じゃ無い。
ソースは櫛田に愚痴っているクラスの女子達。その内容だって殆どは見下したような態度を取る堀北に対し、あえて聴こえるような絶妙な声量での口撃に他ならない。
入学して一月も経たない内に女子の派閥を越えてまでの、堀北の異様な嫌われっぷりはいっそ清々しさすら感じる。流石は孤高の女と言ったところか。
「あ、あの? 佐城くん? わ、私の顔に何かついてます、か?」
ボンヤリと下らない事を考えていたせいか、ついついガン見してしまった井の頭と目が合った。
「……ああ、いえ。ただ井の頭さんはお優しい方だな。と。御友人を心から大切にしている様子が伝わって来たので思わず魅入ってしまいまして」
「へっ⁉︎ あ、あのっ、べ、別に私は……その、あの……‼︎」
当たり障りのない返事を適当に返すと、井の頭は案の定、直ぐに顔を真っ赤に沸騰して顔を伏せてしまう。
Dクラス全員に気を遣って声をかけている平田を除けば、俺と言う存在は彼女にとって唯一の異性の友人となる筈だ。
そう考えれば俺と井の頭は結構、仲の良い関係になれたと思うのだがこうして赤面する癖は変わらずじまい。
普通に会話をする分には通じるのだが、ふと視線があった瞬間に顔を真っ赤にしてそっぽを向かれてしまう事もしばしば。
(うーん。ベタな展開で考えるんなら井の頭が俺に一眼惚れした。とかいうパターンなんだが……無いよな、うん)
確かに俺の顔。というかハリソン少年の顔は整っている。
ふと鏡を見た時に我ながら引いちゃうくらいには美しい顔立ちをしている。
だが残念ながらその美貌は女性的な意味だ。
「わわっ‼︎ 心ちゃん落ち着いて‼︎ 佐城くんに他意はないんだからっ。そうだよねっ?」
「他意? ええ、もちろん。ですが女性の顔をまじまじと見つめるのは無礼でしたね。井の頭さん、申し訳ございませんでした」
「そ、そんな無礼だなんてっ‼︎ た、ただ恐れ多くてっ……ううっ、と、尊い……眩しい……」
一応うっすらと筋肉はついているが間近で観察しなければ分からない程度のもの。
おまけに身長は櫛田と大して変わらない程度と、男としてはあまりにも低い。
基本的に前世のオッサンよりも高いスペックを誇るハリソン少年の身体の唯一の不満点が身長だと言えばその小ささが伝わるだろうか。
(見た目は女。声も高い。筋肉は薄い。極め付けにチビ。……うん。潜在的な同性愛気質でも無い限り、年頃の女の子がわざわざ俺みたいな女なんだか男なんだか分からないイロモノに惚れやしないだろう)
現に沖谷なんかもクラスのイケイケ系女子達に可愛いらしい。と弄られる事はあるが、どちらかというと愛玩動物的な扱いだ。
中性的な彼ですらそんな扱いなのだから、外見だけは美少女の俺が女に惚れられる事は残念ながら皆無だろう。
記憶を漁ったところ男女の体格の違いが少ない中学前半時代までなら、顔が整っているからかハリソン少年もモテていたようだが……
「わ、私の目の前でイチャイチャするなんて酷いです……い、イチャイチャ。手を、繋いで……うぅ……平田くん……」
「今度はみーちゃんまで‼︎ こっ、心ちゃんもみーちゃんも一旦落ち着こうよっ⁉︎ ねっ⁉︎」
何故か揃って撃沈した二人を今度は櫛田が必死に慰めるというコントのような様を眺めながら、俺はボンヤリと考え込んでいた。
(モテないのは男として悲しくはあるが、ハリソン少年は童貞も中学時代に捨ててるし。そもそも高校在学中に彼女作るつもりは皆無だし……まあ、別にいいか)
五月に明らかになるであろうクラス間闘争を予め知っている俺からすれば恋人を作るつもりは一切無い。
他クラスは以ての外、Dクラス内で恋人を作ったところで龍園や坂柳の一部性根の腐った強キャラ辺りに人質にされかねない。
恋愛は青春の醍醐味とは言え、そこら辺はキッパリと諦めている。
女子からの好感度はそれこそ最低の山内レベルにさえならなければそれでいいだろう。
むしろ俺としては女子からの好感度よりも男子からのを何とかしたい。
もちろん、外見だけで勘違いして下衆な目線でこちらの身体を舐め回すように観察しながら寄ってくる血迷った変態共を散らしたいという意味でだ。
平田ですら未だに挨拶程度しか出来ないのだ。
それ以外の男子は見事に関わりがないのはどうしたものだろう。
……山内? 池? アレは別枠。相変わらず俺に対してセクハラばかりだ。割と本気で死んで欲しいと最近思っている。
閑話休題。
落ち込む王を慰めたり、半泣きの王から平田への熱い想いを演説されたりしてる内に、そのあまりの甘ったるくも胸焼けする初恋の熱意に当てられた井の頭が顔を赤くしてまたまた沈没したり。
それを櫛田が頑張ってフォローしたり。
そんなどこか馬鹿馬鹿しくも悪くない青春の一時を過ごしている内に、話の流れはどんな異性が好みかという話に。
俺が。というかハリソン少年が過去に交際経験があるというのは櫛田達に知られていたので、好機の視線と共に真っ先に俺に話が振られた。
そんなやり取りの末、『好みの異性について』という、ある意味ハリソン少年にとっては殺意マシマシのキラーパス的な質問を、爽やかな白い笑顔で躱してみせたのが冒頭の台詞という訳だ。
……え? 嘘八百にも程がある?
いいんだよ。大人はみーんな嘘つきなのさ。
「あっ、そう言えば前に佐城くんは星乃宮先生に片想いしてる〜なんて噂が流れて来たけど……」
「私も聞きました。軽井沢さん達がそんな話をしていて……か、軽井沢さんが……うぅ、平田くん……」
「あっ、私も。聞きました、よ?」
「……えーと。何となく嫌な予感がしますが一応聞いておきますね。どこからそんな突拍子の無い話が湧いて出たのでしょうか?」
なんでやねん。
似合わぬ関西弁で内心突っ込んでしまった俺の気持ちを察して欲しい。
根も葉もない噂というのは流石に困る。
「えっと。主にBクラスの女子から聞いた話なんだけどね?」
櫛田情報によるとフレンドリーな星之宮はBクラスの生徒から優しい担任と判断され、非常に気安い関係で生徒に混じって談笑することも多々あるらしい。
おまけに入学して間もないこの時期は主に一年生が慣れない環境から体調を崩して保健室に世話になったり、一人暮らしの寂しさから相談に訪れる新入生の数もそこそこいる。
そこでフレンドリー極まりない星之宮の性格に引っ張られるようにして、彼女の大好物である恋バナへと移行するパターンが多いのだとか。
そこで星之宮本人の口からよく上がる名前が『職員室までわざわざ星之宮先生を指名し、二人っきりで内緒のオハナシをしている噂の姫王子様』こと、ハリソン少年である。
そこから噂に尾鰭がついて何故か俺が星之宮先生に禁断の片想いをしている。という三流メロドラマにありそうな設定に改変されたのだろう。
(解せぬ)
いや、流石に星之宮からはお気に入り扱いされてるんだろうなぁ。という自覚はあったので冷静に考えれば多少は解せるが。
なんだかんだ言って初めて職員室に会いに行った後も、何度か相談という体で星之宮とは二人っきりで話をしている訳で、その度にそんじょそこらのキャバクラよりも濃密なボディタッチをされている訳で。
(あんまり変な噂がたっても動きづらいから困るんだよなー)
ある程度は広まっている噂を完璧に消すのは無理だろう。
悪足掻きにしかならないが、とりあえず俺は真実を言い聞かせるようにして周囲に語りかけた。
「まあ、ボクが星之宮先生に度々お世話になってるのは事実ですのでそこは否定致しませんが……そもそも教師と生徒ですからね。あの方と色恋どうこうというのはあり得ませんね」
だが噂とは言え恋バナ。女子の大好物の食いつきは並々ならぬものではない。
ますます興味津々と言った様子で先ずは櫛田が身を乗り出した。
「でもっそれってシチュエーション的には凄くロマンチックだと思うけどなー。それに、星之宮先生って同性から見てもすっごく美人だし優しそうな人だしっ」
「た、確かに。星之宮先生も、茶柱先生も。大人の女性って感じで……凄く、素敵ですよね」
「うん。確かに素敵……素敵、カッコイイ……うぅ、平田くぅん」
釣られるようにして前のめりになった井の頭と王はさておき。
思わず櫛田に対し「お前も星之宮と似たようなキャラだろうが」とツッコミを入れたくなったが、冷めた紅茶と一緒に文句は飲み込んだ。
それと王はいい加減に立ち直れ。どうせアイツら偽装カップルなんだから。原作知識だから迂闊に暴露は出来ないけど。
「ロマンチックかもしれませんが未成年である生徒が教師とそういった関係になったら犯罪ですよ。特にここは国営のエリート校な訳ですし、星之宮先生もそういった線引きはしっかりされていると思いますよ」
「本当かな〜。ちょっと怪しいな〜?」
その後もどうにか星之宮の件は逃げきれたものの、恋バナの喰いつきは凄まじく。
女性陣の熱意は冷める事を知らず、根掘り葉掘りハリソン少年の過去の恋愛経験を晒すハメとなってしまう。
とは言え馬鹿正直に話すには余りにも生々しく官能的だ。
適当に誤魔化しながら「本当の事は言ってないけど強ち嘘ではない」レベルにまでスケールダウンさせた思い出でその場を凌がざるを得ない。
例えば櫛田に「元カノさんは同級生?」と聞かれた時は「先輩ですよ」と答えたり。
井の頭に「こ、告白とかって……その、どちらから?」と聞かれたら「互いに好き合ってたのは察していたので告白は無しで、気づいた時には恋人に」と誤魔化したり。
王に「デートはどんな所に行ったんですか?」と聞かれたら「色々な所に行きましたが相手方が一人暮らしだったので自宅デートが多かったです」とボヤかしたり。
(本当のことを話したら恋に夢見る女子高生の幻想を壊しちまいそうだしなぁ。あと単純に下ネタ多いから明るい内に話すのはキツいでしょ)
嘘はついていない。
ハリソン少年の初恋相手である『先生』は同中学の卒業生であるから間違いなく先輩ではあった。
互いの『好き』という感情のベクトルはハッキリと違っていたが少なくとも嫌いあってはなかったし、ハリソン少年は本気で先生を恋慕い心から愛していた。
自宅デートが多かったのも本当で、生徒と教師という関係のせいで周囲にバレないように二人きりで逢う時は彼女の自室。というよりも彼女の寝室の中だった。
(ハリソン少年にとっては間違いなく初恋だったんだろうけど……結果が結果だからなぁ)
果たしてそれが幸せな恋人同士として健全な姿であったのか。そこについては決して触れないように気を遣いつつ。
好奇心を隠そうともしない三対の輝く乙女の視線と疑問を、のらりくらりと躱しながら中身の無い話を受け流し続けたのだった。
「今更だけど本当によかったの? 佐城くんに全額出して貰っちゃって……」
「お気になさらず。女性の方は何かと入り用でしょうし、お茶を御一緒して貰ったに関わらず、支払いを女性にさせた等と知られたら母に叱られてしまいますから」
すっかり長居してしまったせいか、学生達の喧騒で賑わっていた店内は、人影もそろそろまばらとなってお開きの雰囲気が漂っていた。
思い出したように支払いについてのアレコレを俺に確認する櫛田の顔は、あいも変わらず完璧な演技で非常に申し訳なさそうな表情をしている。
「ご、ご馳走様でした。佐城くん」
「先日のカラオケの時もそうでしたけど、今日もありがとうございました、佐城くん」
「いえいえ、どう致しまして。少しでも王さんのお気持ちが楽になったなら幸いです」
元々は王を慰めるという名目の集まりの為に彼女以外の三人でワリカンをするという話だったのだが、俺がそこに待ったをかける。
手っ取り早く友好度を上げたかった俺は先週のカラオケと同様に、全額自分が奢る事ことにした。
これで相手が軽井沢のような調子に乗って集りに来るような恩知らずな娘ならともかく、クラスでも大人しめで言い方は悪いが分を弁えているタイプの賢い二人ならばいい感じに恩に着てくれるだろうという下心からの行動だった。
別に女性として彼女達を狙っている訳では無いが、五月以降は派手に動く事が決まっている身としてはいざという時に味方してくれる存在は多ければ多い程に心強い。
(言っちゃあなんだが、こんな端金で好感度が買えるもんなら安いもんだよな)
そもそも校舎に併設されている喫茶店である『パレット』は一般的な店舗と比べて単価が安い。
四人分のドリンクバーとみんなで摘めるパーティータイプの菓子代数種のお会計を合算しても、以前に櫛田と二人で行った和風喫茶店と支払額が大して変わらない程度なのだ。
この程度の金額で美人な女子高生から、ほんの少しでもイイ人と認定されるなら安いモノ。
乱発すると貢くん認定されそうなので、来月以降は控えるつもりではいるが。
「でも前回のカラオケも殆ど佐城くんが出してくれたし……本当に無理しないでねっ?」
「ボクはそもそも外出も買い物も殆どしないタイプですからお気になさらず。次回のポイントの支給日も近いですしね」
カレンダーを確認すれば一週間も経たない内に五月に突入する。
一日はポイントの支給日であり、調子に乗って使い過ぎたとしても問題なし。
また夢のような学生生活を謳歌する事ができるだろう。
0ポイント支給されるDクラス以外は。
「あ、そっか。一日になればまたポイント貰えるんでしたよね。す、凄い学校ですね」
「うんっ。本当にこの学校に入学できて良かったね‼︎」
「はい。毎月10万ポイント貰えるなんて夢みたいな学校ですね」
井の頭の呟き。櫛田の喜びの声。それに続いた王の言葉。
この瞬間を待っていた。
(ここだ)
俺はそのタイミングを見逃さなかった。
「……本当に」
ポツリ。擬音にするとそんな小さな呟き。
美麗な顔立ちのハリソン少年にお似合いのボーイソプラノは美しい。高く、甘く、心地良く、耳に残る。
だからこそこうして、先程までキャイキャイと笑顔ではしゃぎながら帰り支度をしていた少女達が不思議そうな顔をして一斉に俺の方を振り向いた。
交友を重ねた今ならばグループ内の精神的な距離感も十分に縮まっただろう。
きっと今なら。俺の言葉を聴き。疑問を持ち。そして行動に移してくれる筈だ。
「その。何というか……今更。そう。今更、の疑問なのですが……」
心の中で咳払い。
美少女JKに囲まれたカフェの一時はストレス塗れの俺の心を癒してくれた。体力とマインドの回復は完璧。
だからこそ、こうして万全の状態で行動に移る事が出来るのだ。
「本当にボク達は、毎月10万ポイントもの大金を学校側から支給して頂けるのでしょうか?」
怪訝な顔。不思議そうな瞳。キョトンとした表情。
三者三様の少女達の視線に胸を高鳴らせながら、見えないように小さく小さく舌舐めずり一つ。
(暗躍……なんて言うほど大袈裟じゃあないが将来のDクラス内での俺のポジション確保の為。もうちょっとだけ付き合って貰うぜ御三方)
オッサンのなけなしの演技力全てを賭した、渾身の茶番劇の開幕である。
あと、2.3話オッサン視点が続いた後に綾小路視点と櫛田視点が入ります。
感想、評価ありがとうございます。励みになります。嬉しいです。
もっとちょうだい。