ようこそしたくなかったわ、こんな教室   作:薔薇尻浩作

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未成年者飲酒の描写がありますが真似はしないでください。
あと1.2話で綾小路視点に行ける筈。


酒は飲んでも呑まれるな‼︎(至言)

 

満漢全席。

 

山海のあらゆる幸を存分に使った豪華絢爛な客席料理である。

本番中国では熊の手や燕の巣、象の鼻にラクダのコブ。挙句の果てには猿の脳まで食材に使うという色んな意味で物凄い豪華さを誇る(悪)夢の料理だ。

ちなみに猿の脳を食べると不治の病に感染する恐れがあるので、個人的には食べるのはおすすめしない。

 

 

「宴だ」

 

 

テーブルの上にギッシリと並んだ料理の数々は、そんな絢爛豪華な満漢全席とは程遠い庶民的な物が多かった。

和洋中とジャンルはバラバラながらどの料理も一品一品は少なく、中にはスーパーの半額惣菜をレンジで暖めただけのものもある。

濃いめの味付けで、油っこいものが多い献立は思春期の少年の食事として考えると栄養バランスの上では褒められたものではない。

だが今の俺には、そんな粗野でありふれた安物の料理達がどんな高級料理よりも輝いて見えた。

 

 

「待ちに待った。夢にまで見た。念願の宴だ」

 

 

だがこれら全て、おかずや副菜では無い。

ワンコインで買えるパサパサのポテトサラダも。

衣が異様に分厚くて油がギトギトのメンチカツも。

暴力的なまでに味の濃いタレがベタベタと塗りたくられた焼き鳥の盛り合わせも。

久々に作ったから型崩れしてしまった不細工なアボガドグラタンも。

オリーブオイルを買い忘れたので胡麻油を代用した結果コレじゃない感が凄いカプレーゼも。

食品添加物と塩分がてんこ盛りのスナック菓子の盛り合わせも。

お弁当コーナーでたまたま無料品として売れ残っていた茄子の揚げ浸しも。

 

全ては肴。

そう、酒のツマミの為だけに用意したものなのだから。

 

 

「オッサンの、オッサンによる、オッサンの為の宴だ」

 

 

空を仰ぐ様にして両手を掲げて歓喜を表した。誰が見ている訳でもないのだ。独り言も、無駄な小芝居も誰も咎めやしない。

大量の料理の隅に置かれた容器を見ると、ますます笑顔が溢れてくる。

非常に大きな業務用のガラスボトルが二本、ドドンと音立てるような圧倒的な存在感を持って鎮座していた。

一般的には梅酒の仕込みや大量のピクルスなんかを漬け込む為に使われる事の多い巨大なガラス瓶の中には、サフランを溶かしたような黄金色の液体で満たされている。

濃度に違いはあれど、その中身は自作の蜂蜜酒がギッシリと詰まっているのだ。

 

待ちきれないとばかりにプラスチック製の蓋をねじ開ける。するとブワッと部屋中にアルコールの香りが広がった。

 

 

「嗚呼。嗚呼。酒よ。俺の愛しい相棒よ……ようやくお前を味わう時が来たのだな」

 

 

ホゥ。と思わず熱い吐息が漏れた。

あまりの高揚感にまだ一滴も飲んでないというのに、身体はすっかり熱を持ってドキドキと心臓が高鳴る。

酒に酔う前に、すっかり歓喜に酔ってしまったようだ。

 

 

「長かった。あんまりにも長かった……苦節約一ヶ月。何度ストレスでぶっ壊れそうになった事か。何度眠れぬ夜を過ごした事か。何度山内を殺してやろうと思ったか」

 

 

ハリソン少年の中にオッサンの前世が芽生えてからというものの、苦難の連続だった。

慣れない身体。周囲との温度差。チンパンジー共の喧騒。性欲に塗れた男共の視線。

地獄の日々と言っても過言ではなかろう、莫大なストレスに襲われる毎日。

 

星之宮の疑似キャバクラや友人となった美少女三人衆との癒しの日々が無かったら、きっと今頃は胃に穴が開いて病院のベッドでグッタリとしていた事だろう。

……椎名? あれは龍園の影がチラつくから、いくら美少女でもストレス要因にしかならない。

あれから毎日メッセージが来るし本の感想も求められる。

こちとら忙しいと言うのに読みたくもない本を読まされて時間を割かれるので普通に困るし。まあ椎名本人に悪気は一切無いだろうけど。

 

 

「だがそんな千辛万苦を乗り越えた今‼︎ ようやく俺も報われる‼︎」

 

 

酒を作ろう。そう決めた時の最初の蜂蜜水は結局無駄になってしまい、破棄する事になった。

貴重なポイントを浪費するハメになった愚かな自分を呪いながら、追加で購入する事になった大量の蜂蜜。

当初の予定よりも倍に近い金と時間をかけて作り上げた蜂蜜酒は愛着も強い。

まだまだかと胸を高鳴らせながら発酵を待ち望んでいた日々。

気泡がプツプツと弾け出した瞬間のあの感動。

沈殿した澱を丁寧に取り除く作業の緊張感。

もはやここまでの手間と時間、感情の起伏を捧げた手製の蜂蜜酒は俺にとって、ただの酒では無い。

そう。この酒は愛情込めて育てた我が子と言っても過言ではないのでは?

 

 

「左の蜂蜜酒を蜂男。右の発酵途中で蜂蜜を追加した方を蜜子と名づけよう」

 

 

本来だったら味を整える為と風味だけでも大好物のビールを味わう為に、ノンアルコールビールも買うつもりだった。

だが先ずは愛息子、愛娘である蜂蜜酒そのものの味をしっかり味わう為に、割材はシンプルな強炭酸水以外は一切買わなかった。

……ノンアルコールとは言えビールと名前のつく物を買ったら教師陣に連絡が行きかねないので日和っただけとは言ってはいけない。

 

 

「ワイングラス買えば良かったか? いや、飲酒や密造を疑われない為には念には念を入れても足りないぐらいだろ」

 

 

興奮のあまり独り言が多くなっている自覚はあるが気にしない。

黄金色の蜂蜜酒を零さないように慎重に注いでいくと、発酵の過程ですっかり糖分を分解されたせいか、蜂蜜独特のドロドロとしたとろみはすっかりと消えている。

しっかりとした数字を知っている訳では無いが、粘性率は水や白ワインと殆ど変わらない。

 

太陽を溶かしたような気高さ漂う蜂蜜酒が百均で売っているプラスチックカップに注がれるのは何だかチープな光景だ。

味に五月蝿い酒飲みはグラスに拘るし、極端な例だと飲み口の厚みにすら目をつける人間もいる。

曰く人間の味覚はとにかく敏感らしく、口に触れる食器の面積すら味わいが変わる要因になるのだとか。

 

 

「だがそんなお上品な雑学、一般リーマンの俺には関係無え‼︎」

 

 

安物のプラスチックカップを天に捧げる。

LED照明の青白い光を反射して黄金色の天甘露がキラキラと波打つ様に煌めいた。

嗚呼、なんて神々しい景色なのだろう。

 

 

「prosit‼︎」

 

 

銀河の大皇帝に習った乾杯の音頭を叫び、飛びつくような勢いでカップにキス。

ゴクリゴクリと大袈裟なまでに喉を鳴らしながら自作の蜂蜜酒を一滴も零さぬように飲み干した。

 

 

「嗚呼……」

 

 

アルコールを含んだ吐息がボォっと漏れた。

 

はっきりと言おう。不味い。

あまりにも不味かった。

 

度数は想像していたよりも低く、コンビニで安売りしてる白ワインよりも飲み口が軽い。否、軽すぎて飲み応えが無い。

 

肝心の味もビールと白ワインをごちゃ混ぜにしたような粗野な味わい。前世で飲んだどんな安酒よりも微妙な味。この酒が店売りしていたところでリピートは有り得ないと断言していい。

 

おまけに最後は香りだ。原料のドライイーストの種類のせいなのか量のせいなのか。肝心の蜂蜜の香りよりも、むしろ小麦のような酵母の香りの方が強く、鼻から抜けるアフターフレーバーは粗雑の一言だ。

 

 

「嗚呼……嗚呼……‼︎」

 

 

飲み口は弱い。雑多な香り。粗野な味わい。

悪酔いしそうな、明らかに質の悪い安酒だ。

 

だが、それでも。

 

 

「酒だ……俺は酒を飲んでいるんだ‼︎」

 

 

命の源。魂の液体。二足歩行兵器ホモサピエンス専用ガソリン。

灼熱のアルコールを体内に摂取した、この爆発するような感動は色褪せなかった。

 

 

「酒‼︎ 飲まずにはいられないッ‼︎」

 

 

あまりの不条理に怒鳴るようにして叫んだ、いつかの言葉。

だが今こうして同じ口上を述べたとは言え、あの時との心境は真逆の一言だ。

ドポドポとカップに蜂蜜酒を注ぎ、飛びつくようにカップに口付ける。

流し込むようにして飲み干しては、また注ぐ。

この酒は味わう酒では無い。酔う為の酒だと舌先と本能で瞬時に察したからだ。

 

 

「最高にハイってやつだアアアアアアハハハハハーッ‼︎」

 

 

どこぞの吸血鬼もビックリのハイテンションで立ち上がり、近所迷惑すら恐れず叫び声を上げる。

帝国式作法に乗っ取り、空になったプラスチックカップをテンションのままにフローリングに向かってぶん投げると、ポコポコと間抜けな音を立てて玄関の方に転がっていった。

 

 

「っしゃあああああ‼︎ 今日はひたすら飲んで食って楽しむぞおおお‼︎」

 

 

俺は直ぐに新しいカップを取り出すと蜂蜜酒を注ぎ、テーブルの上の料理を貪るように食い始めた。

行儀も糞も無い、Dクラスのチンパンジー以下の作法だが今日だけは気にしない。

溜め込んだストレスが消え去るまで、俺はこの宴を心から楽しむと決めたのだから。

 

 

「あー‼︎ 酒美味っ‼︎ 飯美味っ‼︎ 俺、生きてる‼︎ 今凄く生きてるって感じがする‼︎ くーっ‼︎ あー、なんだったら平田との話し合いなんかスルーしちまえば良かったな‼︎」

 

 

久々に腕を振るった得意料理であるアボカドグラタンを頬張りながら俺は放課後の教室で行われた小会議。

平田、櫛田、軽井沢、俺の四人で行われた、あの無意味な話し合いを思い出していた。

 

 

「平田とは仲良くしてたいけどさー。ぶっちゃけ俺が目指してるのは高円寺みたいなカースト外ポジションだからなー。……プハッ、酒美味っ。……あーっと、平田と一緒にクラスの為に働くとか、ぶっちゃけあり得ねーんだよなー」

 

 

いい感じにアルコールが走り回った火照る頭でボンヤリと考える。

クラスの為に力を貸してくれ。そんなカッコイイ平田の台詞を即答できっぱり断った俺だが、実はあの後はかなり面倒くさい雰囲気になってしまった。

 

平田からはそこをどうか。と必死に食い下がられて何度も頭を下げられ。

櫛田からは「そんなこと言わないでっ。私も佐城くんが居てくれたら心強いの。だから一緒に頑張ろうよっ‼︎ 」とあざとく両手を握られ。

軽井沢にはテメェなにを陰キャの分際で平田くんに逆らってんだよアアアァン⁉︎ と言わんばかりの殺人的に鋭い目つきで睨まれ。

 

流石の俺でも、ものすごーく肩身が狭く、居心地が悪くなった。

 

 

「まあ、落とし所は妥当なとこに納めることが出来たと思うんだよなぁ」

 

 

必死で頭を下げる平田に俺は妥協案として。

 

「クラスの為でなく友人。つまり櫛田さんのお手伝い、と言う理由でしたらある程度は協力致しますよ」

 

という言葉で誤魔化した。

 

理由はともかく協力するという言質を取ったからな、平田は「それでも構わない。本当にありがとう」と爽やかな笑顔で心からの礼を述べた。

 

櫛田本人はそんな俺の言葉に「佐城くん。一緒に頑張ろうねっ」とキラキラとした笑顔を浮かべていたが、内心ではどう思っている事やら。

結局は俺が協力するかしないかは櫛田次第と言う事になるので、ある意味では責任を押し付けた形になる。そしてその事を頭のいい彼女が気づかない訳もない。

今回のことが原因で櫛田からの好感度は下がったかもしれない。が、まあこれはコラテラルダメージみたいなものだろう。

どうせ彼女に内心は嫌われていたとしても、アイドルの仮面を被った櫛田には一個人に対してのあからさまな冷遇など出来ない筈だから実際、問題はない。

 

 

「チンパンジー共がどうなろうと別にどーでもいいけど、平田にある程度は好かれておかないと計画が狂うからなー」

 

 

協力を平田から持ち掛けられた時、本音を言うならば強引に話をブッチ切ってとっとと帰りたかった。

だが、Dクラス内においては櫛田並みの人望を誇っている平田は間違っても敵対してはいけない存在だ。

リスクと心労を承知の上で、彼に味方してクラスの中心メンバーの一員となる方が一番安全なのだが、こちらにもそうは出来ない理由がある。

これは単純に平田が好きだから、嫌いだからという訳でも無く、もしくは単にDクラスに関わるのが面倒だからという訳でも無い。

 

もちろん俺はDクラスに蔓延るチンパンジー共の飼育員になんてなりたくない。

と言うか放っておいても原作通りにストーリーが進んで行くのが分かっている身としては極力、余計な関わりを持ちたいとすら思わない。

櫛田を含む三人の友人はともかく、Dクラスの面々がどうなろうとどうでも良いのだ。

ちなみに山内と池は別だ。奴らは積極的に死んでほしい。

 

 

「五月一日以降はどうしても原作からズレる行動をしなきゃいけねーからなー」

 

 

五月一日の放課後。

つまりSシステムの種明かしとクラス間の格差が暴露されるXデーに、俺は盛大な『茶番劇』を開催するつもりなのだ。

それさえ上手くいけば今後、俺がクラス内の揉め事に巻き込まれる事もなくなる算段である。

しかし、ここで大きな問題が一つ残るのだ。

 

 

「それまでに平田の好感度を下げすぎるとなぁ。当日ぶっ壊れちゃうかもしんねーしなー」

 

 

茶番劇の内容は後々のお楽しみの為に詳しくは語るつもりは無い。

だが、端的に言うとその内容は『平田 洋介という男のトラウマ』を無遠慮にツンツンと突っつくものなのだ。

調子に乗って加減を間違えたりでもしたら、このタイミングで平田が闇落ちしかねない。

平田がこの時点で発狂、もしくは俺の事を敵認定した場合は今後のDクラス内での俺の立場はヤバい事になるのは容易に想像がつく。

 

俺自身と数少ない友人以外がどうなろうと構わないのが本音だが、Dクラスの実質的リーダーである平田に敵視されたら終わりだ。

サイコパスである綾小路に狙われるよりはマシかもしれないが、あくまでも俺の狙いはスクールカースト外のポジションに納まること。

具体的に言うと『多少はマシになった高円寺』レベルに落ち着きたい。

 

 

「唯我独尊自由人が羨ましー。俺も武力があればなぁ」

 

 

原作知識と日々の勉学のおかげで知能や学力といった頭脳面ではずば抜けたスペックを見せつける事が出来るハリソン少年だが、細くて小さいこの男の娘ボディは肉体面では頼りない。

決して運動音痴という訳では無い。むしろ体格から考えれば優れた運動神経を持っていると言えるが、やはりこの体躯では腕っ節の方は貧弱だ。

ブチ切れた平田が暴君に戻ってしまったら、碌な反撃すら敵わずにボコボコにされてしまうことだろう。

 

 

「まあそこら辺は来月以降に考えるとしてー……ヒック。喫緊の問題としてはアレだ、アレ。ポイント欲しいわ」

 

 

フラついた視界でなんとか端末を弄りポイントの残高を確認する。

以前に櫛田や美少女三人組との遊興費や、今回の宴で散財した分も含めて残金は約3万ポイント。

来月の支給は0である筈だから、流石に心もとない。

 

 

(一応増やす案は考えているが多少リスクがある。まあ、いざとなったら二次創作鉄板のボードゲームでちょくちょく稼ぐか)

 

 

『よう実』二次創作の鉄板とも言える賭博チェス。

オッサンはチェスのルールはうろ覚え程度だ、同じ卓上遊戯の将棋ならちょっと自信がある。とは言えあくまで人並みだ。流石にそこらのお子様よりは強い自信はあるが、化け物スペックがゴロゴロ転がっているこの学校の生徒に無双できる自信は無い。

 

 

「麻雀部。あるのかなー? この学校」

 

 

俺の本命。それは麻雀だ。コレに関して言うならば絶対の自信がある。

決して褒められた事では無いが、俺は大学時代に狂った様に雀荘に通った時期があった。

流石に就職してからは時間がなくなった為に外で打つことは少なくなったがアプリゲームの麻雀は草臥れた社畜人生における数少ない楽しみの一つであった。

 

流石に坂柳や綾小路のようなぶっ壊れチートに勝てるとは思えないし、他の卓上遊戯と違い運の要素が強いゲームなので必勝とは言えない。

だがこちとら雀歴二十年以上のベテランだ。イベントで訪れた女流プロ雀士をハコテンまで飛ばした腕前は伊達や酔狂とは言わせない。

たかだか十代の若造に負けるつもりは一切無かった。

もしもこの学校に麻雀をやる部活が無かったなら、いっそ俺が立ち上げてでも無双してやりたいという野望すら芽生えてくる。

……でもやっぱり坂柳は無理よ? あときよぽんも。

 

 

「クラスのことは来月に。金の、ポイントの事は土日明けに動くとして……あとは、アレだな。せっかくだから推しキャラにあってみたいなーうん」

 

 

そこまでコアな『よう実』ファンという訳ではないオッサンだが、電子書籍が幅を利かせる令和の日本で態々本屋まで紙の書籍を集めていた程度にはこの作品は好きだった。

 

その中でも特に好きなキャラは二人。

一人は憑依当初に何とかして接触しようと考えていたBクラスのリーダーにして、本物の善人でもある『一之瀬 帆波』。

 

そしてもう一人が、Aクラスの二代派閥が筆頭の一人にして悲劇の男でもある『葛城 康平』だ。

 

 

「葛城ってめちゃくちゃイイ奴なのに周りに足引っ張られて虐められまくりだからなー……ゴクッゴクッ。んー是非とも応援してやりたいぜー……ヒキュッ」

 

 

すっかり茹った頭に、ついには吃逆までもが飛び出す。どうやら想像以上に酔いが回っているようだ。

チェイサー代わりに水を飲んで身体を落ち着かせながら、未だ見たことないスキンヘッドのお気に入りのキャラのことを考えた。

 

 

葛城というキャラを一言で表すならば不憫。

真面目で責任感も強く、ガッシリとした体躯は逞しく人望も厚い。

傲慢で他人を見下しがちなエリート(笑)揃いのAクラスの中でもモラルがあり、平田とはまた違った魅力のある正義漢と言える。

 

だが周囲の人間に恵まれなかった。対抗派閥は鞭の代わりに杖を持ったドSの腹黒ロリ。

敵陣営に自爆覚悟で内部を引っ掻き回され、特別試験では悲惨な結果に。

その結果派閥争いに敗れ、将来的には一番の側近である戸塚を退学させられる。

慕ってくれた派閥のメンバーをガーターベルトロリータに事実上の人質に取られ、雁字搦めになって動けなくなる。という、あまりにも不憫なキャラクターなのだ。

 

 

「つーかさー。未来の日本の為に〜っていう人間を育てたいなら坂柳より葛城の方が100倍適正ありそうなんだけどなー」

 

 

まあそこら辺はラノベの世界。あんまり突っ込んではいけないのだろう。

そもそも幾ら頭が良いとは言え、介護無しではまともな日常生活が送れない『坂柳 有栖』がAクラスの時点で……。

 

 

「でもちょっと状況が変われば葛城も勝ちの目はある筈なんだけどなあー」

 

 

一昔前のバラエティー番組のようにバリエーション豊かな特別試験が襲ってくるこの高度育成高等学校において身体的ハンデを抱えている坂柳は、ぶっちゃけかなり不利だと言える。

もちろん彼女が天才である事は異論が無いし、ラスボス格としてもヒロインとしても魅力的なのは認めざるを得ない。

頭脳も支配者としてのカリスマもピカイチだ。

 

だが、はっきり言って特別試験の内容が悪すぎる。

無人島試験は強制的に不参加。優待者当て試験も参加さえ出来れば、その頭脳であっという間に無双出来たであろうに強制的に不参加。

お次は体育祭でこれまた論外。

父親である理事長は何故彼女をこの学校に入学させたのだろうか。

 

 

「バカンス内の二つの試験で葛城を勝たせれば、派閥争いは大荒れになるよなー。ちょっとテコ入れしちゃおうかなー?」

 

 

こちらには対人コミュニケーション無双兵器、大天使クシダエルがいるのだ。

当初は一之瀬に繋ぎをとって貰うつもりだったが、その必要も今は無くなった訳で。

なら代わりと言ってはなんだが、葛城の連絡先を紹介して貰うのはどうだろうか?

多分、櫛田なら連絡先ぐらいは持っているだろう。

 

 

「んー。でも葛城は腐ってもAのリーダーだからなぁ。Dのモブにコンタクト取られてもスルーされちまうかも」

 

 

将来的にボコボコにされる悲しい宿命を背負っているとは言え、葛城は腐っても最も優秀な者が集められたAクラスのリーダーだ。

原作でも戸塚のインパクトに隠れがちだが、Dクラスを見下すような発言をする取り巻き達に囲まれている訳である。

本人が善良で真面目とは言え、部下の手前あまり格下の人間と堂々とは会おうとしないかもしれない。

つまり単なるDクラスの一生徒では相手にされない可能性がある。

 

 

「なら、あれだな。小テストで結果を出す。これが一番だな、うん」

 

 

もう何杯目かの蜂蜜酒を飲み干しながら頷く。

葛城は頭が固く、学力こそが最も大切だと幸村と似通った思考をしている部分がある。

原作では彼が月末の小テストで何点取ったかは不明だが、満点という事は無いはずだ。

俺があの難易度がおかしい小テストで満点を取れば、彼から一目置かれるのは確実だろう。

 

 

「葛城と会えれば推しキャラと会えて満足。さらに特別試験でテコ入れしてAの派閥争いが長引けば坂柳の目も釘付けになって、心配事が一つ減る。うーん、まさに良い事づくめじゃーないですか」

 

 

アルコールで火照った身体に、喜悦の熱が混じるのが自覚できた。

決めた。今、決めた。俺の今後の計画の為にも、推しである葛城の平穏の為にも。

 

ガッツリと葛城派閥に贔屓してやる。

 

 

「そうと決めたら、もう一丁‼︎ prosit‼︎」

 

 

俺はご機嫌な気持ちで二本目のガラス容器を開けて、カップに注いだ蜂蜜酒をグビグビと飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまでが記憶に残っている最後の光景である。

 

 

 

 

 

暗転。

 

沈黙。

 

覚醒。

 

 

(うぐ……頭が痛い。吐き気もするし体がダリィ。風邪……じゃなくて、もしかしてこれ、二日酔いか)

 

 

兎にも角にも身体が怠い。久しく味わってなかったから忘れかけていたが間違いない、この感覚は完全なる二日酔いだ。

瞼を開ける。たったこれだけの動作をするのが非常に億劫で、細胞の一つ一つが異常に重くなったような錯覚に襲われる。

喉は痛みを感じる程にカラカラに乾いており、身体中が異様に暑いのはアルコールが抜けていない証拠だろう。

 

 

(ここまで酷い二日酔いなんて何年、いや何十年振りだよ……大学の新歓コンパで死ぬほど飲まされた時以来か? 俺、酒に関してめっきり強い筈なのに何でこんなに残ってるんだ?)

 

 

どうにも身体全体が悲鳴を上げている。

俺はまるでゾンビのような呻き声を上げながら、蛞蝓よりも鈍い動作で、ノロノロとようやく瞼を開けた。

そこに広がる景色は見慣れた自室の天井や、散らかった室内の惨状。

等ではなく、下着姿の美女がいた。

 

 

(は?)

 

 

もう一回言おう。

瞼を開けると、そこには下着姿の美女がいた。

 

下着姿の美女がいた。

 

 

 

「……起きた? ならいい加減に手を離して欲しいんだけど」

 

 

目の前の美人が何か言った。手を離す?

手を離して欲しいって? うん分かった。

……いや、やっぱ待って、何から手を離せって?

 

俺は古びたブリキ人形みたいなガチガチに固まった動きで、恐る恐る自分の右手に視線をやった。

そこには真っ赤なブラジャー越しに、悪戯な俺のハンドが、確かに思いっきり揉んでいた。

 

揉んでいた。何を?

どうみても、おっぱいを。

 

うん。アレだ。

 

 

(はは〜ん。最近忙しくて性処理とかしてなかったから夢だわコレ。淫夢ってやつだな)

 

 

全くハリソン少年も思春期とは言え、こんなリアルでエッチな夢を見るとはおませさんだ。

ほーら夢だという証拠に軽く一揉み「……んっ」二揉み「ちょっとっ……‼︎」したところで感触なんかする訳……する訳……

 

 

「んぁっ……い、いい加減にしないとっ……ぁっ。怒るわよ?」

 

 

柔らかい。フワッフワ、モチモチ。

ブラ越しでもあったかくて柔らかい。

なんかいい匂いすらして来た。

ヤベェ、何がとは言わないがスッゲーヤベェ。

 

うん、アレだ。

 

夢じゃねーな、コレ。

 

 

(いやああああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎⁉︎)

 

 

酔いも眠気も。

ついでに言うなら今後の計画も全てが吹き飛んだ俺は心の中で絶叫するしかなかった。

 

顔を赤らめ半目で此方を睨みつける美女。否、大人びた美少女の名前を俺は知っていた。

 

Aクラス二代派閥が一人、坂柳を主人とする側近中の側近。

 

 

 

その名は『神室 真澄』なのだから。

 

 

 




ナニがとは言わないが挿れては無いです。
このオッサン本当にバカだなーと思いながら書いてました。

評価、感想ありがとうございます。
全部読んでます。凄く嬉しいです。もっと下さい。
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