ようこそしたくなかったわ、こんな教室   作:薔薇尻浩作

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12000文字っすよ。話がほっとんど進まん。
なんなのマジで。初投稿です。


現実逃避の小テスト。〜陰謀の囁きを添えて〜

 

怒涛の日々だった。

あっという間に週末の二連休は終わりいつものように授業を受ける平日の月火水と過ぎ去り。

そうして漸く今日という日がやって来た。

 

結局、酷い二日酔いで引き篭もって貴重な土曜日を頭痛と胃痛に苛まれながら潰したり。

何故かやけに機嫌の良さそうな椎名に引き擦られるようにして、日曜の朝っぱらから図書館に行き二人だけの読書会を開催したり。

 

迎えた平日も友人であるDクラス美少女三人衆と約束された貧乏生活への対策を考えるという名目で、どんよりとした表情で互いの傷を舐め合ったり。

放課後には割とあっさり見つかった麻雀部にお邪魔してはちょちょこ小銭を稼いだり。

生徒指導室にて行われる星之宮先生による濃密なサービスたっぷりの相談会に癒されたり。

 

更にはオマケととばかりに、いつまでも懲りない馬鹿二人にセクハラされたり。

何故か喋ったこともない堀北や幸村辺りからチラ見されるようになったので、徹底的にスルーしたり。

エレベーター内でバッタリ綾小路に出会してしまって危うく心臓が止まりかけたり。

あと何かトイレに行く最中に高円寺に絡まれたり。

 

 

(……回想しても碌な事が有りゃしねえ)

 

 

特に後半だ。山内と池には殺意が積もりに積もっていくばかりだし、予期せぬ主人公とのファーストコンタクトは不意打ち気味に逃げ場の無い密室で邂逅してしまった事もあり、死ぬほど怖かった。

今思い出してみればエレベーター内で綾小路から、何かしら話しかけられていた気もするし、それに対して俺も適当な答えを返していたような気もするのだが、いかんせん極度の緊張とサイコパスに遭遇した恐怖のせいで何と返したかはサッパリ覚えていない始末。

余計な事を言って悪印象を持たれていなければ良いのだが。

 

それから高円寺に関しては……。

 

 

(高円寺は高円寺だった。うん。つけられたあだ名も……まあ、許容範囲内だったし。宇宙人にアブダクションされたとでも思って諦めよう)

 

 

と、まあわずか数日とはいえそんな濃厚な日々を過ごして来たわけである。

 

そして迎えた本日は四月の最終日。

他の高校ではわざわざイベントを用意しているかは分からないが、この『よう実』世界では大きなターニングポイント。

そう、原作でも話題になったあの不思議な『小テスト』の実施日だ。

 

その内容と言えば、八割近くの問題が中学時代に習うとても難易度の低い問題で構成されている比較的簡単なもの。

だが、最後の三問だけは高校一年生の授業範囲を大きく飛び越え、非常に難易度が高くなる。というか普通の高校生は解けない。解かせる気の無い超難問揃い。

 

中学校時代にまともに授業を受けていて、それなりの成績をキープしていれば80点を取る事は容易いだろう。

だが最後の3問の関係で、90点以上を取るには並みの高校生とは比較にならない学力が要求される。

ましてや満点を目指すとなれば、最早それは難しいどうこうと言うよりも無謀の域だ。

 

 

(満点取るつもりでガッツリ勉強して来た。流石に高三の範囲全ての予習は時間的に無理だったが、難易度によっては十分に全問正解を狙えるレベルの学力に鍛えた筈。……だが、あいにく俺のコンディションはお世辞にも良くはない訳で)

 

 

だからこそ、こうして俺がDクラス内で発生している騒音を通り越した爆音に近い喧騒の中。

絶賛学級崩壊中のチンパンジーの群れの中で、未来を憂いて俯き戦々恐々としているのも。

それはきっと、仕方のない事なのだ。

 

そう、小テストの事で頭がいっぱいだから仕方ないのだ。

小テストのせいだから仕方ない‼︎

仕方ないったら、ないのだ‼︎

 

 

 

(……うん。白々しい現実逃避はそろそろ諦めよう)

 

 

ぶっちゃけ今回の小テストで満点を取れなくても死にはしないし、高得点さえ取れていればその後の立ち回りで自分の立ち位置の確保は十分に挽回できる。

それに比べて現在俺が抱えている『爆弾』の取扱いを間違えたら問答無用の即退学となってしまう訳で。

 

 

「はあああぁぁぁ……」

 

 

悲鳴にも近い俺の嘆息が騒音の中に虚しく溶けていく。

スリープモードの端末を手鏡がわりに覗き込むと、そこにはゲッソリとしたハリソン少年の顔が映った。

元より白い顔色は不健康な青白さに染まり、目の下にはうっすらと隈が出来ている。

いかにも心労が溜まっています。という有様なのに、それでも輝く美貌には一切の陰りを見せていないのがちょっと怖い。

 

 

(落ち込んでても、やつれていても絵になるんだから美形は得だよなあ)

 

 

ハリソン少年の顔面偏差値の高さに慄きつつ、半ば無意識の内に再び重い溜め息が漏れた。

ちなみにこれでも顔つきはマシになった方で、週明け直後の月曜日。俺の顔はそれはそれは酷い事になっていたらしく隣の席の井の頭から

 

 

『さ、佐城くん⁉︎ 凄く顔色が悪いというか……とにかく凄い顔ですけど大丈夫ですか?

え? ど、どんな顔か。ですか?

その、数年前に私の従兄弟のお兄さんがFX? っていう投資をやってたみたいなんですけど。

その、大失敗しちゃったみたいで……貯金を含めて、有り金を全部溶かしちゃったらしくて……そ、その時のお兄さんと同じ顔してます、よ??』

 

 

と言われた程。アニメや漫画でいう作画崩壊レベルで物凄い顔をしていたらしい。

ちなみに王からは「ぬとねの区別がつかなそうな顔」、櫛田からは「絶望を通り越した完全なる虚無の顔」と心配された。

 

普段の俺だったならば一体どんな顔だよとツッコミを入れていたところだろうが……。

そんな酷過ぎる顔になっても無理はないレベルの大馬鹿をやらかした訳で。

 

 

(ああああああああああマジでどうしよう本当どうしよう馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿あの時の俺をぶん殴りてえええええ‼︎)

 

 

津波の如き怒涛の後悔がぶり返し、俺は机に蹲って頭を抱えた。

隣席の井の頭やこちらの様子を窺っていたであろう櫛田辺りからの憐憫を含む視線を感じるが、それに構う精神的余裕が一切無い。

何故なら、俺の心を支配しているあまりにも大き過ぎる悩みの種。

宴の翌日。何故か俺の部屋で朝チュンしていた他クラスの美少女。

よりにもよってAクラスのラスボス格である坂柳の側近、『神室 真澄』の事で頭がいっぱいだったのだ。

 

 

(不幸中の幸いか最後まで『ヤってなかった』とは言え事態は最悪だ……冗談抜きで最悪の状態だ)

 

 

眠気も酔いもぶっ飛んだあのラッキースケベなハプニングのその後、絶句し石膏となった俺をよそに優雅に人の家のシャワーを浴びに行った神室。

人様の家で勝手に汗を流しスッキリとした様子の彼女に、漸く再起動を果たした俺が真っ青な顔で質問攻めの嵐にしたのは言うまでも無いだろう。

 

何故、他クラスであり異性の神室が俺の部屋に居たのか?

何故、下着姿で俺のベッドで寝ていたのか? という当たり前の疑問から始まり、これはもしや坂柳の策略なのか?

もしそうなら何故俺が彼女に目をつけられたのか?

密造、飲酒が何故バレたのか?

互いに全裸では無かったし一線は越えてないよね? ないと言って⁉︎

……とまあ、思いついた事をかぶりつくような勢いで尋ねた結果。

呆れと嘲りをない混ぜにしたような様子の神室の返事はたった一言。

 

 

『ふぅーん。……アンタ、本当に何にも覚えて無いのね』

 

 

ニヤリとオノマトペが鳴りそうな暗黒微笑と共に発した台詞である。

あの瞬間から俺の平穏なる学生生活の生命線は神室真澄が握る事が決定した。

あの時の神室の笑顔と言ったら……。

 

 

(まるで特撮モノに出てくる悪の女幹部みたいな薄暗い嗤い方だったな。でも、今思えばあの時の神室の表情エロかったなぁ……あの顔は男の味を知っている顔だな、うん)

 

 

いや、まあ。適当言っただけなので本当に神室が非処女なのかは知らんが。

だが男性向けライトノベルのヒロイン候補なら人妻とか未亡人キャラ以外は全員処女。というのが定石みたいなものなのでは無いだろうか?

別に俺自身が処女厨と言う訳でも無いのでどちらでもいい話ではあるのだが。

 

 

(そう言や、作中で明確に『経験済み』だっていう説明があった女キャラって軽井沢と星之宮ぐらいじゃなかったか? まあ軽井沢の場合は強姦なんだろうけど)

 

 

 

前世の深夜番組かなんかで観たうろ覚えの知識では女子の初体験の平均年齢は18歳前後。

世代が進む度に平均年齢が下がっており若者の性の乱れが〜なんてなどと偉そうな自称専門家のジジイが騒いでいた覚えがある。

捏造万歳が上等であるテレビ番組の知識をどこまで信用していいかは分からないが、高校一年生になったばかりの青少年ならば恋愛経験はともかく、性経験を済ませた者は少ないのだろう。

 

 

(でも神室ならヤッてそうな気も……いや、失礼な話なのかも知れないけど。キャラ的に無理がないというか)

 

 

結果的に望まぬ出逢いとは言え神室真澄という少女と対面した訳だが、実のところ原作内における彼女のキャラクターを詳しく知っている訳では無い。

そもそも原作での明確な登場回数が少ないし、際立った活躍も殆ど無かった気がする。

精々が綾小路の部屋に押し入って万引きの事実を打ち明けた時。

それから一之瀬潰しの為に周囲の女子生徒に彼女の悪評を吹き込んでいるシーンぐらい。

 

まあ最も神室の印象深い個性と言えば、手癖の悪さとその犯行動機なのだが。

 

 

(何だっけ? 親から愛情を注がれなかったから巡り巡ってそれが万引きするようになった。だっけ? ……俺、心理学専攻して無いから何でネグレクトされると万引き趣味になるのかまでは知らないけど)

 

 

万引きの常習犯。おまけにパクったのは酒なので結果的には未成年飲酒もやっているだろう。

高校入学したてのティーンにしては色々とやらかしている彼女だ。

火遊びの延長で過去にクラブ通いや男遊び、援助交際なんかに手を出していても無理はない気もする。

 

 

(前世の従姉妹のヨシちゃんも高校入学辺りから急にグレだしたからな。結局、誰が父親だか分からない子供を孕んで中退してたし)

 

 

前世の知識と経験、それから余計な煩悩に塗れたオッサンの偏見でしかない失礼極まりない意見だが、いざ実物を目の前にして神室とある程度の会話をした後では妙な説得力があった。

 

 

(こう、ちょっと悪さを覚えたギャル独特の気怠げなエロさというか。お高く止まっているのに、隙がありそうな矛盾した独特の雰囲気というか)

 

 

深みのある紫檀のロングヘアーをサイドに結んだヘアースタイルが特徴の神室真澄。

白い肌に整った顔立ち。そのルックスは前世でよく見た芸能人やアイドル歌手、AV女優にも見劣りはしない。

特に紫水晶のように力強く輝く瞳の美しさ。そして15歳の未熟な少女とは思えない程にグラマラスなボディースタイルは男からしたら垂涎ものだろう。

 

 

(シャワーを浴びた直後の神室……湿った長髪。水滴を弾く白い肌に火照った頰。バスタオルをグイッと持ち上げるバストとヒップの魅惑のS字ライン。嗚呼、エロかったなあ)

 

 

そもそもこの『よう実』世界は発育のいい女子。というか明らかにエロい女子が多すぎる。

現時点で一番の親交が深い櫛田に関して言えば明らかにバストのサイズが合ってない。

公式から発表されている彼女のスリーサイズはB82/W55/H83のDカップ。

だが実物はそんなもんじゃない。数々の巨乳美女を抱いてきた(なお九割は風俗嬢)オッサンが断言しよう。あのデカさでDカップは無理がある‼︎

 

 

(動く度にブルンブルン揺れてるし、机にはガッツリ乗るし。あの大きさとウェストの細さから考えれば確実にFカップ以上はあるだろうよ)

 

 

櫛田ですらこの有様なのだ。佐倉や長谷部、一之瀬は一体どんなオッパイお化けなのだろう。

Gか? Hか? それとも愛がいっぱいIカップか⁉︎

 

 

 

(……うん。そろそろ現実から逃避してエロ妄想を垂れ流すのは止めにしよう)

 

 

閑話休題。

 

神室がどんなに魅力的な美少女だったとしても、こうして弱みを握られてしまったのは事実な訳で。

女子高生に飼育されたいという拗れに拗らせたような特殊性癖を持っていないごく普通のオッサンである俺からすれば全く歓迎できない現実だ。

 

テンパりながらもどうにか彼女と会話を重ねた感触から察するに、神室自身も原作通りに万引きしたところを坂柳に抑えられ下僕とされているようだ。

余程ストレスが溜まっていたのだろう。会話中に坂柳の名前が出る度に眉間に皺が寄り、声もワントーン低くなっていた。

 

 

(失敗だった。記憶が飛んでいる事を上手く誤魔化せればもう少し話の主導権を握れたかもしれないのに)

 

 

そんでもって現在、俺はそんな神室に首根っこを押さえつけられている。

つまりは坂柳の下僕である神室の下僕という訳だ。

穢多非人もビックリの人類カースト最底辺に真っ逆さまだ。全くもって笑えない。後悔先に立たずとはまさにこの事だ。

不幸中の幸いと言えば神室は俺の密造や飲酒に対して今のところ言いふらすつもりは無いらしいこと。

それから肝心要の坂柳だが、何と今回の件に関して一切関係ないらしい。

 

つまり俺と神室の邂逅は、クラスの思惑も坂柳の謀略も一切関係の無い偶然の悪戯。という事になる。

 

 

(とは言え、どこまで神室の言葉を信じていいものやら。ああ……せめて断片的にでも記憶が残っていれば‼︎)

 

 

神室曰く、もはや日常と化している、とある身体に障害を持っているクラスメイト(言うまでもなく坂柳)の世話から彼女がようやく解放されたのが夜八時過ぎ。

自分の部屋に戻る前に飲み物でも買おうかと一階に降りたところ、目的である自販機にもたれかかるようにしてぐったりと倒れ込んでいる見慣れぬ生徒を見かけた。

寝こけているのか体調不良なのか分からず、心優しい善良なる少女である神室は蹲っている人影に声をかけて肩を揺すったらしい。

 

 

(まず心優しい善良なる少女は万引きなんかしねぇよ。ってツッコミたくなったが。神室のヤツ、真顔で自分の事を善良な人間って言ってたからな)

 

 

そんな彼女の行動に意識を取り戻した男子生徒……つまりは泥酔して意識朦朧としていたであろう俺の事なのだが。

改めてその顔を覗き込んでみると、何と彼こそが噂の姫王子(笑)ではないか。と神室は驚いたそうだ。

 

 

(今更ながら姫王子ってあだ名、何とかならんかなぁ。恥ずかしくて仕方ないんだが)

 

 

既にその美貌とあだ名が学年を越えて学校中に広まっているという有名人との予期せぬ出会いに興味を持った神室は、どうしてこんな所で倒れていたのか。と俺に問いかけた。

だが対して俺は支離滅裂な言葉しか返って来ない上に、目の焦点が明らかに合っていない。

ブツブツと何かしら呟きながら緩慢な動作で立ちあがろうとしていた俺の足元は明らかにふらついていて明らかに覚束ない。

そこで彼女はふらつく俺に肩を貸し、部屋番号を根気よく聞き出して部屋まで送り届ける事にしたそうだ。

 

 

(うーん。この時点でかなりツッコミ所満載な供述なんだが、今はスルーして。)

 

 

エレベーターで俺の部屋まで送り届けると、ようやくまともに口がきけるよう体調が回復した俺が「介抱してくれたお礼をしたいから是非とも上がってくれ」と上機嫌で誘いをかけたそうだ。

こんな時間に初対面の女子生徒を部屋に上げるなんてナニするつもりか。警戒する気持ちもあったらしいが、俺の体格と神室自身の身体能力から考えていざとなれば返り討ちにしてとっとと通報すれば良いだろう。

そう判断した彼女は招かれるままに部屋の中に入った。

 

 

(……はい。ここからが問題だよな)

 

 

神室が部屋に上がるとそこにはとても一人では食べきれないであろう大量の料理が食べかけの状態でテーブルの上に所狭しと広がっていた。

クラスメイトと夕食会でもやっていたのだろうかと訝しむ神室に、すっかり気分の良くなった俺が「一緒に乾杯しよう」とグラスに飲み物を注いで彼女にカップを手渡した。

クラスメイトの世話のせいで夕飯も食べそびれていた神室は小腹も空いていた事だし丁度良いか。と考えながら渡されたグラスに恐る恐る口をつけると、その味と香りに強く驚いて顔を顰めた。

色合いから果実のジュースか何かだと思っていたドリンクの中身はまさかの酒だったのだ。

 

 

(まあ蜂蜜酒って名前の割には色が薄いから、酒の知識が無かったらリンゴジュースみたいな色に見えないことも無いけども)

 

 

驚愕に固まる神室を他所に、俺はグビグビと自分のカップに注いだ酒を飲んでいる。

体調不良で動けなくなっていたと思っていた男は、実は泥酔して酔い潰れていたと言う事実に彼女は気づいた。

しかも上機嫌に語る俺の言葉を聴くに、なんとこの酒は目の前の男が自作したというから驚きだ。

 

噂の姫王子は堂々と酒の密造をしでかし、おまけに酩酊するまで飲酒して女を部屋に連れ込むヤバい奴だった‼︎

そう判断した神室は直ぐに部屋から脱出して教師に通報しなければと出口に向けて駆け出そうとする。

しかし、そんな彼女の勇気ある行動を縛り付けるかのようにしての背後から男の……っていうか俺の恐ろしい台詞が聞こえた。

 

 

「お前が万引きしていた事をバラすぞ?」

 

 

密造、飲酒。おまけに恐喝。

そう。噂の姫王子はその外見からは考えられない程の邪悪な男だったのだ‼︎

弱みを握られていた事を察した神室には逃走するという選択肢は無い。

部屋に連れ込まれた時点で彼女に勝ち目は無かったのだ。

 

自分は好奇心に負けて虎穴に入り込みそのまま美味しく頂かれてしまう愚者だったのだ。

そんな事実に絶望した神室は不本意ながら、仕方なく。

そう、仕方なく俺の言う通りに食事を共にしたらしい。もちろん酒も飲んだ。

 

 

(アイツ帰り際に蜂蜜酒の作り方教えろって割としつこく粘ってたけどな。どんだけ気に入って……いや、待て待て。まだツッコムのは早い)

 

 

とは言え、神室は女。俺は男。

男はいつでも狼だ。酔った勢いで襲い掛かられても堪らない。自分はそんな安い女では無いのだ。

神室は決意した。敵地に乗り込んでしまったとは言え、むしろここは攻めの姿勢を見せるべきでは?

 

そう考えた彼女は目の前の悪漢に媚びを売るようにしてドンドン酌をして酔い潰そう計画したそうだ。

結論から言うとその目論見は上手くいった。

だが彼女に進められるがままに酔い潰れた俺がベッドで寝息を立て始めた時には、既に神室自身もかなりの量の酒を飲んでおり、すっかり酔いが回っていたのだ。

 

 

(善良なる女子高生は同級生を酔い潰そうとして酌なんてしないと思うんだけどなあ……)

 

 

飲酒自体は初めてではないとは言え、明確に酔いを自覚する程にアルコールを摂取したのはその時が初めて。

茹るような頭で前後不覚に陥った神室の目に止まったのは俺が寝ているベッド。

小柄な俺が寝ている寝具には少女一人ぐらいなら潜り込むスペースがあった。

 

酔いと疲れ。それから眠気に負けた神室は仕方なく。そう、仕方なく。

俺とベッドを共にしたのだそうだ。

 

 

(……ふぅ)

 

 

以上。神室真澄が語る昨日の事件の真相だ。

うん? それを聞いた俺の感想?

 

 

(ぜってえええええええ嘘‼︎ 嘘だ‼︎ 嘘嘘嘘嘘嘘‼︎‼︎100パーとは言わずとも、絶対に嘘が交じってるだろ神室の話‼︎‼︎)

 

 

そもそも自販機前で酔い潰れた俺に声をかけて起こすまで(泥酔していたであろう俺が何故わざわざ部屋から出てエントランスにある自販機に出掛けたのかは未だに謎だが)は納得だが、神室のつっけんどんな性格から考えてワザワザ見ず知らずの異性を部屋まで送り届けるなんて考えられない。

更には誘われるがままに初対面の男の部屋に上がり込む? いくら何でも警戒心が無さすぎる。

 

(神室って確か原作で橋本にアプローチかけられていてもスルーしてたよな。そんな女があっさり知らない男の部屋に入るかっての⁉︎)

 

 

そして一番のツッコミ所は一緒に酒を飲んであっさりと同衾した事だ。

万引き云々で脅されたが本当だとしても、その場で教師を呼べば現行犯で俺は破滅。

万引き云々は酔っ払いの戯言だから分からない。とシラを切れば神室はノーダメージの筈だ。

現に俺が神室の万引きの件を知っていたのは原作知識のおかげだ。万引きの瞬間を撮影した物証がある訳でも無いので知らぬ存ぜぬを通せば「馬鹿な酔っ払いが馬鹿な妄言を吐いた」と無視される筈だ。

 

それに、襲われる事を警戒していたらしいが、ならばどうしてあっさり俺のベッドに潜り込んだのか。

仮に神室の供述通りに俺を潰す為のコラテラルダメージで前後不覚になるほど酔っ払ったから不本意ながら寝落ちしてしまった。と仮定してもやはり筋が通らない。

何故なら翌朝、俺が目を覚ました時に神室は既にパッチリと起きていた。

しかも半ば寝ぼけていたとは言え、思いっきり彼女の胸を揉みしだく。というセクハラを働いた後にも関わらず神室は優雅に人の部屋のシャワーを勝手に浴びていたのだ。

 

 

(強姦されるかもしれないと恐れていた男の部屋でやる事じゃねえだろ‼︎ つーか今思い出したけど神室のやつシャワー中に機嫌良さそうに鼻歌歌ってたぞ⁉︎)

 

 

肝心の俺が二日酔いとまさかの事態にパニクってそれどころじゃ無かったとは言え、シラフの状態でそんな事をされたら神室の方から『誘っている』としか思えない。

彼女にそんな気がなくとも男なら勘違いしてもおかしくない状況。

 

というか襲われるかも‼︎ と警戒している男の前に、わざわざバスタオル一枚だけを纏った湯上がり姿で、流し目を送りながらクスリと悪戯気な笑みを見せつける意味が分からない。

むしろ襲えるものなら襲ってみろこのヘタレ‼︎ と挑発していたようにも思えて来た。

 

 

(間違いなく神室は嘘をついている。それは確実だ。……だがどこまでか嘘なのか。そもそもどうして俺を通報しなかったのか、その理由すら分からない現状じゃ歯痒いが下手に手を出せない)

 

 

『何でアンタが坂柳の事を警戒してるかは知らないけどこの件には一切関係無いし、アンタの事もベラベラ喋るつもりもないから』

 

 

とは神室の弁だ。あまりにも俺に都合の良すぎる言葉を鵜呑みにするつもりは無いが、どう足掻いてもこちらからは神室に手出し出来ない。

強いて言うなら俺と一緒になって飲酒をした。という弱みはあるものの、そこを突っ込んだところで共倒れになるだけで意味がない。

 

何より問題はそれだけではないのだから。

 

 

(俺が酔った勢いで神室に何を話したのか。それに何をシタのか。全く覚えてねぇのが不味過ぎる)

 

 

下着姿とは言え互いに全裸では無かったし、性行為後の独特の臭いや汚れも一切なかった為、最悪の事態は避けられた。

酔った勢いで強姦。或いは和姦でも未成年を孕ませでもしたら学生生活どころか今後の人生が終了していた事だろう。

とは言え女子を部屋に連れ込んで下着姿にして同衾したのは紛れも無い事実。

第三者からみた時の俺の心象は文字通りの最悪だ。

 

 

(強姦罪まではいかなくても強制猥褻罪で訴えられたら絶対に勝てねぇ……自業自得とは言えせめて記憶が残ってれば‼︎)

 

 

 

結局、いくら神室の話を聞いたところで本当に坂柳の命令で動いた訳ではないのか確信が持てないのだ。

個人的な直感としては、今回のことについては坂柳は絡んでいない。と言う点については事実だとは思っている。

が、原作内において圧倒的な天才と設定づけられている化け物じみた坂柳の事だ。

いつ何がきっかけで今回の事に気付き、興味を持って探りを入れられるか分かったものじゃない。

 

 

(もうこれは最悪を想定して動くしかない。……つまり今回の一件は坂柳の策略。もしくは現時点では神室の言う通り坂柳は関係ないが、近い将来彼女の耳に入って利用されると仮定しよう)

 

 

坂柳が今回の件をどう利用するかは考えるまでもない。

どうせ神室のように脅して自分の駒にしようとするだろう。

将来的に、と言うよりは明日からクラス間闘争が始まる事を考えれば他クラス内で自由に動かせる駒が出来るのは坂柳視点では悪い話ではない。

体育祭で綾小路の存在を認知するまではDクラスにさしたる興味を持つことはないだろうが、そこは天才たる坂柳だ。

葛城を潰す為やら、一之瀬を虐める為、と色々な活用方法を考える事だろう。

 

 

(……結局、小テストで満点を取ろう。っていう初心は変わらないんだよなあ。その過程は散々だけどよ)

 

 

だが、坂柳は駒の質には拘る筈だ。端的に言うならば戸塚や山内のような無能は歓迎されないのは明白だ。

つまりはある程度の能力を誇示する為にも小テストはちょうど良いアピールチャンスとなる。

 

本来なら葛城派への足がかりとして小テストで満点を取るつもりだったので動機としては真逆だが、結果としてやる事は変わらない。

 

 

(とりあえず葛城派に敵対は確実。将来的には一之瀬虐めも始めるだろうし、必要以上にBクラスに近づくのは止めとこう)

 

 

葛城については原作通り、豪華客船で行われる二つの特別試験で消えてもらう事になるだろう。

一之瀬に関しては段々と曇っていく事になる天使の表情に心を痛めたくないので関わりを避けるのがベターか。

将来的に坂柳の駒として動いた時、噂を広げた犯人の一味と断定されたあげくキレた神崎や柴田辺りにボコボコにされかねない。

 

葛城には敵対。一之瀬に関しても消極的敵対。

うん、推しキャラ二人に敵対して嫌われる将来が今から目に浮かぶようだ。泣きそう。

 

 

(特に葛城……無人島の試験でなんとか勝たせてやりたかったんだけどなあ……ゴメン。まだ会ったことも無いけど本当にゴメン、葛城)

 

 

何ともうまくいかないと現状に再び嘆息していた時、クラス内の喧騒に紛れる様にしてチャイムが鳴り、茶柱が教室に入って来た。

 

 

「静かにしろー。今日はちょっとだけ真面目に授業を受けて貰うぞ」

 

「どういう意味っすか、佐枝ちゃんセンセー」

 

 

揶揄うような池の質問を軽くスルーしつつ、紙束を持った茶柱は原作通りの台詞と共に、事務的に一番前の席に座っている生徒達へプリントを配っていく。

 

 

「月末だからな、今から小テストを行う。後ろに配ってくれ」

 

「えぇー聞いてないよー。ずるーい‼︎」

 

「今回の小テストはあくまでも今後の参考用だ。成績表には一切反映されることはない。だから安心して取り組め」

 

 

恐らく原作通りであろう茶柱の台詞を聞き流しながら俺はプリントをめくった。

内容はオーソドックスに主要五科目の問題が載った、如何にもな小テストだった。

間違いない。原作通りだ。

 

 

(……とりあえず、全ては小テストを乗り切ってから考えよう)

 

 

過剰なストレスによる胃痛と頭痛。暗雲立ち込める俺の未来。

それら全てから逃避するようにして、俺は全力で小テストに取り組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は放課後。

小テストも無事に終わり、『諸々の雑事』も片付けた頃にはすっかりと陽が落ちて夕焼けに夜の暗闇が混じっていた。

最終下校時刻が迫る薄暗い生徒指導室の中。男と女が一人と一人。

 

 

「えっと……本気かしら? 佐城くん」

 

 

俺の対面に座る妙齢の美女。星之宮はどこか戸惑ったような様子で俺の言葉を聞き返した。

可愛い教え子が、突拍子も無い我が儘を言い出して困ってしまった。

そう言わんばかりの困惑した表情とは裏腹にその瞳だけが、不気味に炯々と光っている。

 

困惑。驚愕。動揺。それを経ての、張り詰めんばかりの警戒。

それから焚火が燻るような好奇心が生み出した強い、とても強い興奮。

全てがない混ぜになって輝く彼女の瞳は猛禽類のように鋭く、それでいて昆虫のように無機質。

双眸から放つ視線ただ一つ。それだけで彼女が底知れぬ実力を有している事が分かる。

そんな強い、強い瞳だった。

 

 

「ええ、本気ですよ。チエ先生。これが証拠です」

 

 

ゴクリ。唾を飲む音が響く。

目の前の彼女に献上するかの如く恭しく掲げて見せたのは入学当初に配布された学生端末だ。

そしてそこに表示されている数字こそが、対面の星之宮の好奇心をこれでもかと擽ぐる要因となっているのだろう。

 

 

「残高……95万ポイントって……」

 

 

震えるような彼女の声には驚嘆というよりも喜悦が些か多かった。

それもそうだろう。何故なら『他クラスの生徒』がSシステムの説明が明かされる直前である『4月の最終日』に『内密』に二人きりで面談を申し込んできた。

そして、その相談内容がよりにもよって……

 

ヒクリ。と星之宮の頰が上がった。

否、反射的に上がろうとした口角を押さえつけようとして不自然に震えたのだ。

瞳の輝きがますます強くなっていく。

好奇心の焚火は薪を足され、油を注がれ、歓喜の炎が猛々しく燃え上がった。

 

 

「改めてお願いがあります。ポイントはしっかりとお支払いします」

 

 

俺は乾いた唇を舌でゆっくりと濡らした。

手応えあり。ただ見た目が良いだけの愛玩用の他クラスの生徒が思わぬ豹変を。

それも星之宮が担当するBクラスにとって都合の良い提案を提げてこうして取引を持ちかけてきたのだ。

 

その喜び様といったら。

高度育成高等学校のOGとして鍛え上げられたポーカーフェイスを一瞬でも崩す事がどれほど驚愕に値する事か。

それはきっと、俺の想像以上に衝撃的なことに違いない。

 

 

「お願いします。チエ。先生」

 

 

身を乗り出す様にして星之宮の両手を握る。

そうして俺は、ゆっくりと。

甘いスポンジケーキに芳香なバターが泡立ち溶けていくように。

ゆっくりと。焦ったくなるほどにゆっくりと。

 

 

「ボクと契約して。一緒に、そう。ボクと一緒に」

 

 

目の前の女の脳に、一言一句を染み込ませるように意識して。

 

甘い声でこう囁いた。

 

 

「一緒に。幸せに。なりませんか? ねぇ? チエ。先生」

 

 

 

 

かくして、茶番劇の舞台は整った。

そうして舞台は翌日。運命の五月一日へ……

 

 




次回‼︎ 綾小路視点‼︎
多分‼︎ 感想ほぴいいいぃぃ‼︎
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