ようこそしたくなかったわ、こんな教室   作:薔薇尻浩作

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感想、評価めちゃくちゃ嬉しいです。本当にありがとうございます。


女の子に甘い? オッサンなんてそんなもんだよ。

Dクラスは端的に言って落ちこぼれの集まりである。

全体的に能力の低い者が中心となって集められているし、一芸特化の者がいても欠点が大き過ぎる者が大半だ。

 

学力が高くても運動神経が酷い『幸村』やその逆パターンの『須藤』。

文武両道で一見、理想的な優等生だとしても致命的なまでに社交性が欠けている『高円寺』や『堀北』など。

 

未だ高校に入学したばかりの未熟者達ばかりなのだから、仕方のない側面もある。

とは言え、あの茶柱が「不良品」だの「評価0のクズ」だとかの罵倒をする気持ちも、多少は理解できる。

教師としては最低な発言であるが、Dクラスによる遅刻欠席を始めとした授業中の私語や居眠り。携帯端末の操作の回数が異常であるのは事実だ。

僅か一ヶ月で事実上の学級崩壊にまで至るDクラスを構成する面子の『実力』が現時点において致命的なまでに低いのは明白だろう。

 

 

だがそんなDクラスの中で、学力、運動神経、社交性を始めとした全ての能力がハイスペックである例外、が主人公たる綾小路を除いて2人いる。

 

1人はDクラスの実質的リーダー『平田 洋介』。

爽やか系イケメンであるサッカーボーイの彼は三馬鹿を中心とした一部男子から僻みとも言える反感を買っているものの、その親しみやすさから男女問わず人気がある。

 

クラスの和と平等を重んじる彼が『個性豊か』という言葉を通り越し、いっそ混沌の域にまで達しているDクラスの面々の統制を仕切っているからこそ、学校生活にありがちなクラスカーストが作られる事を未然に防いでいるとも言える。

そんな優秀な生徒である彼が何故、不良品のバーゲンセールのような扱いをされているDクラスに配属されたのか。

その理由には、そこそこ重たい過去の出来事があったりするせいなのだが、今回は割愛しよう。

彼についてはまたその内、語る機会があるだろうから。

 

 

重要なのはもう1人の方だ。

クラスだけでなく「学園中のみんなと友達になりたい」と無謀とも言える非現実的な目標を豪語し、それを実行するだけの魅力と行動力を兼ね備えたコミュニケーション能力の怪物とも言える存在。

ドロドロとした裏の内面を持ちながらも、クラス内では『堀北』を除いたほぼ全ての人間から好かれているという、極めて絶妙な人付き合いにおけるセンスを持ち合わせているDクラスのアイドル。

 

メリハリのついた魅惑のプロポーションと明るい笑顔で学園中の男子の視線を独り占め。

誰にでも分け隔てなく優しく接する、天使のような美少女。

 

そんな彼女こそ……

 

 

「お、おはよっ。佐城くん……でいいんだよ、ね?」

 

 

『櫛田 桔梗』だ。

 

 

栗色のショートヘアーにカチューシャがトレードマークの彼女は誰がどう贔屓目に見ても美少女だ。

本来なら陰キャのモブからすると高嶺の花である彼女は、入学してからというもの毎日のように『ボク』に対して挨拶をし、一言二言の簡単な会話を投げかけるのを欠かさなかった。

 

猫背で、ボサボサの髪の毛で顔を隠し、一度たりとも目線を合わせず「……はよ」とボソリと呟くのが精一杯のコミュ障に対し、なんと慈悲深い行動だろうか。

擬態していた『ボク』は、どこからどう見ても女に縁の無い、むしろ嫌悪されるまである、根暗男の典型だっただろう。

そんな相手に笑顔で話しかける事のハードルの高さと、彼女が感じたストレスの大きさは想像もできない。

 

 

「おはようございます。櫛田さん。佐城であっていますよ」

 

 

だからこうして俺が笑顔で挨拶を返すのは、彼女の今までの気遣いに対する、礼の気持ちでもあった。

……いや、本当は関わりたく無いんだけどね。

 

 

「えーと、だいぶキャラ変わったみたいだけど……そのっ、イメチェンかな? 凄く似合ってはいるんだけど」

 

「ありがとうございます。イメチェンって言うよりは元に戻した。と言いますか。ちょっと理由があって目立たないように過ごすつもりだったのですが……ほら、水泳で。ね?」

 

「ああっ。あの後、佐城君って早退しちゃったもんね。体調はあれから大丈夫っ?」

 

 

両手を組んで瞳をウルウルさせ、眉尻を下げる様は実にあざと可愛い。心の底からクラスメートの体調を心配しているようにしか見えない。

だが、このハリソン君の劇的ビフォーアフターが余程の衝撃だったのだろう。

いつもの彼女からは想像もできない程に会話の節々にぎこちなさが目立ち、その表情の奥には隠しきれない動揺が見て取れる。

 

きっと腹の中では「はあっ⁉︎ なんであの典型的な根暗野郎がこんな美形になってるのよ⁉︎ なんなのコイツ⁉︎」てな感じで盛大にテンパってる事だろう。

根拠のない妄想だが、そう外れてはいないと思う。

 

 

「体調は大丈夫ですよ。体育が金曜でしたから、土曜日にゆっくり眠って、あっという間に全快です。昨日はヘアサロンとやらに行ける程度には元気になりましたから」

 

「あ、あっー。だから髪色変わってるんだね。いいなー凄く綺麗に染まってるよ。どこのサロン?」

 

「ああ、この髪色は染めた訳じゃないんですよ。実はこれ、地毛でしてね。入学当初は、なんて言うか、そう。変に目立ってしまうんじゃないかって怖くて、黒く染めていただけなんですよ」

 

「えー‼︎ そうなんだ⁉︎ じゃあじゃあっ、名前からもしかしてって思ってたけど、佐城くんってハーフなのっ?」

 

「そうですよ。母がイギリス人でね。……それで、ええと、ヘアサロンの場所でしたよね? 確か、ケヤキモールの奥の方だったような」

 

 

 

櫛田と軽く雑談をかわしていると、先程まで警戒するかのようにこちらを観察していた周囲のクラスメート達が瞬く間に騒めき始めた。

やはりあの美少女? 美少年の正体はあの根暗野郎だったのか。的な野次が其処彼処から聞こえてくる。

 

まあ、うん。

俺がそちら側の人間だったら同じ反応をするだろうから気持ちは分かる。

だがもう少し此方に気を使って声を抑えるとか出来ないのだろうか。

 

……出来ないよな。Dクラスだもん。

 

 

(それにしても、こうして改めて目の前でじっくりと観察すると……やっぱり櫛田は可愛いな〜。まあ、ガワだけは。ガワだけは、だけど)

 

 

入学して僅かな時間しか経っていないというのに、クラスどころか学年のアイドルとして名を馳せている美少女のバストアップは、なかなかに眼福である。

というか、つい先日に櫛田には関わらない‼︎ 的な宣言をしたばっかりな癖してこの有様だ。

だが仕方ないのだ。男は何歳になっても可愛い女の子に弱いのだから。

 

二次元キャラクターだから許される男の妄想を具現化したような美少女が。

しかも現役JKという、スペシャルブランド持ちの相手と、こうしてお話しできている現状に、オッサンは内心ニッコニコなのだ。

 

我ながら掌クルックルな自覚はある。

実は櫛田だけでなく、機を見計らって平田とも仲良くする方針に変更しているので、当初立案した目立たない関わらない計画は全くの時間の無駄となった。

あまりにも早すぎる掌返し。オッサンでなきゃ見逃しちゃうね‼︎

……その内、俺の掌がクルクル回り続けるドリルにならないか心配である。

 

 

(まあ、一之瀬に自然な形で関わりを持つなら櫛田を経由するのが一番だし。原作でも勉強会イベントの時点では既に仲良くなってたっぽいしな)

 

 

俺の新たな計画には一之瀬との協力が不可欠なので、櫛田には結構な面で期待している。

そもそも当初の俺が、櫛田に関わりたくないとわざわざ断言していた理由は二つある。

 

1つは将来的に彼女が綾小路に敵対視されるからだ。

このライトノベルの世界で主人公である綾小路 清隆に敵対する事は=退学。と言っても過言ではない。

俺の薄ぼんやりした原作知識では、1年生編が終了する段階で彼は既に櫛田を退学にすると決意を固めていた筈だ。

櫛田と仲良くなった結果、ついでにとばかりに彼に敵対視される。そんな事故は絶対に避けたい。

 

それから理由のもう1つは、堀北との縁繋ぎに利用される可能性だ。

そもそも櫛田は自身の裏の顔を知っている(可能性がある)同じ中学出身の堀北の事を今すぐに退学させたい程に嫌っている。

その為に堀北の弱みを何としても掴みたい。だからこそ、仲良くなるという形で敵の懐に潜り込んで弱味を握りたい。という、やや斜め上の考えを持っているらしい。

現に原作内では綾小路を経由して堀北と接点を持とうと努力するシーンがちょくちょく登場する。

 

 

(まあ堀北は櫛田に嫌われてる事を最初から悟っていたから、櫛田の行動って意味が無いんだけども)

 

 

綾小路は無人島編の直前に茶柱から脅迫されるまではそれなりに普通の高校生活を送ろうと彼なりに奮起していたし、友人も欲していた筈だ。

原作内でもクラスには可愛い女の子が多いと感じていた旨の記述があるし、自己紹介で盛大に失敗してからボッチ気質だった彼に声をかけてくれた櫛田の事を悪く思ってはいなかった。

なので多少強引に押される形ではあったが堀北との縁繋ぎの作戦に協力している。

……まあ近い内に彼もまた櫛田の内面を知ってしまい、天使だと思っていた相手から脅迫される運命にあるのだが今は触れまい。

 

 

(櫛田って行動力があるからなぁ。俺は今のところ、というか出来ればずーっと堀北との接点は作るつもり無いから櫛田との繋ぎにはなり得ない。とは思うんだが……)

 

 

俺は前世で様々な『よう実』の二次創作を読んできた。

その中でオリ主が綾小路と共に櫛田と堀北のお友達作戦に利用されるパターンを何度も見ている。

所詮は一読者の妄想を形にした二次創作。何の根拠にもなるまい……等と傲慢な態度で吐いて捨てる事は、今の俺には絶対に出来ない。

何故ならば今まさに、俺がそんなオリ主と同じポジションに存在しているのだから。

 

 

(「佐城君もお友達が少ないから、同じ境遇の堀北さんとなら仲良くできると思うの‼︎」なんて無茶な提案されかねない。考え過ぎかもしれんが、可能性は0じゃない)

 

 

原作でも櫛田は堀北関連の事に関しては、かなり無茶な距離の詰め方をしている。

綾小路が堀北と友人でない。と否定しているにも関わらず強引に事を進めていた。

もし。もしもの話だが、彼女のトンチキな提案をきっかけにして、綾小路、堀北、櫛田とまとめて問題児3人と接点を持ってしまいました。なんて展開になったら最悪だ。

もはやただの悪夢である。

 

もちろん将来的には、綾小路も堀北もストーリーの展開上どこかで関わる必要が出てくるかもしれない。

逃れられない原作の修正力のようなものが発生するかもしれない。

 

 

(だけど今は絶対に嫌だ‼︎ 特に堀北‼︎ 初期の堀北とは絡んでも良いこと無い‼︎)

 

 

君子危うきに近寄らず。別にオッサンは君子では無いが、見えてる地雷を踏みつけに行く程バカでは無い。

今の堀北は孤高という言葉を勘違いしている、ぶっちゃけ痛い娘だ。

近づいたところでマシンガンのような罵倒が飛んでくるのは想像に難く無い。

 

別に小娘に罵倒を受けたくらいでムキになるつもりは無いが、それでも全く傷つかないという訳では無いのだ。

オッサンという生き物は繊細で、その心は永遠にガラスの十代なのだから。

被虐的な趣味がある訳でもない俺からすれば、今の彼女は絶対に近づきたく無い相手である。

 

 

(まあ今の櫛田の状態を見れば、そんな無茶振りを吹っかける程の余裕はなさそうだけど。擬態を解いたのが良い奇襲になったな)

 

 

幸い、櫛田は混乱しつつもハリソン少年という存在に興味津々なようだ。

その証拠に、いつもならとっくに他のクラスメート達への挨拶周りに行っている筈なのに、今朝は未だに俺の前から離れようとしない。

この様子ならいきなり堀北関連の話に飛ぶことはないだろう。

櫛田とは程々の距離を保ったお友達。という程度の交友関係を築き上げ、とっとと一之瀬の連絡先を教えて欲しいものだ。

 

 

「あそこにヘアサロンあったんだ‼︎ 知らなかったなぁ、今度行ってみるねっ。ところで佐城君って前々からよく本を読んでるみたいだけど、やっぱり読書が好きなの?」

 

「そうですね。数少ない趣味の一つといったところでしょうか。もっとも、あまり学が無いので古典的な文学作品なんかは苦手なのですが」

 

「今は何を読んでるの?」

 

「コレですか? 団鬼六の著作の『檸檬……」

 

 

 

と、どこか辿々しくも和やかに櫛田と会話をしていたその時だった。

 

 

「おいおい‼︎ サジョーって女の子だったのかよ⁉︎」

 

 

頭の悪そうな大きな声が背後から割り込んできたのだ。

その言葉に俺は背後を振り向くと、そこには予想通りの声の主。

『よう実』世界における、もっとも哀れで、もっとも残念な男の姿があった。

 

 

「……ああ、おはようございます。山内君。何か勘違いなさっているようですが、ボクは男ですよ。それに、一応訂正させて頂くならばボクの名前の読みはサジョウではなく、サショウです」

 

 

『山内 春樹』。

最底辺のDクラス内において最も能力が低く、最も幼稚で、ついでに最も女子から嫌われている男だ。

原作内において彼は坂柳の策略によってDクラス(当時はCクラス)における最初の退学者となる。

だが、例え坂柳の謀略が無かったとしても恐らくはその人間性が足を引っ張り、結果的に学園を去る運命は変わらなかったのではなかろうか。

 

 

「名前なんてどうでも良いんだよ‼︎ どっからどう見ても女じゃん‼︎ アレか? 身体は女だけど心は男みたいな、ドラマとかで見たやつ‼︎ セイドーイツショー何とか‼︎」

 

「もう山内君っ‼︎ いきなり失礼だよっ‼︎」

 

 

鼻の下を伸ばして唾を飛ばしながらこちらに迫ってくる彼の姿は、外面大天使の櫛田が思わず注意してしまう程には気色が悪い。

恐らく彼が言っているのは『性同一性障害』という自身の肉体と精神による性別の不一致による症状の事を指しているのだろうが……。

何というか、本当にズケズケと踏み込んでくるのだな。と一周回って感心してしまう。

 

もしも、本当にハリソン少年が性別不和などの障害を背負っていて、それを無遠慮に指摘したら心に傷をつけてしまうのではないか。と、少しでも考えたりしないのだろうか?

……まあ、しないよな。山内だし。

 

 

(この当時の山内は本当にどうしようもないからな……いや、最後まで人間性が改善しなかったから退学になったんだっけか)

 

 

周りの生徒も山内の面の皮の厚さに顔をしかめながらも、チラチラとこちらを観察している。

どうやら山内の言葉を聞いて、もしかしたら。と疑いを抱いた人間が複数名いるようだ。

まあ、仕方ないか。

せっかくの機会だから説明に使わせてもらおう。

 

俺は「ハァ……」と態とらしく溜息を一つつくと、如何にも面倒だと言わんばかりの表情を作り上げ、山内に言い聞かせるように語った。

 

 

「ボクは産まれた時から心も身体も男ですよ。少なくとも、ボクの頭が自身の性別を認識できない程に狂っていなければの話ですが。……ねぇ?」

 

「いやいや‼︎ その顔で男ってありえないだろ⁉︎」

 

「あり得ない。などと言われましても事実なのですから、言い掛かりをつけられても困ってしまいますよ。というか、山内君。君、水泳の授業でボクの隣のレーンだったんですからボクの性別くらい分かるでしょう?」

 

「えっ? そうだっけ?」

 

 

そう。実は『俺』という存在が目覚めるきっかけとなった、あの水泳の授業中。

つまりポイントをかけた競泳の時に一緒に泳いだメンバーの1人が山内だったのだ。

まあ当の本人は、どうせ櫛田の水着姿の事ばかり考えていて、周りの事など気にしていなかったのだろうが。

とりあえず間抜けな顔で首を傾げている山内は放っておき、俺は改めて櫛田に向き直った。

 

 

「それと櫛田さん。一応説明させていただくと入学当初に目立たないように変装なんてしていたのは、こういう輩が多いからです」

 

「な、なるほど。確かにそんなに可愛い……っていうか綺麗な顔だもん。勘違いする男の子がいてもおかしくないもんねっ」

 

 

俺の言葉に櫛田がウンウンと頷いた。

うーん。やっぱり美少女だよなあ。動作の一つ一つがあざと可愛くて仕方ない。

 

 

「まあ、自分で言うのも変な話ではありますが、こんな顔ですからね。多少は諦めている部分もありますが……ああ、ちなみに言うまでも無いことかもしれませんが、ボクは普通に女性が好きで、過去には女性としか交際経験もありません。無論、今後も男性とお付き合いする気などありませんよ」

 

 

最後に山内の反応があまりにもアレだったので一応、予防線を張っておく。

Bクラスには確か百合っ娘がいた事実から、実はゲイでした。なんてキャラが居る可能性も否定できないので、念を推しただけだが。

 

 

「アハハ……確かに佐城君、男の子に凄くモテそうだもんね。その、誤解される事も、なんだか多そうだし……あ、もちろん佐城君なら女の子からも、間違いなくモテるだろうけどっ」

 

「お世辞でも嬉しいですよ。ありがとうございます」

 

 

ぶっちゃけ俺自身は同性愛やらLGBTに偏見や嫌悪感は無い。

取引先との飲み会でオカマバーとか連れてかれた事もあったし。

だがハリソン少年自身も、その中身に間借りしているオッサンも、至って普通の性癖の持ち主なのだ。

自分自身が同性からそういう対象に見られても、何というか、普通に困る。

 

まあ異性だろうが同性だろうが、そもそもこの学校に在学している間は呑気に恋人など作っている余裕も無いだろうが。

 

 

(ところで一部の女子よ。何故に俺が同性愛者じゃないと宣言した瞬間に落胆の声をあげたのだ)

 

 

少なくない数の女子が残念そうな顔でこちらを眺めているのを、見逃してはいないからな。俺は。

 

 

「えー? でもよー、どっからどう見ても女子じゃん。やっぱただ貧乳なだけで実は女子なんじゃねーの⁉︎」

 

「もう‼︎ 山内君っ。あんまりしつこくしちゃあダメだよっ」

 

「ご、ゴメン櫛田ちゃん。ただサジョーの奴が余りにもオカマっぽいから……」

 

 

未だ山内がごちゃごちゃ言っているが、櫛田の言葉にようやく引き下がる。

作中で高円寺が「醜い」と断言する彼の性格は本当に残念だ。

 

だが実のところ、俺は『よう実』世界のキャラクターにおいて山内春樹という人間がそこまで嫌いじゃなかったりする。

 

 

(普通なんだよなあ、山内の態度って。何ていうか、どこにでもいる普通の奴って感じで……高校に入学した直後の浮かれたモテない男子って、こんな奴が多かったんじゃないか?)

 

 

自分を良く見せたくて、ついつい余計な見栄を張ってしまい、それがバレて慌てて取り繕ったり。

彼女が欲しい。と日々願いながらも、自分を磨こうと特に行動に移ることも出来ず。

勉強も運動も特にやる気が出ないから、友人とひたすら遊び呆けて日々を無為に過ごしたり。

女子との距離の詰め方が分からず、本人は良かれと思って行動したのに、逆に嫌われて距離を取られてしまったり。

 

山内というキャラクターは未熟な男子高校生の残念な部分を。

男子なら一度は経験してしまう、いわゆる『黒歴史』をそのまま浮き彫りにさせたようなキャラクターだと感じるのだ。

 

 

(此処がラノベの世界じゃなくて、普通の学校で、普通のクラスメートとして知り合ったなら。もしかしたら友人になれたのかもな)

 

 

そもそも男子高校生というのは馬鹿な生き物なのだ。

馬鹿で、阿呆で、無知で、世間知らずで。

だからこそ自由で、だからこそ青春を謳歌できるのだ。

俺は前世の高校時代の友人達を思い出し、少しだけ感傷的な気分になった。

 

 

(懐かしいな。高校時代。もはや記憶は朧げだけど、楽しかったなあ……)

 

 

そんな似合わないサンチマンタリスムに浸っていた俺を叩き起こしたのは、聴き慣れたチャイムの音だった。

同時に、ガラガラという独特の音と共に教室の扉が開く。

 

茶髪のポニーテールにレディーススーツ。

豊満なバストを見せつけるかのように、シャツブラウスの第二ボタンまでを大胆に開けた妙齢の美女。茶柱先生が教室に入って来た。

 

 

「ホームルームを始める。席につくように」

 

 

彼女の号令によってダラダラとではあるが生徒達が己の席に戻って行った。

少なくとも、まだ担任である彼女の言うことを素直に聞く程度の理性がDクラスには残っていた。

 

 

(さて、と。二度目の高校生活。オッサンなりに頑張りますか)

 

 

こうして、ようやく長い前振りが終わる。

今日この日から、1年Dクラス。佐城 ハリソンとしての一日が始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

……なお、余談ではあるが、この日をきっかけとして、俺。つまりはハリソン少年の存在は授業中だろうが何だろうが関わらず、主に男子を中心としたクラスメートの視線と興味を一気に奪う事となる。

 

それが結果的に教師達から授業放棄と見なされてしまい、Dクラスのクラスポイント減少速度を著しく加速させてしまった。

という未来の事象については、当初の俺は全く知らなかったし、それについて責任を取るつもりも全くない。

 

 

……いや、何でお前ら男に見惚れてるんだよアホか。

 

 




だんだんとオッサン要素が増えてきます。
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