ようこそしたくなかったわ、こんな教室   作:薔薇尻浩作

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感想、評価ありがとうございます。
話が進みません。


友達いないぜ‼︎(決め台詞)

前世の話だ。

 

何がきっかけかは忘れたが、酒の席にて各々方の趣味の話になった。

俺の趣味は読書や風俗巡りといった、中年男性にしてはありふれたモノだったので特に話も膨らまずに流されたのだが、中には変わったヤツが居て、自らの趣味を散歩だと宣言したのだ。

 

まあ、別に悪いことではない。

気分転換や暇つぶしに散歩をした経験というのは、余程のヒッキー上級者でなければ誰だってある事だろう。

だが、わざわざ散歩を趣味にしている。と聴かされれば興味がわいた。

 

果たしてその理由を尋ねたところ同僚はハイライトの消えた目で「金がかからない上に運動不足解消になる。それに何より口煩い嫁さんと反抗期の娘の顔を見なくてすむ」と若干、深い闇を感じさせる解答を返した。

更に恐ろしい事に、この話を周りで聞いていた別の同僚達が「分かる。その気持ちは本当に分かる」と強く、強く共感していたのだ。

そんな彼らの趣味は登山や写真、ドライブなど。

より正確に言うならば、そういう名目で家族から離れる事が目的らしい。

 

そこまで家族と過ごしたく無いものなのか、というか何故そんな思いまでして結婚せなアカンのか。

と、独身の身分である自分に心底ホッとして結婚など絶対にしないぞと誓った思い出の瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……うん。ロクな思い出じゃねえな。それに今やってるのって散歩と言うよりは、探索だし)

 

 

『高度育成高等学校』は非常に金のかかった虫籠だ。

入学金、学費無料。更には寮暮らしにおける電気ガス水道代まで無料で負担してくれるという国営の学園に入学した者は、その代償として外部との接触を徹底的に禁止している。

とは言え、いくら大人しいことで有名な日本人でもパッション溢れるティーンエイジャーの集団だ。

授業以外は余計なことするな、等と娯楽の無い室内に生涯閉じ込めておく訳にもいかない。

 

だからこそ、この学園には街がある。

働いている人間は外部の大人達とは言え、通貨は全てポイントで統一されている。

まさに高度育成高等学校に在籍している学生の為だけ、の街が此処にはあるのだ。

 

 

(と言うか本当に広いなこの学園。都市だよね、もはや。学園都市)

 

 

ハリソン君の劇的ビフォーアフターから5日後の今日は金曜日。

放課後の時間をまるまる使ってまで丸5日間も散策しているというのに、未だ周りきれていないこの街の規模と設備の充実さは驚きを超え、呆れを覚える程の広大さだ。

 

 

(カフェやデパート、ファミレスやゲーセンは分かる。水族館や美術館なんかも、まあ、分かる。だけど何で学生の街に高級ジュエリー店や三ツ星フレンチレストランなんか作ったんだよ)

 

 

名のある富豪の産まれでもなければ、一高校生には明らかに縁のなさそうなラグジュアリーでオシャンティーなレストランの外観をチラと眺めて通り過ぎる。

果たしてこんな所で食事をしたら幾らかかるのやら。

 

いや、前世では会食とか取引先の付き合いなんかで美味いモノを。というかやたら高級な懐石料理やらフルコース等を食べた経験はある。

だがそれを自分で稼いだことも無い、ただの高校生が食べている様は、何というか。健全といって良い形なのだろうか?

まあ基本的に制服を纏っている学生の身分だからこそ、ドレスコードに引っかからないという利点もあるのだろうが。

 

 

(ポイント持ってる奴がデートのシメとかに使うのかね? 原作でも堀北兄や南雲なんかはちょっとした屋敷が買えそうな程度にはポイント持ってたっぽいし)

 

 

金の力は偉大だ。

金さえあれば日本社会では大抵のモノは手に入れられるし、大抵の困難は乗り越えられる。

金で幸せは買えない。そんな言葉はあるが、幸せは金が無いと手に入らないものでもある。

力と権威の象徴でもあるのが金、つまりこの学園で言うならばポイントだ。

 

オマケにこの学園では、本来なら単純に金を積んだだけでは買えないような権利や資格なんかも堂々とポイントで買えてしまうルールに支配されている。

もしやこの学園の真の目的は拝金主義者を量産するのが狙いなのか、と穿った目で見てしまいそうだ。

 

 

(原作では南雲が悪役。というか性悪の敵みたいな書き方されてたけど、顔が良くて成績良くてコネもあって……何よりポイントを馬鹿みたいに持ってる。そりゃハーレム作っても文句は言われないだろう)

 

 

ポイント=金。

金=力。

力=実力。

 

そう考えれば南雲のような考えの人間こそが、この実力至上主義の学園を牛耳るに相応しいのかもしれない。

果たしてそれが未来の日本社会を支える人間として本当に相応しいのかは、甚だ疑問ではあるのだが。

 

 

(……にしても広過ぎる。幾ら掛かってるんだよこの街に。絶対に税金の無駄遣いだろ)

 

 

そもそも何故、俺が放課後の貴重なモラトリアムタイムを放り投げてまで、こうして1人寂しく探索しているのか。

それは監視カメラが設置されていない場所や、人目につかない路地裏などを自分の目で確認する為だ。

 

主に、闇討ち不意打ち大好きなドラゴンボーイこと龍園対策が主だが、将来的にはAクラスを統率した坂柳も仕掛けてくる可能性もある。

『坂柳 有栖』という少女は、その人外じみた思考能力の高さに比例するかのごとく嗜虐的な面も強調されて描写されていたキャラクターだ。

まあ可愛らしい外観によって何となく誤魔化されているが、本人の能力とその人間性が比例しない典型的なタイプと見て間違いないだろう。

 

 

(Aクラスは関わるつもりも無いから暫くは大丈夫だと思うけど、結果的に綾小路が在籍しているせいでガッツリ敵対するからなぁ)

 

 

坂柳本人が望んでいるのはあくまで綾小路本人との決着だ。

だが前時代的な決闘で「ハイ。決着」という訳にもいかない。クラス単位での戦いを想定している事だろう。

事実、原作では年度末にそういった特別試験があり、綾小路は敗北する。

 

いわゆる原作ブレイクを恐れている俺としては、坂柳含むAクラスの面々と積極的に絡み、後のストーリーや人間関係を変える事は決して望んでいない。

が、向こうがどう動いてくるかが分からない。

基本的に他人をチェスの駒か路傍の石にしか考えていない坂柳はともかく、葛城や神室、橋本や鬼頭といったキャラの行動指針まで把握している訳では無いのだ。

 

少なくとも、体育祭以降にAクラスが徐々に探りを入れてくるのは知っているが、それ以前に何か仕掛けて来る可能性も0では無い。

 

 

(……そもそも面倒くさい人間が多過ぎるんだよな。いや、キャラの濃さでは佐城少年も負けてはいないんだろうけど。残念な事にクラスで浮いてるし)

 

 

他クラスを警戒して、こうして行動している訳なのだが、こうして独りぼっちでいるのには悲しい事に他の理由もある。

 

誰も。誰も、遊びに誘ってくれなかったからだ。

 

 

(おかしい。根暗キャラは払拭した筈なのに、何で櫛田しか話しかけて来ないんだよ。つーか平田よ。一回ぐらい遊びに誘ってくれる優しさを見せてくれてもいいじゃないか……)

 

 

繰り返すが今日は金曜日。ハナキンなのだ。

Dクラスを始め、殆どの生徒が未だSシステムに気づいていない4月の半ばである現在。

週末を控えた学生はそれはもう楽しそうに遊んでいる。

クラス内でも「今日はカラオケ行こう」だとか、「気になっていたブランドの夏物を見に行きたい」といった放課後の予定を友人達と埋めていく声が聞こえて来た程だ。

 

それが授業中に。という点にはあえて触れないとしても、夢のような学生生活を送れると信じきっている面々からすれば10万ポイントを使い切るまでは、きっと遊び呆ける事だろう。

 

別にそれは咎めない。個人の自由だ。

問題なのはただ一つ。どうして『俺』が誘われないのだろうか。

 

 

(というか約2週間学生やってて、まともに話したのが櫛田オンリーって……次点が山内と池って)

 

 

一応、言っておこう。もうしつこいぐらいに感じるだろうが言っておこう。

『佐城 ハリソン』は美少年である。そしてその中身は社会人歴20年以上のオッサンである。

 

美形と呼んで文句無い外見に、社会の荒波によって鍛えられた社交性まで兼ね備えている。

だと言うのに、どうして友達が出来ないのだろうか。

 

いや、確かに前世の記憶が戻った直後は目立つつもりも無かったし、何だったらボッチでも構わないと思っていた。

だが改めて高校生をやってるのにも関わらず、明らかに浮いている現状は。

何と言うか、その。想像以上に、寂しいのだ。

 

 

(そりゃ櫛田はしつこいぐらいに遊びに誘って来るけど、そこまで深い仲になりたくないから却下だし。山内や池は俺に向ける視線が完璧に女に対するソレだからキモいし)

 

 

現状、佐城少年の交友関係はかなり狭い。

ハッキリと友達だと宣言できるのは櫛田のみである。

だが櫛田という少女は関わりのある全ての人間を友達と豪語する程に懐が大きいので実質ノーカンだ。

 

彼女を除いた結果、挨拶程度の会話が出来るのが『平田』、それから櫛田経由で紹介された『王』と『井の頭』だ。

 

 

平田に関しては擬態を解いた日の放課後、彼の方から俺に話しかけてくれた。

佐城少年の変貌ぶりに驚きの言葉を零す彼に対し、俺の方から今まで非常に無愛想な挨拶程度しか返せなかった事に改めて謝罪をし、改めてクラスメートとして仲良くして下さい。とお願いする感じの無難な会話だった。

 

それ以降、笑顔で挨拶する程度の顔見知りにはなれたのだが、何故かそれ以上の発展が一切無い。

二次創作のよくある展開のように、カラオケ辺りに誘われるだろうと思っていたのに、まあ、ビックリするぐらい進展が無い。

 

 

(嫌われてはいないと思うんだが……何というか、戸惑っている? ハリソン少年というキャラを掴みきれていないからか?)

 

 

どうやら彼にしては珍しく、俺という人間との距離を掴みきれていないらしい。

ならこちらから積極的に、と行きたいところだが彼の周りには軽井沢を始めとした明るい女子達。

いわゆる『パリピ』で『陽キャ』な『ナウでヤング』なギャル達の集団が着いて周っているのだ。

 

 

(ギャルは怖ぇよ。オッサンからしたらギャルは恐怖の象徴なんだよ……パパ活……援助交際……痴漢冤罪……ゔっ、頭が……‼︎)

 

 

『軽井沢 恵』。

櫛田とはまた違った魅力でDクラスの女子をまとめ始めている少女だ。

近い未来、平田とニセコイの関係になり、やがて主人公の綾小路と恋人になる波乱万丈な未来が約束されている彼女とはあまり関わりたくない。

というか中身はともかく外見は完璧にギャルなのだ。

ギャルという生き物はオッサンの天敵だ。

電車で同じ車両に乗っていると、いつ痴漢冤罪に巻き込まれるか気が気でないのだ。(※偏見)

 

そんな恐ろしい生物が常に集団で平田にまとわりついている現状、こちらから彼と距離を詰めるのは非常に困難と言っていい。

 

 

(軽井沢は論外としても平田は普通に良いヤツだし、櫛田とはまた違った広い交友関係を持ってるから仲良くなりたいんだけどなあ)

 

 

平田については将来、山内が退学になり彼のトラウマを刺激されて発狂するまでは非常にいい奴なので櫛田よりも付き合いやすい。

というか最近の櫛田率が酷い。何だったら櫛田としか会話しない日まである。

思ったよりもハリソン少年に興味を抱いているのか、想像以上の勢いでガンガンこちらに距離を詰めて来ているので、ちょっと怖い。

普通に同性の友達が欲しい。いや、マジで。

 

 

(王と井の頭は挨拶ぐらいはするけど、本当に挨拶だけだからなあ)

 

 

みーちゃん、こと『王 美雨』と『井の頭 心』は顔見知りでしかない。

王は基本的に平田に夢中で、熱烈な視線を常に彼に向けているのでまともな会話にならない。

井の頭に関しては彼女の内向的な性格が災いしてか、挨拶する時も顔を合わせてすらくれない。

気軽に仲良くして欲しい旨を笑顔で伝えたところ、「お……恐れ多くて……ごめんなさい」と顔を真っ赤にして机の上に顔を伏せていた。

人見知りもここまで行くと、将来的に非常に厳しいことになりそうだが大丈夫だろうか?

と言うか恐れ多いという台詞の意味が未だに分からない。

 

 

(山内と池はダル絡みってやつばかりだな。俺が女だったら訴えられてもおかしくないぞ、主にセクハラで)

 

 

DクラスのMr.残念男の『山内』とその親友の『池 寛治』。

彼らとの関係は微妙、の一言だ。

山内も池もデリカシーという言葉を知らないのか「本当は女なんだろう?」や「ホモっぽいけどマジなの?」といった質問? を一方的にぶつけて来るので、それを皮肉交じりで適当に流しているのが日常と化している。

 

今日の午前中など2度目の水泳の授業があったのだが、山内も池も人の海パン姿を穴が開く程に凝視し、非常に気持ち悪かった。

まず間違いなくクラスの女子には嫌われただろう。既に彼等の株はストップ安かもしれないが。

 

 

(水泳と言えば、面倒くさいこと頼まれたよなあ。まあ一部の男子の反応を見てれば無理も無いことなんだろうけど)

 

 

前回の失態もあってか、こちらの体調を念入りに確認して来た熊のような熱血体育教師が、一生徒に頭を下げてまでの懇願。

その内容が『佐城 ハリソンのみ特例として水泳時はラッシュガードの着用を義務づける』事なのだから、笑うに笑えない。

確かにハリソン少年の顔は女顔だ。美少女の顔だ。

だがイケメンが多いラノベの世界で可愛らしく中性的な顔をした男などそこら中にいる。

現にDクラス内にもそこらの女子よりよっぽど可愛らしい沖谷がいるのだ。

 

特別扱いなど悪目立ちの極みなので最初は断るつもりだったが、周囲のネットリとした気持ちの悪い熱視線。

それから、一部の、ごく一部のバカが前屈みになって股間を両手で隠していたのを見て、俺は死んだ目で特例措置を受け入れる事にした。

 

 

(ここ『よう実』の世界だよな。実は『よう実』を元にしたBL世界とかじゃないよな。流石の俺も貞操を失う恐怖を感じたぞアレは)

 

 

一部男子の性癖を狂わせてしまった予感に悪寒を覚えつつ、パーカータイプのラッシュガードを購入。ちなみに費用は3000ポイント。

担当教師がこちらに気を使ってか、かかったポイントは後日振り込んでおくと提案して来たが、それはお断りした。

やはりポイント関係はシビアなのか、強制させたのは学校側だから支払いの義務はこちらにある。と体育教師は渋っていた。

が、対価として『とあるお願い』を聞いて貰ったりもしたので、実質的に損ばかりしたという訳では無い。

 

うん。前向きに考えるしか無いだろう。

 

 

(山内はこれからずっと。池は無人島に行くまではクラスの最底辺の扱いだからなー。関わってもいいこと無いんだよな、実際)

 

 

山内、池。それから俺には関わりが無い『須藤 健』のトリオは最近、Dクラス内でも3バカと呼ばれている。

池は無人島編まで、須藤は暴力事件が発生するまでは人間として宜しくない部類といって差し支えない存在だ。

ましてや山内に関しては、将来退学する事が確定しているので仲良くなったとしても意味が無い。

個人的にそこまで嫌いという訳では無いが、積極的に仲良くなろうとは思えない人間達なのだ。

 

 

(気を使わずに話せる友人が欲しい。モブでもいいから欲しい。櫛田と会話してる時は気を張ってるから疲れるんだよなあ)

 

 

櫛田、平田、王、井の頭。おまけに山内、池。

入学してから2週間経って、この人数としか会話をしていない事実。

堀北や綾小路と比べると格段にマシとは言え、コミュニケーション能力に関しては最低辺とも言える人間と比較してる時点で、もうダメだ。

改めて考えてみると、何だか自分自身が可哀相な人間になった気がして溜息が出てきた。

 

 

「……うん、やめよう」

 

 

これ以上、探索を続ける気分でなくなった俺はとっとと切り上げる事にした。

どのみち今日は早めに撤収し、買い物に時間を使うつもりだったのだ。

 

 

「さて、と。電気屋行って、雑貨屋行って、最後にスーパーだな」

 

 

今後の予定を確認するように独り言ち、俺は人気の無い路地裏から踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残りポイント57600ポイント。うーん必要な先行投資とは言え、随分と減っちまったよなあ」

 

 

ジャージ姿でベッドに寝転がりながら端末を弄る俺の目の前には、今日の戦利品が転がっている。

電気屋で購入したスタンガン、防犯ブザー、それからボイスレコーダーが三つ。そして雑貨屋で手に入れた鉄扇だ。

 

 

ぶっちゃけた話、『高度育成高等学校』は基本的に何でもありだ。

監視カメラの無いスポットをわざと作ってあり、生徒の違法行為を推奨している節すら見受けられる。

現に原作では監視カメラの有無を利用した龍園の罠によって、須藤がハメられている。

その際、生徒会を介した裁判に発展したのだが証拠の有無が非常に重要視されていた。

 

疑わしきは罰せず。刑事訴訟法336条の基礎とも言えるこの言葉は実に高潔に聞こえる事だろう。

だが、言い換えればこうなる。『証拠がなければ罪にならない』と。

 

と言うわけで、作中ではその証拠を確保する為にボイスレコーダーやら偽の監視カメラやらポラロイドカメラやらが度々、登場するわけだ。

 

 

「この学園にある電気屋だからこそ、なのかもな。ボイスレコーダーだけでも何十種類もあるとか笑えるな」

 

 

気持ち電圧が強めの護身用スタンガンは12800ポイント。

掌で隠せるタイプの防犯ブザーは2500ポイント。

ボイスレコーダーは小型を2つと、しっかりとした作りのを1つで計8700ポイント。

そして雑貨屋で買った黒無地の鉄扇が7800ポイント。

 

……うん。最後だけ毛色が違う自覚はある。

だが仕方なかったんだ。雑貨屋で一目惚れしてしまったんだ。

確かに俺の中身はオッサンだ。だがいい歳してもライダーや特撮が好きだったり、女児向けアニメが好きだったりする人間もいるのだ。

いいじゃないか‼︎ ちょっと厨二心が残っているオッサンが居たって‼︎

 

 

「高い買い物とは言え後悔はしていない。いや、にしても鉄扇って普通に売ってるんだなー初めて見た」

 

 

ノリノリで買ったばかりの鉄扇を振り回したり、バサっと音立て広げて軽く舞ってみたり。

オッサンボディでやったら通報まった無しだが、この男の娘フェイスの佐城少年のガワなら絵になるのだから不思議だ。

 

 

閑話休題。

一通り、はしゃぎ回って満足した俺は防犯グッズ類を適当にタンスに押し込み、キッチンへと向かった。

何も俺がご機嫌なのは鉄扇を買っただけなのが理由では無い。

スーパーで食品を買い込む時に、目当てのモノが手に入ったからだ。

 

 

「この学校はストレスが溜まる速度が尋常じゃ無いからな。うーん……やっぱストレス発散にはコレですよ、コレ」

 

 

前世では長い間、世話になった人生の友。

おそらく嗜好品としては最も歴史が古く、最も親しまれている飲料。

 

時には薬。

ストレス解消、コミュニケーションの円滑化、疲労回復の効果有り。

 

時には毒。

急性中毒、禁断症状、ハラスメントの一環として取り上げられる事も有る。

 

 

「ふっふっふ〜。自作するのは初めてだけど材料が『水』と『蜂蜜』だけっていうのは有難いね〜」

 

 

容量1リットルの特用ボトルにはドロドロとした黄金の液体、蜂蜜がギッシリと詰まっている。

キッチンの照明を反射して輝く様は、見ているだけで口の中に甘ったるさが広がるような錯覚を覚える。

だが、コレはあくまで材料として買ったものなのだ。

オッサンの人生の友を作る、大切な材料なのだ。

 

 

「さーてと。んじゃ早速『仕込んで』いこうかね〜」

 

 

鼻歌を歌いながら作業を始める俺の顔はきっと満面の笑みを浮かべているだろう。

何故なら前世では毎日のように飲んでいた、オッサンの大好物。

 

 

 

『酒』を作るのだから。

 

 

 

 




この物語はフィクションです。酒の密造は法律違反です。
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