ようこそしたくなかったわ、こんな教室   作:薔薇尻浩作

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難産な上に繋ぎの回です。申し訳ない。


あの日見たゴリラの名前を僕達はまだ知らない。

 

 

「本日はありがとうございました」

 

 

ガラリと音を立てて指導室の扉を開けると同時に、職員室中の視線がこちらに集まる。

顔と名前が一致しないモブ教員からの不躾な視線にやや気後れするも、俺に続いた星之宮は何処吹く風で御機嫌な様子だった。

 

 

「佐城くんからの相談なら、私はいつでも大歓迎よ〜」

 

 

改めて深々と頭を下げた俺の頭を彼女は優しく撫でている。

夜の店顔負けの濃密な接待にも、本来の目的である相談事が無事に終わった事にも満足だ。

 

 

「それと、さっきも言ったけど」

 

 

ふと星之宮が俺の耳元に口を寄せた。

コンマ数センチ踏み出せば口付け出来るほどに近い距離。

彼女の艶やかな唇がその形を変える度に、どうにも落ち着かない気持ちになるのは、思春期真っ最中である少年の肉体を間借りしているデメリットなのだろう。

 

 

「また何か『進展』があったらいつでも相談していいからね? 勿論、それ以外の悩み事なんかでも」

 

 

近づく距離と、ふわりと広がる女の香り。

囁く彼女の一言で、ほんのりと俺の頰が熱くなる。

彼女の艶かしい吐息混じりのウィスパーヴォイスに、胸の奥がムズムズと掻き乱された。

 

 

「私で良かったら、喜んで佐城くんの力になるから……ね?」

 

 

ハリソン少年の綺麗な顔が好みに当て嵌まったからなのか。それとも、誰にでもこのような距離感で接しているのだろうか。

 

少なくとも、女教師と男子生徒としての距離感は、側から見てはあまりにも近過ぎて、不適切に映ったのだろう。

訝しむような顔で彼女を咎める女が現れた。

 

 

「先ほどからうちの生徒に何をしている。星之宮」

 

 

我がDクラスの担任、『茶柱 紗枝』だ。

 

 

「ん〜? 前に体調不良で彼が保健室に運ばれて来た時の御礼に来てくれたの。まあ、そのついでにちょっとした相談にも乗ったけどね〜。佐城くんって本当にイイ子よねぇ」

 

 

俺の頭を撫でながらニコニコと笑う星之宮の言動に思うところがあったのだろう。

茶柱は眉間に皺を寄せると同時に、右手に持っていたクリップボードを躊躇なく振り下ろし制裁を加えた。

ゴツンという鈍い音と星之宮の甲高い悲鳴が職員室に響いた。

 

 

「いった〜い‼︎ ちょっと酷いじゃないサエ‼︎ いきなり何するのよ⁉︎」

 

「黙れ星之宮。前々から言っているが生徒との過度な接触は控えろ。セクハラで訴えられても文句は言えんぞ」

 

 

じゃれあいと言うには少々姦しい美女二人のやり取りに、周囲の教職員が何事かと視線を向けた。

だが、彼女らが気安い関係なのは周知の事実なのだろう。

周りの職員は何だいつもの事か。とばかりに直ぐに此方から視線を逸らすと、各々のデスクに向き直っては仕事を再開していく。

 

 

「褒めるためにちょっと頭を撫でただけじゃない‼︎」

 

「それにしたって態々、生徒の身体に触れる必要は無いだろう。お前のその態度は悪影響を及ぼしかねん」

 

 

俺を挟んで唐突に繰り広げられる口論に、何か原作でもこんなシーンあったなぁ。と俺は遠い目で考えていた。

茶柱が放送で綾小路を呼び出した時だったか。

あの時は食い下がる星之宮を一之瀬が訪ねてきた事で退散したが、今回はそれは望めないだろう。

 

 

「はは〜ん? も・し・か・し・て?」

 

 

ふと、背後で喚いていた星之宮が表情を変えた。

何を思ったのか俺の両肩に手を乗せて密着するかのように半歩、俺との距離を詰める。

その拍子に俺の背中に柔らかな双丘がムニュリと押し付けられた。

 

 

「サエったら妬いてるのぉ? 佐城くんが担任である自分よりも私に懐いちゃったからぁ。 そうなんでしょ〜?」

 

 

背中越しの声から察するに、星之宮は悪戯気に笑っているのだろう。

だが、唐突にもピンク色のハプニングに襲われたこっちは堪ったものではない。

互いの洋服越しだというのに彼女の豊満な母性は、しっかりとその暖かさと蕩けるような柔らかさをダイレクトに伝えて来た。

 

 

「……っ⁉︎」

 

 

その瞬間、俺の心臓が爆発するように激しく高鳴った。

極度の緊張に息が詰まり、喉の奥が締まる。

冷や汗が身体から流れて急速に体温が下がっていくと共に、金縛りにあったかのように身体が石膏のように固まった。

 

 

(……これ、は?)

 

 

恐らく、背後にいる星之宮に悪気は一切無いのだろう。

彼女はただ、生徒越しに目の前に佇んでいる親友もどきを挑発するついでに、お気に入りの男子生徒にほんの少しだけ大人のサービスをしてあげた。

ただ、それだけのつもりなのだろう。

 

その何気ない行為が。『佐城 ハリソン』という少年に、どんな意味を持つか知らないまま。

 

 

(……あ)

 

 

柔らかな肉の感触に。

蕩けるような女の香りに。

 

引き摺り出されるようにして蘇る。悪い夢。

 

 

(……ヤベェ……息、出来ねぇ……)

 

 

 

突如。バチンッと何かが弾ける激しい音。

走馬灯のように駆け巡っていた悪夢のような記憶は、炸裂した音の爆撃と共にシャボンのように弾け飛んだ。

 

 

(……あ?)

 

 

ふと目の焦点を合わせて見れば、そこには青筋を浮かべて茶柱がクリップボードを振り下ろした姿勢で固まっている。

いつの間にか離れていた人肌を不思議に思ってゆっくりと振り返れば、星之宮は頭を両手で抱えこみ、倒れ込むようにして半ベソで痛みを堪えていた。

 

 

「じょっ、冗談なのに‼︎ 痛った〜い……酷いわっ、サエの馬鹿‼︎」

 

「馬鹿はお前だ‼︎いい加減に自分の年齢と立場を考えた言動を心掛けろこの馬鹿」

 

「酷い‼︎ 二回も馬鹿って言うことないじゃない‼︎」

 

 

なんて事は無い。星之宮の態度に痺れを切らした茶柱が再び制裁を加えただけだった。

半ば夢現の状態である俺の目の前で繰り広げられているのはつい先ほども見た、妙齢の美女二人による出来の悪いコントの様なじゃれ合いの繰り返しだ。

 

やがて疲労と怒りが込もっているであろう、重い溜め息を吐きながら、星之宮に悪態をついていた茶柱が不意に俺に視線を向ける。

 

 

「嗚呼、まったく。もうこんな時間じゃないか。佐城、お前もそろそろ教室に……」

 

 

 

だが茶柱は直ぐに、驚いたような表情で俺の顔を覗き込んだ。

 

 

「どうした、佐城? 顔色が悪いぞ。星之宮の相手はそんなに疲れたか?」

 

「えっ?」

 

 

そんな担任の気遣いの言葉に、俺は無意識の内に自分の頰を右手で抑えた。

冷や汗に濡れる己の顔は、確かに冷ややかで。

鏡を覗き込めば、きっと青白く生気の無い人形のような顔をしている事だろう。

 

 

「嗚呼、いえ、はい。何でも、ありません。ではホームルームの時間も近づいてますので、ボクはこれにて失礼します」

 

 

強引に話をぶった切った俺は再び星之宮に「ありがとうございました」と頭を下げ、そのまま逃げるように教師二人に背を向けた。

 

 

「……ああ。遅刻はしないように、な」

 

 

背中越しに刺さる訝しむような担任の視線には当然、気づかないフリをしたままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(思ったよりもホームルームまでには余裕があるな)

 

 

職員室から早足で退出した俺は、教室に向かう前に男子トイレに入った。

チンパンジーの群れが占領する五月蝿い教室の中では、落ち着いて考え事も出来やしない。

どうしても一人の時間が欲しかった今、トイレの個室はおあつらえ向きな避難所だった。

 

 

(とりあえず星之宮への接触は成功した。想像以上に……いや、ホント想像の10倍以上はベタベタ引っ付かれたが、まあ単なる御褒美だからそれは良しとしよう)

 

 

そもそも。俺が態々、朝早くから星之宮に近づいたのはいくつかの理由がある。

まず一つは他クラスの教師がハリソン少年の過去を知っているか? という疑問を解消する為だ。

 

成績優秀である佐城少年がDクラスに落とされた要因となった『過去の事件』。

在校生全ての情報を手に入れている生徒会長と、担任の茶柱については確実に知られている筈なので諦めている。

が、この情報が果たして他の教師にまで共有されているのかが分からなかった。

 

これに関して結論を言うなら、答えは『少なくとも他クラスの担任は佐城少年の過去を知らない』と確定した。

もしも星之宮が、中学時代に登校拒否にまで追い込まれたあの『事件』を知っていたなら。

その後の苦難に満ちたリハビリの日々を知っていたなら。

 

 

(いくら空気の読めない星之宮だって『密室内で過剰なボディータッチ』は絶対にしない筈だよな。オマケに星之宮は保険医だ。生徒の健康に関する問題点は無視できない筈だ)

 

 

フレンドリーで距離感の近い星之宮だが、あんなんでも高度育成高等学校を生き延びた歴戦のOGで、ましてや現在は比較的優秀と判断された生徒の集まるBクラスの担任だ。

佐城少年の過去を知っていたら、あんな『思いっきりトラウマを抉るような態度と行動』はとらないだろう。

 

 

(まあ、ここら辺は概ね予想通り。とは言え、録音の件が予想以上に食い付かれたのは誤算だったな)

 

 

そして二つ目。悩み相談の証拠品として星之宮に聴かせたボイスレコーダーの件。

簡単に言うと、この中には『Dクラスのある人物の犯罪行為の証拠』が録音されている。

 

 

(機会があったら利用してやろうと嫌がらせ半分に録音していただけの音声だったんだが……まさか下手したら相手を『退学』にさせる武器にまで化けるとは)

 

 

この音声を証拠として訴えれば処分は確実。

最低でも『停学』。今後、更に根回しを進めて更なる証拠を証言を集めた上で告発すれば『退学』処分もあり得る。

録音を聴かせた上で俺の悩みという名の訴えを聞いた星之宮は、そのキャラクターにそぐわぬ真剣な眼差しでハッキリとそう言った。

 

この録音を証拠として直ぐにでも起訴するかと尋ねられたが「確実に退学処分に持ち込めるまで、今後とも証拠を固めたいから」と、とりあえず保留にしておいた。

別に本気でクラスメイトを退学にさせたい訳では無い。が、停学処分になる証拠と、退学処分になる証拠では武器としての強さが大違いだ。

身を守る為にも武器は大きく、強い方がいい。

とは言え、俺からすれば、まさかそこまでの大事になるとは思っていなかったのだ。

 

何故なら、星之宮と親密な関係になる事こそが、本命の目的であって、相談する内容なんて『第三者から見て違和感さえ抱かれなければどうだって良かった』のが本音だったのだから。

 

 

(録音の件は嬉しい誤算だ。が、とりあえず本命の種は蒔き終えた)

 

 

三つ目にして今回の本命の目的。

それはDクラス担任である『茶柱 紗枝』に対し、俺というイレギュラーが星之宮に親しくしている様子を堂々と見せつける事だ。

 

 

この身体に憑依した当初の指針では、目立たず騒がずひっそりと生きるつもりだった。

だが、まだ何も目立った行動をしていないにも関わらず、学年問わず名前が知られている現状、そんなものは諦めざるを得ない。

 

新たに掲げた俺の『最終目標』の為にもポイントはガンガン稼いでいかなければならない。

ハリソン少年の頭脳でどこまで稼げるかは分からないが、必要となったら二次創作お馴染みの卓上遊戯での賭博なんかにも躊躇なく手を出していくつもりだ。

 

 

(月末辺りからは派手に動く事になる。欲を言えば月50万PPは稼いでおきたい。が、常に貧困に喘ぐハメになるDクラスの中に大量のポイントを貯蓄している生徒を見つけたならば、あの茶柱が放って置く筈が無い)

 

 

キャッシュならともかく、Sシステムというデジタルマネーでやり取りする都合上、金銭のやり取りはしっかりと記録に残されるだろう。

果たして担任に何処までの権利があるかはハッキリしないが、Aクラス昇進の為、躊躇なく綾小路を脅迫した茶柱だ。

大量のポイントを稼いだ時点で、彼女に目をつけられるのは絶対に避けられない。

場合によっては、せっかく稼いだポイントもAクラス昇進の為の策謀の軍資金に使われる可能性がある。

 

つまりはDクラスの財布扱いにされてしまう危険性だって考えなければならない。

 

 

(だからこそ。だからこその『星之宮 知恵』)

 

 

星之宮と親密な関係である事をアピール出来れば、茶柱からすれば、駒として利用するには動かし辛い生徒である。

と思わせる牽制になるのでは。と、俺は睨んでいた。

 

茶柱は現時点では下克上の野望を隠している。

周囲の教師陣に悟らせるような行動には出る事はないだろう。

原作知識を持つ俺としても、彼女と星之宮との複雑な関係の全貌は分からない。

だが察するに、過去に何かしらの事件やら因縁やらがあって、拗らせに拗らせてるのは間違いないだろう。

 

 

(案外、過去に男の取り合いでもしていたりな。それか特別試験で茶柱が何かしらヤラかしたとか)

 

 

互いに弱みを見せたがらないだろう。

原作でも茶柱が綾小路を放送で呼び出した時でさえ、星之宮は探りと挑発を行なっているように読み取れた。

先程の面談でも「名前で呼び合う親友」と仲の良さを窺わせていたが、原作知識から考えるとその言葉を鵜呑みには出来ない。

 

少なくとも星之宮は近い将来、茶柱の呼び出しを通して綾小路を警戒するようになるし、茶柱も星之宮に自分の野望を悟らせないように努めていた。

 

 

(とりあえず、今後も相談っていう名目で何度か星之宮とやり取りして、いかにも美人の保険医に懐いてる思春期の少年アピール。を繰り返せば茶柱も俺の事を簡単に利用しようとは思わないだろう)

 

 

今後とも星之宮とはやり取りを続けていかなくてはならないのが億劫ではあるが、結果的に今回の工作は無事に終わった。

ボイスレコーダーの一件が想像以上の爆弾に化けたお陰で、今後に行う予定であるDクラス全体への牽制と交渉が想定したよりもスムーズに進む事になるだろう。

 

 

(とは言え、浮かれてもいられないな。茶柱の出方もSシステムの種明かしが始まる5月にならないと分からないし、クラス内で理想のポジションをキープ出来るかについては俺の今後の交渉次第だ)

 

 

茶柱への警戒。Dクラスにおける自身の理想的立ち位置の確保。

今後ともやらなければならない事は沢山あるが、少なくとも現時点での滑り出しは上々だろう。

 

 

(……と。そろそろ時間か)

 

 

気がつけば外からの喧騒はすっかり大きくなっている。

夢のような学園生活を存分に謳歌しているのだろう、学生達の若々しい声が弾むようにして廊下の向こうから響いて来た。

端末を眺めれば、朝のホームルームが始まるまで、もう10分を切っていた。

 

俺は個室から出ると、洗面台の蛇口を捻り、両手で水を掬っては顔面に叩きつけるようにして顔を洗った。

ポタポタと水滴が滴るのも無視して鏡を覗き込むと、そこに映る顔。

つまりハリソン少年の表情は、やはり何度見ても異様な程に整っている。

 

 

(やっぱ顔色悪いな)

 

 

だが、その顔色は病人のように青白かった。

 

 

(どうにも妙な感覚だよな。女の、それもとびっきりの美人の女体に密着したら、そりゃ嬉しいさ。嬉しい、筈なのに。同時に固まっちまう程に、ビビっちまうっていうのは)

 

 

もっと触れたいと思うと同時に、逃げ出したいと恐怖する矛盾したこの感情。

 

思い出すのは先程の光景だ。

星之宮が茶柱を挑発する為に、俺の背後からもたれ掛かるようにしてそのバストを押し付けた時。

あの時の、柔らかで、温かな感触だ。

 

美女からの奇襲じみたサービス。思春期の青少年からすれば御褒美でしか無い行動。

だが結果的にその不意打ちは俺の意識を彼方に吹っ飛ばし、フラッシュのように『佐城 ハリソン』という少年の悪夢を。記憶を。過去を、抉り出した。

 

 

 

踊るように弾む白い裸体。

 

乱れ飛び回る黒い長髪。

 

まろみをおびた柔らかな乳房。

 

はち切れんばかりに実った重厚な臀部。

 

白魚のような指先が『ボク』の身体を芋虫のように這い回り。

 

桜の花びらのような爪先が薄皮抉って血潮に染まる。

 

ヌラリと滑る舌先が唾液をこびり付けるようにして裸体を蹂躙し。

 

獣のような八重歯が血肉貪るようにボクという存在を。

 

己の玩具だと示す為だけに首筋に吸い付いた。

 

 

(……先生)

 

 

初恋が見せた都合の良い幻夢か。夢魔が見せた穢らわしい淫夢か。

白い霧がかった思考の世界で走馬灯のように瞬いた記憶の数々。

下腹部の雄に燃えたぎるような熱と芯が篭っていくと同時に、心臓が不規則に脈打っては身体中から滑つく冷や汗がどろどろと染み出していく。

 

決して消えない佐城ハリソンという少年にこびりついた、悍ましく忌まわしい『過去』。

 

 

悪寒が走り、思わずブルリと身体が震えた。

ハリソン少年のこの身体は間違いなく桁違いのスペックを誇っている。

更にそのメンタルは、打たれ踏まれ社会のサンドバックとなって鍛え上げられたオッサン特有の強靭なる雑草魂で支えられている。

 

 

だが決して、無敵ではないのだ。

 

 

 

「身体に刻み込まれた(トラウマ)は残っている……か。まあ、そりゃ全部が全部、都合よくは行かねぇよな」

 

 

右手を眼前に持ち上げマジマジと眺める。少女のようにか細い掌は、無様にも恐怖に震えているのだから。

 

 

「……ふう」

 

 

目を閉じて深呼吸一つ。たったそれだけの動作。

気持ちを切り替えるのは十分だ。

 

 

「うん。まあ、何はともかく先ずは病院だな。」

 

 

『星之宮のアドバイス通り、診断書と処方箋を貰う為にも』放課後の予定は既に決めていた。

今後の仕込みの為とは言え、只でさえ減って来たポイントが更に減ることが憂鬱だが、これもまた必要経費。

金をケチって策が不発する無様を晒したくない。

 

 

「嗚呼、あとは体育担当のゴリラみたいな先生にも協力を頼んどいた方がいいか。てか考えれば考える程、やる事が増えてくよなぁ」

 

 

ハンカチで手を拭きすっかり慣れた動きで端末を弄り、放課後に予定が出来たから図書館は無理だという旨のメッセージを椎名に送る。

 

今日もまた猿山のように騒がしい教室に向かい、学級崩壊真っ只中で一日を過ごさなければいけない。

放課後もまた、今後の学校生活を快適なものにする為の仕込みで、あちこち顔を出さなければいけない。

 

 

「面倒くせぇ。マジでこんな学校に来たくなかった」

 

 

鬱屈した文句と現状への憂鬱を溜息と共に吐き出した。

俺は浮かない足取りのまま、不良品が蔓延るDクラスの教室へと足を運ぶ。

 

 

「……ところであのゴリラみたいな先生。名前、何ていうんだっけ?」

 

 

背を向けた御手洗いの蛇口からピチョリと水滴が垂れる音がした。

 

一日はまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 




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