トラックに轢かれて異世界転生するはずのやつが意外としぶとくて神様が激おこな件   作:佐藤寛

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9話③

 宇崎拓は真っ暗闇な換気ダクトの中で、身体を縮めて声を押し殺していた。

 

 ──だいじょうぶ、みつかってないはず。

 

 そう自分に言い聞かせ、怖くて泣き叫びそうになるのを懸命に耐えていた。

 

 ──ママは、きっとあのこわいおねえさんにころされた。

 

 みたわけじゃないけど、きっとそうだ。

 ママはとつぜんおこったりなぐったりしてこわいときもあったけど、それでもぼくのママだ。

 

 ──ぼくがわるいこだから‥‥。

 

 拓は母親がいつも、『外に居るのは“敵”だけ』と言っていたことを思い出す。

 

 ──ママがいっていたことは、ほんとうだった。

 

 実のところ、拓は化け物よりも人間の方が怖かった。

それは母親の洗脳の賜物である。

 

 ──ママ、ごめんなさい。

 

 拓は声を出さずに泣いた。声を出せば見つかってしまうから。

 

 ──ケンおじさん‥‥たすけて‥‥。

 

 拓はポケットにいつも入れていた人形を取り出した。健が余ったボルトやナットを溶接して組み立てた人形だ。

 それを握っていれば、どんな辛いことでも耐えられる。そんな気がしたのだ。

 

 健はいつも拓に優しかった。

 仕事が休みの日は一緒に遊び、ご飯もつくってくれた。

 

 グォォォ…

 うぅぅ…

 

 あちこちから聞こえてくる何かの声。

 

 ──オバケだ‥‥。

 

 オバケ─化け物達─のうめき声だ。拓は不思議なことに、その声の中に母親の声が混じっていたような気がした。

 

 ──ママ?いきてるの?

 

 拓は恐る恐る、ダクトの外を覗いた。

 月明かりで僅かに照らされ輪郭が見える。

 女のようだ。

 何かをブツブツと呟いている。

 

 「‥‥ロス‥‥ミンナ‥‥コロス‥‥」

 

 呟きながらふらふらと歩く。

 向かい側から、その女に同じようにフラフラと、何かが歩み寄る。

 鎧を着た男だった。

 二人の男女は向かい合い、そして‥‥。

 女は男に素早く掴みかかると、裂けて大きく開いた口で、相手の頭を丸かじりした。

 

 それは化け物だった。人の姿をした化け物。

 母親などではない。

 

 拓は戦慄し、音を立てぬように気をつけながらダクトの奥へもどった。見つからないように。

 自分も捕まればあの男のようになる。そう思うと震えが止まらない。

 

 ペタッペタッという足音が聞こえた。それは母親に似た化け物の足音に違いない。段々と小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。拓の隠れているダクトから離れていったらしい。

 

 ──だいじょうぶ、ここはせまいし、あいつははいってこれないはず。

 

 拓は耐える。

 

 ──ここでじっとしていれば、きっとケンおじさんがたすけにきてくれる。

 

 だいじょうぶ。

 だいじょうぶ。

 

 拓は孤独と恐怖に必死で耐えていた。

 

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