トラックに轢かれて異世界転生するはずのやつが意外としぶとくて神様が激おこな件   作:佐藤寛

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第三話

 敏夫は突然現れた謎の女、ユキに見惚れていた。

 緑の髪、深紅の瞳、鋭い八重歯。

 

 ──鎧を着たバンパイアのねーちゃんか‥‥コスプレってわけじゃ無さそうだ‥‥‥それにしても美人だな‥‥。

 

 「安全な場所か‥‥コンビニとか?」

 

 うーん、と唸ってから健が言った。

 

 「どこでも構わない、落ち着いて話せる場所なら」

 「なら、行こう」

 

 そう言って健は歩き出した。ユキと敏夫もついていく。地割れに気を付けながら。

 歩き始めてすぐに、またあの狼の化け物が現れる。

 

 「うわ!!また出やがった!!」

 「何体いるんだよこいつ!!」

 

 騒ぐ敏夫と健。

 ユキは剣を抜きシャッと、凪払う。

 次の瞬間、化け物は真っ二つになっていた。

 

 ──すげぇ!この女、健よりも強ぇ!

 ──生き残れる‥‥。

 ──この二人と一緒にいれば、俺は生き残れる!!

 ──今日は最悪な1日だが、この二人に会えたのは不幸中の幸いだな!!

 

 敏夫は希望を抱いた。

 歩き続けた三人は、やがてコンビニにたどり着く。中には誰もいない。荒らされた形跡もなかった。

 

 「みんな、どこに行ったたんだろう?」

 

 健が誰に言うでもなく呟く。

 

 「逃げたか、殺されたんだろうな」

 

 ユキが抑揚なく答えた。

 

 「ここじゃ丸見えだ、事務所に行こう」

 

 敏夫はコンビニの正面がガラス張で中が丸見えなのが不安で仕方なかった。

 事務所に入る三人。

 コンビニは、店長の自宅と一つになっていた。事務所から行けるようだ。

 敏夫が店長の家に繋がるドアノブを回すと、ガチャリとドアが開く。鍵は掛かっていなかった。

 

 「よっしゃ、こっちの方が安全そうだぞ。入ろうぜ」

 

 三人は店長の家に入っていった。

 

 

 

 

 「ちょっと待っててくれ、顔を洗ってくる」

 

 健はそう言って洗面所へ入っていった。直後に、水が蛇口から勢いよく流れる音が聴こえてくる。

 

 ユキは異世界の住居に興味津々だった。

 

 ──へえ、レンガ造りじゃないんだ。それに、何か狭いなぁ。でも、あの地震で殆ど崩れてないってことは、耐震性はすごそうね。

 

 頑丈な造りになっている警備局周辺はともかく、異世界の町と融合したあたり‥‥即ち、地震により最も大きく揺れた場所は完全に瓦礫の山と化していた。

 

 タンスの上には少しホコリをかぶった中年夫婦のツーショット写真や若い女性の写真が写真立てに入れられ飾られている。“コンビニ”とやらの店主夫婦とその娘のようだ。

 

 敏夫はソファーに座ってぐったりしている。

 

 ユキが部屋の中を物色していると、健が、洗面所から、タオルで頭を拭きながら戻ってきた。

 

 ──水も滴るいい男ね。

 

 「ふう、少しだけさっぱりした。流石に顔まで血塗れは気持ち悪いし」

 「そうだな、さっきまでホラー映画に出てきそうな見た目だったぜ」

 

 敏夫が茶々を入れる。

 

 ──あんたは黙ってなよ!

 

 ユキは殺意を堪える。

 

 健は近くの机の近くにあった椅子を二つ持ってきて、向かい合うように並べてから、その内の一つに座った。

 

 「それじゃあ、ユキさん?だっけ。いくつか質問しても?」

 

 ユキがもう一方の椅子に座るのを待ってから、健は言った。

 椅子に座り健と向かい合ったユキは、眼球運動を殆どせずに彼の身体のあちこちを舐め回すように見た。

 深く切られた爪、短く切られた健康的な髪、幼さの残るハンサムな顔立ち、きめ細かい肌、よく引き締まった身体‥‥‥若さと力強さに満ち溢れていた。ただ‥‥‥

 

 「その前に、どうして血塗れなんだ?化け物の返り血ではないようだが」

 

 つい聞いてしまうユキ。

 

 「ああ、それは─」

 

 健はソファーに座りぼーっとしている敏夫に目線を向け、

 

 「あいつのせいで‥‥‥まあ、今は根に持ってる場合じゃないし、安全になってから説明するよ」

 

 ──あのクソオヤジになんかされたのね。クソッ!!

 

 「そうか、わかった。それじゃ、何でも質問してくれ。私に答えられることなら可能な限り答えるぞ」

 

 ユキは真剣な眼差しで言った。

 

 ──まあ、私が知ってる情報なんて大したこと無いけどね。

 

 「それじゃあ、そうだな‥‥ええと、まずあなたは何者?‥‥なんですか?」

 

 健は不安そうに最初の質問をした。

 彼の不安は、「この質問は失礼じゃないだろうか」という不安だろう‥‥‥恐らく、多分。

 

 「そんなに固くならなくてもいい。敬語はやめてくれ。これからしばらく、協力する仲になるんだから。それで『何者か』という質問だが、私は君たちとは別の世界─『異世界』から来たんだ」

 

 ──まずはそこから説明しなくちゃね。私たちと違ってこの世界の人達は「異世界」を観測したことがないらしいし‥‥。

 

 「異世界?別の世界?‥‥ええと、つまりこれは現実じゃない?」

 

 案の定、理解出来ていない。

 

 ──困惑顔も可愛いのね。

 

 「いいや、これは現実だ。二つの世界はいつもすぐ近くにあるが、普段は絶対に干渉し合うことはないんだ。だから、君たちが異世界の存在を知らなくても無理はない。でも、現実は受け止めないとな」

 

 「現実か‥‥オーケイ、頑張って受け止めてみるよ」

 

 健はユキの言うことを嘘と決めつけ茶化したりせず、真摯に受け止めた。

 

 ──へえ、真面目君か‥‥もう少し仲良くなったら、からかい甲斐がありそうね。

 

 「私は、この世界─つまり君たちから見れば異世界の、ブリズンという町の警備隊長を務めている」

 

 「警備隊?」

 「町の治安維持のための組織さ」

 「つまり、警察か‥‥‥」

 

 一瞬の間。

 

 「それで、今、一体この町で何が起きてるんだ‥‥ですか?‥‥あ、敬語は嫌なんだっけ‥‥ええと─」

 

 焦る健。

 

 ──フフ、なんだか意地悪したくなっちゃう。でも、それはもっと仲良くなってからね。

 

 「はっきり言って、詳しいことは何もわかっていない。これまで、『窓』と呼ばれる装置で君たちの世界を観測することは何度かあった‥‥でもそれは、こちらが一方的に覗き込んでいるだけで、干渉とは言えないだろう。今回の事件(ケース)は、君たちの町そのものが私達の町、プリズンと融合したかなり大規模な干渉だ。」

 

 「町そのものが‥‥‥それじゃ、もうここは異世界ってこと?」

 「残念ながら‥‥」

 

 ──私にとっては幸運だけどね。

 

 「そんな‥‥‥それじゃあ、あの化け物は?」

 「魔物だ」

 「魔物?」

 「そう、魔素とよばれる物質で肉体を構成された生物の総称だ。通常の野生生物よりも生命力や殺傷力に秀で、いずれも人間に敵対的だ。遭遇したら問答無用で襲ってくると思った方が良い」

 「‥‥‥‥オーケイ‥‥‥」

 

 健は恐怖で身震いしている。

 

 「そして最悪なことに、何故かその魔物の内、“人食いタイプ”の凶悪な魔物ばかりがこの町に集結している。この霧も、その人食い魔物の一種、“スモッグ”が獲物を探知するために発する物質だ」

 「それじゃあ、俺たちも見つかって殺される?」

 

 健の動きが固まる。こんなに一々リアクショが面白いやつも珍しいだろう。ユキは目を輝かせた。

 

 「いや、大丈夫だ。獲物となる人間が膨大すぎるからな」

 

 「それで、俺たちはこれからどうなる?」

 「私と一緒に町を脱出する。今から72時間─」

 

 ユキは首にかけた懐中時計を見た。

 

 「─いや、68時間後、王政軍が来て魔法たちを焼却魔法で町ごと滅却するから、それより先に」

 「そんな‥‥‥それはまずい!」

 

 健は露骨に狼狽する。

 

 「姉さんと拓‥‥‥甥っ子が家で待ってるんだ!置いていけないよ!!」

 

 ──へえ、お姉さんと甥っ子かぁ、挨拶しないとね。

 

 「わかった。なら助けに行こう」

 

 ユキは正義感に溢れた面持ちで言った。

 

 ──ま、どうせ死んでるだろうけどね。

 

 「ありがとう。ユキさん、貴方は恩人だよ」

 

 健は泣きそうな顔で感謝の意を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 敏夫はソファーに座ったまま、ユキと健の会話を話半分に聞いていた。

 ──異世界だって?馬鹿馬鹿しい!!

 ──ゲームじゃねぇんだぞ!

 ──でも、あの化け物‥‥‥それに霧‥‥‥信じるしかねぇ!!

 ──クソッ!!俺の人生、こんなことばっかりだ。

 ──良いことなんか一つも無かった。

 ──クソッ!クソッ!

 ──しかし、それにしても‥‥‥

 ──あの“バンパイアナイトウーマン”は随分と“良いもの”をお持ちだな‥‥‥鎧の上からでもわかるぜ‥‥‥。

 ──どうせ死ぬならあわよくば‥‥‥

 ──なんてな。俺みたいな雑魚、近付いただけで殺されるだろうな。さっきだって睨み殺されそうになったし‥‥‥。

 ──それに、あの健とかいうイキったクソガキ‥‥なんだかんだであいつは俺を守ってくれた。

 ──あいつがいなければ、俺はとっくに死んでたんだ

 ──俺に選択肢は無ぇ。

 ──あの二人と一緒に─

 

 「おいおっさん!!行くぞ!!」

 

 健が呼び掛ける。

 

 「!?行くって何処へ?」

 

 ──やべぇ!!話聞いて無かったぜ。

 

 「俺の家だよ。聞いてなかったのか?」

 「お前の家!?何でだよ!?町から出るんじゃねぇのかよ!?」

 

 敏夫は自分の非を棚に上げて激怒する。

 

 ──寄り道してる場合じゃねぇだろ!?

 

 「姉さんと甥っ子が待ってるんだ。助けに行かないと」

 「はあ?俺には関係無いだろうが!!」

 

 ──ふざけんなよクソガキ‥‥

 

 敏夫の怒りが高まる。

 

 「なら、ここにいるか?別について来なくても良いんだぜ?」

 

 健も引かずに返す。

 

 ──ぐっ‥‥‥こいつ!!

 

 こんなところに一人で取り残されるのはまずい。健とユキにおんぶに抱っこでやっと死なずに済んでいる彼に、選択肢は無かった。

 

 「‥‥‥クソ、わかったよちくしょう!」

 「‥‥悪いな。付き合わせて」

 

 健は目を伏せながら言った。そして、

 

 「だから、責任持って、あんたは俺が守ってやるよ。約束だ」

 

と続けた。

 その健の返しは、予想外─

 

 ──いや、こいつはそういうやつだ。偽善者なんだ。その証拠に、こいつは謝っておきながら、自分の意思は曲げないじゃないか‥‥。

 

─ではないと、敏夫は自分に言い聞かせた。

 

 「早く行くぞ、ユキさんが待ってる」

 

 三人はコンビニを後にした。

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