トラックに轢かれて異世界転生するはずのやつが意外としぶとくて神様が激おこな件   作:佐藤寛

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第六話

 敏夫はスコップを握りしめ、化け物達に突っ込んでいく健のうしろについて走りながら、早速後悔していた。

 

──ああ、俺はこのバカなクソガキの勢いに流されて死ぬんだ。クソッ!!

 

 一方の兎頭の化け物達は、腕を広げ牙を剥き出しにして威嚇する。

 

 「うおおおおお!」

 

 健は野蛮人の如く叫びながら手製の“薙刀のようなもの”を槍のように突きだして兎頭の化け物に突進し、その身体を貫くと、怪物が突き刺さったままの得物を自前の怪力で持ち上げて旗のように頭上に掲げ、更に勢いよくうしろへブンッと振った。

遠心力によって“薙刀のようなもの”の刃先からすっぽぬけ、健のうしろへと吹っ飛ぶ化け物。

 

──うおっ!あぶねぇ!

 

化け物は敏夫の目の前にベシャッと頭から地面に叩きつけられた。

 

「そいつにとどめを刺すんだ!!」

 

健はうしろを振り返らずに敏夫に指示を出す。

 

──ぐ、ちくしょう!

 

出来れば化け物に近づきたくもなかったが、そうも言っていられない。手負いで弱っている今の内にとどめを刺さなければ、こいつは起き上がって自分を襲うだろう。

 

「わ、わかった!」

 

敏夫はフンッフンッと言いながらスコップで何度も兎の化け物を刺した‥‥動かなくなるまで。

 

──ヒェェ、なんてグロいんだ!!

 

敏夫は吐き気を堪えて、目に涙を滲ませる。

 

 一方、敏夫の右側にいるユキは健の活躍をうっとり見つめながら、自分に襲い掛かってきた化け物だけを無造作に、そして造作もなく炎を纏った剣で殺していた。

 

──くそっ、この女は全くあてにならねぇ!

 

 「ぬおおおおおお!」

 

健はさっきのように叫びながら二体目の化け物に突進し、再び“薙刀のようなもの”で突き刺すが、やはりダクトテープで無理矢理繋げた代物だけあって耐久力に限界がきたらしく、ポッキリと折れてしまった。が、健は狼狽えずに鉈がついた方を捨て、ハンマーの方で化け物の頭をぶん殴る。

化け物が頭を押さえて怯む。

健はその隙を逃さず、ハンマーを捨ててショルダータックルを仕掛けて化け物をころばせると、エルボードロップを仕掛けてそいつの兎頭をぺしゃんこにした。

 

──プロレス好きなのかこいつ?まあそれはともかく、やっぱこいつはクソ強ェ!

 

敏夫が感動している間にも、健は三体目の化け物と対峙していた。

健は化け物の両足を狙ってタックルして転ばせ、シームレスに化け物に馬乗りになると、

 

「んんんんんんん!!」

 

素手で何度も化け物の頭を殴り、ぐちゃぐちゃにする

 

「よし、三体目!!次はなんだ!?」

 

健はぜぇぜぇと息をしながら言った。

 

化け物はまだまだ沢山いる。

 

──もう兎は見たくねぇ!!

 

敏夫の心の叫びである。

 

「兎の次は狼かよ!」

 

嘆く健の目線の先にいた狼頭の化け物は、兎頭の化け物達を撥ね飛ばしながら猛然と突進してきた。

 

──ひぃぃ!怖ぇ!

 

戦いについていけない敏夫は、ただただ恐怖するしかない。

 健は背中のバットケースからモップを抜いて両手で構える。

そして突進してきた狼頭の脳天に思い切り振り下ろす。  

バキッという音と共に、モップが折れる。

 

──モップじゃ無理があるだろ‥‥

 

敏夫は内心でツッコむ。

 

「ちくしょうモップじゃだめか!!」

 

健が言った。

そりゃそうだろという敏夫の心の叫びをよそに、健はバットケースから金属バットを素早く抜くと、モップで殴られ僅かに怯んでいた狼頭に下段から殴りかかる。

ガンッという頭蓋が割れる音がした。

狼頭が体勢を崩す。

 

「くたばれぇ!」

 

健は叫びながら、割れかけた狼頭のその頭に、更にバットを振り下ろす。

一回。

二回。

三回。

狼頭は倒れて動かなくなった。

バットはぐにゃぐにゃに曲がっていた。

 

「ちくしょうこの安物!!」

 

健はその使い物にならなくなったバットを無造作に捨てると、懐から大きなモンキースパナを取り出し、

 

「やっぱこれが一番、しっくりくるな!」

 

と、なんだか誇らしげに言った。

その時。

 

「健!!危ねぇぞ!!」

 

健の真横からもう一体の狼頭が、タックルを仕掛けた。

押し倒されマウントを奪われる健。

スパナは手放してしまっているようだ。

 

「‥‥ちくしょう油断した!!」

 

辺りにはまだ兎の化け物が何体か残っている。

 

「おっさん!!逃げろ!!俺は自力で何とかする!!」

 

ナイフのような爪で自分を引っ掻こうとする狼頭の動きを必死に抑えながら、健は叫んだ。

ユキはそんな健を、助けるでもなくただ眺めている。

 

──クソッ。

 

このまま敏夫が逃げ出したら、健は殺されるかもしれない。

 

──そうなったら、俺はこのイカれた女騎士様と二人っきりだ。この女は俺を守ったりしないだろう。俺を守ってくれるのは、このクソガキだけだ。

──そうだ‥‥‥。

──自分のためだ‥‥‥。

──俺が生き延びるために、このクソガキを助けるんだ!!

 

敏夫はそう自分を鼓舞すると、

 

「健!!今助けるぞ!!」

 

拳銃を抜いて狼頭の背中に狙いをつけ、引き金を引いた。

バンッという音と共に発射された銃弾は狼頭の背中に吸い込まれていきそして‥‥‥肉に阻まれ止まった。

かすり傷程度のダメージだろう。

 

──くそ、やっぱり化け物に銃は効かねぇか!!

 

だが、狼頭の痛覚を刺激することはできたらしい。

狼頭が、背をそらし、呻く。

その瞬間に健は狼頭の顔面に強烈な右フックを食らわせた。

後ろに尻餅をつく狼頭。

健はスパナを拾って素早く立ち上がり、立ち上がろうとする狼頭にヤクザキックをお見舞いする。

仰向けに倒れる狼頭。

 

「がああああああ!」

 

健は倒れた狼頭の顔面にカーブストンプをお見舞いし、そのまま作業靴で踏み潰した。

それから乱れた息を整え、

 

「ありがとう。これで借り二つだな、おっさん」

 

ニヤッとしながら健は敏夫にそう言い、残りの兎頭に突撃していった。

 

──‥‥生き残るためだ‥‥。

 

敏夫はそう自分に言い聞かせながら、健の後ろについていった。

 

 果たして、三人は辺りの化け物を殲滅した。

 

 

 

 

 

 

 「良い動きだな。本当に訓練は受けていないのか?」

 

魔物を倒し尽くし、項垂れながら肩で息をし、くたくたな様子の健に向かって、呼吸ひとつ乱れていないユキはそう訊ねた。

 

「訓練なんか受けてないけど‥‥昔、荒れてた時期があって‥‥自慢じゃないけど、喧嘩の腕には覚えがあるんだ」

 

健は深呼吸して身体を起こし、目を伏せながら言った。

 

──ふうん。昔は荒れてた‥‥か。今はこんなに良い子なのに、人は見かけによらないのね。

 

健の意外な一面を垣間見て嬉しくなるユキ。

ユキが健に惹かれた理由。それは、健が“強いだけ”の男ではなかったからだ。

ユキ自身にも正確な理由はわからなかったが、初めて健の姿を見たとき、彼はとても輝いて見えた‥‥。

 

「いい加減、お前ん家まで近付いて来たんじゃねぇか?」

 

手にしたスコップを弄びながら敏夫が健に訊く。

 

「ああ、あのマンションを越えたら、俺達が住むアパートだ」

 

健は前方の建物を指差しながら言った。

 

「なら、とっとと済ませちまおうぜ!」

 

敏夫とやりとりする健をぼんやり眺めながら、ユキは物思いに耽る。

 

──それにしても‥‥

 

ユキは引っ掛かっていた。

彼はどうして、そんなに“家族”に執着するのだろう。

あの副隊長もそうだ。いつも“あの女”と娘の写真が入ったロケットを持ち歩いていた。

それを変だと思う私がおかしいのだろうか。

情念と粘膜と快楽だけが人を繋ぎとめる。

信頼なんてどこにも無い。

人間同士の繋がりなんて、そんなものじゃないのか。

お父様だってそうだった。

精神を病んだ妻と魔物のような娘を捨て、自分のための人生を歩んだじゃないか。

それが“普通の人”ではなかったのか。

 

──それにしても、羨ましいわね、ケンちゃんのお姉さんと甥っ子くん。こんなにもケンちゃんに想われて。まあ、どうせ死んでるだろうけど‥‥‥。でも‥‥。

──でも、もし、生きてたら‥‥。

 

私が殺してやる、とユキは決意した。

それは嫉妬のせいだけではなかった。

『“大切な人”を失ったら、この人はどんな反応をするんだろう?』

それが知りたい。

そこに悪意は無いし、もちろん、嫉妬もない。

ただ、興味が湧いたのだ。

 

 

 

 

 

 宇崎恵(うざきけい)は醜悪な化け物から逃れるために、必死で走っていた。

だが、化け物は恵よりも足が速い。

おまけに恵は運動音痴で、喘息持ちだった。

ぜぇぜぇという呼吸が、すぐにヒュー、ヒューというものに変わる。気管支が悲鳴をあげている合図だ。

化け物が恵の後ろ髪を乱暴に掴む。

無理矢理押し倒される恵。

化け物は恵の水色の地味なセーターを、重ね着している何枚ものシャツごと引き裂く。

黒いデニムを無理矢理脱がす。

そして、化け物は自分のズボンのベルトを緩め、更に‥‥‥。

 

「!!」

 

安物の敷き布団の上で、恵は水揚げされた海老の如く跳び跳ねながら目を覚ました。

 

「ママ、大丈夫?」

 

五歳になったばかりの恵の息子、拓が心配そうに恵の顔を覗き込みながら言った。そして母親の肩に触れようとした─

 

「触んないで!!気持ち悪い‥‥‥」

 

恵は拓の手を払い除けて拒絶する。ビクッと身体を震わせる拓を無視して立ち上がると、洗面所へと向かった。

 洗面台の鏡には、ぼさぼさ髪で目の下に隈がある、弟とそっくりな女が写っていた。

 

──相変わらずひどい顔してるわね、あんたって‥‥。何がちゃんとしてれば美人よ!!みんな馬鹿にして!

 

恵は顔を洗い落ち着くと、ソファーに座った。

拓は言い付け通り、ひたすらジグソーパズルで遊んでいる。

 

──“おしおき”の甲斐があったわ‥‥。頼むからずっとそれで遊んでて‥‥死ぬまでね。

 

恵は霧で真っ白な窓の外をぼんやり見つめ、昼寝する前に窓の外で見た光景を思い出す。

兎の頭の化け物が、人間を食い殺していた。

あれは夢じゃない。

恵はこれが夢なんかではないことを、すぐに理解することができた。

 

──一歩でも家から出れば、外にいるのは“敵”だけ。それだけよ。いつもそうでしょ?

 

恵は今日1日で何度も泣いた。

なぜ私がこんなに怖い思いをしてるのに、弟は助けにこないのだろうか。 

なぜ私ばかりこんな目に遭わなければいけないのか。

 

──健、あんたはいつだって私を守ってくれる。そう約束したじゃない!あんたは私の信頼を裏切ったんだ‥‥‥。

 

「よくも‥‥許さない‥‥」

 

「ママ?本当に大丈夫?」

 

拓は性懲りもなく母親の明らかに正気を失った様子を心配する。

 

「黙ってろって言ったでしょ!?」

 

恵は怒鳴り、拓の頬をひっぱたく。

拓は赤くなった頬を押さえて涙を堪え、ジグソーパズルで再び遊び始めた。

泣けば恵を怒らせ更に“おしおき”を受けると学習したのだ。

 

「味方はいない‥‥‥外にいるのは“敵”だけ‥‥‥」

 

 二年前に母親が死んでから、恵は弟と拓の三人でこの安アパートで暮らしていた。

働いているのは健だけが、母親と義父の残した遺産と保険金で生活資金は十二分に足りていた。

だから、恵は一歩も外に出ずに引きこもっていた。

拓を保育園にも通わせず。

 

──外に味方はいない。

──義父でさえ、信用できなかった。

 

 あの日、母は夜の仕事で家にいなかった。

そして、あいつは酔っぱらって帰ってきた。

いつもは弟を凌辱していたあいつは、あの日、どういうわけか私を狙った。

あの日、あの時、私は産まれて初めて“本当の恐怖”を味わった。

あいつが私に馬乗りになって、私のセーラー服を剥ぎ取って、私に覆い被さった時、私の、私だけの勇者様が現れてあいつをやっつけた。

健、それがあなたよ。あなたなのよ。

いったい、今どこで何やってんのよ。

はやく、助けに来なさいよ!

怖い思いをしてるのよ!?

私がこんな思いをしなきゃいけない理由がどこにあるっての!?

 

目をギラギラさせ、口をひくひくさせながら窓をじっと見つめる恵の姿は、拓を震え上がらせた。

 

 

 

 

 「危ない!!」

 

健が叫びながら敏夫を突き飛ばし、それと同時にさっきまで敏夫の頭があった空間を真っ赤な光線が通過し、光線が直撃したアスファルトの地面を赤熱・融解させた。

 

 ──今のは!?魔法のビーム?いや、これは‥‥

 

「狙撃手だ!隠れろ!」

 

ユキが怒鳴る。

 

「あのバスの陰だ!!」

 

言いながら敏夫が近くで横転しているバスの陰へ走る。

ユキと健もそれに続いた。

 

──クソッタレ!!もう、最悪よ!!地の利を取られるなんて!

 

敵は高所、目の前の建物から撃ってきたらしい。

高所から狙われるというだけで充分不利な状況だが、霧による視界不良がそれを助長していた。

 

「狙撃手ってどういうことだよ!?化け物がビームを撃つのか?」

 

敏夫が怒鳴りながらユキに尋ねる

 

──やかましいクソオヤジめ!!

──それにしても、レーザー銃を、それもライフルタイプを持ってるなんて、まさか‥‥

 

まさかユキが副隊長を殺したことがバレ、粛清しにきたのだろうか。

 

──いや、そんなことはあり得ない!!私があのカカシ共にバレるようなヘマをするはずが無い!!つまりあの狙撃手は‥‥‥

 

「おそらく奴は“魔女”の一人だ。兵隊からライフルタイプのレーザー銃を奪ったんだろう」

「ライフルタイプのレーザー銃?」

 

今度は健が訊いた。

 

「ああ、ビームが凄いんだ。かすっただけで人間は即死だろうな」

 

──威力も射程もダンチなのよ。

 

ユキは後悔していた。狙撃用のスコープとロングバレルを副隊長への想いと共に捨ててしまったからだ。

今、ユキが持っているレーザ銃は短銃タイプが二丁だ。これはコンパクトで扱いやすい反面、射程が短く急所を撃ち抜かないと致命傷を与えにくい弱点があった。

 

「ビームが凄い?オーケイ‥‥‥」

 

健は見えない敵に狙われる恐怖にガタガタ震える。

 

「どうする?迂回するか?」

 

敏夫が健に提案する。

 

健はフーッフーッと大きく息をしたあと、小さく呟いた。

 

「『あの時は大変だったよ』、そう笑って話せる日がきっとくる筈だ‥‥‥頑張って生きていれば‥‥‥」

 

──ケン?いったい、何を言ってるの?

 

「健?大丈夫か?」

 

ユキは我慢できずに声をかける。

 

「迂回しても無駄だ。あいつはきっと追ってくる。悪い奴は今、倒さないと。」

 

健は覚悟の決まった顔でそう言った。更に、

 

「作戦がある」

 

と続けた。

 

「作戦?作戦ってなんだよ?あのスナイプ野郎をやっつける作戦か?」

 

敏夫は無理に冗談めかして言う。

 

「ああ、あいつをやっつける。今、ここで」

 

──本当に?

 

ユキはこの土壇場でワクワクする気持ちを押さえられない。

 

「まず俺が、このレンチで念のため頭を守りながら、あの家の陰まで全力で走る」

 

健はそう言って、右斜め前にある家を指差す。

 

「敵は俺を狙って撃つだろうから、その間にユキさんがあのスナイパーをその銃でやっつけるんだ」

 

「なるほど、レーザーなら光るから居場所も特定しやすいな。でも─」

 

敏夫は感心するが‥‥‥

 

「─それって、お前が囮になるってことだろ?頭を守るって、そんなレンチで大丈夫かよ!?」

 

健の身を案じた。

 

「やるしかないだろ!?頼むよユキさん。俺は姉さんと拓を助け出すまで死ねないんだ!」

 

健は決意に満ちていた。

 

──ケンちゃん‥‥

──あなたは‥‥‥

──あなたって人は‥‥

──なんて良い子なの!!メッチャ勇敢じゃない!!

 

ユキは感激した。

 

「わかった。危険な役割だが任せたぞ。あいつは私が、必ず仕留める!」

 

ユキは必死に冷静な仮面を被り言った。

 

「‥‥失敗しても恨んだりしないって約束するよ」

 

 健は懐からスパナを取り出し、ユキは腰からレーザ銃を抜いた。準備万端だ。

 

「いち、に、さんで走るよ。いち、に」

 

健は走り出した。

ビームが、とぶ。

一発目は外れだ。

二発目は頭を狙ったが、健が頭を反らしたことで再び外れた。

三発目は足を狙ったが、健はジャンプでかわす。

 

ユキはバスの陰から飛び出し、ビームが発射された位置を特定する。

 

──見えた!10階の右端‥‥!

 

ユキは敵を捕捉し、そこへ三発、ビームを撃ち込む。

 

「やったか!?」

 

 反撃はこなかった。

 

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