五位相当、罷り通る!   作:四季冬夏 夢見

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鬼人の習性

 強くなるためには何より人を食べることだ。最初は人通りの少ない農村から始めたが、もっと人のいる街に向かわなければならない。

 

 ここを出るには部屋の四隅に吊るされている鈴を鳴らす。誰かに聞かずともわかった。これも鬽素の注入によって組み込まれた常識か。

 

 一番近くにあった鈴を鳴らすと一瞬で人間の地に降り立っていた。

 ちょうど空に闇が行き渡ったころで、人々は街灯の下、我らの時間とばかりに闊歩する。

 それなりに栄えているようで、居酒屋や小さな劇場などが寄り集まり、人々の心を満たす場所を形成している。

 

 足元にはやはり落とした人間。人の目に入ってはまずい。鬼人の反射神経で自分の外套を脱ぎ、傷が見えないよう包む。

 

「すぐ医者に診せてやるからな。しっかりしろ」

 

 あたかも倒れた連れを背負うかのように声をかける。

 

 大通りに目が行きがちだが、建物が集まるということは隙間が生まれるということだ。

 人の流れに沿いながら途中で密かに抜け、居酒屋と居酒屋の間の路地に入ると酔っぱらった男が立っていた。

 

 両端の壁を見ると、中の熱気を閉じ込めるように窓が閉め切られていた。

 声を上げないよう細心の注意は払うが、人を捕らえるのに都合がよかった。訝しげに見てくる男の脳を揺らし気絶させ、倒れようとする背に手を回して抱え込む。

 

 どこから口をつけようかと顔を上げると、奥に乱雑に積まれた物に座る鬼人がいた。

 

「やあこんにちは。ここいいですね」

 

「おいお前ここが俺の縄張りだってわかってるんだろうな? それ置いてけ」

 

 縄張りを主張する鬼人は、私を試すように睨みつけ、口を吊り上げる。

 縄張りというものがあるのか、と新たに知った鬼人の生態に感心した。彼の足元にはよく見ると肉のこびりついた長い骨が散乱している。

 

「それは失礼したね」

 

 害意はないため獲物を下ろして後退りしつつ、どこまでが縄張りかを訊ねる。

 

「臭いがしないのか?」

 

 変わらず腰を下ろしている彼は驚いた様子を見せた。

 

「確かに嗅いだことのない臭いがするね」

 

 カビと煙が混ざったような掴み所のないにおいだった。誰かの家に上がった時のようで、不思議と嫌な感じはしない。

 

「なんでそんな落ち着いていられるんだ、

 普通はもう少し焦るだろ。俺は魔人になってすぐ理解したぞ。そんなにぶちんじゃ生きていけないだろうな」

 

 そう言われて苦笑いした。鬽素を注入されても感覚のずれがあり、常識に欠けているらしい。

 

「そうだね。お互い生き残れるよう頑張ろう。」

 

 長居しては迷惑だと思い、手を振って立ち去った。大通りに出た途端臭いはたちまち消え失せた。

 

 それから手のつけられていないところを探すが、人の多いところはやはりカビと煙の臭いがした。

 

 結局臭いから隔たれた町外れで帰路につく人間を食べることになる。近辺の町を見て周り、人目から逃れるように踏み入った場所には鬼人がいたということもあった。

 

 出会った鬼人たちによると、討伐されていくとはいえ市街地における鬼人の密度は高く、新たに縄張りにできる場所はほとんどない。

 殺された鬼人の跡地に入るか追い出して奪うのが常識らしい。弱い魔人は鬼人の下僕になって食いつなぐという。

 

 私は同胞の数が減るのを喜べないため、他の縄張りから外れた過疎地を選ぶことにした。他の鬼人たちの下僕に下ろうとも考えたけれど、どうやら彼らは私を歓迎していないと感じたし、同じ場所に鬼人が二人潜伏するのは目立つだろう。

 

 こうして私は当初予定していた街を諦めた。人が少ないため多くは食べられないが、過疎地というのも便利で山に潜めば遭難の如く人を食べることができる。

 

 たまに街の出入り口で待ち伏せし、帰路についた泥酔客を追って人の少ない道に入ったところを食べる。

 

 討伐されぬよう地道に人を食ってきたが、私を討伐せんとする敵のことを知りたくなってきた。

 ある夕暮れにそれなりの隊士擁する一行を見つけ、あえて左足をなくした状態で襲いかかる。私の姿を見るとすぐに臨戦態勢に入った。

 

「あの鬼人、左足がない……いけますよ!」

 

「まて早まるな!」

 

 新人らしい男は好機とばかりに見上げるが、熟練の男は後輩の前に出て制止する。

 

「あれは生命線を置いてきたんだろう……」

 

 流石先輩だ。早まらず妥当な判断を下した。

 鬼人は年齢以上に日光を浴びるか生命線を立つことで死ぬが、自ら生命線を絶った、もしくは生命線がある部位を切り離した場合、死に至らないが弱る。

 

 手出ししないまま様子を見ていると、男は攻めの構えを取り息を吐く。

 

「覚えておけ、死を避けるために生命線をどこかに隠す鬼人もいる。通常より弱っているが、それをするのは自信のある強い鬼人だ。油断するな」

 

 後輩に警告すると駆け出して私に斬りかかる。左から迫る刀を避けてから飛び上がる。そうしている間に後輩は提灯に火をつけた。

 

 先輩は短く祈りの言葉を捧げ、緩急のついた斬撃を生み出した。下にいる後輩は草をかき分け生命線を探しているようだ。

 

「生命線はどうだっ!?」

 

「いえ、まだ見つかりません!」

 

 成果を聞かれる際も振り向くことはなく手を休まない。

 

「二人がかりなら捕縛できるかもしれん。捜索は中断して戦闘に戻るぞ!」

 

「はい!」

 

 呼び付けられると提灯を適当な枝に引っかけて刀を抜く。

 

 見つけてはくれなかったか。さっきまで探していたのは隠しておいた場所の反対側だ。追い立てるように襲えばよかったか。

 

 二人が揃えば攻撃が激しくなる。後ろに飛んで間合いを取るが、右後ろに回り込まれていた。

 

 逃れようとした先にもう一人の刀が待ち構えていた。すれ違う刀の軌道を仰け反って避ける。

 それから低空飛行で遠ざかるが余裕を失ったとばかりに尻餅をついた。

 

「まて、これが右足か! 人をなめやがって!」

 

 私の元へ駆け寄る途中、露わに横たわっていた足を見つけ、袈裟斬りにした。

 

 それを認めると断末魔の声を上げながら自分の胸元をなぞりつつ、前方に腕を振り下ろす。

 

 すると足同様に胴を袈裟斬りされ、血を噴き上げて倒れ込んだ。あの出血量だ、流石に死ぬだろう。私はそれに納得して暗がりに転がり込んだ。

 

「やった、高本さん……やりましたよ!」

 

 何かの間違いでもなければ生命線を断たれて消滅している。息も絶え絶えの高本さんに教えてやる。

 

「やった……なぁ……」

 

「補助隊員、呼んできます!」

 

 鬼人がいなくなったと思われる場所に高本さんを置き、鍛えた足で急ぐ。

 

 

 ……足音が薄れたね。右足も欠かさずに全身を再生させた私は暗がりから踏み出る。

 あの人、高本さんって言うんだね。

 後輩をよく指導し、鬼人である私に回り込むなんて立派だったよ。

 

 さっきまで生命線から離れていた鬼人が今際の際にあんな攻撃を放ってくるとは思わないもんね。君は間違っていない。

 右足は生命線でもなんでもなかった。右足と同時に自ら本当の生命線を絶って死んだふりをし、隊士と差し違えたことにする。

 

 自分で生命線を立つ分には死なないのだ。後遺症により体が動かしにくくなるが、人間を何人か食べれば十分回復できる。

 

 高本さんの遺体が消えていたところで、潜伏していた魔人か鬼人に持っていかれたと思うだろう。

 

 高本さんを最後にここから去ろうと思ったけど、潜伏していた魔人が高本さんを食べたことで鬼人に成ったことにし、やってくる補助隊員を食べるのもいいかもしれない。

 

 戦闘には不慣れだろうから一度に複数殺すことも可能だろう。

 

 あまり欲を出すと今度はみじん切りにしてくるような強い人がくるかもしれないけど、また死んだふりをしてやり過ごそう。

 

 考えることはいろいろあるけどまずは質のいい前菜を食べよう。後は冷めていくばかりの温度が遺る新鮮な肉を手に取った。

 

 胴の筋肉をめくり切って食べ進めていると、補助隊員たちがやってきた。食事を素直に切りあげて歩み出し、布を余らせて高本さんの服を着た姿を見せる。

 

「その服……」

 

 死んだ仲間の服を着て、解き乱された長い髪の鬼人が笑みを浮かべる。

 護衛についていた隊士はまだ仲間を弔えないと悟り、力の弱い隊員を守らんと戦闘態勢に移る。

 

 補助隊士たちは死人を侮辱する行いに絶望や激昂し、力の差をわきまえて逃走するか、無謀にも立ち向かってきた。

 

 鬼人からすれば、隊士たちはどのみち死ぬことが決まっているのだから、仲間を思って一太刀浴びせようとする判断は嫌いではなかった。

 

 来た者は全て食べるつもりで、先程のような手加減はいらない。

 

 一思いに袖の羽ばたきを振り飛ばし、向かってきた剣士を痛めつけた。戦力となる剣士を潰され、補助隊員たちは身の終わりを覚えながら逃げようとする。

 

 ここらで一つ思いついてひゅっと飛び上がると、隊員たちの上で身を屈めて回る。逃げ道を先回られ怯える隊士たちを逆さに見ながら、弧を描いた斬撃が隊員たちと差し向かう。

 

 皆一心不乱に突き進んでいたため、かち合うのに時間はかからない。

 人々は縦に分断された。再び飛び上がり、地に滑り込んで足元に斬撃を飛ばすとより威力を増すことができた。

 

 人の足は新たに生えない。一斉に体勢を崩すことができるためこれからも愛用するだろう。

 

 それほど強くない隊員たちだったため、全滅させることができた。これを食べればある程度強い隊士を差し向けられても生き残れるかもしれない。

 

 身体を作り替えることもできるけど、衣服も用意しなければいけないな。獲物から回収したお金で服を買おう。

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