敵と対峙する前や理解のない隊士に会ったとき、戦うきっかけを思い出し、自分の信念を固めていた。
それから誰かと視線を交わす事なく進む。
「……はい、先輩の言う通り、確かに自分の実力を知るのは大事なことです。それにしても遮蔽物ですか。見つけたとしても私は素早く逃げ込めるか……恐ろしいですね。出会わないことを祈ります」
沈黙を打ち消した補助隊士の初菜は、不安そうに両手を前に組んだ。初菜は控えめな性格で、戦闘は苦手だけど素直で言葉にとげがないから、何かと衝突しやすいこの班でもすんなり物事を進めてくれる。
旅籠につくと主人に出迎えられ、まず私が鳥籠を借りたいと申し出る。鳥籠は快く貸して頂けて、屋内で夜を過ごさせることが出来た。
食事が出来るまでの間、これからについて話す。現在輸送任務中でもう二箇所回ることを予定していたけど、次の一箇所へ輸送を終えたら任務を打ち切ることになった。
食事を終えると先輩は違う部屋に行き、一人静かに寝ることになる。
「じゃあまた明日な。鬼人が怖くてもちゃんと寝るんだぞ」
「侮らないでください。しっかり睡眠を取るのは当たり前です。おやすみなさい」
私をなんだと思っているのか。
気に食わない思いを胸に布団をめくり上げる。
今回の任務では最後の宿泊。
鳥の鬼人が討伐されるまで任務には出されないかもしれない。それほど危険だと感じた。
任務が打ち切られても給料は変わらないから先輩が喜んでいそうだ。しかし期間が変わっても私がやることは同じ。
布団に横たわり、幕を降ろすように目を閉じる。しかしすぐに眠りに落ちることはなかった。
突然激しい音を立てて窓ガラスが割れる。すぐさま身を起こして枕元の刀に手をかける。すぐ眠らなかったのは二人も同じのようで、素早く構えたニイの後ろに初菜が来る。
私たちは抜刀すると静かに息を吐く。
払い給え 清め給え
神ながら
守り給え 幸へ給え
祈吹を終えると刀はじわりと熱を帯び、
新生新選組に伝わる儀式、祈吹。言葉は何でもいいから神に祈り、刀に息を吹きかければ戦闘能力が向上する。
理由は解明されていないものの、祈吹の前後を比較したところ顕著な違いが現れた。非科学的だと疑う者にさえ恩恵をもたらして、効果だけは証明されてきた。
「藤本隊士の悲鳴が聞こえた。以降抗戦らしい物音は聞こえない。藤本隊士は戦闘不能と判断」
ニイ同様私も身を起こしている間に悲鳴を聞いた。反撃の態勢を整える前にやられたのだろう。何かに身を隠しじっとしている可能性も無くはない。けど限りなく低いだろう。
もうあの気取って伸ばした長髪が見られないのか。そんなことを思い、寂しさが吹き抜けた。反りが合わなかったとはいえ行動を共にした仲間だ。自分の命に執着していた彼が命を落とすのは無念だった。
胸の芯に、また一人隊士の命が消えたことの悲しさ、命を踏みにじる鬼人への怒りがあった。
「この中にいるのは宿泊客もう一組と主人ね。ただの泥棒や魔人鬼人なら私たちを見て逃げる……もしも鳥の鬼人なら真っ先に向かってくる」
この班の指示役は藤本さんだったけど、あの人がいない今自分たちで動く必要がある。力無き人がいる以上、何もしないのはあり得ないのだ。
「私が様子を見に行く。ニイは避難誘導。初菜は伝書鳩を用意して。鳥の鬼人だったら合図を出すから飛ばして、その後ニイと一緒に避難」
「了解」
「わかりました。いってきます!」
私を先頭にニイと初菜という順番で部屋を飛び出る。静まり返った廊下が伸びており、二人が右手に向かうのとは反対に左手に進む。
藤本さんの部屋の前に来ると襖に大きな切り傷が入っていて、ただの強盗でないことは一目でわかった。
指で傷を押し広げ静かに覗き込む。
灯籠の薄い光に照らされる茶色がかった長い髪。服装は外国製らしい仕立ての良い外套。そして真横を向いているのに目はこちら側に張り付いていた。
この異様な目はどう考えても鳥の鬼人だ。