家の向こうは落とされた枝葉が敷かれ、鳥の鬼人が見下ろしていた。
初菜は向こうへ駆け出し、鳥の鬼人が引っ張られていく。数より逃亡者に食いついたか。
「鳥の鬼人! これが欲しくないの!?」
高く掲げた輸送箱をニイの刀の光に照らしてもらう。鬼人は見やってから、すぐさま初菜を追いに戻った。
それを追う私たちは、初菜の無事を祈って距離を詰める。助走をつけて鬼人の下に滑り込み、刀を振り上げる。ニイは前を塞ぐように飛び上がり、刀を振り下ろす。互いに行き交う刀に、鬼人は弾かれるように仰反る。
「あの子もう少しで仕留められそうなんだよ!? 逃げるやつ優先! 君らは後で!」
裂かれた肩を押さえる鬼人が、余裕のない顔で言い散らかす。
「うるさい! お前の事情なんか知るか!」
鬼人の面を真っ向から切り払う。
「ねぇ、あの子のところに行かせてくれたら、一般人はしばらく襲わない!」
鬼人は焦った手振りで初菜を追う。腐ったやつめ。
「鬼人の約束など信用ならない。けどこちらは取引を持ちかけたい!」
横に張り付いた目が背後の私を見やる。
「この箱が欲しいんでしょ。今夜全ての人間を襲わないと約束するなら、箱をあげるし隊長にも逃げたと言う」
ゆるりと向き直って、確かめるような眼差しを向けてくる。
「本当に? 戦闘の経過も報告しないでくれる?」
「ええ、それくらいなら当然」
容易く人を殺せるような悪鬼が頼りなく伺ってくるので、しっかりした様子でうなずいて見せる。
「じゃあそうしよう。箱ちょうだい」
緩やかに降下してきた鬼人の手に箱をのせ、後ろのニイは刀を納める。
鬼人は硬く結ばれた麻紐を律儀に解こうとしていた。用を済ませた私たちは初菜の方へ歩いて向かった。
しばらくすると、あー! という鬼人の声が打ち上がった。大きな風が立ち、怒り狂った鬼人がすっ飛んでくる。もらった物をすぐに開けるなんて卑しいことするからだ。
中身は初菜が持っている。
「よくも私を騙したな! お前らのせいで計画が狂った!」
鬼人はやたらめったら地上に斬撃を刻み、それを死に物狂いで避けていく。
鬼人は怒り散らして潰しにかかり、そのくせに私たちの上空を飛び抜けていった。
脚の調子を限界まで上げて追いかける。恐ろしいことに人の街に入ってしまったが、一般人には目もくれず初菜だけを狙いつける。
向こうに人の流れが割れているのが見え、それが初菜の居場所だろう。初菜は普段の様子から考えられないような脚を出している。
驚くべき脚の初菜に、なりふり構わない鬼人が追いつき、爪を上げる。
初菜は苦しそうに首を埋めた。その時。
「隊長、ここです!」
初菜は声を張り上げると向こうに手を掲げ振った。隊長と聞いて鬼人は硬直し、たちまち翻って飛び去る。逃すわけにはいかない。
「逃げるな!」
息を詰まらせて振った刀も、わずかに届かなかった。
鬼人の背中が遠くなった時、初菜が手を振ったのと違う左側から、家々を飛び縫うように隊長が来る。常に合理的に間を詰める隊長が追跡したものの、鳥の鬼人は遠ざかり戦闘に至らなかった。