遊☆戯☆王 NEXT   作:せなぁ

9 / 10
『ディス・T・バット・サプライズ』速攻
 レベルが変化している自分フィールドのモンスターが戦闘で破壊されなかったターンに発動できる。
 その自分モンスターと戦闘を行った相手モンスター一体を破壊し、破壊した相手モンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。



月の少女

 白く靄が掛かっている様な空間...。

 どこかも分からない場所に遊英は立っていた。

 いや、立っているのかも怪しい。

 そう思う遊英の感覚はふわふわと、まるで浮いている様に見受けられた。

 

「ここは...?」

 

 ここはどこだろう、そう考える遊英は思い出した。

 

「そうだ...僕は柳君と戦って...気を失って」

 

 ここがどこかも、何が起こっているのかも分からないが。

 兎に角今は、海王達の元へ戻ろう。そう遊英は考えた。

 だがそう思ったのも束の間、何者かが遊英に話し掛けてきた。

 

「ここからは出られないわ」

 

 聞き覚えのある声、懐かしい様で、最近聞いた気がする声。

 と言うより、遊英はその声に心当たりがある。

 この声は、柳と戦っている時に聞こえた声。

 新たなエヴォルモンスターを手にした時に聞いた、あの女性の声だ。

 

 振り向くと、一人少女が佇んでいた。と言うより浮いていた。

 ふわふわと、今は遊英を客観視したらこうなっているのだろうと思わせるほど。

 分かりやすく、絵に描いたように浮いていた。

 

「ここは貴方の精神世界、貴方の記憶の眠る場所。だから出られない」

「僕の精神世界?」

「夢みたいな物ね。この空間は、誰もが持っている物よ」

「そんな場所に、どうして君は?」

 

 そう遊英と話す彼女の姿は美しかった。

 咲き誇る花の様な衣、ゆらゆらと揺らめく髪。

 

「その衣、バーベナの花を模してるのかな?」

「詳しいのね」

「僕のお父さん、花屋さんだから」

「そう。花は貴方と縁の深い物なのね」

 

 身に付ける己の衣を見下ろし、遊英と話す彼女はどこか嬉しそうだ。

 

「君は、さっき話した...」

「そうよ、遊英。私と貴方はついさっき会話をした。

 彼と、柳 佞紋と貴方が戦っているその最中にね」

「やっぱり。もう一度聞くけれど、どうして君は僕の精神世界に?」

「貴方を見守る為」

「僕を見守る為?」

「えぇ、エヴォルモンスターはまだまだ出現し、貴方達を狙い、その前に立ちはだかるわ。

 これからの戦いは、もっともっと激しくなる」

「僕達を狙って?」

「そうよ、エヴォルモンスターは。

 エヴォルモンスターを従えているデュエリスト、そして従える可能性のあるデュエリストを狙っている」

「なぜ?」

「いずれ知るわ。今はただ、力を付けて。

 あの強きデュエリストと、柳 佞紋と共に」

「柳君と共に?」

 

 淡々と続く会話。互いに互いと話慣れている様に進む話だが。

 彼女は、浮いたままふわりと少し後ろに下がると、肩を竦めて言った。

 

「もう時間ね」

「時間?」

「気絶し、眠っている貴方が意識を取り戻すの。

 大丈夫、また逢えるわ」

 

 彼女がそう言うと。

 突然遊英の視界の端が白くなり、それは広がり。

 軈て遊英の視界を真っ白に染め上げた。

 

「待って、君の名前は!?」

「......ルナ...また逢いましょう。遊英...」

 

---

 

 ふわりと跳ねる様に意識が覚める。

 

 「ルナ...」

 

 気が付くと遊英は見知らぬ部屋のベッドの上、横になっていた。

 

「ここは」

 

 また知らない場所だ。

 自分の服装が入院服に変わっている所を見るにここは病院だろう。

 そう部屋を見回す遊英。

 横たわるベッドの横のテーブルにデッキと、スマートフォンを見つけた。

 

「これ、僕のだ」

 

 スマートフォンがあるなら海王と連絡を取れる。

 そう一安心していると、部屋の扉が機械音を上げて開いた。

 横開きの自動ドアの様だ。

 

「遊英!」

「海王君、皆!」

「無事で良かった、遊英...!」

 

 扉が開き、遊英の姿を見た途端飛び込むように入ってきたのは。

 海王と愛結と、天馬の三人だ。

 

「ったく、二日も心配させやがって!」

「二日?」

「遊英、一昨日から今まで目を覚まさなかったんだよ!」

「えぇ!?」

 

 遊英は仰け反って驚いた。

 海王と天馬の話によると。

 遊英は二日間ずっと眠っていた様だったのだ。

 

「柳の奴は時期に目を覚ますって言ってたけどよ。

 ずっと眠ってるんじゃ、やっぱり心配で心配で。

 俺ずっと飯が全然喉通んなかったぜ...ったく...」

「よく言うわ、さっきカツ丼を一人で三杯平らげてたの誰よ」

「いつもだったら、五杯は行けたんだぜ」

「ブラックホールじゃないんだから...」

 

 海王と愛結が食べ物の話をしたその時。

 ぐぅぅぅぅぅ。

 犬が唸ったような音が遊英から鳴った。

 腹の虫だ。遊英は丸一日何も食べていなかったのだ、お腹も空けば虫も鳴く。

 

「あ、あはは...」

「何か食べる?」

「うん」

 

 腹の虫に、はにかむ様に笑う愛結。

 それからは海王と愛結が売店で買って戻ってきた食べ物を食べてお腹を満たした。

 そうして食べ終わり、お腹も膨れ胃が温かくなってきた頃。

 扉からガツン!と人がぶつかったような音が鳴った。

 

「うわ!?」

「な、なんだいまの」

 

 開いた扉の向こうに居たのは。

 遊英と海王の父、白妙だった。

 急いで来た故に、勢い余って扉が開く前に突撃してしまい。

 物の見事に激突したようだ。

 

「遊英君!」

 

 白妙は飛び込んで遊英の両頬に手を添えた。

 

「大丈夫かい、遊英君。どこか痛かったり、気持ち悪かったりしないかい?!」

 

 心配そうに、それでもどこか嬉しそうに遊英の頬を撫でる白妙。

 彼の顔からは安堵の表情が見てとれた。

 

「本当に良かった...海王君から遊英君が目を覚ましたって連絡が来たから。

 お店を閉めて飛んできたんです...本当に良かった...」

「心配してくれてありがとう、お父さん。

 でもお仕事閉めてまで来てくれなくても大丈夫だったのに」

「子供の心配をしない親がどこに居ますか。本当に良かったですよ...」

 

 遊英の無事を確認して安堵する白妙を尻目に。

 今度は部屋に、病院の先生が入ってきた。

 

「お待たせしました。目を覚ました様ですね」

 

 売店へ物を買いにいったついでに愛結が呼んだのだ。

 白妙が退くと、先生は手慣れた手付きで軽い検査を行い遊英の容態を見て告げた。

 

「見た所異常はありませんね。明日にでも、しっかりと検査した後に、何事も無ければすぐに退院出来るでしょう」

 

 すぐにでも退院出来る。その言葉で改めて安心だ。

 軽い検査の後に部屋から先生は立ち去る。

 先生に続くように、天馬、愛結、海王、白妙と順番に。

 皆は遊英に一声挨拶をすると帰っていった。

 

---

 

 それから二日後の事。

 何事も無く退院した遊英は、学校帰りの道、制服姿のままにある場所へと赴いていた。

 それは警察署だ。

 以前柳に連れられ、カーネーションシティの各地でのエヴォルモンスターの出現、そしてそれによる被害の事実を知らされた場所。

 

 なぜここへ赴いたか、それは柳に会うためだ。

 夢で見た少女。ルナの言った言葉、「柳と共に力を付けろ」その言葉に従おうとした訳ではないが。

 それは遊英の気掛かりとなっていた。

 

 だが、今日柳は学校を欠席していた。

 担任に理由を聞けど、担任も欠席の理由は知らされていなかったらしい。

 だから遊英は、自分が知る限り最も柳の所在地を知り得るであろうここへと足を運んだのだ。

 

 所内の受付へと話を聞きに行くと。

 遊英はいつの間にか顔パスとなっている様で、意図も容易く所長のラルゴと話をさせて貰える事となった。

 別室へ連れられ、ソファに座りラルゴの到着を待っていたその時。

 大きな音を立てて扉が蹴破られた。

 

「うわ!?な、なに!?」

 

 思わず驚き飛び上がる遊英。

 扉の方へと目を向けると、凡そ公務員とは呼べない身形の男が入ってきた。

 

「お前が花道 遊英か」

「...どうして僕の名前を?」

「いやね、ちょっと聞いたのさ。お前をデュエルで倒せば何でも願いを叶えてやろうってね」

「デュエルで倒せば願いを?」

「前金も頂いてる、簡単な話だ。さぁデュエルしようぜ」

 

 いきなり入ってきた男にいきなり要求されるデュエル。

 了承する義理はない。

 

「断るよ。君とデュエルをする理由も道理もない」

「道理ならあるさ、ほらよ」

 

 そう言い男が遊英に見せたのは、エヴォルモンスターカード。

 カードを掲げ、男がニタリと張り付いた様な笑みを浮かべると。

 遊英はルナの言葉を思い出した。

 『エヴォルモンスターは、エヴォルモンスターを従えているデュエリスト、従える可能性のあるデュエリストを狙っている』

 もしこの男のデュエルを断るとどうなる。

 

 ルナの言い方を思うに、エヴォルモンスターは個々に意思を持つ可能性がある。

 更に可能性として考えられるのは。

 遊英を狙っているのは男ではなくエヴォルモンスターと言うこと。

 そしてあのエヴォルモンスターが狙っているのが、自分ではなく。

 エヴォルモンスターを従える自分であるのなら。

 もし断れば。遊英と同じくエヴォルモンスターを従える海王か、もしくは天馬の元へと行く可能性がある。

 

 背筋が凍った。

 海王が敗北し、昏睡状態となる映像が。

 ダメージが現実となり、エヴォルモンスターに無惨にバラバラにされる映像が。

 遊英の脳裏を過った。

 

「わかった、やろう」

 

 遊英が最も恐れる事は、海王に、愛結に、天馬に、仲間に被害が及ぶ事。

 そして、取り返しのつかない事になってしまう事。

 

「いいねぇ、そうでなくちゃあ」

 

 デュエルを行う理由が、道理ができた。

 そしてデュエルを断る選択肢を、失った。

 

 遊英はポケットからスマートフォンを取り出すと。

 腕のリングにセットする。

 スマートフォンは変形に変形を繰り返した。

 

 忽ち形を変えるスマートフォン。

 五つのモンスターゾーン。

 五つの魔法、罠ゾーン。

 フィールド魔法ゾーン、墓地。

 デッキセットゾーン。

 

 物の数秒でスマートフォンは。

 近代的なデュエルディスクへと姿を変えた。

 

「デュエルディスク!セット完了!」

 

 腰のケースからデッキを手にする遊英と男。

 

「ソリッドビジョンシステム!起動!」

 

 二人は勢いよくディスクにデッキを差し込む。

 

「デュエルオポーネント!リンク完了!」

 

 ディスクにより自動シャッフルされる互いのデッキ。

 

 デュエルの準備が。

 完了した。

 

「「決闘!!」」

 

 二人の掛け声と共に、ソリッドビジョンにより。

 辺り一帯の風景にサイバネティックなエフェクトが広がった。

 

 互いにデッキからカードを五枚ドロー。

 デュエルの幕が、開けられた。

 

『花道 遊英』

 手札

五枚

 モンスターゾーン

無し

 魔法、罠ゾーン

無し

 ライフ

4000

『弾崎 宇津』

 手札

五枚

 モンスターゾーン

無し

 魔法、罠ゾーン

無し

 ライフ

4000

 

「俺の先行だ、ドロー!」

 

「俺はマジックカード、グラージ・メテオを発動!

 手札のモンスター一体を捨てて、お前に1000ポイントの効果ダメージを与える!」

 

 遊英ライフポイント4000→3000。

 

「ぐわぁぁ!」

「更にマジックカード、死者蘇生を発動!

 墓地のモンスター一体を特殊召喚する!」

 

 特殊召喚されるのは、たった今グラージ・メテオの効果で捨てられたカード。

 モンスターカードだ。

 

 プラナリー・フライ レベル7 ATK/2300

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

『花道 遊英』

 手札

五枚

 モンスターゾーン

無し

 魔法、罠ゾーン

無し

 ライフ

3000

『弾崎 宇津』

 手札

三枚

 モンスターゾーン

プラナリー・フライ レベル7 ATK/2300

 魔法、罠ゾーン

無し

 ライフ

4000

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 初手から現れた最上級モンスター、プラナリー・フライ。

 最上級モンスターを墓地へ送りカードにより蘇生させる事で。

 本来通常召喚するのに必要なリリースを無視して最上級モンスターの速攻召喚を行う戦術。

 

 エヴォルモンスター使いである以前にこのデュエリスト、並みではない実力の持ち主だ。

 だがそれは遊英とて同じ事。 

 

「目覚めの花 ハナズオウを召喚!」

 

 目覚めの花 ハナズオウ レベル4 ATK/1400

「ヌン!」

 

「目覚めの花 ハナズオウの効果!

 このカードが召喚、特殊召喚されたターンにのみ発動できる。

 ターン終了時までこのカードの攻撃力を600ポイントアップさせ、レベル5モンスターとして扱う!」

 

 目覚めの花 ハナズオウ レベル4→5 ATK/1400→2000

「ヌオオ!」

 

「更に!手札のカード一枚を墓地へ捨て、迅速の花、ストックを特殊召喚!」

 

 迅速の花 ストック レベル3 ATK/1000

 

 遊英の手札にはこの盤面にはお誂え向きのカードがある。

 劣性ではない、今は攻め時なのだ。

 

「ハナズオウで、プラナリー・フライに攻撃!」

「間抜けが!攻撃力は俺のプラナリー・フライの方が上だ!」

「それはどうかな?速攻魔法、即席のブーケを発動!」

「即席のブーケ...!?」

「即席のブーケは、僕のモンスター一体の攻撃力を。ターン終了時まで互いのフィールドに存在する植物族モンスターの数×500ポイントアップするカード!」

 

 フィールドに存在する植物族モンスターは現在遊英のフィールドに居る二体、ハナズオウと、ストックだ。

 つまりアップする攻撃力は500×2で1000。

 

「ハナズオウの攻撃力を、1000ポイントアップする!」

 

 目覚めの花 ハナズオウ レベル5 ATK/2000→3000

 

「バカな、攻撃力3000だと!?」

「行け、ハナズオウ!起き様のレクイエム!」

 

 ハナズオウ自身の効果と合わせ、攻撃力が合計1600アップしたハナズオウの攻撃。

 耳を劈く爆音の草笛はプラナリー・フライを破壊し、男に、弾崎に700の戦闘ダメージを与えた。

 

「ぐわぁぁぁ!」

 

 プラナリー・フライ、破壊。

 弾崎ライフポイント、4000-700=3300。

 

「ストックの攻撃と合わせれば、このターンの戦闘ダメージは1700だ!」

 

 続けて遊英が、追撃にストックで攻撃を行おうとした時。

 

「だがここで、プラナリー・フライの効果を発動!」

「なに!?」

「プラナリー・フライはフィールドから墓地へ送られた時、プラナリー・フライ以外の昆虫族モンスターを手札または墓地から二体まで特殊召喚できるのさ!

 来い!グレイト・クイン・インセクト!

 そしてビッグレート・モス!」 

 

 グレイト・クイン・インセクト レベル7 ATK/2400

 ビッグレート・モス レベル8 ATK/3000

 

 高攻撃力の最上級モンスターが二体も、同時にフィールドに現れた。

 

「な、なんだってー!?」

 

 弾崎の狙いは最上級モンスター、プラナリー・フライによるフィールドの制圧ではない。

 その逆だ。

 弾崎が狙っていたのは、遊英にプラナリー・フライを破壊させる事だったのだ。

 

「更にグレイト・クイン・インセクトの攻撃は、フィールドの昆虫族モンスターの数×200ポイントアップする」

 

 フィールドに存在する昆虫族モンスターは、グレイト・クイン・インセクトとビッグレート・モスの二体。

 200×2=400、よって攻撃力は400ポイントアップし。

 攻撃力2400から、攻撃力2800となった。

 

 グレイト・クイン・インセクト レベル7 ATK/2400→2800

「キシャァァァァ!!」

 

 最初の最上級モンスターと入れ替わり、フィールドに並んだ二体の最上級モンスター。

 その攻撃力は驚異の3000ポイントと2800ポイント。

 

 「元々の攻撃力が、3000ポイント...」

 

 つい先日に、元々の攻撃力が3000ポイントのエヴォルモンスターと戦い、傷付き倒れた遊英にとっては。

 すこしばかり嫌な数値だ。

 

「僕はカードを一枚セットして、ターンを終了させる」

 

 この瞬間、即席のブーケ並びに目覚めの花 ハナズオウの効果は切れ。

 ハナズオウのステータスはレベル5攻撃力3000から、レベル4攻撃力1400へと戻る。

 

 目覚めの花 ハナズオウ レベル5→4 ATK/3000→1400

 

 そして遊英のターンは、終了した。

 

『花道 遊英』

 手札

二枚目

 モンスターゾーン

目覚めの花 ハナズオウ レベル4 ATK/1400

迅速の 花ストック レベル3 ATK/1000

 魔法、罠ゾーン

セットカード一枚

 ライフ

3000

『弾崎 宇津』

 手札

一枚

 モンスターゾーン

グレイト・クイン・インセクト レベル7 ATK/2800

ビッグレート・モス レベル8 ATK/3000

 魔法、罠ゾーン

無し

 ライフ

3300




『即席のブーケ』速攻
 自分フィールドのモンスター一体を対象として発動できる。
 そのモンスターの攻撃力はターン終了時までフィールド上の植物族モンスターの数×500ポイントアップする。

---

 ここまで読んで頂きありがとうございます。
 可能であれば、感想、評価等のコメントやお気に入り登録。
 誤字、脱字の指摘などを頂けると励みになります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。