ツインターボ「……師匠!師匠!!師匠ーーー!!!」(連載中)   作:ゆきたか

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第6話:師匠と南坂トレーナー

 ツインターボにとってとても長い1日は明け、現在の時間はお昼の12時。

 理事長室にはツインターボ、カブラヤオー、シンボリルドルフ、秋川やよい理事長、駿川たづな理事長秘書、南坂トレーナーの計6名が集まっていた。

 

 こういった(おごそ)かな場に集う経験が初めてだったツインターボは、緊張からか殆ど喋る事はなくカブラヤオーとシンボリルドルフによる説明を聞いていた。

 

「……私としてはツインターボさんの意思を尊重したいと思っているのですが、いかがでしょうか?」

 

 場所が場所なだけに『ターボちゃん』と言う呼び方は控え、カブラヤオーは説明を終えた。

 

「了解ッ!! それがツインターボ本人の意思なら私もたづなも無問題! むしろ歓迎!! 南坂はどうだ!?」

 

「私も、ツインターボさんの意思を尊重します」

 

 話はあっと言う間にまとまった。否定的意見……とまでは言わずとも、数々の質問を投げかけられる事を覚悟していたカブラヤオーは少々呆気にとられていた。

 

「円滑にまとまったのは嬉しいのですが……本当に大丈夫ですか? 特に南坂トレーナーは……」

 

「チームカノープスは基本的に個人の自由に任せているチームなので。それに……ツインターボさんがこんなに懐いている事が、何よりもあなたが信頼できる方だと言う証明です」

 

 

<<南坂トレーナー>>

 

 才能豊かなウマ娘達が集まるチームリギルやチームスピカとは違い、個性派のウマ娘が集まるチームカノープスのトレーナーだ。

 チームリギルの東条トレーナー、チームスピカの沖野トレーナーとは違い基本的には放任主義だが、ここぞと言う時のアドバイスは常に的確でトレーナーとしての評価は高い。

 

 打ち合わせ終了後、南坂トレーナーとカブラヤオーの2人で今後のツインターボの育成方針について話すべく会議室へと移動した。

 

「ターボも師匠とトレーナーと一緒にお話したいー!!」

 

 ツインターボが駄々をこねていたが「美味しいパフェを出してくれるお店知ってるから、後で一緒に食べに行こうね」とカブラヤオーが言うと「パフェ食べたい! 分かった! じゃあ後でね!!」とすぐ納得してくれた。

 

 会議室へと移動した2人、カブラヤオーは南坂トレーナーに事細かに質問した。

 質問は多岐にわたり、普段のトレーニング内容だけでなく休日の過ごし方や食生活にまで及んだ。

 

『教えるからには、その前段階のタイミングから少しでも多くその子の事を知っておく必要がある』

 

 これは府中ウマ娘レース教室でも同様の、カブラヤオーの指導方針だ。

 指導者からしたら数多くいる生徒の1人だが、生徒1人1人にとっては場合によっては指導者によって今後の人生が左右するかもしれない……指導に絶対は無いが、受け持つ以上は……それがカブラヤオーの指導方針だ。

 

「……ありがとうございました。南坂トレーナーの指導方針、とても学べる事が多く生徒の指導にも取り入れたいくらいです」

 

 お世辞ではない。南坂トレーナーの手腕は実に見事だ、とカブラヤオーは思った。

 

 なんでもデビューしたての頃のツインターボは非常に我が強く、食事はお菓子ばかり・トレーニングはスピード練習ばかりと非常に偏っていた。その後ナイスネイチャの紹介でチームカノープスに加入してからは

 

「(ツインターボさんの食事には野菜が不足しているので、なんとか彼女が食べられる料理を食堂で出してもらえるように提案を……色鮮やかな野菜を沢山用意して、それらを彼女好みの甘辛い味付けにすれば……) 」

 

【翌週】

「おや? 今日は食堂でレインボーカレーが出るみたいですよ」

 

「レインボー!? レインボーって虹の事だよね! 早く食べてみたーい!!」

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「(ツインターボさんはスタミナが不足しているので、それらを鍛えるトレーニングを彼女が楽しく行えるように……) 」

 

【翌日】

「今日のトレーニングは『誰が一番 ムリ〜 と言わずに走り続けられるかな? ゲーム』ですよ」

 

「ゲーム!? ターボゲーム好き! 早くやろうやろう!!」

 

 ただ単にウマ娘を強くするのが上手なトレーナーと言うのはトレセン学園全体を見渡すと珍しくないが、個々のウマ娘の個性を考慮した上で食生活やトレーニング内容まで考えられるトレーナーと言うのは非常に少ない。

 

 だからこそ……だからこそ、もっと早くツインターボが南坂トレーナーと出会えていたら……と、カブラヤオーは強く思った。

 

 話を聞いて知った事だが、元々ツインターボには別のトレーナーが付いていた。彼はツインターボの大逃げが理解できず事あるごとに矯正しようとしたが、大逃げに強いこだわりを持っているツインターボは当然の事ながら全く譲らず、半ば育成放棄のような状態になってしまった。

 そこから紆余曲折あり結果的にチームカノープスに入ったのは、デビューしてから1年以上も経った頃だった。

 

 実はウマ娘の全盛期のタイミングと言うのは短い。ウマ娘ごとにタイミングは異なるが『成長期』と呼ばれる時期は非常にトレーニング効果が大きく、中にはわずか数ヶ月の間に別人のように急成長するウマ娘もいる。

 ただし成長期を終えると徐々に成長は鈍化し、更に時を重ねると

 

 トレーニング≠成長

 トレーニング=現状維持

 

 に変わってしまう。

 カブラヤオーの見た感じ、ツインターボの成長期は終盤へと来てしまっている。現在は5月、成長期が続くのは……恐らく今年いっぱい……もう時間は無いのだ。

 

「「修羅の道……その通りね。その道を進むかどうかは……あの子自身に委ねるわ」」

 

 昨日の夜、自分自身が言った言葉が強くカブラヤオーにのしかかる。修羅の道……本当にその道を進むかどうかをツインターボに委ねていいのか。その道の果ては最悪──かも、しれないのに。

 

「……オーさん」

 

「…………」

 

「カブラヤオーさん」

 

「は! はい!!」

 

 何度か名前を呼ばれて、カブラヤオーはようやく気が付き慌てて返事をした。

 

「どうしましたか? 難しい顔をしていましたが……」

 

 自分はそんなに難しい顔を表に出してしまっていたのか……いけないいけない。

 カブラヤオーは脳内で意識を切り替え、一番に聞きたかった質問を切り出した。 

 

「南坂トレーナー、もう1つご質問よろしいでしょうか?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

「私がターボちゃ……ツインターボさんを育成する事に対しての正直な気持ちをお聞かせ願いますでしょうか。南坂トレーナーのようなプロトレーナーに比べて私はトレーナー免許も無く、世間的に言えばアマチュアです。正直、不安ではないですか?」

 

 突然どこの馬の骨とも分からない人物が現れて、自らの愛バの指導を行う……トレーナーによっては自らの指導能力を否定されていると思ってもおかしくないはずだ。

 先ほどの会議では確かに笑顔で了承していたが……あの場は何人もいて、しかも生徒会長でもあるシンボリルドルフからの推薦があり理事長まで容認していた。そんな場所で否定なんか出来る訳はないだろう。

 

 〜ツインターボの一番の指導者は南坂トレーナー〜

 

 だからこそ、ちゃんと彼と本音で話し合った上ではじめて自分はツインターボの指導を行う資格がある……カブラヤオーの表情を見て質問の真意に気づいたのか、南坂トレーナーが口を開いた。

 

「正直、カブラヤオーさんの指導能力は今の所は分かりません。ただそれは、初回の指導を見れば大体は分かります。見た上で、もし至らない点があった場合はしっかりアドバイスします。なので心配はないです。

 一番の懸念点はツインターボさんとの絆でしたが、そこは全く問題ありませんでした。ツインターボさんがあんなにもあなたに懐いている事が全てです」

 

「「それに……ツインターボさんがこんなに懐いている事が、何よりもあなたが信頼できる方だと言う証明です」」

 

 先ほど理事長室で発したのと同じ様な答えを、同じ様な表情で南坂トレーナーは答えた。

 

 ツインターボは他者に対する警戒心がウマ娘の中でも特に強い。南坂トレーナーも打ち解けるまでは非常に苦労した。ナイスネイチャの力添えが無かったら、今でも打ち解けられていなかったかもしれない。そんなツインターボが出会ってわずかな時間でカブラヤオーに心を許している。南坂トレーナーにとってはそれが全てなのだ。

 

(まさかこんなにも、南坂トレーナーが私を信頼してくれているなんて……これは、今話すべきね)

 

 カブラヤオーには1つ、南坂トレーナーに伝えたい事があった。

 ただそれは、今ではない。ツインターボのトレーニングを重ねていく中で徐々に信頼関係を気付いてから……そう思っていたが、今話しても大丈夫と……いや、これは今話すべきだ。カブラヤオーは意を決した。

 

「南坂トレーナー、もう1つ……お伝えしたいことが」

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「……なるほど」

 

「もちろん最終的な決断はツインターボのさんに委ねます。ただ、彼女が本気で目標としている有記念に勝利するには、それしか方法がないんです」

 

 話を聞き終わった南坂トレーナーの表情に変化は無い。一体彼は何を考えているのだろうか……カブラヤオーの不安が増していく。

 

「ミホノブルボンさん……」

 

「えっ?」

 

 南坂トレーナーから発せられた予想もしなかったウマ娘の名前に、カブラヤオーは思わず変な声を出してしまった。

 

「ミホノブルボンさんは怪我の治療の甲斐なく残念ながら引退しましたが、その原因は過度のトレーニングに原因があったとも言われています。実は以前、彼女に聞いたことがあるんです。『無理した事に後悔は無かったか?』と」

 

「……それで、彼女の答えは?」

 

「答えは『後悔は無い』でした。『黒沼トレーナーのお陰で私は皐月賞とダービーを勝つ事が出来て、菊花賞ではライスシャワーさんと接戦を繰り広げる事が出来ました』と。清々しい表情で、彼女はそう答えました」

 

 それを聞いてカブラヤオーは思った。『私と同じだ』と。色々とあったが、限界まで走り続けて良かったと思っている。

 

「何度も骨折をしても諦めないトウカイテイオーさん。繋靭帯炎を発症しても諦めないメジロマックイーンさん……もし私達が指導している相手が人間だったら無理にでも止めますが……ウマ娘と言う存在にとって、後悔を残したまま走れなくなると言うのは、──事よりも辛いのかもしれませんね」

 

 南坂トレーナー、なんという素敵な方だろう。カブラヤオーは心からそう思った。種族の壁を超えて、こんなにも心の奥底にまで寄り添おうとしている人がトレーナーだなんて。ツインターボは……チームカノープスのウマ娘たちは幸せものだ。

 

「カブラヤオーさん。最後に一つ、私から大事なお伝えがあります」

 

「えっ……?」

 

「周りは気にせず、彼女の事はターボちゃんと呼んでください。それが一番だと思いますので」

 

「……ふふっ、ありがとうございます」

 

 気づけば話し始めて1時間以上経過していた。ツインターボは待ちくたびれていることだろう。

 南坂トレーナーと話したい事……南坂トレーナーに話したいことは全て話した。会議室を出た2人は急いでツインターボの元へと向かった。




【南坂トレーナーの一人称】
アニメでは描かれていなかったと思いますが、2期円盤3巻おまけの小説では『私』と言っていたので、それに合わせて私で統一いたします。
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