【連載】英梨々と作る英梨々ルート   作:きりぼー

1 / 13
英梨々ルートのボツ原稿を書きすぎて、作中の倫也はもう大人のような寛容さと優しさと気遣いを身に着けてしまったよ・・・

英梨々のために用意されたこの倫也で、どうか幸せになって欲しいものだ。
割りと本気で思っている筆者です・・・orz


プロローグ まずは初めて見よう

 

 

「俺は英梨々ルートが作りたいんだよ!」

 

いつもの喫茶店に倫也と英梨々が向かい合って座っていた。

テーブルの上には膨大な量のレポート用紙が散乱している。

 

英梨々は黙って、机の上に積まれたレポートを眺めていた。

アイスティーをストローで一口だけ飲む。

 

「けど、倫也。結局は見つからないじゃない・・・英梨々ルート」

「・・・英梨々ルートはいつだってある。けど・・・」

「恵の問題が解決しないんでしょ?なら・・・仕方ないじゃないの」

 

英梨々は最初の物語で恵に譲ってしまった。

つづく短編ではサブヒロインとしての役割を果たしてきたつもりだ。

そして、主役は完全に交代して、恵の夏の物語が紡がれてしまった。

 

その陰で・・・

 

膨大な量のボツ原稿が出来上がった。今、机の上に散乱しているレポートの束がそれだ。

投稿された量と同等か・・・それ以上の量の英梨々の物語。

どれもいつも途中で頓挫してしまう。

 

「子供の頃の物語は良さそうなんだけどなぁ・・・」

倫也が残念そうに言った。

「けど、それってやっぱり冴えカノ同人とは言い難いものでしょう?」

「だな・・・」

 

倫也はアイスコーヒーを飲みながら物思いに耽っている。

今、書かれている物語もまたボツになるかもしれない。

 

「今のままだと・・・次の連載は子育て編になるぞ・・・」

「勝手にすればいいじゃない?責任を取りなさいよ。さんざん夏にオセロをした責任を」

「・・・オセロしただけなんだけどな・・・」

「・・・」

「それにな、英梨々。それだって冴えカノ同人とは言い難いだろ?」

「もう冴えカノ同人と思って読んでくれている読者なんていないかもしれないわよ?」

 

倫也は片手で頭を抱える。どうしてこうなった。

 

「なぁ・・・英梨々・・・ダメかな」

「あんたバカじゃないの?そんなのあたしに聞かれても知らないわよ」

「けどさ・・・この膨大なボツ原稿だって、無駄じゃないだろ?」

「・・・そうね」

 

英梨々の物語。

 

幼少期の英梨々と倫也。

幼稚園でのたくさんの思い出。お遊戯会、演劇会、お泊り会、運動会・・・

それだけじゃない、何気ない日常。拾ったBB弾。転がってなくした買ったばかりの大きなビー玉の話。ノラ猫を助けた話。

小学生の時は、喧嘩したルートと、喧嘩しないルートもシミュレートした。

喧嘩して謝りたくても謝れない話。泣きながら過ごした日々の物語。

喧嘩しないルートでは絵がうまくならなかった。それでも幸せだったと思う。

中学生の時は、出海が登場した。いくつかのエピソードもお蔵入り。伊織や美智留のサイドストーリーだってあった。

 

それだけじゃない。

 

英梨々のイデアでオリジナルだって演じた。それも何度も何度も・・・

犬を飼って毎日一緒に散歩した。

受験の勉強や展覧会のために油絵もがんばった。

初デートで緊張した話もしたし、知らない人に告白されて戸惑う話だってある。

そうやってイデアは経験を重ねていった。

 

すべてボツだ。

 

英梨々はその都度・・・泣く。

けど、恵が主役の物語でも結局泣いてしまった。

 

「なぁ・・・英梨々。成長する話は何度も何度もやったろ?その物語の中で倫也は・・・俺のイデアはいつだってお前の味方だったよな」

「・・・うん」

 

恵が・・・恵のイデアがでてきた時に、物語が混乱する。

怒るし、泣くし、拗ねる。

倫也はどっちかを選べず、英梨々が譲ってしまう。その繰り返し。

 

恵はサブヒロインをやらないし、英梨々はメインヒロインに成り切れない。

 

「英梨々。このまま同人をやめるか・・・」

「ううん」

 

英梨々は左右に首をふる。

 

「泣いたままは終われないだろ?だったらさ、やるしかないよな。英梨々がちゃんとメインヒロインになって、幸せになるしかないだろ」

「恵は?」

「・・・恵のことは・・・時間が解決するよ」

「ほんとに、時間が解決するかしら?」

「・・・けど、どうしようもないだろ・・・」

「そうね」

 

英梨々ルート。

悩ましい・・・。

 

「だからさ、英梨々。とりあえず・・・とりあえずだよ・・・?恵と出会う前の高校一年生をやってみないか?」

「その時期って喧嘩中でしょ」

「ああそうだな。けど、それは建前だから」

「どういうことよ?」

「お前が表面的に社交的で美少女して学校で過ごすことを尊重した倫也と、裏でしっかり腐女子として育った英梨々とつながっている倫也。この構図があるだろ」

「そうね」

「ボツ原稿は・・・無駄にならないはずだ」

「うん」

 

倫也がアイスコーヒーを飲み干して、散らかったレポート用紙を集める。

 

「・・・別に・・・あんたのためじゃないんだからねっ・・・」

 

英梨々が呟いた。

何度も失敗してきた物語。

自分で紡いで、自分で選択して、自分で歩む物語。

 

「英梨々・・・」

「何よ?」

「お誕生日。おめでとー」

 

パーンッ!

 

お店にいたスタッフもお客も一斉にクラッカーを鳴らした。

 

 

 

※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※

 

 

 

「うわぁ~!!」

 

英梨々が鳴り響く耳元のケータイで目が覚めた。

時刻は午前5時。

 

英梨々はベッドの上で上半身を起こし、ボーとした頭をふる。

 

変な夢をみた。どんな夢だっただろう?

 

中学を卒業し、高校が始まるまでの春休み。

中学生でも高校生でもない、宙ぶらりんの不安と期待でいっぱいの時期だ。

自分ことだけで精一杯なのに無理をして人にいい顔をみせる。大人になっていく時期・・・違う。体はもう大人で性を抱えているのに、まだ子供のフリができる時期だ。

 

3月20日。

 

英梨々は、同級生の誰よりも遅くに誕生日を迎え、やっと15歳になった。

 

「エヴァーにはもう乗れないわね・・・」

 

つまらないことをつぶやく。

 

フリルのついたピンクのパジャマを着たまま、英梨々は玄関を開けて外にでた。

外はまだ暗くて、肌寒い。

門を出て外側の郵便受けを開ける。

 

新聞が1部。そしてリボンのかかった小さな箱が1つ。

 

この春休みから倫也が新聞配達のバイトを始めた。

倫也が勧誘に成功すると多少の金額がバックされるので、英梨々の家は新聞を替えた。

そして、この新聞は倫也が早朝に届けてくれたものだ。

ラッピングされた小さな箱は、宛名も送り主もない。

 

 

※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※

 

 

同じような小さなプレゼントは、小学校3年から4年になる春休みに初めて届けられた。

それから毎年届いている。

それよりも前の年には、直接「お誕生日おめでとう」の言葉と一緒にプレゼントを渡してくれた。

 

英梨々が倫也を裏切った。それからひどくこじれて喧嘩状態になり、学校では口をきかずに、お互いが無視をしている冷戦のような状態が続いた。

その年の誕生日、倫也と会うこともなく家で過ごした。多くの来客があるホームパーティーが催され、自分を偽って笑顔を振りまき、山ほど積まれたプレゼントは開ける気にもなれなかった。

 

その日は気が付けなかった。あるいは夕方までには入っていなかった。翌朝になって、郵便受けに小さなプレゼントがはいっているのを母が見つけた。

誰かからの誕生日プレゼントじゃないかしら?と母に言われた。

開けてみると、指先ほどの小さなガラス細工が1つ入っていた。

 

その前の年も、その前の前の年も、倫也は英梨々にガラス細工を贈っていた。

 

 

※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※

 

 

英梨々は新聞と小さな箱を大事そうに手に持って家に入った。

リビングのテーブルの上に新聞を置き、部屋へ駆けて戻っていく。

 

机に座って、箱のラッピングを解いていく。

赤いリボンは2回折ってから結んでおく。

裏のシールを丁寧にはがして、包装紙を丁寧にはがしてからたたむ。

 

白い箱は指輪をいれる箱ぐらいの大きさだ。

箱を空けると、綿がしき詰まっている。

綿をどけると、小さな茶色いガラスの動物がでてきた。

 

英梨々はそれをそっと手にとって眺める。

 

「・・・カバかしら?」

 

首をかしげてしばらく眺める。

 

それから、専用のショーケースに並べて置いた。

80cmほどの高さの木のショーケースはランプもついている。

中には小さなガラス細工が並べて置いてあった。

 

年中、年長、小学校の6年間。そして中学の3年間。全部で12個になった。

ゾウから始まり、キリン。ねずみ、うし、とら、うさぎ、うま、ひつじ。

干支が続くかと思ったら、そこから白くまと黒くまのペア。去年が木とリス。

今年は温泉に入っているカバ?だ。中学になってから少しグレードアップしている。

 

ショーケースの照明をつけたまま、英梨々は満足そうに眺めていた。

 

それから着替えて、黄色いワンピースに紺のカーディガンを羽織った。

 

キッチンにいって、置いてあった菓子パンを1つ食べ、無駄な抵抗だと思いつつも牛乳をグラスに注いで飲んだ。

 

 

※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※

 

 

朝の6時半。

英梨々は倫也の家の玄関前に座っている。

もうバイトから戻ってくるかと思ったが、倫也は帰ってこない。

自転車がないので、まだバイト中のはずだ。

 

少し寒い。

カーディガンでは寒さが防げず、春物のコートを着て来るべきだったかもしれない。

しかたがないので、体操して体を温める。

 

しばらくすると自転車を乗った倫也が勢いよく戻ってきた。

 

キッー というブレーキ音がして英梨々の近くに止まった。

 

「んっ?英梨々」

 

倫也が英梨々に声をかけた。

 

英梨々は謝ろうと思ってきた。

毎日、謝ろうと思っている。今日こそ謝ろう、明日こそ謝ろう。そうやってなぁなぁに日々が過ぎて、数年たってしまった。

その間、ずっと辛い。苦しい。

 

「これ・・・あげる」

 

英梨々が途中の自販機で買ってきた『いろはす』のミネラルウォーターを倫也に渡した。

 

「サンキュー」

 

倫也が受け取る。

すぐにキャップを開けて、一口飲む。新聞配達のバイトを終えたばかりで喉が渇いていた。

 

少しの無言。

 

空には薄い雲が風に流れて散って消えた。

 

「じゃ」

 

英梨々がそこから立ち去ろうとする。

 

「どうした?」倫也が訪ねた。こんな朝早くに何か用があったのかと思っていた。

 

「べ・・・別になんでもないわよ。ちょっと近くを通っただけだから」

「何の用があったんだ?」

「別にあんたには関係ないでしょ」

 

倫也は肩をすくめる。

 

英梨々はそのまま背を向けて帰ろうと歩きだした。

(バカ、あたしのバカ)

いつものことだ。謝ることができない。

 

「そうだ、英梨々。おまえ・・・カピバラって知ってる?」

 

英梨々が振り返る。髪を結っていなかったので風に揺れた金色の髪が朝日にキラキラと輝いた。

 

「カピバラ?なんだっけ・・・」

「大きなネズミの仲間らしいけど・・・温泉入るんだってよ」

「・・・へぇ」

「じゃあな」

 

倫也が玄関の扉を開けて家の中へ入っていった。

 

英梨々は帰り道を歩きながら、

「そっか、カピバラか。カバじゃなかったんだ」

 

謝ることができなかった。

プレゼントのお礼も言えなかった。

ましてやホームパーティーに誘えなかったし、

誕生日おめでとうも言ってもらえなかった。

 

 

 

でも、春休みの誕生日に、倫也に会うことができて良かった。

英梨々は少し微笑む。

 

 

 

(了)

 




1週間に1度ぐらいの投稿予定です。

作中で1ヵ月ずつ時間が進み、13回ぐらいの予定です。
のんびり応援してやってください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。