今回はクリぼっちで過ごしたくない英梨々のお話です。
昨今ではクリスマスをイエス様の降誕祭であることを知らない人がいる。
それでいいのかもしれない。
洋食店が忙しくなり、和食店はいつもより暇になる。
倫也のバイト先のお店は、通常メニューを減らし、その分コース料理を提供する。価格帯もいつもの三倍程度で利益も大きい。手間がかかるのでバイトを増員することになった。
そこで、常連客の英梨々に声がかかった。もちろん英梨々は了承する。
英梨々はさすがにぶっつけ本番というわけにもいかず、12月の週末だけ倫也のお店でバイトを始めた。
キッチン要員でオーナーシェフに可愛がってもらっているが、どちらかというと内装やクリスマス用の看板に興味があるようで、時間を見つけては意見をいって修正し、自宅でポスターを描き、メニューの挿絵を描き、手書きのコースターを作り・・・やっていることはコーディネーターだ。
奥さんはすっかり感動し、最初は倫也と英梨々の恋を応援するつもりでバイトを承諾したが、今ではこのまま働いてくれないかと本気で思っている。その頃にはシェフはもうメロメロで否定の一言もでない。
12月24日 クリスマスイブ。
「コース4、内ポアソン2です」
倫也がオーダーを通すと、英梨々がアミューズを4皿出す。ほとんど完成していて仕上げるだけだ。
伝票にチェックをいれる。
アミューズとドリンクを提供している間に、スープ、サラダと人数分用意していく。
次々とオーダーが入り、伝票が並ぶとプレッシャーがかかる。
「英梨々、サラダもう一つ。あと4番テーブルそろそろデザート準備」
「あ、うん」
「返事は、ハイ」
「ハイ。えっと、まずサラダね」
英梨々がサラダを1つ渡す。倫也が伝票をチェックする。
厨房からはホールの全体が見えないが、ずいぶんと混んでいるのがわかる。
英梨々がデザートを仕上げていく。こちらは冷えている皿にケーキを乗せ、カットしているフルーツを飾りソースをかける。バランスというか美的センスが大事。手際は遅いが丁寧に仕上げる。
「倫也、デザート」
「ハイ。そろそろ3番、メインお願いします」
「あいよー」オーナーが忙しくコンロの前で料理をしている。もう一人のバイトもサポートしながら厨房を忙しく動き回っている。
「あと、英梨々、シルバーとグラスを洗ってくれ」
「ああ、ハイハイ。ちょっとまってね」
倫也がデザートをもっていく。
英梨々がサラダボールを並べて、また10個ぐらい盛り付けておく。
気が付くと洗い場が皿の山になっている。
もう一人のバイトがそこに入って、洗い物を始める。
「あっ、シルバーとグラス・・・」
英梨々は自分のことで精いっぱいだったが、もう一人がフォローしてくれた。
食洗器からでたシルバーを倫也が忙しくふいている。その時はデシャップ越しに厨房の中を見る。
英梨々が集中して盛り付けをしていた。グラスをふく余裕はないようだった。
倫也は声をかけずに厨房に入り、グラス回収する。こちらもふかないといけない。
「レジお願い」
ホールから声がかかり、倫也は戻っていく。
お客が帰ったら、食器を片付けて、次のテーブルセッティングをする。
今日はずっと混んでいて、お客が途切れることがない。
「シェフ~。カットフルーツがなくなります」
「あと、いくつ必要?」
英梨々が伝票を確認する。ある分を引くと・・・
「あと5つです」
「了解」
すると、もう一人のバイトがまな板を出し、フルーツを手際よくカットしていく。
英梨々はそれを見る。自分にはできない。
「はい、これ。そろそろ終わりだから、あとは追加分だけ切っていくから」
「ハイ」
そして、ささっと包丁を洗ってしまう。
みんな素早い。英梨々は自分のところで精いっぱいだ。
時計を見ると、もう20時を回っている。あっという間だった。
「オーダー、コース2。カモと鹿です。これでラストオーダーです」
倫也が厨房に声をかける。
「ハイ」
英梨々も返事をする。洗い場までなかなか手が回らないが、盛り付けは上手だった。オーダーミスもない。
まず、アミューズを出す。
この前菜は時間をみつけては、もう一人のバイトが皿に仕込んで冷蔵庫にストックしていたが、今はオーダーごとに盛り込んでいる。
「やってみる?」
「ハイ」
皿に、パテやサーモンを盛り付けていく。バイトの教え方も優しく丁寧だ。
厨房にも余裕が少しでてきたようだ。
倫也は食器を片付けるが、もうテーブルセッティングはしない。
キャンドルライトだけはつけたままだ。
店内が3組ほどのお客になり、ラストのメインディッシュが提供された。
「そろそろあがっていいわよ。お疲れさま」
と、奥さんから倫也に声がかかった。
「はい」
「澤村さんも、そろそろあがっていいわよ」
「ハイ。デザートだけ仕上げていきます」
「そこそこでね」
倫也が先に着替えを済ませ、カウンターに座ってお茶を飲む。
ほっと一息がつけた。
今日は事前にまかない料理がないことを言われていた。もっとも腹はあまりすいていない。
「倫也、あたしもあがる。デザートまだあとだから、もういいって」
「うん」
英梨々はふらふら~と更衣室の方へはいっていった。
「よく働く子ね」
「ええ、追いつめられると動くんです・・・」追い詰められない内は動かない。
「でも、ほんと助かったわ。仕事丁寧だし、いろんなもの作ってくれたし」
「おかげさまで、楽しくすごせました」
「こちらこそ」
奥さんは上機嫌だった。
やがて、英梨々が着替え終わってでてきた。
「おつかれさまです」
「お疲れ様、今日はありがとうね」
「こちらこそ、遅くてすみません」
「そんなことないわよー」
奥さんと英梨々が笑顔で会話している。なかなか社交性がある。
「おーい。これ、持たせてやってくれ」
厨房のシェフから声がかかる。
ランチボックスを二つ作ってくれた。
「まかないの代わりだから。あとこっちがケーキ」
「あっ、すみません」
「こんな遅くなってしまってごめんね」
「いえいえ」
と、お土産をもらって、倫也と英梨々が店をでる。
外は暗いが賑わっていた。
※※※
「ふぅ・・・(ため息)」
「おつかれ。英梨々」
「倫也も。おつかれさま」
「なんか、思ったよりもずっと役立ってたな」
「ん?」
「もっとグダグダで足を引っ張るとかと思ってたんだが・・・」
「どういう意味よ」
「ほら、お約束で食器割ったり、オーダーミスであたふたしたり・・・」
「余計なことをしないように集中していただけよ」
「それが大事なんだよなぁ・・・」
「でも、あれって、あたしがいなくても店は大丈夫だったのよね?」
「たぶん」
「じゃあ、やっぱりお店に迷惑かけたのよね」
「そうでもないんじゃない?」
「だって、人件費かかるでしょ」
「その分、丁寧な仕事できているし、そしたら評判もよくなるし・・・」
「ふーん」
「それに、英梨々のデザートの盛り付けは綺麗だったよ」
「そ?」
「うん」
2人は少し歩いて大通りに出る。
英梨々の家の車が迎えに来て待機している。
「このお土産って、二人前入っているのよね?」
「だな。いいぞ、英梨々がもってかえって」
「・・・バカねぇ・・・それじゃ意味ないでしょ」
「どうした?」
「うちで食べていきなさいよ」
「そうだな」
2人が後部座席に乗る。英梨々の家まで揺られると倫也は眠くなる。
英梨々が鞄をごそごそとする。
「あのね、倫也。ちょっとタイミングがわからないのだけど」
「ん?」
「これ」
小さくラッピングされたプレゼントを渡す。中にはストラップが入っている。尚、英梨々の手作りの作品。
「おっ、どうした?」
「だってほら・・・クリスマスってプレゼント交換するでしょ?」
車窓からイルミネーションがよく見える。
初老の運転手は寡黙で何もいわない。
「ああ、そうだな。自分のイベントとしてのクリスマスなんて失念してた」
「そんなもんよね・・・」
「ごめん。英梨々。何も用意してない」
「べ・・・べつにいいわよ。期待なんてしてなかったし、それにこれはほら、試作品のあまりみたいなもんだから」
「試作品?」
「開けてみて」
倫也が袋を開ける。ディフォルメキャラのメガネ男子ストラップが入っていた。
「誰だ?」
「倫也」
「何?」
「そうじゃなくて、倫也」
「ん?」
「はぁ?あんたバカなの?倫也っていっているでしょ」
「ん?何?」
「・・・いいわよ・・・もう」
倫也がストラップを眺める。
「ああ・・・俺?」
「だから、そういってるでしょ」
「へぇ・・・器用だな」
「何よ、その感想」
「あっ、うん。ごめん。ありがとう。嬉しい」
「そ」
「英梨々」
「何よ」
「明日もクリスマスだからさ」
「そうね」
「何かプレゼント買うよ。欲しいものあるか?」
「えっとね・・・」
英梨々が窓の外をみる。曇っているのを手でぬぐった。
倫也の方をまともに見れない。
欲しいものがあるわけではないが・・・やってみたいことがある。
「えっとね・・・倫也。実は・・・」
「どうした?」
「冬休み」
「もうすぐだな」
「うん。それでね・・・ほら、夏休みみたいのを・・・」
「花火とかプール?」
「そうだけど、そうでなくって」
「なんだよ」
「あー、もうっ!」
英梨々が頭をぶんぶんとふる。今日はキッチンなのでツインテールでなく頭の上で髪を結っている。
「ほら・・・恵みたいに・・・」
「めぐみ・・・!?誰?」
「・・・ああいう夏休みみたいのを・・・」
一応、別の物語のテイでやっている。この時点で倫也は恵とはクラスメートだが認識はしていない。・・・はず。
「だから、『英梨々といちゃいちゃ過ごす冬休み』をあたしもやってみたいなぁって」
「・・・っ!?」
「・・・嫌ならいいわよ」
車が停まった。車窓の外も真っ暗闇になった。
「すみません。お嬢様。車がまったく動きません」
運転手が言った。
「ああっ、いいのよ。気にしないで。きっと演出が止まったんだわ」
「はぁ・・・(ため息)」倫也が深く、それはそれは深くため息をついた。
「前途多難よね」
「まったくだ」
「考えておいてよ」
「あのさ・・・英梨々」
「なーに?」
「この物語ですら・・・一週間に一度でも追われているのに、毎日やるの?」
「・・・嫌ならいいわよ」
「嫌とかそういうんじゃなくってだなぁ・・・」
「でも、ほら、そろそろ一年たつし・・・」
「この物語はだいたい完結しそうなのか?」
「あと、1,2,3月の3話よね」
「だな」
「なんとかなるんじゃないかしら?」
「まずはそこをしっかりと完成させような」
「・・・うん」
車の外の世界が闇の中に溶けるように消えていく。
「倫也。ボツにしないわよっ!」
「お前がそれでいいのなら」
世界が消える前に投稿しよっと。
(了)
えっ?毎日英梨々の話かくの?誰が?