今回は5月のゴールデンウィークの過し方です。
「倫也。ゴールデンウィークの予定は?」
「バイト」
「はぁ・・・あんたの家は別に貧乏ってわけじゃないでしょ?」
「ああ」
「なんでそんなに苦学生みたいにバイトしてんのよ?」
「だって、ブルーレイBOX買わないといけないし ラノベ買うのもただじゃないし」
「ブルーレイならこないだ買ったでしょ?」
「あれはマクロスΔだろ?」
「で、今回は?」
「あんハピ」 もちろん安野さんのCVあり。
「あっそ・・・」
倫也と英梨々は最寄り駅が一緒なので、合流する時がたまにある。
倫也はアニ研という幽霊部員しかいない部活に所属し放課後は何も活動せずに家に帰っている。
英梨々は美術部で活動していて、試験前など部活のない時には、倫也と駅で合流するように調整していた。
英梨々はすでに洋食屋の奥さんを味方にしてバイトのシフトをゲットしている。味方なら倫也の休日ぐらい作れと思うが、そこはけっこうドライな関係。繁華街での連休は稼ぎ時でもあり、倫也の予定はぎっしりだった。
倫也が休日をとってくれれば、あわよくば一緒にGWを過ごす日を作りたいと思っていた。
が、すでにそれも叶いそうにない。
「英梨々の予定は?」
「あ・・・あたしは忙しいわよ」
英梨々はヨーロッパで過ごす予定を断り、自宅でお留守番を選んだ。要するにずっと暇である。
こうなったら、倫也の店にランチかディナーを食べに通うしかない。まぁ、それもぜんぜんありだけど。
「そっか」
倫也はそっけなく答える。
2人が並んで歩いていると、多くの地元民が振り返る。地元で英梨々の事を知らない人はあまりいない。子供の頃から金髪で目立つ上に、男性なら一度みただけで目に焼き付いて離れないほどの美少女に成長したからだ。
倫也としては不釣り合いな自分が隣を歩くのは避けたい。目立ちすぎる。何かを勘違いされるようなことは全くないとはいえ、気が引ける。
「でも、まっ、どーーーーーしてもっていうなら、一日ぐらい遊んであげてもいいわよ?」
「だから、俺、バイトだから」
「・・・」
英梨々は顔をしかめる。
「あんたねぇ、大事な青春時代をバイトだけに費やしていいの?」
「繁盛期なんだからしょうがないでしょ!?」
「別に倫也の店じゃないじゃない」
「バイト先がなくなっても困るし・・・」
「はぁ・・・(ため息)」
ほら、導入部をしっかりやると面倒くさい。
そうだ。とばそ。
※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※
GWもあとわずか、今日の倫也は朝に新聞配達、お昼から飲食店でバイトをしていた。
英梨々は倫也の店に訪れて、いつものようにギリギリにきてランチを食べた。
その後一緒に帰る予定だった。
しかし、あまりにも店が忙しいのと、夜番のバイトが1人休んだことで、奥さんは倫也に夜番のバイトも頼むことになった。倫也は早朝から働いていて疲労の色が濃かったが
それを承諾する。
英梨々はもう店にいる理由が見つけられないので、1人で寂しく帰った。
倫也のバイトが終わる時間もわからない。
時刻は15時半。5月の爽やかな陽気だった。
こんな日にバイトしているとか、ただのバカだ。誘ってくれたらボートぐらい一緒に乗ってあげるのに。
英梨々は1人でぶつぶつと言いながら、家へと帰る。
英梨々の家から東側の窓で街を見下ろすと倫也の家が見える。
逆に倫也の部屋の西窓から見上げると英梨々の屋敷が見える。
だから、英梨々はマンガを描いたり、宿題をしたりしながら、時々東の窓から倫也の家を眺める。日の明るいうちに帰ってくるわけがないのに、見つめてしまう。そして溜め息をつく。
時々、ケータイに着信音がなる。美術部員からのLINEメッセージだったり、サイトの更新情報だったり、どれも今の英梨々には関係のないものばかりだった。
時間だけが過ぎていく。
明日もお店に顔を出せば倫也がいる。
でも、お店が忙しくてのんびり会話ができないし、長居するのは迷惑でできない。
ゴールデンウィークが終わってしまう。
こんなことなら、スイスのモンブランでも見上げながらチーズフォンデューでも食べていたほうがマシだったと思ってしまう。
夕方になり、空が茜色に染まると街灯が点灯していく。
東の窓から見える景色が夕闇に沈み、その都度、英梨々はため息をつく。
マンガの制作はぜんぜん進まない。
夜になって家々に明かりが灯り、見下ろす景色が夜景になった頃、英梨々はひとり寂しくカップ焼きそばを今日も作って食べる。
出前を取る気も、どこかに1人で食べに行く気もしない。
時々、東の窓から倫也の家を見下ろし、明かりが灯っていないことを確認する。
夜の8時が過ぎた。寂しさを紛らわすため家中の電気をつけ、TVもつけっぱなしだ。
英梨々はバスルームに行ってシャワーを浴びる。
シャワーから浴びるとリビングに座って、妙に耳障りなTVを消す。それからペリエを飲んだ。
黄色のフリルの着いたワンピールタイプのルームウェアを着ている。
ぼんやりと過ごし、時計を眺める。
9時を過ぎた時、東の窓から倫也の家を眺める。
電灯はついていない。
もしかして見過ごしてしまっただろうか?
疲れてしまって、すぐに眠ってしまったのかもしれない。
スマホを手にとる。確認するようなメールをする勇気もない。
部屋でおとなしく過ごす。見飽きたマンガを読んだり、ラノベに目を通してみたりする。どれも気が散って集中できない。面白くない。何もかも嫌になる。
10時を過ぎた。もう確認するのは最後にしようと思って東の窓に向かう。
・・・電灯がついていて、倫也の部屋に人影が見えた。
「やっと帰ってきたわね」
確認できた。気持ちがほんの一瞬だけ明るくなる。
けど、その後が続かない。それからどうすればいい?もう夜も更けている。
もっと早くに声をかけていれば遊べただろうか?予定を回してくれただろうか?
素直になれたら、ちゃんと昔のことを謝れたなら・・・2人の関係はもっと違うものになっただろうか?
英梨々はベッドの上に仰向けに倒れ込む。スマホの画面をじっと見る。
メッセージを自分から打つ気もしない。
今日がただ過ぎていく。
※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※
LINEの着信音。
倫也からアニメキャラが高笑いしているスタンプが送られてくる。
英梨々は起き上がって、どう返信したものか悩む。
続いて
「明日、代休になった」とメッセージがはいった。
「新聞配達は?」
「もともと休み」
「良かったわね」
「ああ、完全オフとか何日ぶりだろう・・・」
どこかのブラック企業に勤めているのかのようなメッセージだ。
英梨々は家中のエアコンと電気をすべて消して、大急ぎで外に出て自転車に乗った。
ピンポーンと呼び鈴を鳴らす。
倫也が出てこない。
もう一度鳴らしても反応がない。
耳を澄ますと水の音が聴こえる。
英梨々は裏に回ってバスルームの窓から、「倫也っ!」と声をかけた。
「うわぁ!?」
驚いたのは倫也だ。もう11時を過ぎている。こんな時間にバスルームで外から声をかけられたら普通にびびる。
「開けてくれる?」
「・・・ちょっと待ってろ」
倫也はシャワーを切り上げて、体を軽くふき、服を着てから玄関に向かった。
黄色いワンピースタイプのルームウェアを来た英梨々が立っている。
髪は結っていなくて、黒ぶちメガネをかけている。
「どうした?こんな夜中に」
「えっと・・・」
理由考えてなかった。
「ちょっと近くに寄ったものだから」
何しろ近所だ。外にでればあながち間違いとはいえない。
「そっか」
倫也は髪をタオルで拭きながら家の中へと戻っていった。
英梨々は玄関に立ったままだ。
奥からドライヤーをかける音が聴こえてくる。
靴を脱いで上がりリビングまで来たものの、こんな夜更けにくる理由なんて夜這いぐらいしか思い浮かばない。
倫也はキッチンでグラスを二つ用意して、炭酸水をいれレモンを添えた。
大きなアクビを1つして、グラスを立っている英梨々に1つ渡した。
英梨々はコクンと頭を下げてお礼をする。
「アニメでも見るか・・・」
「・・・うん」
英梨々は素直にうなずく。
なんのアニメを見るかでひと悶着しようと思ったが、すでに倫也が憔悴していてアクビが止まらない。
騒がしいのが嫌だというので「想いのかけら」で妥協した。
もちろん主人公のヒロインはCV安野希世乃だ。ここ試験にでるからね?
ソファーに並んで座る。倫也はすでに眠そうにしている。
英梨々はけっこう目が冴えている。
はじまった早々で倫也は目を瞑っている。英梨々がアニメにいちいちツッコミをいれていたが、無反応だったのでやめた。
おとなしく見ることにする。倫也が寝てしまうならもう少し自分好みのアニメにすればよかった。
「なによ?」
英梨々は倫也が肩に触ってきたので驚いて振り向くと、英梨々に寄りかかって寝ていた。
倫也のかけている眼鏡をそっとはずす。
手に持ってその眼鏡を眺めていると、どういうわけか無性に折って壊したい気分になる。
・・・ここは我慢。
真横に裸眼の寝顔がある。これは自撮りのチャンスだと気が付いた英梨々は、テーブルの上のスマホに手を伸ばすが届かなかった。あんまり動くと倫也を起こしてしまう。
しばし動かないまま、どうしたものかと考える。
メニュー画面に戻ったまま、のんびりとした曲がずっとリピートで流れている。
両足を伸ばしてスマホを挟むまではいいが、それを持ち上げるだけの厚みがない。そろそろとテーブルの端まで運び、なんとか上下で挟もうとしたところで、スマホがテーブルから落ちた。
「・・・なにやってんだか」
自撮りが不可能になった今、作戦は速やかに変更するのが賢明だと判断。
英梨々は倫也を起こさないように少しずつ体の位置を変えていく。
かたつむりのように体を少しずつ動かし、苦戦すること15分。ついに倫也の頭を自分の太ももに乗せることに成功した。
「膝枕って、膝じゃないのね」
英梨々は手で倫也の髪を軽く撫でる。愛しい。
日付が変わってもTV画面は同じまま。
今日は休み。多少混んでいてもどこかへ行きたいなぁと思う。
(了)
頼むよ・・・幸せになってくれ