今回は7月。英梨々版花火となっております。
7月。夏休みが始まった。
「倫也ぁー!花火しよー!」
「おう?」
「じゃあ、ご飯食べ終わったらウチにきなさいよ」
「おう・・・」
導入はこれくらいでいいのかもしれない。
夜。8時過ぎに倫也は英梨々の家に行く。インターホンを押すと英梨々が駆け下りてきて玄関の扉を開けた。
黄色いTシャツに下はスラックス。髪型はツインテールで眼鏡をかけている。浴衣でも着るかと思ったらずいぶんとラフな格好だ。
眼鏡をかけていると英梨々の美少女度がガクンッと下がる。倫也にしてみると、この方が気楽でいい。
大きな紙袋2つに山盛り花火が買ってある。
純日本製の花火はちょっとだけ高い。この分量でだいたい3万ぐらいか。
量販店で買う中国製とはぜんぜん違う。
オノマトペで試しにネズミ花火を表現すると、中国製なら・・・
シュ・・シュル・・・シュルシュルシュル・・・パンッ!
と回転も花火の出も悪く、地面が凸凹していると回転すらしない。音も小さい。
日本製のしっかりしたものだと・・・
シュッ・・・シュルシュルシュル!シャアァアアアアアアアア!!!!!
パッーーーーン!!
という感じになる。是非買ってみよう。
今から40年ぐらい前だと普通に雑貨屋や駄菓子屋で日本製の花火が買えた。というか日本製しか売ってなかった。
コンビニが普及してきた頃から中国製を扱うようになり、だんだんそちらが主流になっていった。
というわけで、英梨々が買ったものは火薬のちゃんと入った純日本製である。
英梨々の家の庭は、ホームパーティーを開ける程度には広い。
家と庭の照明を消すとかなり暗くなる。
英梨々は壁際に蝋燭を立てて、チャッカマンで火をつけた。
倫也はバケツに水を汲んで用意する。
「じゃ、倫也はこの打ち上げ花火をあちこちに置いてきて」
打ち上げ花火も高いのだと数千円する。
倫也が1メートル置きぐらいに、どんどん並べていく。どんなものかはわからない。
英梨々は手持ち花火やロケット花火やネズミ花火を袋から開けて箱に放りこんでいく。
用意していたコーラの空き瓶にロケット花火を装填する。レンガで射角をつけた。
手持ち花火に火をつける。
シュバッーっと勢いよく火花がでる。時間とともに色が変わっていく。
火薬の匂いと煙があたりに広がっていった。
「倫也っ!準備できたぁー?」
「おう」
倫也が並べ終わって、のそのそと戻ってくる。
英梨々の花火の光で倫也が闇夜に浮かぶ。
「じゃ、これで」
英梨々が新しい手持ち花火とチャッカマンを渡した。
「どんどんつけてってね」
「普通、順番につけるんじゃないの?」
「こういうのは派手な方がいいのよ」
英梨々は持っていた花火をぐるぐると回して闇夜に輪っかを描く。
倫也が打ち上げ花火方へ歩いていき、点火した。
シュゥ・・・という導火線の音のあと、
ジュバババババッと花火が勢いよく吹き出してツリーを描いた。
英梨々は消えた手持ち花火をバケツに捨てて、箱からネズミ花火を取り出すと、次々に点火して、倫也目掛けて投げつけていく。
シュッ!シュッ・・・・シュルシュルシュルッ!!!
複数のネズミ花火が倫也を囲んでいった。
「危ないよ!」
「ほら、どんどんつけなさいよ!」
倫也が次の花火に点火する。
周りでネズミ花火がシャアアアアアアアアアアアアアッ!
シャアアアアアアアアアアッ!
シャアアアアアアアアアアアアアッ!
と激しく回っている。
打ち上げ花火のヒューという音のあと、夜空を小さく彩る。連続でポンポンッと気持ちよくあがっていく。
倫也が見上げると、パァーーーン!とネズミ花火が弾けた。
「うわぁ!?」
パァーーーン!
英梨々は次々とネズミ花火を投げ込んでいく。
シュ・・・シュルシュル!!
シュルシュルシュル!
倫也は逃げながら、次々と点火していく。
火柱があちこちであがっていて、英梨々の方から見るととても綺麗だ。
地面ではシャアアアアアアアッ!と狂ったようにネズミ花火が回ってはパァーーーン!と派手な音を立てている。
独楽花火も次々に投げていく。
こちらはネズミ花火よりも激しく周り、音もブーーーーゥン!という不気味な音をだす。高速回転していて、色もとても綺麗だ。
そして、最後にやはり、バァン!と激しく破裂する。
倫也は英梨々が投げたところよりも遠くにいる。英梨々もそこまで遠くには投げられない。
打ち上げ花火も次々と点火されて、夜空を埋めていく。何台かを同時に点火するとけっこう派手で綺麗だった。
「さぁ、倫也・・・これからが本番よ!」
「危ないから!」
英梨々がロケット花火に点火する。
ヒューーーーンッ!という音とともに射出され、倫也の横を通ってから、パンッ!と破裂した。
次のロケット花火を装填して点火する。
倫也は最後の打ち上げ花火に火をつけて、急いで戻ってきた。
「ちゃんと逃げなさいよ」
「嫌だよ!」
英梨々が角度を高くして、夜空にロケット花火を打ち上げていく。
倫也は手にもって、ロケット花火を打ち上げる。これはちょっと危ない技だ。
悪い子は今のうちに練習しておこう。
倫也は手持ち花火を片手に2本ずつ広げてもって、蝋燭の火でつけていく。
打ち上げ花火が静かになったので、広い所で腕をぐるぐる回転させると花火の光の筋が描かれては消えっていった。
英梨々も手持ち花火に火をつけた。
ビンにロケット話の残りの数本を束てねていれて、花火の火で点火する。
ヒュー ヒューン ヒュー と空に飛んでいく。それから次々と破裂していった。
これでだいたいの花火が終わった。
倫也も戻ってくる。
けっこうあっという間だったが、迫力もあり疲れた。
「ふぅ・・・」
「終わった?」
「そうね。これでだいたい終わり」
「あれ、線香花火はないの?」
「あるわよ?」
「やらないの?」
「・・・うん」
英梨々は片づけを始める。
倫也は打ち上げ終わった花火の筒を回収する。ロケット花火などの残骸は明日になって明るくなってからじゃないと見つけられない。
バケツの水に一度つけて、それからゴミ袋にいれていく。
蝋燭も火を消して水に一応つけてからゴミ袋に捨てた。
これでだいたい片付いた。
英梨々は紙袋から和紙で包装された贈答用の線香花火を取り出して、倫也に渡した。
「これ、けっこう高級品だから」
「ん。サンキュ。でもなんでやらないの?」
「しんみりするでしょ」
「あー、うん。そうだな」
「で、『線香花火の微かな光に照らされた君の横顔は・・・』なんて描写されたくないのよ」
「なんで!?」
「・・・なんか、そういう情緒ある話は趣味じゃないの。派手なのがいいのよ。花火なんていうのは」
「・・・ふむ」
英梨々がゴミ袋を縛った。そこにバケツの水をぶっかけておく。
「さてっと、まだ時間あるし・・・お茶でも飲んでくかしら?」
「そうだな」
英梨々は満足そうにニコニコしている。
「ガリガリ君も白くまアイスもあるわよ」
「準備がいいな」
「お望みならハーゲンダッツなら全種類あるわよ」
「はははっ」
2人が玄関に入っていく。
「倫也、夏休みの予定は?」
「バイト」
「何もずっとバイトじゃないでしょ?」
「そうだな。シフトによるけど・・・新聞配達の日とウエイターの日を一緒にしてオンオフを分けたよ」
「そう。その方がいいわよ。宿題もあるし」
「そうだな」
英梨々が冷凍庫からガリガリ君を2本袋から出して倫也に1本を渡し、広いリビングの革のソファーに座った。
「どうも」
倫也が受け取って、別のソファーに座った。座り心地がとてもいい。体を包むような感じだ。
「次回は、ハワイで水着回かしら?」
「・・・ダメだろ」
「まさか、お台場海浜公園ですませようなんて・・・思っているんじゃないでしょうね?」
「そこまでは言わないけれど・・・湘南ぐらいでいいんじゃねーの?」
「えっー。日本の海は汚いじゃない。せめてグアムにしてよ。沖縄でもいいけど」
「うーん」
英梨々がガリガリ君を必死に食べている。ゆっくりしすぎると溶けて落ちる。
「ホテルのプールでもいいけど・・・」
「市民プールじゃダメなのかよ」
「子供のしょんべん臭いじゃない」
「偏見でしょ」
「そんなことないと思う」
「・・・うーん」
倫也もガリガリ君を必死に食べる。頭がキーンとする。
2人とものしばらく無言で食べている。
「あっ」
「どうした?」
「アタリがでた!」
「おっ?良かったじゃん。もう一本もらえるんだっけ?」
「そうなの?あたしは趣味で集めているけど・・・」
「いるよな。そういう人・・・」
英梨々が棒を机の上に置いた。
「場所がなかなか決められないわね」
「そうだな・・・」
水着回か・・・文字でやってもな。
「こんなことなら、さっきの花火も使っちゃえばよかったわね?」
「んっ?どうして?」倫也が聞き返した。
「線香(選考)できない」
「・・・オチがあるんだな・・・」
おあとがよろしい・・・のだろうか。
(了)
うん。こんなんでいい