今回は和合市での詩羽サイン会がネタです。
「倫也ぁ~。霞詩子のサイン会があるらしいわよ?」
「ああ。バイトの休みはとったよ」
「恋するメトロノーム。いいわよね」
「そうだな。英梨々も・・・サイン会いく?」
「そ・・・そうね」
この世界線で少し素直な英梨々は、倫也と情報を共有し同じラノベを読んでいる。
当然、今一押しの霞詩子の恋するメトロノームも読んでいる。
「和合市の本屋で14時からだってさ」
「じゃあ、ランチでも食べがてらでいいんじゃないかしら?」
「えっと・・・なぁ・・・英梨々?」
「何よ?」
「一緒に行くつもりなのか?」
「・・・!」
ぜんぜん関係ないけど、この第7話は6話から三ヶ月ぐらい期間を開けてから書いています。
英梨々ルートで投稿しちゃったし、(むしろ、投稿して自らノルマを課さないと挫折する)なんとか完結させたい。
「はぁ!?あんたバカじゃないの!?なんで、あたしが倫也と一緒に・・・いっしょに・・・」
英梨々のトーンが下がって、下を向いてふさぎ込んだ。
英梨々はツンデレキャラだ。ツンデレでないなら英梨々はもう英梨々でいられない。
けど・・・素直にならないと恵と出会う春休みまでに倫也との関係性を改善できない。
倫也がそんな英梨々に優しく声をかける。
「一緒にいこうな」
「・・・うん」
英梨々が素直にうなずく。洋服の袖で少しあふれた涙をぬぐった。
小さな子供のように少し泣き虫なのは、ボツ原稿の山を築きすぎたせいだろう。
※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※
9月中旬。夏休みボケも終わり日常が戻ってきた。
そんな、とある休日である。天気はまだまだ暑かった。
英梨々は緊張していた。
鏡の前で衣装合わせをする。黄色系統のシャツにオーバーオールか・・・それとも黒を基調にしたワンピースにするか・・・
倫也との交流は順調だ。GWも一緒に外に遊びにいったし、夏休みもお互いの家に行ったり来たりしている。マンガも手伝ってもらっているし、一緒にゲームもしていた。
ただ、こうして2人で遠くまで行くのは初めてだ。
「デート・・・なのかしらね・・・」
英梨々が1人でつぶやく。
デートの定義をややこしく考えて、いいわけをする。
2人で同じ場所同じ時間を過ごす。それをデートと言う。素直に認めればなんてこともない。
でも、そんなことを認めたら恥ずかしくなる。いつもように過ごせないかもしれない。
鏡の前で顔が赤くなる。
その時、玄関のチャイムがなった。
時刻は午前11時30分。倫也が迎えにくる約束の時間になっていた。
英梨々は慌てて黒いワンピースを着た。袖や襟の部分は少し大きめの白いレース生地になっている。
メイド服のようなゴシックではない、もう少し柔らかい印象を与える。
玄関まで走って扉を開ける。倫也が立っている。シャツにジーンズとすごくラフな格好をしていた。
「おはよう」
「・・・おはよ。・・・あの倫也。ちょっと待っててくれる?リボンだけ結ぶから」
「はいよ」
倫也は玄関の中に入った。外よりは少し涼しい。
英梨々が部屋に戻って、黒いリボンをしてツインテールを作る。
自分の戦闘モードだ。
頬に指を押し当て、堅い表情をほぐして無理やり笑顔を作る。
大丈夫。うまくやれると自分に言い聞かせた。
※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※
英梨々の緊張も倫也と会うまでで、会ってしまえばいつもの2人だった。
駅まで歩くときは放送中のアニメの話題で十分に会話が弾む。
それに電車に乗ってからは、2人でゲームのデイリークエを攻略すれば時間は消費されていく。
ただ、隣に座っている倫也は少し眠そうにしていた。
「あんた、また徹夜でもしたの?」
「いや、早朝の新聞配達」
「バイト休みっていってなかった?」
「ウエイターのバイトは休んだけど・・・新聞は曜日で基本決まっているからさ」
「・・・そう。少し眠ったら?和合駅に着いたら起こすわよ」
「わりぃな。タノム」
倫也はスマホを鞄にしまって目をそっと閉じた。
英梨々もスマホをしまう。あとはじっと静かに過ごせばいい。頭の中で考えごとをするのは得意だ。冬コミに向けて制作する同人誌のストーリーや構成を考えれば時間はすぐに過ぎていく。
揺れる電車の中で英梨々はゆったり過ごす。隣の倫也が寝息を立てて頭が前後に振れている。
その内にもたれかかってくるだろう。それぐらいわかる。お約束は大事だ。
まだかまだかと英梨々は待っている。倫也はバランスを取りながら器用に寝ている。
頭が大きく前後に揺れて・・・
ガゴンッ
と、後頭部を窓ガラスに派手にぶつけた。
「ぷっ」英梨々が笑ってしまう。
「あんたねぇ・・・電車あるあるやってどーすんのよ」
「ふぁ!?」
倫也はまだ夢心地でよくわかっていない。
英梨々が手を伸ばして倫也のシャツをつかみ、自分にもたれかけさせた。
倫也はそれでようやく安定して眠ることができた。
※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※
和合市の駅前でランチをどこで食べるか、ぷらぷらと歩く。
少し睡眠をとった倫也はだいぶすっきりした様子だった。
「ベーグルサンドのお店があるみたいなんだけど」
「ほぉ?」
英梨々がスマホ片手にお店を検索し、地図の案内通りに歩き始めた。
倫也はその隣を黙って歩く、歩きスマホなので英梨々の周りに注意を払う。
やがて店に着き、店内に入る。角のテーブルに通されて、2人は向かい合って座る。
AランチセットとBランチセットをオーダーする。
「それと、ベーグルサンドを二つにカットしてもらえますか?」
英梨々がオーダ―するときに注文をつけた。
これで2種類食べられる。
「さてっと・・・ここからが大事なのよ」
「ん?」
「雑談」
「・・・そうだな」
倫也と英梨々の会話。
冴えカノも最初は倫也と英梨々の会話から始まる。
たまには原作に寄せようか。
※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※
「来月の学園祭では視聴覚室でアニメ上映会をやろうとおもうんだけどさ・・・」
店内はランチタイムで賑わっている。隣のテーブルの食器の音がやたらと響く。
「で、せっかくなんでラブコメにしようかと思っただけど、五等分の花嫁とかよさそうかなって・・・」
窓の外は多くの人が忙しそうに行き来している。
「そんなわけで、構造から読み解くラブコメの進化をテーマに組み立ててみようと思ったんだよ。結論ありきの構造の方が全体としてまとまるだろ?だから、それをバレない方向でさ・・・」
店内に流れるポップミュージックの音量が大きくちょっと気になる。そんな中でも倫也は自分のペースで主張を続けた。
「とはいえ、やっぱりラブコメって見て可愛いっていうのが大事じゃん。そこであまり厳密に製作者側の目線で読み解いてもつまらないよなって・・・」
倫也はいいたいことが上手くまとまっていなかった。ただ強い想いがある。それを聞いて欲しかった。
「だからさ、視点を替えてエヴァンゲリオンを解釈してみようと思うんだ。ほら、完結したし・・・」
「ねぇ・・・」
「ほら、庵野監督って表現者の天才じゃん?エヴァーって人類補完計画とかストーリーの謎が注目されていたけどさ、実はそんなことは二の次だってことを・・・」
「あのさ・・・」
「見てカッコイイ。見て可愛い。それが最初にあるんだよ。それに対して設定が後付けで足されているだけでさ、だから整合性なんかないし・・・・」
「ちょっと・・・」
「あっ、ついでにいうと一番表現したいのはおっぱいなんだよな」
「いい加減に落ち着けぇぇぇ~」
「うわ?なんだよ、英梨々。突然大声出して」
倫也はこれから主題に入ろうと思ったところで英梨々に話の腰を折られて呆然としていた。
少しムキになってしゃべりすぎたか。
「あのさ倫也。一応学校だからね?そもそもアニメ上映会が許可されるかもわからないわけでしょう?それでやっと許可されたのに、おっぱ・・・えっと・・・胸に焦点を当てて話なんてしたら、退学になるわよ?」
「そんなバカな・・・俺ら哺乳類だよ!?」
なんてことだ。おっぱいの話が世間では低俗に思われるらしい。確かにおっぱいにはエロスがある。どうしようもない魅力もある、けど・・・倫也はもっと物事を進化論的にとらえる。だからそこにエロさは関係ない。いや、エロさそのものを追及すれば、それはもう立派な学問だ。
「とにかく、ランチきたし食べましょう。アニメ上映会はあたしも協力できそうだし・・・」
「えっ?英梨々が協力するの?いやでも・・・これは男子向けにだな・・・」
「そんな初めてのアニメ上映会を倫也の考えているような話で成功したとしても、次回は許可が降りなくなるんじゃないかしら?もう少し自制心をもって、オタクであることを隠して・・・先生の顔色もうかがったほうがいいと思うわよ」
「いやいや、オタクであることを隠すことはないだろう。むしろ、その情熱とロマンなくして、なんでアニメ上映会をやるんだよ」
「っ・・・いろんな意味でやっぱり倫也は倫也ね。でも退学はなくても停学になってからは遅いのよ?」
「そうか・・・?」
ようやく英梨々がベーグルを手にとって口元に運んだ。最初から半分ずつにシェアされていた。
倫也もさっそくかじりついた。新しいパンのもちもちとした触感が心地いい。それに中の野菜もサーモンも鮮度が良かった。
英梨々は満足そうに微笑んでいる。その金色の髪がキラキラと輝き弾むように揺れていた。
「だいたいあんたね、エヴァーのアニメ上映会をやるといっても、旧劇か新劇かで話がだいぶ違うでしょ?まさか、新劇だけやって・・・」
なんだかんだ英梨々も乗り気だ。この骨の髄まで腐り切ったオタク少女は倫也の理屈に興味があった。あまたあるエヴァー論はどれも難解なものが多い。
それにしても、無駄に美少女だ。白磁のような透き通った肌もサファイヤのように輝く碧眼もそのコロコロと猫のように変わる瞳や表情も・・・オタクにしておくにはもったいなかった。
「そりゃ英梨々。やっぱりTV版から通して上映すべきだろ?でもな・・・上映時間を考えると編集しないと難しそうなんだよ」
「そうね。でもテーマがあるなら、それにそって編集するのはいいんじゃないの?それにTV版を最初から見たからって内容がわかるようなアニメでもないし」
「だよな!そこでだ。まずはロボットシーンをすべてカットしてだな・・・綾波とアスカの登場シーンだけで再構築して・・・2人の魅力を知ってもらう」
「いや、それじゃストーリーがぜんぜんわからないじゃない」
英梨々がアイスティーを一口飲む。
倫也はベーグルサンドを口いっぱいに詰め込んだ。
「もぐもぐ・・・わからなくていいんだよ。ほら、アニメグッズってワンシーンを切り抜いたクリアファイルがあるだろ?あれって、それだけで魅力だから売れるんだよな」
「もちろんそうだけど、それはやっぱりアニメの土台があるからでしょ?」
「じゃあ、ラノベの挿絵はどうだ?そもそも表紙や挿絵で売り上げが変わるわけだろ?タイトルも重要だが、見た目は大事だ」
「・・・で、それがエヴァンゲリオンとどう結びつくのよ?」
英梨々もベーグルを慌ただしく口に詰め込み、アイスティーで流し込む。
さっきまで騒がしかった音楽も気にならなくなってきた。
「だからさ!そこでおっぱいだよ。おっぱいの魅力にストーリーは関係ないだろ?」
「はぁ・・・!?もうどこから突っ込めばいいのよ・・・」
倫也は満足そうにプチトマトを口に放り込む。
とはいえ、英梨々も考え込む。何しろ自分が描いている同人マンガが凌辱ものなのだ。おっぱいの魅力は痛いほどわかる。おっぱいの魅力を描けずして同人マンガの成功はありえない。(偏見)
「だめかなぁ・・・」
倫也のトーンが下がった。構想はあった。自信もある。ただ後押しするものがない。英梨々が賛同してくれたら・・・
「まっ、学校でやるものじゃないわよ。それだけは確かね」
英梨々もプチトマトを放り込む。
だいたい、この倫也の構想では英梨々の出る幕がない。あんまり関わりたくないというのが正直なところだ。
それこそ秘密サークルで男子だけでやるべきことだろう。
いや、むしろ自分と倫也の2人で十分だと思った。
※ 冴 ※ え ※ カ ※ ノ ※
「そろそろ時間だな」
「そうね」
倫也が伝票をもって立ち上がってレジへと向かう。英梨々の圧倒的な存在感に周りに座っている人が目を奪われるのがわかる。さっきまで人にはわからないようなオタク話をしていたとは誰も想像しないに違いない。
「あたしが支払うわよ。カードあるし」
「ふふふっ。ヴァカか英梨々!デートのランチぐらいこのバイトをしている俺様がおごってやる」
「なんでそんな偉そうなのよ!」
とはいったものの、倫也の口からデートという言葉が出たことに英梨々は驚いてしまった。
だんだん顔が赤くなって俯いてしまう。
さっきまでただのオタク友達だったのに。
前作までサブヒロインだったのに。
英梨々はちょっとはにかんで照れながら、
「ごちそうさま」
と、素直に言った。
これ以上、物語が紡げそうにないから、今回はここまで。
(了)
うん。大丈夫。