今回のお話は、倫也が学園祭でアニメ上映会をしていたらしいので、その準備の話。
英梨々は倫也とこんな風に過ごしたかったんじゃないかな。
後半は英梨々が倫也を裏切った事を謝ろうとするお話になります。
10月の中間考査が終わり、周りは学園祭への準備で賑わってきている。
倫也と英梨々は早く家へと帰り、2人でアニメ上映会の企画を練り始めた。
英梨々は視聴覚室の使用を学園祭運営委員会に押さえてもらった。あとは企画を先生に通すだけだ。
当初のエ〇ァンゲリオン上映は英梨々によって止められ、日の目を見ることはなくなった。新劇場版だけでは理解できないし、TV版から旧劇も含めると上映時間が足らず、編集が必須になるからだ。
編集の仕方も倫也と意見が合わない。綾波とアスカを並べる倫也に対して、アスカ中心にカジをいれるのが英梨々の意見だった。喧嘩するぐらいならボツでいい。
英梨々が学校で通りやすい企画の雛形を考えてきた。
それは、一期完結もの(12~3話程度のもの)、学園物、テーマがしっかりあるもの。完成度の高いもの。
それらをピックアップして、ややオタク色の強い『A〇gel Beats』が本命になった。
「なるほどなぁ・・・確かに名作だな」
「一見アホなアニメだけど、ちゃんと笑いも涙もあってメリハリもあるし」
英梨々が自信あり気に言った。それに男女ともに楽しめる作品だ。
英梨々は学校帰りに直接倫也の家に来ている。すぐにコンタクト外して黒ぶちメガネに替え、リボンも解く。お嬢様仕様ではどうもオタク話に熱が入らない。
「これだと先生方から許可が得やすいのか?」
「たぶんね。アニメに対して偏見のある教師をどうやって説得するかが大事でしょう?だからって倫也みたいに情熱だけで押してもしょうがないし、作品テーマである「学園生活をしっかり送り満足する」というところを切り取るだけでもだいぶ違うと思うわよ」
「ふむ・・・」
倫也がつい納得してしまう。
「それに伏線もあって、最後にしっかり回収するし・・・」
「作品解釈の余地もあるのか」
「そうね。そこら辺を語るのには問題がないでしょう?」
どんなアニメでもけなさないで良い点を見つけることができる。そんな倫也のことを英梨々は信頼している。ましてやこの作品なら手放しでほめ続けることが可能だ。語りだせば、誰かが止めない限りしゃべり続けるだろう。
「じゃあ、これに決定でいいわね?」
「うん。英梨々もこれでいいんだな?」
「あたしは関係ないわよ。当日に手伝うわけでもないし・・・」
「そっか」
学校内ではオタクであることを隠している。だからもちろん倫也のアニメ上映会を表だって支援できない。
「あとは企画書を作って、先生に提出するだけね」
「なぁ・・・英梨々、企画書ってどうやって作るんだ?」
「・・・そうね・・・」
この時点での倫也はただの消費豚であり、制作側の人間ではない。才能があっても志し・・・いや、始動するための情熱がなかった。
※ ※ ※
「で、私に丸投げをするわけね?」
「ええ、そうね。あたしはお願いするしかできないのよ。霞ヶ丘詩羽」
昼食休みの時間、屋上のベンチに座ってメロンパンを食べている美少女がいた。
黒いロングの髪が風になびいている。
英梨々はその隣でサンドイッチを食べながら、穏やかに会話していた。
「・・・そう素直になられると断りにくいものね」
詩羽がため息を1つついた。
英梨々が素直なら運命は変わっていく。先月のサイン会の時から知り合いになり、霞詩子の作品ファンである英梨々はすぐにサインをもらい、その作品を絶賛し友達になっている。根は気が合うのだ。
3人で会うことで、倫也と詩羽の関係も変わる。詩羽はすでに英梨々が倫也の隣にいるので恋心は自制されて倫也との距離感はずっと遠い。その分、英梨々が最初から近い距離にいる。
「でも、ツンデレでない英梨々って、どんな需要があるのかしらね?」
「なりふり構っていられないのよ。あんたならわかるでしょう?」
「ええ、まぁそうね。でもあまり劇中劇にはしない方がいいわね」
談笑をしながら、ノートにさらさらと企画書を書いていく。何しろプロだ。学校の催しもの程度なら片手間で十分だった。
詩羽がメロンパンを牛乳で流し込み、「こんなんでどうかしら?」と、英梨々にみせた。
そこには、A〇gel Beatsの内容が要約され、主張したいことも書かれていた。
また、上映後のネタバレを含むところでは、高尚な作品解釈や、心臓ドナーに関する啓蒙なども補足されている。これだけ読めばNHKの教養アニメにしか見えない。
もちろん作中のお色気シーンや残虐な暴力シーンは伏せられている。余計な波風は立てない。
「さすがね・・・」
「これくらいならお安い御用だけど・・・でも、私としては学校内でのイベントはあまり推奨したくないわね」
「どういうことかしら?」
「せっかく高校一年という、『出会う前』の時間なのに、『出会う可能性の高い学校』を舞台にすることはないじゃない?」
「・・・考えすぎよ・・・それにね、図書館にラノベを置くのと、学園祭でのアニメ上映会は倫也の業績だし、それぐらいは回収しておきたいじゃないの」
「それも、愛なのかしらね」
「やめてよ」
英梨々は顔を赤くして、にやついてしまった。倫也のことをずっと見てきたのだ。誰よりも。
アニメ上映会には客としてさりげなく参加できないか、何か方法を考えている。友達が誘ってくれるわけでもないし、自分から誘うわけでもないし、難しい・・・
「詩羽は上映会には来るのかしら?」
「あら、フルネームで呼ばないのね、英梨々」
「やっぱりおかしいかしら」
「別にいいんじゃないかしら?あなたは私を味方にしたいのでしょう?」
「ええ。まったくその通りよ。少なくともあなたといざこざする時間は惜しいわね」
お互いに詩羽、英梨々と呼び合うのはずっと先の話だ。けど今はその時間を短縮する。
詩羽は顔を指でかきながら少し照れてしまう。こう素直だと会話のテンポややり取りも変わってしまう。上目線でなじるのが詩羽の芸風の1つだ。優しいお姉さんキャラではないから、素直頼られすぎても困る。
「私は教室の後ろの方でこっそり参加しようかしら。でも、演劇部の指導もあるから状況によりけりね」
「そう」
「別に英梨々も参加したらいいじゃないの?そこは素直になれないのかしら」
「素直とかそういうのとはちょっと違うのよ・・・あたしが他の一般女子と仲良くすることは、あたしの責務なのよ」
「ずいぶんと重たい言葉を使うのね。責務?それってあなたが勝手に思っていることでしょう」
「そうよ。でもね詩羽・・・」
英梨々が空を眺める。秋は空が高い。言葉が浮かんでは消えていく。
上手く説明できないこともある。感情は複雑で白黒のようにはっきりとはしていない。
倫也のことが好き。それははっきり認める。これは大前提。
倫也と仲直りがしたい。これは・・・どうだろう。
「詩羽。あたしと倫也が実は喧嘩していないという・・・解釈は無理があるのかしら」
「それはどういうこと・・・」
「こじれているし、お互いに不器用なのだけど・・・」
英梨々は必死に言葉を探す。それは言い訳を探すことにも似ているし、自己正当化にも近い。
倫也を裏切ったのは事実だ。
・・・でも。倫也がわざとあたしを裏切りさせた・・・そんな気もする。
英梨々が下を向く。瞳には涙が今にもあふれそうだった。
詩羽はさりげない普通の会話をしていたつもりだったが、英梨々の様子が変わったことに戸惑っていた。
英梨々は何かを絞り出すように、口をパクパクとさせている。
「いじめられてたのよ・・・あたし」
英梨々の目から大粒の涙が零れ落ちていく。
倫也と喧嘩したきっかけであり、今のこじれた原因はこれにつきる。
英梨々のトラウマは二つある。大好きなマンガやアニメのオタク文化が好きなのに、それでいじめられたこと。そして、そのいじめから逃げ出すために・・・倫也を裏切ったこと。
その後、むせび泣く英梨々の背中を詩羽は優しくさすっている。
お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いたが、2人はそのまま黙って屋上で過ごした。
5時間目の途中。泣きはらして腫れぼったい顔で教室に戻るわけにはいかなかった。
英梨々は鞄も持たずに隠れるように学校を出て、電車に乗った。
電車に揺られながら詩羽のアドバイスを反復する。
「やっぱり、倫理君にしっかり謝って、当時のことを話し合うしかないんじゃないかしら?」
というものだった。
それが簡単にできるなら苦労はしない・・・
けど、いつまでも逃げ続けるわけにはいかない。
英梨々ルートを完成させるなら避けては通れないのだから。
※ ※ ※
倫也の部屋。
「暗いよ!」
「そうかしら?」
「いじめ問題まで広げるのかよ・・・」
「でも、あたし達がこじれたのってそこからよね?だったら、やっぱりそこをはっきりしておかないといけないんじゃないかしら?」
「うーん」
倫也が天井を見上げる。
英梨々の言い分はもっともだけど・・・素直に謝罪するだけでもいいような気がする。
「で、英梨々はどういう解釈なんだ?」
「まずオタクであることをいじめられた2人がいるのよね。倫也はあたしのために1人でいじめられることを選ぶわけ」
「なんで?」
「なんでって、あんたバカなの?あたしを助けるためでしょ?」
「どうやって?」
「あたしが表面的にはオタクをやめることを倫也が提案するわけ」
「ほう?」
「でも2人共やめるわけにはいかないのよ。だって、大好きなことを否定するなんてかっこ悪いじゃない?」
「でも、お前は否定するんだろ?」
「そうよ?でも、それは倫也の提案で仕方なくするのよ」
「で、俺はなんでオタクを続けるんだ?」
「だって、ゲーム会社の社長になるんでしょう?」
「そうだな」
「だから、そこは貫きなさいよ。それに倫也がターゲットになることであたしが救われるわ」
「なんか、すっごくわがままだよねぇ!?」
「結果的にそうなんだから、大事なことはこの解釈は倫也が大正義になるってことよ」
「俺はそんなこと望んでないけどなっ」
「はぁ・・・」英梨々が1つため息をつく。そんなことわかっている。
「この解釈ならあたしは倫也の合意の元で表面的に裏切ったことにできるわ」
「だったら、2人の関係性がこじれているのはおかしいだろ?学校で英梨々がオタクをやめるのはわかった。それを支持するのも納得したとしよう。でも、2人の時は仲良く遊んでいればいいだろ?」
「・・・そうよね」
少々無理がある。
「だいたい英梨々。俺ら小3だよね?それも内向的なアニメ好きのオタクだろ?そんなのがそこまで空気読んだ行動なんてできるか?英梨々を守るために俺がいじめられっ子役をやるなんて・・・」
「『泣いた赤鬼』みたいな話でいいと思ったんだけど・・・」
「やりすぎだろ・・・それに、その話だと赤鬼と青鬼はもう会えないぞ」
「そっか・・・難しいわね」
英梨々が立ち上がって部屋から出ていく。頭を冷やす時間だ。
部屋に残された倫也は英梨々のレポートを読む。辻褄はあっている。
確かに喧嘩の解釈を変えれば2人の関係性は変わる。
裏切った英梨々がリア充を必死に演じているのを陰ながら応援してきたのも事実だ。
なぜその後こじれたのか? それをクリアできれば・・・これでいけそうだ。
「ああ、泣いた赤鬼でいいのか!」
倫也が納得する。
口元に手を当てて思考を整理する。
英梨々解釈は小3にはできない選択だろう。誰かがいじめられないために、誰かがいじめられるなんて・・・
でも・・・この童話の影響を受けていたら・・・
部屋のドアが開いて、英梨々が入ってきた。手にはドクペの入ったグラスを二つもっている。
「どう?」英梨々が1つを倫也に渡す。
「ありがと。そうだな、わかってきたよ英梨々解釈。いじめ問題は起きた。でも俺らの喧嘩はなかったことにしたいんだよな?」
「うん」
「でも、こじれていると・・・」
「そう。できそう?」
「ああ・・・たぶんな」
「えっと・・・次回は11月で学園祭?」
「いや、予定変更して・・・小3をやってみよう」
「わかった。倫也がやるなら・・・やる」
※ ※ ※
というわけで、次回は小3の倫也と英梨々。
ラノベ主人公がさしたる理由もなく、美少女に囲まれてモテる。
そんなことにいちいち解釈を与えてもしょうがないといえばしょうがない。
でも、そこは英梨々のために1つのエピソードを作ってみよう。
それにより、英梨々がツンデレになったり、2人がこじれたり、なによりも英梨々が倫也を好きになったことを補足できるかもしれない。
(了)