今回は小3の英梨々と倫也の話になります。
秋は夕暮れ
昔の人は紅く染まる街並みに感慨を覚えたようだが、現在のコンクリートの街も高い所から見下ろすと美しく染まっている。ただ現代人は日常に忙殺され気が付けない
倫也と英梨々の家の間のある小さな公園は、地域の避難所も兼ねた場所で遊具はブランコぐらいしかない。それでも近所の母親が幼児と来たり、小学生が片すみのベンチに座り携帯ゲームで遊んでいたりする。
5時のチャイムが鳴って、みんなが1人、また1人と帰り始める。
英梨々は1人ブランコに座り、足をつけたまま小さく揺れていた。
金色の髪はオレンジ色に輝き、浮かない表情の少女はどこか物哀し気なはずだったが、それよりも美しさが先だってしまい、どこか絵画のようだ。
いじめにあった。
どこからがいじめなのかはわからない。小さい頃から髪の色や瞳の色の事でからかわれることがあった。英梨々のことを好きな男子が何かにつけて絡んでくるし、英梨々に嫉妬する女子もいた。
それでもまずまず上手くやってきたつもりだ。
最初はジブリのようなメジャーアニメの話題だった。次に好きなアニメをすすめたら、友達も見るようになり共通の話題ができた。ゲームをすすめたあたりから少し怪しかったようだが英梨々は気が付かなかった。
その登場人物の大好きなセルビスが上手に描けたので、友達に見せた時・・・軽くひかれた。
「あたしのバカ」
調子に乗りすぎた。どこまでが一般人でどこからオタクなのか線引きがはっきりしているわけではない。隠れてこそこそと絵を描いていれば問題なかった。日の目を見るような趣味ではないと気が付いた時は遅かった。
クラスには倫也という、もっとはっきりとしたオタクがいたことが原因の一つかもしれない。どうどうとアニメの話をし、学校にフィギアやカードを持ち込む。ラノベを友達にすすめ、家でアニメ鑑賞会をする。オタクとバカにされて、いじめられているように見えるが倫也ファンが多いのも事実だ。
英梨々が上手に絵を描くと倫也はほめてくれる。それからこまごまと注文をつけてくる。等身や構図、線の強弱、陰影・・・どれも的確にアドバイスをくれた。倫也は英梨々よりも絵が下手だったがとても詳しかった。
2人の関係の中だけで、二次元の絵を描いていたら何も問題はなかったのだ。それは幸せな時間そのものだった。
そんな特別な関係をクラスの女子に求めたのがそもそもの間違えだったわけだ。
※ ※ ※
今日の学校での出来事。
「うわっ、えりんぎのやつオタクなのかよ」
誰かがつけたあだ名の1つとともに、男子が英梨々からセルビスの絵をとりあげる。
「返しなさいよっ!」とムキになって追いかけた方がよかっただろうか、呆然としてしまった。
他の女子が助けてくれることもなく、遠巻きに静観している。
倫也は教室の片すみで他の男子と談笑して、こちらに気が付いた様子はない。
喧噪の中、先生が入ってきて一度は教室が静まった。
休み時間に英梨々に話しかけてくれる女子がいなかった。
「オタクなの?」
「そうみたい・・・アニメとかゲーム好きだし・・・ゲームのキャラ描いてきてたし」
「なにそれ、キモい」
影口が聞こえる。日頃、英梨々の人気に嫉妬している女子が中心のようだ。
英梨々は別に相手にはしない。けど、仲の良いおとなしい友達は怖がって英梨々と距離を置く。
孤立。それはいじめの序曲。
英梨々が下を向いて目立たないように過ごしていると、
ガタンッという大きな音が響いて、机が倒れ、イスが散乱する音がする。
見上げると、倫也が「返せよ!」と、英梨々の絵を盗った男子ともめているようだった。
英梨々はそれを見つめている。大騒ぎしてバカみたい。
・・・あんな絵、何度だって描けるのに。
冷静に、客観的に状況を見守ろうとする。
絵が丸められて、キャッチボールされるのを倫也が追いかけている。
それから男子を捕まえたけれど、絵は別の男子の手にあって破られてしまった。
倫也は小柄だし、細いし、喧嘩なんてぜんぜんダメ。なのに暴力に巻き込まれている。
まだ小学3年生だからひどくはないけれど・・・
誰かが先生を連れてきて、騒ぎが収まる。
倫也と喧嘩した男子生徒が別室に連れていかれた。
「バッカじゃないのっ・・・」
あんなにムキならなければ別にどうってことはないのに。
以前みたいにおとなしくして、愛想をふりまいて、嫌いなやつにも気をつかえば・・・その内またクラスに溶け込めるのに。
「もう、男子もやめなよ・・・」
どこからか声が聴こえる。
「ほら、澤村さん泣いているし・・・」
えっ?英梨々は自分の涙をふいた。
冷静なつもりだったのに、泣いていたようだ。ちょっと騒ぎが怖かっただけだ。きっとそうだ。
自分が泣いていることに気が付くと、もう我慢できる気がしなかった。声をあげて号泣してしまうだろう。その方が可愛いかもしれないし、その方がうまく収まるかもしれない。でも、それは悔しい。
だから英梨々は逃げ出すようにして、学校から帰った。
※※※
日がだいぶ沈んできて、もうあたりは暗い。
英梨々はそろそろ帰ろうとブランコから立ち上がった。
ポコッ
英梨々の頭に何やら当たる。
足元を見ると丸められた紙が転がっていた。それを拾って広げると、セルビスが描いてあった。学校でもめ事になった絵だ。破ってある箇所がセロテープで止めてある。
あたりを見回すと、倫也が立っている。
「お前にしてよく描けてる」
「・・・何よ」
「アニメ絵をデッサン画風に昇華させた手法は良かったと思うぞ」
「何事もなかったかのように寸評してんのよ」
「惜しむらくは美少女じゃないことぐらいだな」
「バカじゃないの?」
「ああ、そうだよ。バカでけっこうだ。けどな英梨々。好きなことにバカ正直になれなくてどうするんだよ」
「はい?」
「絵をバカにされたり、ああやって下らないいじめにあったりしたら、ちゃんと戦えよ」
「それこそバカじゃない。喧嘩は同レベルでないとできないのよ?あんなのは無視しておけばいいの」
「悔しくないのかよ」
「・・・悔しいわよ。けど、絵はまた描ける」
「だったら、俺がとりかえすことなんてなかったな」
「そうよ・・・あんなにムキになって、バカみたい」
「悪かったな」
倫也は振り返って帰ろうとする。
英梨々が止めずに後ろからついていく。
「止めろよっ!」倫也は英梨々が表面的にだけでも英梨々が脱オタクする方法を考えてきていた。
「いや・・・ちょっと待ちすぎて・・・ここ寒い」もう秋だ。夜は冷える。
「あっ・・・うん」
「なんでこんな遅くなってんのよ」
「職員室で先生方に囲まれながら説教くらってた」
「そんなに?」
「ケンカした理由をしゃべらなかったからなぁ・・・」
「なんで?」
「なんで?って、お前の名前だしたらますます面倒くさくなるだろ?」
「あっ・・・」
気が付いて英梨々の耳が赤くなる。
2人で歩きながら分かれ道まできた。
「じゃあな」
「・・・うん」
「英梨々」
「何よ?」
「明日から・・・学校でオタクはやめとけよ」
「・・・そうね。でも、倫也はそれでいいの?」
「余計な揉め事はごめんだよ」
「そ・・・そう」
倫也が歩きだし後ろ向きのまま、手を上で振る。
(やばい、俺・・・今、かっこいい)
英梨々が倫也を見送る。
(ああいいうのがかっこいいとか思ってるんだろうなぁ・・・バカだぁな・・・)
「くしゅんっ!」くしゃみを1つする。
倫也は振り返って、「風邪ひくなよ」と声をかける。
「うん・・・倫也・・・ありがとっ」
英梨々が八重歯を見せながら笑って手をふる。
※※※
翌朝。
倫也と英梨々は仲良く通学する。
倫也が作戦は単純だった。注目を浴びている今だからこそ、倫也はあえてクラスで目立つように英梨々にオタクの話題をふっかける。そこで英梨々がばっさりと拒絶して終わり。
あとは英梨々が倫也を学校では無視をすればいい。それでいじめは終わる。
「そんなんでうまくいくかしら?」英梨々は不安を抱えている。
でも、このままオタク認定されたらされたでいいかなと思っている。お嬢様キャラも疲れるし、隠キャで目立たないように過ごす方が自分にはあっている気がする。
登校時に2人は少し距離を置いた。
騒がしいHR前。まだ昨日の微妙な空気が残っていた。
倫也は友達と会えて大きな声でアニメの話をする。それから英梨々に話かけた。
クラス中が注目したMAXのところで、英梨々が
「キモい。話しかけないで」
と冷たく言い放ったのは効果抜群だった。
以後、英梨々の学校生活は平穏だった。倫也の作戦は成功したわけだ。小学生なんてちょろい。
※ ※ ※
放課後。
いつも公園で倫也を待っていたが、倫也はこなかった。
その後、通学を一緒にすることもなくなった。
倫也が仲良くしているところを見られると、またオタク仲間として見られていじめを受けることを懸念したのだ。
だから学校では一切話をしない。
学校の外でも会わなくなったから話をすることがなくなった。
英梨々が倫也の家を見上げる。倫也の部屋はカーテンがしまったままだ。
呼び鈴を押す勇気がでない。
あんなに毎日遊んでいたのに。同じ趣味で同じ時間を楽しく過ごせたのに。
もっと上手にいじめを回避できなかったかな。
勇気を出して倫也とオタクになればよかったのかな。
仲直りのきっかけを上手く見つけられなかった。
そして、2人はこじれたまま月日が流れていく。
この時の英梨々は、まさか数年後に負け犬サブヒロインになるなんて、思いもしなかった。
※※※
時間戻って現在。
「って、ことでこんな話でどうかしら?」
「う~ん」
「あたしとしては、やっぱりあたしは被害者側の1人だと思うし、倫也を裏切ったという過去は納得できないのよ」
「なんていうか・・・内容はよくわかった。たださ・・・」
「なによ」
「こういうネット小説で説明的な描写が長いと、つまらない上に読んでもらえないぞ?」
「・・・そういう問題?」
「うん。例えばこういう過去があったとしても、説明的な描写よりも学校での会話のやりとりを切り取ったほうが面白いだろうな・・・とは思う」
「そっかぁ・・・」
「でも、まぁボツにせずにこれでいいんじゃないか?」
「そう?どうして?」
「英梨々には英梨々の良さがあるさ」
「そう。あっ、そうだ。あとね・・・これ、11月分ってことでいいかしら?」
「学園祭は?」
「ボツが多くって・・・ほら、やっぱり学校イベントって『あの子』がいるでしょ」
「うん?」
「それで、高1の『あの子』を少しだけ登場してもらおうと思ったのだけど・・・」
「ふむ・・・」
「すぐにフラグを立てたがるから・・・その・・・」
「まぁ、無理するなよ」
「・・・うん」
「・・・」
「描写がなにもないわね」
「演出の機嫌が悪いのだろう。学園祭原稿ボツにしたから」
「ふぅ・・・(ため息)」
「で、12月はどうするんだ?」
「12月はね・・・倫也はクリスマスもバイトでしょ?」
「そうだな」
「だから、あたしもバイトを手伝おうかと・・・」
「ん?ウエイトレス?」
「ううん。キッチン」
「料理できるの?」
「ううん。ほら、クリスマスコースとかするでしょ?あれのサラダとかデザートの盛り込みって凝ってるじゃない?ああいうのだけならできそうじゃない」
「さぁ・・・」
「だめ?」
「いや、俺が決めることじゃないから。ただコミケは大丈夫なの?」
「販売は親が担当だし、もちろん倫也と締め切りに追われながら制作するのでもいいんだけど」
「締め切りには追われるんだな」
「そういうもんでしょ」
「そういうもんだな」
「これも・・・追われているわよね・・・」
「だな」
「こんなんでいいかしら?」
「しゃーないな。時間だしなっ」
投稿っと。
(了)
英梨々と作る英梨々ルート