──はい、助けていただき、誠にありがとうございます。あんなこと、ホントに起こるんですね。私、ニュースの中の話かと思っちゃいました。
──えっと、私の名前を言えばいいんですよね。はい、私は乾代美子、タロットカード専門の占い師です。
──えぇ、この町の繁華街で、路上占いをやってました。といっても、鳴かず飛ばずでお客さんなんて殆ど来ませんけど。
──事件があった時の状況ですか? はい、それはもう鮮明に覚えていますよ。
──えぇ。勿論お話いたします。
──ええと、あれは午後二時前後くらいの話でしょうか。その日も私は繁華街で路上占いの店を開いてました。
──この日もお客さんは殆ど来なかったので、暇を持て余しながらカードをいじって過ごしていました。
──すると、隣の路地裏の出入り口から、一人の男がふらりと現れたんです。
──はい。写真の通り、六月も近いというのに厚手のマフラーを首に巻き、無精ひげを生やしたボロボロの身なりをした薄笑いを浮かべた男でした。
──あっ、そうそう。こんな感じの顔でしたね。
──ですが、その時の私はそんなお尋ね写真の情報なんて頭の中から抜けてました。多分、街を歩いているほかの人たちも、きっとその時の私とおんなじだったと思います。
──兎に角、その男のただならぬ気配にピンときた私は『もしもしそこのお兄さん!』と声を掛けました。
──ぎょろりとした、魚みたいに大きな目が、私を捉えました。その不気味さに一瞬ドキッとしましたが、すぐに気を取り直して『占いに興味ないですか?』と尋ねてみました。瞬間、男は『ひひっ』と小さく嗤って、こう言いました。
──『占いですかぁ? アタシ、非現実的な事はこの目で見ない限り信じない事にしてるんですよ』って。
──その時の私は、なんとしても売り上げを作らなきゃいけないと思っていましたし、何より男の尋常ならない気配が気になってしまいました。所謂怖いもの見たさって言う奴でした。
──『いいですよ。お兄さんの過去から現在までピタリと当てて見せますから』と言ってみましたが、『どうせインチキでしょう? アタシ、そう嘯いてたペテン師を腐るほど見てきましたから』と取り合おうとしてくれませんでした。『今なら二千円ポッキリですよ!』とか、『人助けと思って!』とか、色々言ってみたんですけど、『アタシ、お金持ってないです』『他人の命を助けるほど暇じゃないので』と全然その気になってくれませんでした。
──いよいよムキになった私は、勝手にカードをシャッフルして、カードを一枚引きました。出たカードは吊るされた男の正位置でした。これを見た私は、『お兄さん、貴方過去に相当苦労してましたよね!?』と、ふらふら帰ろうとする男の人に向かって叫びました。すると、男の人の動きが急にピタッと止まったかと思うと、『……へぇ、分かるんですか。貴女』と、面白いおもちゃを見つけた子どもみたいな目を私に向けてきました。
──『えぇ、えぇ。それはもう。これまでの人生、アタシは酷い目に遭いっぱなしでしたよ』と、さっきとは違って不気味なほどにこやかに近づく彼に若干気圧されましたが、『でしょう?』と返事をしてもう一枚カードをめくりました。
──引いたカードはソードの7の正位置。私は『そして今、貴方はとある計画を考えている。しかも、その計画はかなり悪いことのようですね?』と尋ねました。男は満足げに頷くと、『えぇ、そうなんですよ。私、人には言えない悪いことを考えてます』と答え、『貴女凄いですねぇ。アタシを一目見ただけでそこまで中てられるんですか。占いというものも馬鹿には出来ないですねぇ』と、私を褒めました。
──『いえいえ、それほどでもありませんよ』と、調子に乗って答えながら引いたカードは、世界の逆位置。『うーん、でも、今のままでは計画は成就しない可能性がありますねー』と言いかけた瞬間、バンッと強く机を叩かれ、男の顔が私の目の前までに近づけていました。表情こそにやけたままでしたが、目が据わっており、結果に納得いっていないのは明白でした。
──それでも気づかないふりをして『どうしましたか?』と尋ねました。するとイラつきを隠そうともしない声色で、『はぁー、やっぱり貴女、ペテン師でしたか』と言いました。続けて『アタシは自分の計画に自信を持っています。それを何も知らない貴女に、成就しないなんて言われる義理はありませんよ』と、立ち上がりながら断言しました。いつの間にか手には釣り竿が握られていて、鋭利な釣り針がギラリと光りました。
──世界の逆位置は、不完全な完成を意味します。これが出るという事は、彼の計画にはまだ必要な何かがある。それを感じ取った私は、『お、落ち着いてください。これはあくまでも可能性の話です。何が足りないか、カードを通して見てみます』と答えました。
──まぁ、この時はあまりの怖さに声、震えちゃいましたけど。
──これを聞いた男は『信用できませんねぇ。声が震えています。図星当てられてビビってるんじゃないんですかぁ?』と、更ににやけた顔をして言いました。その時にはもう、釣り針の先がのどに当てられてました。
──恐怖に心が支配されるのに必死で抵抗しながら、私は『そ……そこまで言うなら、二枚、自分でカードを引いて私に渡してください』と震える声で言いました。すると、男はしばらく考える素振りをした後、口の端を残酷に歪め、『よござんす。それでも結果が変わらないようであれば、アンタのその綺麗な顔、魚に食わせて差し上げますから』と、パッとカードを二枚引き、私の下に差し出しました。
──引いたカードの結果を見て、私は終わったと思いました。
──出たカードは、塔の正位置と、死神の正位置。どちらもあまりいい結果のカードではありませんでした。
──『それで、どうなんですか。嘘ついたらすぐにクビ……搔っ切りますよ』と、男が待ちきれないように脅してきます。釣り針のひんやりした感触がのどの奥まで伝わった時、私は覚悟を決め、全てを正直に話しました。
──『……貴方に欠けているものは、二つあります。一つは今の貴方の状況を破壊する何かと、もう一つは……貴方の命そのもの……です』
──震える声でそう伝えると、男は黙りこくってしまいました。じっと私を見つめるばかりで、考えうる限り最悪の沈黙でした。
──ダメだ、殺される……そう思った時でした。
──『……ひッ! ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!』
──いきなり男が笑いました。かなり大きな声だったので、通行人の何人かがこっちを向きましたが、それすらも意に介さずに笑い続けた後、スッキリしたような顔つきで『……やはり、貴女は本物でしたか』と呟きました。
──『ど、どういうことですか?』と尋ねると、男は更に笑って、こう言いました。
──『この緋潮外道、愚かなことにツクヨミ様に仕えるものとして、重要なものを忘れていたようです。貢物と自分の命……まぁ命に関してはいつでも差し出す気でいたのですが、その覚悟が足りなかったようです』って……
──やがて男はがっちりと私の手を握りしめました。そして、『ありがとうございました。これでアタシのこれからの行動指針が決まりましたよ』と笑顔で言ってきました。
──『あっ……あはは、お悩みが一歩前進できたようなら何よりです……あっ、それで料金の件なんですが……』ひきつった笑いを浮かべながら代金について尋ねようとした時、『あぁ、それならご心配いりません』と、言いました。
──どういうことかと尋ねようとしたその時、いきなり男が人ごみに向かって釣竿をしならせ、一般人に向かって襲い掛かったんです。
──その時、私は占っていたのが怪人だと知りました。
──後は、皆さんが知っているとおりです。すぐに本部からかるめさんやまろんさんが出動してくれましたけど、それに勘づいた男が一歩早く逃走していました。ふと気づくと、机の上には血がべったり付いた千円札が三枚ついていました。
──以上が、今回のお話の全てです。
──それにしても……一体、あの男の人は何をするつもりだったんでしょう? ツクヨミがどうとか言ってましたけど……
──……あの、本部の皆さん、大丈夫……ですよね? この町はうみきゅあの皆さんが守ってくれます……よね?
──絶対、絶対に平和になりますよね……?