サンノウへ至る頂きへの道のり   作:森林 木

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山の王ーサンノウケイデンスー

 ウマ娘

 それは人間とほとんど変わりない見た目をしている存在だ。

 人間と違うのは頭頂部付近にその存在を主張する細長い耳と、尾骶骨からすらりと生えている艶のある毛並みをした尻尾。そしてその容姿は誰もが美しいと評するほど優れている。

 なお。【娘】という言葉通り、彼女達は女性しか存在しないのだ。

 そして何より人間を遥かに上回る身体能力を持ってる。

 そんな彼女達は何よりも走ることが好きであり、彼女達が走るレースが世界的に人気な一大興行となっている。

 彼女達はレースで走ることこそ生きがいであるという娘も少なくなく、レースの舞台に立つことを目指す娘は日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称【トレセン学園】へと進学し、学生同士しのぎを削り日々レースに出る為にトレーニングに精を出している。

 

 

 

「さぁ残り300m!この坂を一番に登った者が勝者だ!1番サンノウケイデンス!持ち前の登坂力を活かしてぐんぐんと先頭との距離を縮めている!先頭アマノカイセイにあっという間に並んだ!いや抜いた!そのまま抜き去った!なおも加速するサンノウケイデンス!ここは本当に坂なのか!どんどん差が開いてゆく!残り200!誰も彼女に追いつけない!後続との距離がぐんぐんと広がってゆく!残り100m!圧倒的大差!頂きの景色は誰にも譲らない!サンノウケイデンス!今一着でゴール!」

 

 一人のウマ娘がゴールを通過すると辺りから割れんばかりの歓声が鳴り響く。

 それに応えるようにそのウマ娘は両手を大きく広げて空を見上げる。

 後続のウマ娘達はその姿を羨望の目で、あるいは怨嗟の目で見ながらゴールを俯きながら通過していった。

 

「富士()()()()()()ウマ娘の部、優勝は1番サンノウケイデンス!準優勝は8番アマノカイセイ…」

 

 今、彼女達が行っていたのは自らの身体のみで走るレースではない。競技用の自転車に乗り誰が一番にゴールラインを通過するかを競うロードレースだ。

 

 

 

 そう、両脚で地面を踏みしめ駆けることが全てじゃない。走ることが嫌いな娘はそう多くない。だが、走る以外にも道は多くあるのだ。

 格闘技の道を進む者もいれば、記者になる者もいる。そして、レースを走るウマ娘を支えるトレーナーを志す者もいる。

 そして、今このレースを走っていた彼女達は自転車で走る道を選んだのである。

 

 だが、ウマ娘は誰しもが一度は夢にみるものだ。ウマ娘レースの最高峰である中央。そこで行われるレース、トウィンクルシリーズに出走することを-------

 

 

 

 

 

 

「はぁ~気持ち良かったぁ…」

 

 昨日行われたロードレースの事を思い出しながらレースの優勝者、サンノウケイデンスは日課のサイクリングを楽しんでいた。とはいってもレースの翌日で、全身筋肉痛になっているため、距離は5Kmほどで速度も時折ママチャリをゆっくりと追い越す程度のスピードで走っている。

 長い艶のある黒鹿毛をなびかせ走る姿に時折、振り向く人もいる。レーサーパンツという露出の多い服からのびる白く長い四肢がより一層その美しさを際立たせている。

 サンノウケイデンスはゆっくりと自転車を漕ぎながら今後はどのレースに出ようかと思案していた。

 ウマ娘の出場するロードレース自体まだまだ少ない。競技人口は少ないからだ。その為、賞金が出るレースなんてものは滅多になく人気の無さに拍車をかける。

 だがサンノウケイデンスはそれでかまわなかった。ロードレーサーとしてプロを目指す気はなく、プロスポーツにしようという熱意もない。自転車で誰よりも早くゴールを抜けるだけで満足なのだ。

 

(やっぱ海外の方がレースは多いのよねぇ…でも流石に日本から出るのはなぁ…)

 

 などと考えながら川沿いの道を走っていると視界の先に横たわっている人が見えた。

 病人だと判断し速度を上げて倒れている人の元まで急いだ。

 近づくにつれてそれが男性であることが分かった。

 男性の元に辿り着くと素早く自転車から降り自転車をゆっくりと横に倒し男性に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?話せますか!?」

「うーん…」

 

 男性は鼻血を出している。暑さでのぼせてしまったのだろうか。だとすれば熱中症の可能性もある。真夏の川沿いでスーツで倒れていては命に関わる危険な状態だ。

 サンノウケイデンスは自転車に取り付けたポーチから冷感タオルを取り出しボトルの水を含ませギュッと絞る。そのまま男性の胸元のボタンを外そうとした所で男性が何か呟くのを耳に捉えた。

 

「良い…脚だったなぁ…」

「…は?」

 

 良い脚だったとはなんだろうか。考えていても仕方ない。意識があり呂律が回っていることを確認できたサンノウケイデンスは男性に質問を投げかける。

 

「あの、気分は如何ですか?ご自身で立てますか?」

「ん?あぁ、大丈夫だ。ちょっと蹴られて少し意識が飛んだらしい…」

「蹴られて…?ウマ娘にですか?」

 

 ウマ娘は基本的に人と比べると圧倒的に身体能力に優れている。力加減を間違えれば大怪我させてしまうのだ。

 

「いやぁ…良い脚だったもんでつい触っちゃってさ…驚かせた拍子に蹴られちまったんだよ…」

「えぇ…と…」

 

 不審者に話しかけてしまったとサンノウケイデンスは心の底から後悔した。本当に病人だったことも考えられる状況で救護に駆けつけた判断自体は間違っていなかったと自負しているが、それでも結果として面倒な人物に関わってしまったことにやるせない気分になった。

 

「…そうでしたか。では、とりあえず無事なんですね?」

「あぁ、心配させたみたいですまないな」

「では、私はこれで…」

 サンノウケイデンスは男性に一礼すると足早に自転車を起こし、即座にその場から立ち去ろうとする。

 

「あ!待ってくれ!」

「なんでしょうか?」

 

 男性の言葉を無視して走り去ってしまえば良いものを、サンノウケイデンスは律儀に立ち止まってしまった。

 

「君、凄い脚だな…良いハリだ」

「…触らせませんよ」

 

 今更言うまでもないが、ウマ娘だろうがなんだろうが、人の足を勝手に触るのは痴漢行為である。警察を呼ばれなかっただけ温情というものだろう。

 

「いや、確かに触りたいけど違うんだ!俺はトレセン学園でトレーナーをやってる者だ」

「トレーナーを?」

 トレーナーというのはウマ娘のトレーニングメニュー制作やレースの出走登録などウマ娘が全力で走る為のサポートをする仕事だ。そしてこの近辺にあるトレセン学園は全国にあるトレセン学園の中で選りすぐりのエリートが集う中央のトレセン学園だ。そして、そのエリート達を指導するトレーナーも一流を求められる。

 そしてトレーナーという職はウマ娘の命を預かると言っても過言ではない。時速60Kmも出るレースで転倒などすれば怪我程度ではすまないのだ。その為トレーナーをする為に必要なライセンスは非常に取得が難しいとされており、中でも中央のトレーナーになる為のライセンスは毎年10万人前後の受験者の中で合格するのは僅か数%ほどであると言われているほど難解であるとされている。

 そして目の前にいる男性はその選りすぐりのトレーナーだと自称している。

 

(胡散臭い…)

 

 とてもじゃないが信じられなかった。

 栄えある中央のトレーナーがこのような痴漢男がいるのかと愕然した。いや、もしかするとたまたま中央に来ていた地方のトレーナーである可能性もある。地方のトレーナーは中央のトレーナーと比べると10倍から20倍は受かりやすいと聞く。

 

「ほら、中央のライセンス」

 

 男性は胸元のバッジを指さす。間違いなく中央のライセンスであった。レースにあまり関わらないサンノウケイデンスですら見れば分かるそのバッジはまごうことなき本物であると主張していた。

 

「それで、中央のトレーナーさんが何の御用でしょうか」

「君、もうトレーナーはいるか?」

「…私、トレセン学園の生徒じゃありませんよ」

「えぇ!?」

 

 驚く男性をみてこのまま帰ってしまおうかという考えを見透かしたかのように慌てて止めに入る。

「ま、待ってくれ!君のその脚なら中央でトップクラスになれる!過去に受験で失敗したかもしれないが今なら余裕で合格できるはずだ!今年度、受験してみないか!?」

 

 男性は真っ直ぐとこちらを見て訴えかけるような視線をぶつけてきた。

 

「すみません。私はトレセン学園に進学する気はありません」

「…そうか」

 

男性は残念そうにこちらを見る。

 

「では、私は失礼します」

「最後に、一つ聞いて良いか?」

「…なんでしょう」

「なぜ、君は走らない?」

「私は、走ることが嫌いな訳ではありません。ですが、私はこれを使って走ることが好きなんです」

 

 サンノウケイデンスは自転車を軽く叩きアピールする。

 

「自転車?」

「はい。自分の脚で走るのとは違う快感、数十キロという長い道のり。その世界に私は魅了されたんです」

「そうか…何か別に熱中しているものがあるなら良いんだ。悪かったな」

 

 男性はそう言いサンノウケイデンスを見送り、踵を返して歩いていった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ…疲れた…」

 

 自宅に帰ってきたサンノウケイデンスはベッドに倒れてこんだ。疲労を抜く為のサイクリングだったのにどっと疲れてしまった。

 この後でショッピングセンターに買い物に出かけるつもりだったがそんな気分でもなくなってしまった。

 

(今日はもう、一日家に引きこもろう…)

 

 そう決心したサンノウケイデンスはお菓子やジュースを引っ張り出して動画配信サービスを起動し、完全に引きこもる体制に入った。

 

(今まで見てなかった映画を消化する良い機会か)

 

 そうしてサンノウケイデンスは思う存分、引きこもりを満喫した。明日からはまた自転車に乗るいつもと変わらない日々になると疑いもせず、満足感で心を満たしながら目を閉じた。

 

 

 

 

 

後にサンノウケイデンスはその日のことを『人生の大きな分帰路』になったと語った。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
オリジナルのウマ娘以外も登場させる予定です。

追記:サンノウケイデンスの容姿の描写がすっぽ抜けてました。
   申し訳ございませんでした。
   ついでにこちらにプロフィールを書いておきます。

サンノウケイデンス:黒鹿毛、168cm B89・W56・H90、肌は色白で日焼けすると赤くなる。
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