この作品の1話は丁度5ヶ月前ですね。遅筆で申し訳ございません。
今回も校閲時間をあまりとっていないため修正が多いかもしれません。
誤字脱字などご報告いただければ幸いです。
ゴール後、ゴールドシップはくるくるとその場で回り、不可思議なポーズをとっていた。ソロエルティとデオンドコロンはゴールした直後失速し、脚が止まると同時にその場に倒れ込んだ。息も絶え絶えで指先一つすら動かすことすら辛そうな様子だ。
「はぁっ、はぁっ…!」
「ふぅっ、ふぅっ…!」
二人ともまだ話すことすらままならない状態だ。それ横目にサンノウケイデンス深く深呼吸をし、息を入れた。心拍数はまだ上がったままだが少しずつ落ち着かせてゆく。
「おい!大丈夫か!?」
番トレーナーは慌てた様子でこちらに駆け寄りコースの中に入ってきた。そしてバっとその場にしゃがみ込んでサンノウケイデンスの脚に触れた。落ち着いてきた心拍数もドクリと上がる。
「…は?」
あまりに唐突な出来事にサンノウケイデンスは念入りに脚を触る番トレーナーを呆然と眺めていた。
「脚の故障は…消耗も激しくないし、関節も異常な熱は持ってない…というか、息の入りはや」
「とりゃー!」
「ぐえっ!」
いつの間にか助走をつけていたゴールドシップのドロップキックが番トレーナーに炸裂し、視界から番トレーナーが消えたところで正気に戻った。
「おいコラ!たづなちゃんでも庇えない事しでかしてんじゃねぇ!お嬢ちゃん!この変態は正義の味方ゴルシちゃんが成敗しとくから早く逃げろ!」
「おい…遂にケイちゃんに手…出したな…?ずっと狙ってたんだ…ウチらが…レースで疲れて…動けないとこ狙って…!」
ふらふらと立ち上がり番トレーナーに詰め寄るデオンドコロンに、番トレーナーは慌てて立ち上がり首を降った。
「いってて…いや違ぇって!ケイデンス!お前あんなスパートをかけて大丈夫なのか!?」
「は?えぇ、大丈夫ですけど…」
「触った感じは異常はなかったが、痛みや違和感は!?」
「ありませんけど」
「そうか…良かった…」
心底安堵した表情でサンノウケイデンスの肩を掴む番トレーナーに、どこから持ち出したのか金色の鎖。いや、錨を振り回していた。非常に、にこやかに。
「いっぺん沈むか?インド洋に」
「待て待て待て!落ち着け!」
「オホーツク海の方がいいか?」
「この…!肩なら、良いってもんじゃない…!ダートに埋める…!」
「おっし、可決!東京24区に埋めてやる!」
「だぁぁぁぁ!やめろぉ!」
じりじりとゴールドシップとデオンドコロンに詰め寄られる番トレーナーは、音もなく現れたたづなによって救助されこっぴどく叱られていた。
「もう、理事長にコースの使用許可貰ったと聞いて校舎から見ていましたよ?いきなり脚を触るなんて…貴方はもう少しデリカシーとか、女心とか…そういう所を学んでください!」
「いや…本当にすみません…」
「たづなさん、この人多分そんなレベルじゃないっす。もう常識から教えてやってください」
「サンノウケイデンスさん。この度はわが校の職員が大変な失礼をしてしまい申し訳ございませんでした」
「いいえ、気にしていませんから。一応、心配してのことだったみたいですし」
深々と頭を下げるたづなに、こちらが申し訳ないという思いになった。番トレーナーのせいで苦労が絶えないのかと思うと余計に心苦しくなった。ところで、校舎からここまで番トレーナーのセクハラを見てから駆けつけたようだが、逆算すると到着まで1分とかかっていないのはどういうことだろうか。校舎からコースまでの直通路があるのだろうか。
「番さん、私の心配をするより先にたづなさんの心配を考えてください。くれぐれも」
「いや、あんな走りしたら脚の心配するだろ?正直、もう一度確認したいくらいだ」
「サンノウケイデンスさん。番トレーナーの触診を受ける必要はありませんが、彼はこれでも優秀なトレーナーです。一応、保健室で診て貰ってはいかがでしょうか?」
そう言われるサンノウケイデンスだったが、脚になんの異常も感じていなかった。確かにブレーキをかけた際に多少脚を使ったが怪我をするほどの衝撃はかけていない。五体満足である。
「いいえ、大丈夫です。むしろもう一回走りたいくらいです」
「「な!?」」
「ケイちゃん…まだ走れるの?」
「…マジ?ケイちゃん?」
たづなも番トレーナーも驚きの表情を隠すことなく目を見開いていた。ようやく息を整えられたソロエルティも、やっとのことで立ち上がったデオンドコロンも同様に驚いている。ただ一人ゴールドシップだけはニヤニヤしていた。
「さっきのレース。私は最下位でした。でも、思い通りに走れなかった。レースでこれだけスタミナを余らせてゴールしてしまったことが悔しいんです」
「ケイちゃんが最下位…?そういえば、さっきのレースの着順は?」
「いやぁ…写真判定なんてないからな…3人同着に見えたが…」
「えー!分かんないの!?」
「アタシの見立てでは5バ身差でコロ助、そっからハナハナでロエルとケイだったぜ?」
「ゴルシ、お前なんでそんな精密に分かるんだ?」
「先輩、コロ助ってウチの事ですか…?できればコロンって呼んでもらえると…」
「う~コロンの勝ちかぁ…」
「やっぱり、私が最下位なんですね」
困惑するデオンドコロンに耳をへにゃりと力なく垂らすソロエルティに対し、サンノウケイデンスはメラメラと対抗心を燃やしていた。今すぐにリベンジを果たしたいと。負けっぱなしでは納得できないと。無意識に目付きが鋭くなっていた。
「まだ、走り足りません…」
「ケイちゃん…流石にちょっと…」
「ケイちゃん、ちょい勘弁だわ…マジ無理だわ…」
「おっし!第二レースやろうぜ!5640mでどうだ?」
「かまいません」
「「うぇ!?」」
「待て待て待て!そんなレースねぇだろ!ゴルシ!ケイデンスを煽るな!」
げんなりとしていたソロエルティとデオンドコロンはゴールドシップの無茶苦茶な提案に驚き尻尾をビンと立てながら目を見開いた。それを尻目に番トレーナーは慌ててゴールドシップを静止させようとする。
「ま、リベンジマッチはまた今度な。ちょいとマックちゃんの秘蔵のクッキーを秘密裏に回収する仕事が残ってんだ。じゃあな!」
「ちょ!待て!あれマックイーンが合宿の間減量成功したら食べる大事にしてるやつだから!機嫌とるの大変なんだよ!」
そう言い残すと颯爽とどこかへと駆けてゆくゴールドシップを一同が呆然と眺めていたが、ハっとしたたづなが慌てて追いかけていった。
「速い!?」
たづなはじりじりとゴールドシップとの距離を詰めていたが、二人ともあっという間に曲がり角に消えてしまった。
「さっきのレースより速い…手加減されていたとはいえ、あそこまで…それにたづなさんのあれは…」
「すっごいよね!噂ではマルゼンスキーさんやシンボリルドルフさんより速いって聞いたよ」
「学園の七不思議って言われてるんよ。前まではウマ娘並みに速い事務員がいるってレベルでタイキシャトル先輩がたづなさんに追いつかれたって噂話が流行ってからもう人前でウマ娘並みの速度で速さで走ってるたづなさんを見かけるようになったんよ」
「ミホノブルボンさんはサイボーグじゃないかって言ってたよ!」
「あーなんか色々な説あるわ。アグネスタキオンさんの薬説とか、人体実験説とか…」
「正直、一回触ってみたいんだよなぁ…あの脚」
「うわ、遂に女なら見境なしにセクハラする底辺野郎に成り下がったのかよ。ウチが見直した感動を返せ。マイナス50くらいになったわ」
「いやいやいや!鍛えられたウマ娘の脚だけだっての!」
「たづなさん尻尾ないけど?」
「うーん…ウマ娘以外に触りたいと思ったことないんだけどなぁ…」
結局、レースはサンノウケイデンスの完敗で幕を閉じ、ゴールドシップが場をかき回すだけかき回して去ってしまったことにより、ぐだぐだしたままお開きとなった。
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