驚きと喜びを隠せません。
未熟な文ではございますが、これからも邁進してまいりますので、
よろしくお願い致します。
帰宅したサンノウケイデンスは制服を脱ぎ捨て、そのままベッドへと倒れ込んだ。
(疲れた…ここ最近、というか…あの人に会ってから毎日がせわしない気がする)
ようやく落ち着ける環境になったところで、先ほどの話を振り返る。自転車を辞めなくても、走る道はある。その選択肢がある事を告げられた。
そもそも、中等部に上がる時に何故トレセン学園を目指さなかったのか。それは本格化を迎えておらず、身体がまだ未熟であったからだ。だから普通校に通っていたのだ。つまり、本格化を迎えていれば、トレセン学園を受験しただろう。
そうだ、当時はまだ走りたかったはずだ。期待していたはずだ。
だが自転車と出会って、ロードレースの楽しさを知った時から、いつの間にかその選択肢が抜け落ちていた。
(私は今、どうしたいんだろう)
自問に対しいつまでも答えを出せずにいると、ケータイの着信音が思考を中断させた。
(また、あの人…?)
恐る恐るディスプレイを覗くと『アマノカイセイ』と表示されていた。思わずほっと胸を撫でおろす。
「はい、サンノウケイデンスです」
「ケイデンスさん、お久しぶりです。アマノカイセイです」
アマノカイセイ、彼女は先日のロードレースで2着だった選手で、ロードレースで何度もゴールを競い合ったライバルだ。平坦道のスペシャリストであるスプリンターを自称しているものの、山も登れるオールラウンダーの素質もある。自転車に乗っている時以外は、物腰柔らかな清楚なご令嬢といった表現が適切なウマ娘である。実際にお嬢様らしい。
「アマノさん、急に連絡なんてどうしたんですか?」
「以前、もう一度貴女とレースをしたいとお話したこと、覚えておいででしょうか?」
「はい、今週末ですよね?」
「えぇ、そのコースについてお伝えしようとご連絡させて致しました。コース場を貸し切りました」
「す、凄いですね…」
(態々、私と走る為に貸切まで…)
アマノカイセイの行動力に驚き慄く。スケールの違いを思い知らされた。
「日程自体は1日空けてるので、大丈夫です」
「ありがとうございます」
「いいえ、こちらのセリフですよ。コースまで用意して貰って」
「他ならぬ、貴女と走る機会ですもの。逃す訳には参りません」
「なら、それに答える走りをしなくちゃいけませんね」
「是非とも、お相手お願いいたします」
そうして、詳細な場所や時間を聞いて電話を切ろうとした時、サンノウケイデンスは重要なことを忘れていたことに気が付いた。
「あっ…」
「ケイデンスさん?」
「その…アマノさん…私のバイク…廃車になってしまっていて…」
「大丈夫なのですか!?」
アマノカイセイは声色を変えサンノウケイデンスを心配した。自転車が廃車になるような事態は落車や派手な事故などのケースを真っ先にイメージしてしまうものだ。今回のように、武器として使われました。なんてことはまず無い。
「お怪我は!?レースも、日を改めて…」
「いいえ!落車とかじゃなくて…その…トラブルというか…とにかく、私自身は怪我一つないので!自転車を用意すれば大丈夫です!」
「良かった…しかし、愛車が廃車なんて…お気持ちお察しします…」
「まぁ、フレームが小さかったので、変え時と考えます」
「しかし、自転車を選ぶにも吟味する時間が必要ですよね…でしたら、今回はお貸ししましょうか?」
「い、良いんですか?」
「はい、ケイデンスさんの乗っていたバイクに寄せて組んだバイクがございますので」
「な、なんでそんなモノを?」
「貴女を分析して、勝つ為です」
「そ、そこまでする?というか、役に立つんですか?」
「乗ってみたりしたのですが、やはり乗ってくれる人がいないとダメでした」
「そうですよね」
「けど、自転車の癖を知るいい機会にはなりました。決して無駄ではありませんでした」
「そ、そうですか…」
ロードバイクというものは決して安くない。それをポンと購入するあたり、流石お嬢様だなともはや感心さえしてしまう。自分の感覚とはかけ離れていることを認識させられる。
「すみません、ではお借りします」
「はい、もちろん…では、当日は宜しくお願い致します」
電話を切ろうと思った時ふと、サンノウケイデンスにある考えが浮かぶ。
「アマノさん、観客連れて来ても良いですか?」
「えぇ、構いませんが…」
「ちよっとロードレースを見てほしい人…いや、補給の手伝いをお願いしようと思ってまして」
「そうですか、ケイデンスさんのお知り合いであれば歓迎致します」
「ありがとうございます」
「では、楽しみにしています」
「はい、お互い楽しみましょう」
アマノカイセイとの通話を切ると、すぐさまサンノウケイデンスは電話を掛けた。
「はい、番でーす。どうした、ケイデンス?」
そう、サンノウケイデンスを悩みに悩ませている人物。番トレーナーに電話をかけたのである。
「番さん、今週末何かご予定はございますか?」
「え?何?デート?」
「すみません、何でもありませんでした失礼します」
「冗談だって…それで?何があるんだ?」
「私の友人とレースをするんですけど見に来ていただけませんか?」
「レースって…自転車の?」
「はい」
「うーん…別に良いけど、分かんないねぇぞ?ルールとか色々」
「真っ先にゴールしたら勝ち。これさえ分かれば大丈夫です」
「お、おう…でも何で俺なんだ?」
「私を自転車から降ろしたがっているじゃないですか」
「いや、降りろとは言ってないって」
「だから私が魅了されている世界を、あなたに見て欲しい」
(私を散々振り回して悩ませてる責任、多少は取ってもらわないと)
自分自身では、いくら時間をかけてもどうすべきか答えが出なかった。だから変化を求めた。選択するきっかけを作りたかったのだ。
「分かった。行くよ」
「よろしいんですか?誘っておいてなんですが、些か急な予定なので」
「んな事言ったら、俺なんか明日トレセンに来てくれって言ったんだぞ?こんくらい大丈夫だ」
「確かにそうでしたね。ありがとうございます」
その後、集合時間と場所を決め通話を終了する。
「それじゃ、よろしくな」
「はい、よろしくお願いいたします」
通話を切ると、ケータイをベッドへと放り自分もベッドへ倒れ込む。
(あーあ、誘っちゃった。態々自分から会う機会作るなんて、変になっちゃったかな私…)
もうなるようにしかならない。そう腹を決め、アマノカイセイとのレースに向け準備をする。とりあえず、気晴らしに少し走りに行こう。
レースへの高揚感と、選択肢が増えてしまった戸惑いを胸に当日を待つ。
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